【自主レポート】
市町村合併とまちづくりに関する住民意識と今後の課題
北海道本部/函館市役所職員労働組合・自治研推進委員会
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1. はじめに
2004年12月1日に、函館市、旧戸井町、旧恵山町、旧椴法華村、旧南茅部町が合併して新しい函館市が誕生した。形式的には旧4町村の函館市への吸収合併という形になったが、市当局は、各地域の歴史や伝統を受け継ぎながら住民サービスが低下しないよう施策を進めるとし、現在に至っている。表面的には大きな問題はなく推移しているが、職員組合として合併による市民生活への影響を検証するとともに、今後のまちづくりに対する意識を把握し、市政へ反映させることを目的に、今回アンケート調査を実施したものである。
2. 調査の概要
(1) 調査対象:
① 函館市職労全組合員:2,081人
② 一般市民:1,000人・・・電話帳・住宅地図から無作為抽出にて郵送。
地域別に人口比で配分(旧函館・800人、旧戸井・40人、
旧恵山・60人、旧椴法華・20人、旧南茅部・80人)
(2) 調査期間:2006年6月1日~2006年7月15日
(3) 回答率(7月20日集計現在):
① 組合員 ~66.2%
② 一般市民~51.0% (旧函館~42.5% 旧4町村~85.0%)
(4) 調査項目(選択式):
①個人属性(年齢・性別・居住地域・職業など)、②合併をした感想、③効果と影響、④現在の函館市への満足度、⑤主要施策への認知・関心・支持度、⑥函館市の将来像、⑦まちづくりのすすめ方、⑧まちづくりへの興味、⑨その他自由意見
3. 調査結果と検証
今回実施したアンケートでは、組合員16項目、一般市民14項目の設問を設定したが、調査期間の関係上、全ての項目について分析・検証が済んでいない。よって、現時点では以下の5点に絞り、検証作業を進めることをお断りしておく。
(1) 合併をした感想
「合併して良かった」「合併しない方が良かった」「わからない」の三者択一の設問。合併後1年半が経過した時点では、一般市民、組合員とも「良かった」と回答した人が「悪かった」と回答した人を上回っている。しかし、大半の人は「わからない」と回答しており、現時点での合併効果についての判断は時期尚早と考えていると思われる。

本設問について、組合員と市民とを合算した「旧函館市居住者」と「旧4町村居住者」での比較をしたとき、両者とも「わからない」と回答した人が多数であるものの、旧函館は「良かった」と「悪かった」が、同数の結果であるが、旧4町村については、「悪かった」が「良かった」と回答する人を上回ったことは、興味深い結果である。

