【自主レポート】

みんなでつくる 鳥羽市の未来 行動計画

三重県本部/鳥羽市役所職員組合 中村  孝

 鳥羽市職では、2年に一度県本部自治研に合わせて日頃の取り組みをレポートにまとめています。活動は、年度ごとに行い、フィールドワークとして、他の自治体等の職場を視察しています。自治研委員は、公募が基本で、執行委員も自主的に参加をしています。レポートにまとめて発表をすることも大切ですが、そこに至る議論や他の分野のことを学習することで見聞を広め、人材育成に大きく貢献できることと確信しています。
 今回のテーマは、『あなたの熱意が市役所を変える!』と題して、自治体改革はどうあるべきかに挑戦しました。
 議論の進め方として、これまでの行政改革の検証。そして、全職員アンケートを実施し、職場改善提案についても調査しました。また、今後の行政改革のあり方を、これまでの議論やアンケート結果から現状の問題点や、解決方法についてまとめました。
 自治研レポートは、市議会議員との意見交換や市長への要求など、自治体改革の基本的な考え方を示す教科書になったと自負しています。
 また、勤務評定についての組合としての考えかたの基本となったこと。組合員意外にも取り組んだ全職員アンケートの実施により、組合に対する認識が深まったことなど、自治研活動の効果は大きかったと考えています。
 しかし、厳しい状況を乗り切ったわけではありません。組合の希望する自治体改革が進んでいるわけでもありません。今後、こうした成果を糧に活動を続けていきたいと思います。

1. はじめに

 『あなたの熱意が市役所を変える!』低迷する経済、上昇する失業率、下がる賃金、税収の減と財政難、減り続ける職員数、いったい日本は、鳥羽市はどうなるのでしょうか。
 財政難を乗り切る一つの手段は市町村合併。しかし、その切り札はありません。このままでは、財政再建団体に転落することになり市民にも不便を強いることになります。我々行政の仕事は市民生活と密接に関係しています。我々の職場(仕事)が安定・充実していなくては市民サービスを低下させ、生活に大きな不安と衝撃を与えてしまいます。残された手段は、我々職員の知恵と工夫と勇気です。みんなで一生懸命考えれば、必ず答えがあると考えます。
 組合では、自治研活動の一環として「魅力ある鳥羽市づくり」の課題を研究します。多くの方の参加を待っています。』と呼びかけ、応募した11人で1月に自治研活動をスタートしました。
 今、日本の社会は、政治が新しい時代に合った仕組みをつくる事ができずに社会全体が強い閉塞感に覆われています。地方自治体は、国を映す鏡のようなもので、われわれの職場もまた強い閉塞感に覆われています。仕事に生きがいを感じられなくなり希望退職者が増加することもここに大きな原因があるのではないでしょうか。
 厳しい時代を乗り切るには、職員相互の信頼関係を築き、全員の力で困難な課題に向き合い、挑戦する力が必要です。「誰かがするさ」と人任せにしては生き残れません。
 一生懸命に考え、次の世代に夢のある鳥羽を残すためには、誰もが納得できる、身近でわかりやすい、市民と同じ目線で素直に語り合い、夢のある鳥羽を創り出したいと願っています。今ならまだ間に合うと信じます。

2. 行政改革

(1) これまでの行政改革
   これまで当局は、過去に行政改革の大綱をまとめてきました。しかし、国に半ば強制的に踊らされて行ってきた行政改革は失敗の連続でした。複雑、膨大な資料、遅い、議論しない、情報公開も消極的で改革とは名ばかりで、ほとんど機能していませんでした。
   市町村合併の動きもよく似ています。財政難を乗り切るためには合併しかないと、国の地方自治を無視した強制的なやり方に、地域で大きな波紋となって社会問題化しています。強引な国のやり方には憤りを感じざるを得ません。地方のことは地方できめる、地方分権のあり方が今問われているのではないでしょうか。
   行政改革の趣旨は、将来に備えて大きな方向を指し示すことであり、それを具体的な形に変えていくことです。状況に流されず、将来を見通し、現実を直視し、10年先、30年先を見通した新しい改革を今こそ実現しなければなりません。

