【自主レポート】
群馬県の財政分析(2006)
群馬県本部/群馬県職員労働組合 後藤 克己 |
1. はじめに
(1) 「財政事情」の濫用はもう許さない!
「厳しい財政事情」。今や確定交渉の当局スローガンとなっている聞き慣れた言葉です。そもそも職員の給与は第3者機関である人事委員会の勧告及び交渉で決めていることであって、「台所事情が厳しいからお前も我慢しろ」と言うのは本来筋の通らない話であります。
しかし、残念な事にこの言葉に我々組合員が幾度と無く翻弄され続けて来たことも一方事実であるわけです。組合員からの不満のほとんどは、当局のスローガンを呪文の様に連発する理不尽な姿勢にあり、そしてそれに反撃する手段を持たないことに対する苛立ちにあるのではと考えます。
こんな現状を許すわけにはいけない! と、県職労は立ち上がりました。そして2002年度より本県の財政事情に対する分析を行い、組合なりの財政に対する独自の認識を持たねばと言うことで、見慣れない財政指標と睨めっこをしながら取り組んでいます。
(2) 財政分析の意義
さて、財政分析と言っても一体どのようなことをすれば組合員の皆さんに役立てる物になるのか? そこが最も難しい問題です。
おそらく、相当財政に精通している方を除き、多くの皆さんは何となく財政状況が悪いというのは感じているけど、一体どれくらい悪いのか? そして原因は何なのか?と問われるとどうもよく分からない。というのが正直な感覚ではないでしょうか。財政部局からは資料やら情報なりが提供されていますが、それを読んでも正直言って理解するのは相当困難です。
このような状況ですから、当局流に「きちんとした財政運営をされているか県民一人一人がチェックしていかなければならない」などと理想論を言うのは容易ですが、まず無理と申し上げざるを得ません。
そこで、財政分析においては、下記のように素朴な疑問点を明らかにすることを目的に構成しています。
① 財政がどんな風に悪いの?
② 悪いのはなぜ?
③ 本当に人件費が財政を悪化させているの?
(3) やればやるほど奥の深い財政分析
ノウハウ不足とスタッフ不足を言い訳にするわけではありませんが、内容的にはまだまだで、財政部局が提供する資料を分かり易く説明する程度のレベルでしかない部分もあることをお許しください。ただ、それだけでも組合員の皆さんが県財政について問題意識を深める一助となってはくれるはずと信じています。
県職労の目標はあくまで独自の財政認識を持つことにあります。しかし、財政は私たちの想像以上に深く難解な物でして、その道のりは長く険しいです。今後もあきらめることなく地道に取り組みを継続していきますので、意見・アドバイス等がございましたら、何なりとお寄せください。よろしくお願いします。
2. 国と地方の関係を知ろう
(1) 県財政の大部分は国によって統制されている
地方自治体の「歳入・歳出の自治」などと良く言いますが、実際には全く実を伴っていないのが現状です。
歳入面では、交付税・補助金という財源移転の仕組みを始め、地方税法による税目・税率の法定化、独自の課税・起債に対する統制等、様々な財政統制が働いています。また、三位一体改革の顛末を見ても分かるとおり、地方へ税源を移譲することに対する国の抵抗は極めて強いものがあります。
歳出面においても、県事業の大半は「国の補助事業」、「法令等により基準を設定しているもの(警察官や教員数等)」、「法令で実施を義務づけているもの(保健所、ゴミ処理等)」により統制されています。さらに公共事業については、国の様々な長期計画の中で地方単独事業さえも事実上統制されているのが現実です。
(2) 国の方針は地方財政計画によって地方に徹底されている
毎年12月中旬頃になると、国は「地方財政計画」を作成します。「地方財政計画」とは、翌年度の地方全体の歳出・歳入について項目別に見込み額を出し、地方全体の財政規模を計画として示すものです。
あくまで計画にも関わらず、各新聞紙の報道では「地方公共団体が予算編成するときの重要な参考資料となっていて、政府の方針を地方に徹底させる手段として大きな力を発揮している」「自治体は同計画をもとに翌年度の予算編成作業に着手する」というように、地方に対して非常に影響力が大きいことを説明しています。
その理由は言うまでもなく、(1)で触れたように歳入面・歳出面において国による強力な統制が働いているからに他なりません。
