(2) 地域協議会の委員
地域協議会の委員の定数は原則として旧町村の議員定数とし、住民の主体的な参加を期待するものであることから、無報酬となっています。
委員については、市長が選任すると定められていますが、上越市では委員の代表性を高めるため、公募のうえ公職選挙法を準用した選任投票(実質的には選挙)を実施し、各地域協議会委員の定数に応じた上位得票者を市長が選任しています。立候補者が定数に達しない場合、投票は行わず、定数に不足した委員数を市長が選任しました。当初の選任では、投票が実施されたのは5区、無投票が5区、定員割れによる追加選任が3区でした。委員構成は、若年層や女性の構成割合が少ない状況となっています。
無報酬であること及び、選任投票によって市長が選任していることは、全国的にも珍しく、上越市の地域協議会の特色となっています。
(3) 地域協議会での審議
地域協議会の開催は、初めて会が設置された2005年2月から2006年7月までの18ヶ月間で206回開催されており、13区で平均すると概ね月1回程度の割合で開催されています(表を参照)。
地域協議会の開催状況
(期間:2005年2月26日~2006年7月31日) |
地域協議会名
|
開催回数
|
市からの諮問数
|
地域協議会からの答申数 |
地域協議会が自主的に審議した事項数 |
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※1
|
安塚区地域協議会 |
16
|
23
|
22
|
0
|
5
|
浦川原区地域協議会 |
16
|
18
|
18
|
1
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9
|
大島区地域協議会 |
15
|
40
|
39
|
4
|
4
|
牧区地域協議会 |
19
|
23
|
22
|
1
|
3
|
柿崎区地域協議会 |
19
|
19
|
16
|
3
|
14
|
大潟区地域協議会 |
20
|
18
|
18
|
1
|
7
|
頸城区地域協議会 |
9
|
29
|
27
|
2
|
4
|
吉川区地域協議会 |
16
|
24
|
23
|
5
|
4
|
中郷区地域協議会 |
17
|
18
|
17
|
1
|
3
|
板倉区地域協議会 |
11
|
47
|
43
|
2
|
5
|
清里区地域協議会 |
15
|
18
|
16
|
0
|
5
|
三和区地域協議会 |
12
|
23
|
23
|
1
|
5
|
名立区地域協議会 |
21
|
19
|
19
|
0
|
4
|
合 計
|
206
|
319
|
303
|
21
|
72
|
審議の内容については、市から諮問された案件が319件となっています。これまで、各地域協議会に諮問された全ての案件に「適当である」との答申がされており、「不適当」となった案件はありません。しかし、答申中21件に附帯意見が付けられており、実質的に市の諮問案の修正を求めるもの(施設の休館日変更に際して、地域の意向を踏まえた弾力的な運用を求めるもの等)もあります。このことからも、地域協議会が市の事務について単純に肯定するのみの組織ではないことが見てとれます。
また、地域協議会で自主的に審議した事項は、72件となっており、うち29件が意見書として提出されています。地域協議会により件数に違いはあるものの、住民の目線での問題提起が実現されており、今後は自主的に審議する事項がさらに増えていくと考えられます。
なお、地域協議会から提出された意見書を受け、市の制度や事務が見直された事例(安塚区での子育て支援センターの開設時間が延長、柿崎区での有料ごみ袋の小型化など)があることからも、地域協議会が一定の成果をあげ、期待された方向に向かっていると言えます。
(4) 地域協議会の課題と今後の方向性
前述してきたように、地域協議会はこれまで、所期の目的を果たしてきていると言えます。しかし、課題がないわけではありません。
課題のひとつとして、市民の地域協議会への認識が高いとは言えないことがあげられます。このことは、委員のほとんどが元議員・町内会長・各種団体の代表といった顔ぶれでしめられていることにも表れています。
実際に地域自治区の住民に話を聞いてみると、地域協議会を通じて市政に声が届いていると実感している人は少ないようです。その一方、地域協議会に積極的に関わっているかとの問いに対しては、多くの住民から「積極的とは言えない」との答えが返ってきます。地域協議会委員の側でも、住民の声がなかなか聞こえてこないとの認識があるようです。これは、地域協議会側から住民に対してのフィードバックが少ないことも要因と考えられます。
これらの対策として、各地域協議会の委員が独自に編集した「地域協議会だより」を作成し、各区住民に配布するなど、住民の関心を高め、積極的な参加を促すための取り組みが始められています。
また、合併前の上越市には地域協議会を設置していませんが、学識経験者らを交えた「上越市における都市内分権及び住民自治に関する研究会」において、今後設置の方向で検討が始められています。
設置することとなった場合、その範囲、委員数、事務所の設置やそれに伴う職員の増減など、整理すべき課題が多くあります。
この方向性に関して、合併前の上越市の住民自身が地域協議会を必要と考えているかどうかについては、「必要ない」という人が多いとの新聞報道もされています。
これは、編入合併方式で「受け入れる側」にとってみれば、合併後も何も変わっていないという印象が強いことが要因ではないかと考えられます。合併前の上越市への地域協議会設置は、他の地域協議会の方向性と併せて、多面的な検討が必要となっています。
上越市が導入した制度は、かつてなかった斬新な制度であり、定着するまでにはまだまだ時間がかかって当然と考えられるところもあります。真に地域に受け入れられる組織となるためには、行政側からの積極的かつ丁寧な情報提供を行いつつ、アンケートの実施など地域住民の声に耳を傾けることにより、行政と地域住民の情報共有を進めながら、地域住民に変化を実感してもらうことが重要と言えるでしょう。
4. おわりに ~上越市の合併を振り返って~
上越市の合併は、全国最大規模である14市町村による合併であったことと、地域協議会設置のための地域自治区制度を導入したことにより、全国から注目を集めました。
編入合併となったことから、編入される町村の住民には、これまで細やかであった行政の対応が維持されないのではないか、自分たちの地域は見捨てられるのではないかといった不安もありました。旧町村単位に設置された地域自治区は、地域住民の声を反映させる地域協議会の実現、さらには、各地域自治区名に旧町村名を使用するなど、編入される側の住民の不安を取り除くとともに、合併後の上越市政への積極的な住民参加の方策として効果をあげています。とりわけ、愛着のある旧町村名が、地域自治区の名称として、また、自身の住所の表示として残されたことは、地域自治区住民から高く評価されています。
これらは、上越市が1971年に高田市と直江津市の対等合併により誕生した比較的新しい市であり、35年を経過してなお、旧高田地区と旧直江津地区の一体感醸成が完全ではないという経験と反省が活かされた結果とも言えます。
合併後1年半を経過した現在、地域協議会のあり方を含め、市の方向性についてさまざまな議論が行われています。地域協議会を恒久的に設置するとともに、合併前の上越市内にも相当の機関を設置し、全市域で住民の主体的な参加を期待する意見がある一方で、地域協議会の定着化は、合併した市の一体感醸成に逆行するとした意見も聞かれます。
上越市は、合併後5年を目安に、地域自治区の考え方の整理、地域協議会の方向性決定、行政サービスの統一などを掲げていますが、これらは各地域住民の意思を踏まえて進められることが求められており、そのためにも、住民自らが自主的に合併の課題を検討し、地域協議会を通じて地域自治区が必要か否かを市に提言していくことが期待されています。 |