(2) 全職員アンケート
   行政を変えるには、職場のことや行政の仕組み・問題点に最も詳しい職員に聞くのが最も大切だと考え、全職員アンケートの中に、職場を改善する提案を調査しました。
   主な意見のまとめ
    ・統廃合して、人口に見合った職員数に削減する。
    ・経費削減。特に人件費(本給の一律減額)。
    ・市民サービスの向上に現場第一主義を徹底。
    ・人事異動の年数を長くする。
    ・適正のある人材採用。
    ・財務会計システムの導入(庶務している人多い、会計制度の改善)。
    ・民間委託。
    ・公用車の一括管理。
    ・各課の湯沸しポットの廃止。
    ・消耗品の一括管理。
    ・職場の清掃は自分達で行う。
    ・時間外の削減。
    ・土曜日のサービス。ワンストップサービス。
    ・義務的経費の削減。
    ・IT化を進める。
    ・通勤費の高くなる人事異動をしない。
    ・パソコンを操作できない上司が多い。
    ・組合として市の事業評価をする。
    ・提案制度の活用など。

(3) 行政改革のあり方
   これまでの議論・アンケートから現状の問題点としてまとめる
  ① 財政難:歳入の減《市税収入の減、地方交付税の減等》
       :歳出《義務的経費の増と経常収支比率の危険ライン》
  ② 庁舎、保育所等の施設の老朽化《長期展望がない》
  ③ 少子高齢化と人口の減少《市の計画と現実の人口の違い》
  ④ 情報提供の不足《開かれた行政》
  ⑤ 市民参画の不足《行政の一方的な思い込み》
  ⑥ 労使協議の不足《合意形成の欠落》

(4) 問題点の解決方法
  ① ISOシステムの活用(PDCA)
   ・計画→実行→点検・是正→見直しの繰り返し
   ・行政改革に対する外部審査の導入
  ② 総合計画等の作成に民間コンサルを委託せずに、市民と行政の共同で作成する【市民のための政策づくり】
  ③ 職員を信頼する【労働組合の尊重なくして改革なし】
   ・事務改善提案制度の見直しと活用
  ④ 合意形成のための徹底論議(職員、組合、市民など)
  ⑤ 課の壁を越えた柔軟な組織にする【部制及びグループの検討】
                   【課題ごとのプロジェクトチーム】
  ⑥ 行財政改革の計画と成果を公表する
  ⑦ 効率的な事務事業を行える組織づくり【人員削減対策】
  ⑧ ボランティア活動との連携・協力推進

(5) 最も重要な人事政策の確立 『人づくり』
  ① 与えられた研修から、自ら進んで研修するシステム
  ② 希望調書と面接などにより適材適所を追求する
  ③ 労使で作る人材育成のための勤務評価制度の確立
  ④ 新たな職域の創造【プロフェッショナル、マイスターなど】

3. 勤務評定の考え方

(1) 勤務評定の現状
   当局は(株)日本マネジメント協会に委託し、勤務評定マニュアル骨子(案)を策定した。そして課長及び課長補佐等を対象に研修をし、2004年度において課長が課長補佐等を勤務評定する試行をすることになった。
   本来であれば、職員が自身の能力を正しく評価されるという期待感が持てる制度であると考えられる。
   しかし、この勤務評定に対する興味、期待感、そして盛り上がりが一向に感じられない。この要因として、労使との事前協議がされていないことのほか、すべての職員への実施する勤務評定の内容が周知されていないことではないかと思われる。
   これらのことを思案すると、勤務評定について次のような懸念事項があるのではと考える。
   勤務評定の懸念事項
    ・労使による事前協議がない。
    ・勤務評定制度が機能しているのかどうか判断が不明確。
    ・公平に評定されているか疑問である。
    ・部下から上司を勤務評価することを考察すべきではないか。

(2) 民間企業における「勤務評定システム」についての考察事項
   勤務評定に関し、民間企業での取り組み状況を参考にしようと、8月3日自治研メンバー7人にて松下電工(株)伊勢工場を訪れ、執行委員長及び人事担当者よりシステム等について学習した。
   松下電工での勤務評価の歴史は古く、改良を加えながら現在のシステムとなった。労働組合の中では、最も評価の高い制度として機能している。
   この制度での評価結果を職員が受け止め、会社組織で仕事していくうえでの基礎としており、重要な制度として位置づけ機能させるために人事体制も充実している。
   この制度導入のプロセス等の説明を聞き、官と民の違いがあるものの、内容はよく似ている。導入の際、労使が時間をかけ充分な協議がされ、双方及び社員が納得する制度としてスタートした経過、また現在も問題点等が発生すると労使協議のうえ進めているとの説明が印象に残った。