(3) バブル崩壊後、国の景気対策に翻弄されてきた地方財政
国はバブル崩壊後、地方財政の歳入・歳出の両面に対して強力に働き掛けることにより景気対策に動員してきました。
歳出面では、バブル崩壊直後の90年代中頃、国は地方に対し補助金による誘導などにより公共事業を一斉に行わせました。群馬県も例外ではありません。その結果はご承知の通り、この時期の借金のツケにより現在の地方財政を苦しめている状況です。
また、歳入面においてもH11年度から景気対策のための恒久的減税(一時的な減税でなく税率自体を変えることによる減税)が行われています。これも、減税による歳入減の穴埋めに結局は借金をしているため、地方財政の悪化を促進しています。
近年はどの自治体も財政難のため、国の誘導に応じられなくなっています。特に地方独自の公共事業(地方単独事業)については、国の示す地方財政計画額を実際の実績額が全く下回る状況が続いており、H12年度以降は国もとうとう計画額をマイナスに転換せざるを得ませんでした。
(4) 財政危機により、地方財政計画の縮小により歳出カットを迫る
H14年度以降は地方財政計画全体額も5年連続で縮小しています。これにより、自治体に対し厳しい歳出カットを迫っています。特に給与関係費についてはH15~H18年度までに、警官と教員を除いて4万人削減することにより、大幅な交付税削減が行われています。このことが人事当局の厳しい逆提案に結びついている大きな要因であることは言うまでもありません。
3. 歳入・歳出の仕組み
財政の基本は歳入と歳出について知ることにあります。「厳しい財政状況」と良く言われますが、何となくそんな気がするものの実際のところ何が厳しいのか今ひとつ良く分からないのが正直なところだと思います。
歳出面では近年、どんどん厳しさを増す人件費攻撃をはじめ、歳出抑制の流れは著しいものを感じます。しかし、「人件費ってそんなに財政を圧迫しているの?」「人件費以外の歳出(公共事業費等)は削減されているの?」とこれまた疑問は尽きません。
そこで、財政分析の視点からこれらの素朴な疑問を明らかにするために、まず群馬県の歳入と歳出の仕組みを知ることから始めます。
(1) 歳入の仕組み
群馬県の歳入は、地方税、地方交付税、国庫支出金、地方債の主要項目で約8割の収入を占めています。
この4項目のH3年度を100とした伸び率を(表1)に示しました。以下、各項目についての特徴を整理します。
① 地方税(県税)
★ 県税収入の主なもの(数字はH16年度の県税収入全体に占める割合)
○県民税(個人、法人、利子割)…22% ○事業税…27% ○地方消費税…11%
○自動車税…19% ○軽油引取税…11%
★ 群馬の状況:ようやく回復基調か
群馬県は、景気変動の影響を受けやすい「法人事業税」「法人住民税」という法人の利潤に課税する租税が約3割の税収を占めています。本県においても景気低迷による減収が続いていましたが、H16年度には景気回復により4年振りの増収となりました。
★ H11年度以後は恒久減税を実施していることに留意
H11年度以降は、景気対策のための恒久的減税(一時的な減税でなく税率自体を変えることによる減税)の影響も税収が伸び悩む要因となっていることに留意が必要です。
そして、これは国の景気対策に地方財政を動員した結果ですので、その穴埋めは地方交付税や地方特例交付金によって補填されています。 |
② 地方交付税
★ 地方交付税の役割
地方交付税は、地方公共団体間の財政力較差の是正(財政調整)と、ナショナルミニマムの維持(財源保障)を目的として交付される一般財源(使い道が自由な財源)です。
★ 地方交付税の交付方法
原則は国税「所得税、法人税、酒税、消費税、たばこ税」の一定割合(交付税率)を地方に交付する方式で行います(「法定分」と呼ばれています)。
しかし、法定分では地方財政計画における地方全体の「財源不足額(基準財政需要額-基準財政収入額(※))」に足りない場合、不足分を特例的に措置しているのが通例です。
ちなみにH17年度の場合、法定分は12兆円のところ実際には17兆円が交付されています。その差額(5兆円)分は国の会計からの補填と、「交付税特会借入金(※)」による補填によって埋めています。「交付税特会借入金」は国債・地方債を発行していることと変わらないため、「隠れ借金」などと指摘されることがあります。
