【自主レポート】

行政情報としての地理情報システムの活用について

群馬県本部/群馬県職員労働組合・GIS研究会・代表者 小島  正

1. はじめに

 現在、カーナビゲーションやインターネットでの地図検索等で、地理情報システムを利用する場面が多くなっています。しかし、公共工事等で説明責任の重要性が指摘されていますが、道路工事計画場所、事故の多い場所などは、群馬県や市町村のホームページで公表されないことが多く、行政情報として地理情報が活用されていないように思われます。そこで、行政情報として、位置情報の取得方法、地理情報システムの活用事例等について報告します。
 GIS(Geographical information System)とは、地理情報システムのことで、地図(地形)データと、位置の持つ属性情報などの位置に関連したデータを、統合的に扱う情報システムのことです(図-1)。
 NPO 国土空間データ基盤推進協議会の資料(2004年度)によると、GISが、すべての都道府県で導入済みですが、市町村では約4割の導入にとどまっています。GISデータを集中管理する統合型では、都道府県においても、導入は25%程度です。

図-1 GISシステムの概要(http://nikkeibp.jp/から引用)

 

2. 普及しつつある地理情報システムの事例

 民間では、インターネットを利用し、地図検索できるサービスが行われており、利用件数は増加傾向にあります。環境NPO「富士山クラブ」では、2003年夏から、富士山の中およびその周辺のどこに、どのようなゴミが、どれくらい捨てられているのか調査し、地図上に掲示して、富士山周辺のゴミの実態を明らかにしようとする試みが行われています。具体的なイメージ(図-2)としては、次のとおりです。
① GPS・写真撮影機能のある携帯電話で、写真を撮影する。
② 写真付きメールを、マップサーバー(位置情報、写真、文字情報)に送信する。
③ マップサーバーが受信し、web対応のGISソフトのデータとして登録する。
 以上のような、単純なシステムで、N社の見積では、約500万でシステムが構築できます。

図-2 NPO法人である富士山クラブとドコモ・システムズの協業事業
(http://www.docomo-sys.co.jp/cstudy/cstudy09.htmlから引用)

図-3 富士山周辺でのゴミの分布状況(富士山クラブHPから)

図-4 データ集計事例(富士山クラブHPから)

 このように、ゴミの分布地域が行政と地域で共有されることにより、連携した施策が期待されます。ゴミが捨てられにくいような道路構造、見通しを良くする森林管理、地域による美化運動等を連携し行うことができます。場所を横軸とした総合行政が期待されます。また、このように位置情報と写真による情報が集積されることにより、行政施策を行う場合の基礎データとなり、費用対効果をより正確に把握できます。
 先進的な事例として、三重県では、M-GISという地理情報システムを無償で、県民が利用できる環境を構築しています。このソフトウエアを自分のパソコンにインストールすることにより、三重県の提供する地図上に、自分で撮影した写真や属性データ(コメント等)を登録、閲覧、検索できます。機能制限としては、一般的に利用されているGISのデータ形式の閲覧や加工ができないことです。三重県庁の情報政策・行政プロセス改革チームの小林氏によると、このソフトを開発、公開した背景には、「庁内のイントラネットのみで利用者が限られた環境では、メンテナンスを含め運用そのものが先細る先例が多く存在したため、一般に公表することにより、使用環境が進歩することを期待した」とのことでした。

3. 行政情報としての位置情報と写真について

 GISの導入は、1995年1月の阪神・淡路大震災において、関係機関が保有していた情報を効率的に活かすシステムがなかったことへの反省等から、急速に導入が進みました。導入当初は、GISデータの整備やソウトウエアが高価であるため、一般での利用は想定外でしたが、近年、インターネットの普及に伴い、日常生活でGISデータの頻繁が急速に増加しています。
 行政情報として、写真と位置情報はこれからの行政に必要不可欠になると思われます。つまり、電話で説明しにくいことを、位置情報付きの写真により説明でき、行政と住民が同じ視点に立つことができます。
 そこで、次の点について提案します。

(1) 地方自治体による地域の基盤データの利用推進
   地域の要望として、子供の通学路の安全マップをつくる動きがあります。国土地理院で公表している縮尺では不便ですので、地方自治体が管理している都市計画図等の電子地図や基本ソフトを住民が利用できる仕組みが必要と思われます。三重県のように無料で利用できるソフト開発事例等が参考になります。

(2) 公共施設や公共工事の位置情報と属性データの公表
   最近は、行政施策等は、ホームページで公表されることが増えましたが、その位置情報や写真情報が公表されることは少ない状況です。これからは、公共施設や工事予定箇所等の位置情報や写真情報を積極的にホームページで公表することが住民サービスの向上に繋がります。

(3) GPS機能付き携帯を利用した住民参加の町づくり
   富士山クラブでの利用事例にあるように、位置情報、属性データ、写真情報が住民から寄せられ、その情報を分析し、行政サービスの優先順位を決めるシステムを構築することにより、透明な行政運営が推進されます。
   民間においては、GPS機能付き携帯を利用し、子供の位置情報を検索するサービス、バスや運送車両の走行場所の把握、位置情報付き写真による災害状況の把握等、利用が拡大しています。行政においても住民とのコミュニケーションの手段や町づくり等に、写真情報とGPS、GISシステムを積極的に活用する必要があると思われます。


参考図書
山田雅夫(1998) 電子地図のチカラ 日経BP社
桜井博行(1998) 電子地図革命 東洋経済新報社
R.オーデット・G.ルドウィグ(2002) GISで環境学習 古今書院