(3) 組織の存続は人づくり! 制度が鳥羽市を左右する!
   2004人事院勧告の報告の中で給与構造の基本的な見直しの検討項目で職務・職責を重視し、実績を反映する給与制度への転換についてふれた。
   今後、国、県で勤務評価が進んで行くものと考えられるが、現時点で鳥羽市での実施は時期早々と考える。国、県の今後の動向を見据えてから実施することで遅くはないと思われる。
   現在の鳥羽市は財政状況が厳しく職員数も減少している。この勤務評定は鳥羽市の将来を左右する重要な制度だけに全員が認め、納得できる制度にするべきと考える。十分な議論と制度を支える人事体制が必要である。

4. 市町村合併の方向

 全職員アンケート「問17 市町村合併についてどう思いますか」の結果では、「伊勢市と合併する」と回答した人が103人(全体の32.7%)と最も多く、次いで無回答の77人(24.4%)、「合併しない」の57人(18.1%)、「志摩市と合併する」の38人(12.1%)と続いている。「伊勢市と合併する」と答えた人は、課長補佐級以上、係長級、一般の各役職区分とも最も多く、役職に関係なく伊勢市との合併を望む傾向があるといえる。
 ただ、合併を望む人の中にも具体的で合理的な理由をあげて合併に賛成している意見は少なく、比較議論の中で消極的に「合併」に向いている傾向が強い。
 また、鳥羽市単独での自治体運営を望み合併に反対の人も同様で、積極的に単独の道を選ぶべきと主張する意見は少なく「あきらめ」に近い理由が多数である。
 鳥羽市は、現時点で合併を選択しない(できない)自治体として、国が示す強制合併の「アメとムチ」のアメ部分である財政上の特例を受けずに自立していくことができる行政改革が必要であり、本物の三位一体改革の実現が望まれるところである。
 いずれにしても、市町村合併については、「好き嫌い」や「損得」の問題でなく、住民が地域で生活していくために望ましい基礎自治体のあり方がどうあるべきかという、原点を見つめ直すなかでの住民本位の合併議論が必要である。

5. まとめ

 自治研では、それぞれ忙しい時間をやりくりして、1月から精力的に取り組んできました。高山市や松下電工の視察、全職員アンケートの実施など、これまでやろうとしてできなかったことを、自治研を通して楽しく取り組むことが出来ました。
 自治研を通してわかったことがいくつかあります。
 ① 鳥羽市の財政は危機的な状況にあること。
 ② 難局を乗り切るためには、全職員が一体となって知恵を出し取り組むこと。そのためには、職員(職員組合)を信頼すること。
 ③ 市民が一体となって行政に参画すること。そのためには、市民を信頼し情報公開と市民参画を推進すること。
 ④ 職員の勤務評価は、大変難しく、中途半端な導入はかえって組織をだめにする恐れがあること。
など、大きな収穫を得ることが出来たと思います。
 特に印象的であったのが、第1回のKJ法による『市役所の問題点』に対するワークショップでした。結局、最も重要であると結論に達したのが、人づくりが大切だということです。また、そのためには、人事政策が重要だと多くの意見を占めました。このことは、松下電工の視察の中で、労組の委員長、人事部長がともに、最も大切なのは人づくりであると発言したことからも明らかとなりました。
 また、全職員アンケートでは、多くの職員から回答が得られ自治研に限らず、今後の運動に貴重な資料となりました。組合に対する疑問や意見等については、組合ニュース等で組合としての考え方を公表したいと考えています。
 今、鳥羽市は大変厳しい状況の中にあります。待っていては何も解決しません。職員全員が危機感をもち責任をもち行動すること。全ての職員と合意形成を図り、夢と希望をもって決してあきらめずに、職員と市民が一体となって厳しい状況を乗り越えることが出来ると思います。みんなで頑張りましょう。

2004 鳥羽市職員アンケート集計結果

配布枚数  627枚
回収枚数  315枚
集約率  50.24%

 


資料2 財政の状況

1. 普通会計における歳入の状況(2004年度以降は財政シュミレーションによる)

(単位:千円)

(1) 地方税
   長引く景気の低迷により個人・法人所得とも伸び悩み、税の収入にも影響を与えている。固定資産税の評価替等による減収もあり、2003年度決算では1997年度に比べて約8億円の減少となっており、14年ぶりに30億円を割った。