(※)基準財政需要額…自治体の地理的・社会的において合理的な財政需要額
基準財政収入額…自治体の標準的な一般財源収入(地方税収入等)
交付税特会借入金…交付税を賄うための借金。国・地方が折半で償還する。
★ 群馬の状況:H11年度以降大幅に増加
H10年度まで安定して推移していましたが、H11年度から急増しています。当時全国的に行われた大規模な景気対策によるものです。つまり、地方財政計画で基準財政需要額を多く見積もることによって交付税を増やしたということです。
★ H13年度以降の減少は赤字地方債(臨時財政対策債)への振り替えが原因
H13年度以降、本来交付税を交付すべき財源の一部を「臨時財政対策債(※)」という赤字地方債に振り替えています。(表1)において、地方債発行額が増加に転じているのはこのためです。
このようなことをする理由は、近年、地方の財源不足額が余りに大きく、国の「交付税特会借入金」も多額に上っているため、財務省等から交付税を適正化し、「地方の財源不足は地方債で」という指摘がされたからです。よって「臨時財政対策債」に振り替えることにより、これまで交付税額だった分が地方債発行額の方にカウントされ、県民の目に触れるようになることを狙っています。ただし、名目が変わっただけで実質は変わりません。
しかし、H16年度以降は三位一体改革により、交付税・臨時財政対策債ともに削減されており、厳しい財政運営を強いられています。
(※)臨時財政対策債…地方財源の不足を補うため、地方交付税の代わりに発行する赤字地方債。本来は地方交付税で賄われるべきもののため、その償還額の全額が後年度に交付税で措置される。 |
③ 国庫支出金
国から県に対し支出される補助金、負担金等を指します(※)。地方交付税との違いはこれが「ヒモ付き」、つまり、使途があらかじめ決められているお金だということです。
公共事業削減に伴い国の補助金も大幅に減少していることから、H12年度以降は大幅な減少傾向です。
(※) 国庫支出金の種類
・国庫負担金… |
国と自治体の共同事務に対する割り勘分として交付。
(例)義務教育職員の給与等、生活保護費など |
・国庫補助金… |
国が特定の施策を奨励・推進することを目的として交付。
(例)公共事業関係の補助金、交通安全対策特別交付金など |
・国庫委託金… |
国が本来行うべき施策を、効率性等の観点により自治体に委託する場合に交付。
(例)国会議員の選挙経費、国勢調査など |
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④ 地方債
★ 地方債の分類
地方財政法において、通常起債を認めているのが「建設地方債」、例外的な場合に認められるのが「赤字地方債」です。
(1) 建設地方債(地方財政法で定められているもの)
① 地方公営企業の事業に必要な設備等に充てるもの
② 民間企業等への出資金・貸付金に充てるもの
③ 地方債の借換えに充てるもの(例:10年償還のものを20年に引き延ばす時)
④ 災害対策に充てるもの(元利償還金の95%が地方交付税で措置される。)
⑤ 建設事業に充てるもの(これが中心)
(2) 赤字地方債(代表例。これらは返済額の100%が地方交付税で措置される。)
① 臨時財政対策債(「2地方交付税」参照。交付税特会借入れを縮小する代わり。)
② 減税補填債(H11年度以降に行われている恒久的減税による税収減の補填。)
★ バブル後の地方債乱発が財政悪化の主犯
群馬県における地方債発行額の推移(表1)を見ますと、バブル崩壊以降に異常な伸びを見せていることが分かります。これは、普通建設事業費の伸び(表3)と連動しており、景気対策のために公共事業を乱発したことが原因であることは明らかです。
また、それからやや遅れて公債費が急激に伸びはじめ、H10年度にはH3年度時点の3倍近くに増加しています(表3)。これだけ見ても、財政悪化の主犯は過去の公共事業によるものであることが良く分かります。
★ 建設地方債は大幅な減少傾向
H11年以降は、公共事業費の縮小に伴い徐々に減少しています。県債発行額の推移(表2)を見ると、H13年度以降は前述した「臨時財政対策債」の発行により発行額全体は増加していますが、建設地方債は大きく減少していることが分かります。 |
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