(2) 合併による効果と影響
次に、「合併してから良くなったと思う点(効果)」「合併してから悪くなったと思う点(影響)」についてそれぞれ尋ねた。選択肢を10項目設定し複数回答可能とした。
(表1) |
合併の効果と感じた点 |
旧函館市域居住者 |
旧4町村地域居住者 |
公共施設の整備 |
29.8% |
23.3% |
交通機関の利便性 |
11.1% |
4.3% |
文化教育環境の充実 |
34.9% |
21.7% |
保健・医療・福祉水準 |
17.1% |
24.6% |
環境衛生事業の充実 |
25.0% |
21.7% |
経済・産業面の発展 |
59.9% |
39.1% |
日常生活の利便性 |
8.3% |
7.2% |
行政サービスの水準 |
10.7% |
17.4% |
地域の連帯感 |
83.7% |
81.2% |
そ の 他 |
4.8% |
15.9% |
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組合員・一般市民にとらわれず、居住地ごとに集計した結果が表1、2である。
まず、「効果」の面をみると、旧函館市居住者については、合併したことにより「地域の連帯感が生まれた」(83.7%)、「経済・産業の振興・発展」(59.9%)と回答した人が多かった。同様に、旧4町村居住者についても、「地域の連帯感」(81.2%) と「経済・産業振興」(39.1%)と回答した人が多い結果となった。
合併以前からも地域的なつながりは一定程度あったものであるが、今回の合併を契機に「ひとつのまち」となったことを、市民一人ひとりがより一層認識した結果があらわれたものであろう。
また、経済・産業については合併により各地域間で産業を補完できたことからではないかと考えられる。
(表2) |
合併の影響と感じた点 |
旧函館市域居住者 |
旧4町村地域居住者 |
公共施設の整備 |
22.5% |
36.0% |
交通機関の利便性 |
20.9% |
5.8% |
文化教育環境の充実 |
12.4% |
24.0% |
保健・医療・福祉水準 |
41.0% |
37.5% |
環境衛生事業の充実 |
18.5% |
18.3% |
経済・産業面の発展 |
18.1% |
27.9% |
日常生活の利便性 |
9.2% |
4.8% |
行政サービスの水準 |
39.0% |
42.3% |
地域の連帯感 |
34.9% |
26.9% |
そ の 他 |
5.2% |
4.8% |
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逆に合併したことによる「影響」面に目を向けると、旧函館市居住者は、「保健・福祉・医療」と回答した人が多く(41.0%)、旧4町村居住者については、「行政サービスの水準」についての回答が多かった(42.3%)。
旧函館市居住者については、合併以前から「保健・医療・福祉」の充実を求める声が根強いことからも、今回の合併による直接的な影響とは捉えにくい。これは次の、(3)「函館市の将来像」の項目とリンクするので後述する。
旧4町村居住者については、都市(函館市)との合併により、身近な「役場」としての行政組織が、手続き面だけでなく、感覚的にも「遠い」存在となってしまったという住民意見の表れといえる。
補足ではあるが、居住地域に関わらず「行政サービスの水準」を選択している比率が「効果」よりも「影響」の方が高いことに関しては、行政に携わる者として率直に耳を傾ける必要があるだろう。
(3) 函館市の将来像
「市の将来像(めざすべき姿)はどうあるべきだと思うか?」との設問について、「国際観光都市として発展」、「水産・海洋産業の推進」、「新たな合併による大きな函館市」、「安心して暮らせる福祉都市」の四者択一で回答を得た(複数回答可)。
組合員・市民の別、および居住地域別(組合員・市民の合算)のどちらの集計においても、「福祉都市」をめざすべきとの回答が一番多い結果となった(表3)
函館市においては、他の地方都市と同様に高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)の上昇が著しく、全国平均21.0%に対し2006年6月末現在で23.9%となっている。市の推計では、2008年には25%を突破するとしており、こうした要因が背景となった住民不安の結果といえる。
一方、居住地域別の集計結果に注目すると、旧函館市域の住民は「福祉都市」とほぼ同数が「国際観光都市」を志しているが、旧4町村では「水産・海洋産業の推進」を「福祉都市」に次いで望んでいる。合併前の各地域の振興施策や現在従事している職業などが色濃く反映された結果であろう。今後、「ひとつの函館市」として発展していくために、行政・住民・地域が認識を互いに深めていく必要があるといえる。
(表3) |
将来像 |
組合員 |
一般市民 |
旧函館市域 |
旧4町村地域 |
国際観光都市 |
30.6% |
24.7% |
45.0% |
21.9% |
水産海洋産業 |
23.2% |
25.1% |
20.8% |
33.1% |
新たな合併 |
12.4% |
12.0% |
12.8% |
10.7% |
福祉都市 |
42.2% |
54.3% |
45.7% |
44.5% |
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(4) 今後のまちづくりのすすめ方
「限られた予算のなかで、今後どのようにまちづくりを進めるべきと思うか?」の設問について、「市民負担が増加しても積極的に施策を展開すべき」、「予算不足はNPOや住民ボランティアなどで補完」、「町内会等地域活動を発展させ課題を解決」、「予算規模に合わせ施策を縮小する」の四つの項目を選択肢として設けた(複数回答可)。
表4がその結果であるが組合員・市民の別、居住地域の別のいずれも「予算規模にあった施策」を望む回答が一番多く、それ以外はさほどバラつきのない結果となった。
(表4) |
まちづくりの進め方 |
組合員 |
一般市民 |
旧函館市域 |
旧4町村地域 |
積極的施策展開 |
5.8% |
6.3% |
5.8% |
6.6% |
NPO等の活用 |
33.3% |
27.6% |
33.2% |
27.2% |
地域活動の発展 |
18.1% |
22.7% |
18.3% |
23.4% |
予算規模重視 |
43.6% |
43.3% |
43.5% |
44.2% |
そ の 他 |
9.9%
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1.2%
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6.4%
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6.1%
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(5) まちづくりへの参加意欲
「函館のまちづくりへ参加してみたいか?」という質問に対し、組合員・一般市民それぞれの集計結果が、下のグラフである。

組合員では「ぜひ参加したい」「機会があれば参加したい」の「肯定的」意見の合算 が41%で、「あまりしたくはない」「興味がない」の「否定的」意見の合算31%を上回っている。行政マンとして当然といえば当然の意識であるが、ぜひ実践に移して欲しいものである。
一方、市民は「肯定的」38%に対し、「否定的」が48%と逆転している。言葉をはばからずに言えば「口は出すが身体は動かさない」といわれる、函館人の気質が表れたものであろうか……。いささか残念な結果である。
4. 課題と今後の具体的取り組み
今回分析した5分野の結果に限ってみれば、とりわけ合併による大きな課題は生じていないものと考察できる。しかしながら、今後のまちづくりに関し「予算規模に見合った施策の展開」という認識で一致しているものの、具体的な将来像にはギャップがみられた。また、合併そのものに対する地域間の意識のズレも少なからず存在するようである。合併後、各地域・各階層が横断的に意見交換・情勢分析する場面が市全体としても設定されていないことから、自治研活動の一環として取り組む意義は大きいといえる。
5. 終わりに
今回実施したアンケートの分析・評価については未だ途中段階であり、他の設問項目や属性別のクロス分析など、今後もさらに作業を進めていく必要がある。
都市機能を有した旧函館市と、一次産業(漁業)中心で過疎地域の旧4町村の合併は、人口規模、産業規模、住民気質が全く異なる中でのものであり、そうした中で、地域の一体感の醸成や、過疎地域の振興など様々な課題が山積しているのは事実である。
今回のアンケート結果の分析を深め、都市と過疎地が融合した、魅力あるまちづくりの推進に向けて、引き続き単組としてより一層の運動の展開を図っていきたい。
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