(2) 地方交付税
   普通交付税算定上の基準財政需要額の増と基準財政収入額の減により、1994年度から2000年度までは増額傾向にあったが、その後は基準財政需要額の減少により交付税も減少している。
   また、2004年度以降は国の財源調整による6.5%の減額見込みと三位一体改革による社会福祉費の一般財源化分が算入されている。

(3) 国庫支出金
   1999年度の保健福祉センター、公営住宅、鏡浦小学校等の建設事業を境にひと段落したが、今後池上公園整備事業や統合保育所・鳥羽小学校の建設事業が控えている。

(4) 地方債
   地方債についても補助事業を始め投資的事業が2000年度より減少しているため、事業債の借入額は減少している。ただし、2001年度以降については国の減税対策による地方税の減収を補てんする地方債(減税補てん債)や普通交付税額の財源確保のための地方負担分として借り入れる地方債(臨時財政対策債)の借入により再び借入額は増える見込みである。
   また、2004年度においては1995・6年度に借り入れた減税補てん債の一括返済のため借換債3億9千万円の予算計上がされているため地方債の額は激増している。

(5) 基金繰入金
   財政調整基金は、地方税をはじめとした各財源の減収とともに減少の一途をたどり、ほぼ底をついているため2004年度以降については繰り入れることができない状況にある。
   2003年度は定年及び勧奨による退職者の増加により退職手当基金からの繰り入れが、大幅な増額となった。

(6) 歳入総額
   1999年度ごろまでは、各建設事業等に係る国県支出金による歳入が多くみられたが、2000年度以降は、景気の低迷に伴い、地方税や交付税の減収が続いている。

2. 普通会計における歳出の状況

(単位:千円)

(1) 人件費
   1999年度以降勧奨退職者の増加による退職手当の増加が顕著である一方職員給は、職員数の減少と減額の勧告により抑えられている。
   2004年度以降については、勧奨退職者数を見込んでいない数字である。

(2) 扶助費
   2000年度から介護保険法による介護保険事業特別会計の設置により普通会計上の扶助費が減額となったものの、2001年度には児童手当法の改正による増額及び保育所運営費または一人親医療費の増額が見られ、2002年度からは児童扶養手当が県からの事務委譲により増額している。

(3) 補助費等
   1999年度において地域振興券及び九鬼400年祭などの実施による補助金の増額、2001年度から2003年度においては、ケーブルテレビ設置のための負担金の増額があった。

(4) 投資的経費
   継続的に整備している漁港建設事業や県営港湾事業(マリンタウン21)の事業費が、減少している。
   自主財源が確保しにくくなっているため今後については確かな財源の確保のできない事業の計画は難しいと思われる。

(5) 公債費
   2000年度において菅島一般廃棄物処理事業債の元金繰上償還による増があった。
   2003年度以降は臨時財政対策債のほか地方債を財源とする投資事業の増加により償還金の増が見込まれる。また、2004年度においては1995・6年度に借り入れた減税補てん債の一括償還により増額となっている。

(6) 歳出総額
   1999年度をピークに建設事業が減少傾向にあり投資的経費の歳出を抑制している。このことは、市民に対する施策や事業に対し経費をかけていないということでもある。

資料3

 
日  程
自治研の議題
第一回
2004/1/16 鳥羽市(役所)の問題点について
第二回
2004/2/20 鳥羽市の財政見通しについての協議
第三回
2004/3/12~13 自治研フィールドワーク
 「市町村合併と組織の状況」(岐阜県高山市役所視察)
第四回
2004/7/14 鳥羽市の問題点と改善策について
第五回
2004/8/3 自治研フィールドワーク
 「民間企業における労働者の勤務評価の状況調査」(松下電工伊勢視察)
第六回
2004/8/18 自治研レポート(案)協議
第七回
2004/9/15 自治研レポート完成

自治研究会委員

氏 名
職 場(2004.9現在)
東 川 元 洋
商工観光課
平 賀 一 弘
健 康 課
野 呂 哲 也
環 境 課
山 本 昌 史
税 務 課
河 村 和 子
健 康 課
山 本 幸 則
消 防 署
山 下 憲 一
総 務 課
大 矢 剛 史
税 務 課
小久保 加奈子
組   合
中 田 初 美
組   合
中 村   孝
環 境 課