【自主レポート】

富山県の財政の問題点と今後の課題
─ 現下の情勢と財政のあり方 ─

富山県本部/富山県職員労働組合・平和・地方自治推進センター・財政分析専門部会

 富山県職労では、長らく取り組まれてこなかった自治研活動の構築をめざし、1997年に自治研活動推進の組織として「平和・地方自治推進センター」を設置し、活動を開始した。
 設立当初は様々な活動をめざしたが、現在一定の活動が見られるのは、財政分析、農業など少数にとどまっている。しかし、近年の県財政の危機的状況が原因となり、賃金・労働条件の改悪提案、県税事務所の統合や福祉施設の民間移管などをはじめとした組織の再編・合理化が次々と行われる状況にあって、それまでの自治研活動の積み重ねにより、わずかではあるが、これまでの県政運営の問題点などについて組合内外に何らかの情報発信を行うことができるようになった。
 近年、県は各種の懇談会を設置し、行政改革をはじめとした様々な政策に対する「お墨付き」をいただいて、県の組織の縮小再編や新たな税負担などを推進している。これについては、知事与党の自民党ですら議会軽視と批判が出される状況になっている。2005年12月に県当局が打ち出し、提案された県立社会福祉施設の一つの流杉老人ホームの民間移管については、この間の様々な取り組みにもかかわらず2006年6月県議会で可決されるという極めて残念な結果となった。しかし、この間、富山県職労としてはかつて経験のない「多くの県民に訴える行動」を精力的に取り組んできた。利用者の声を無視した独善的な進め方に対し、利用者家族の反発は強く、8月2日に提訴を行った。県職労本部・職場としても、裁判と平行しながら、最後まであきらめないたたかいを今後も続けていく。
 この背景にある県財政の危機がどうしてもたらされたのか明らかにし、真に県民のための行政を追求する県職労の取り組みについて報告したい。

1. 知事の交代後に賃金カット提案

 2004年10月に県知事選挙が行われ、6期24年間の長期間在職した中沖豊前知事から消防庁長官などを務めた石井隆一知事が就任した。中沖前知事の体制下、県の事業執行においては国の補助事業等、「有利な財源」の事業をより多く獲得することが重視された。また、新幹線など大型の直轄事業なども積極的に推進した。この結果、県債残高は中沖氏の知事就任直前の1979年度で1,583億円に対し、離任直前の2003年度決算で9,658億円と6倍強、公債費は1979年度で163億円に対し、2003年度で878億円という、極めて深刻な状況になった図-1
 石井知事就任前後の頃に、交付税削減に伴う「財源不足」がメディアの報道に現れるようになってきた。地元新聞が、それまであまり言ってこなかった「自由に使えるはずの一般財源が厳しい」という記事を出すに至り、まさしく「財政当局の御用報道」と化してきた。このような状況になれば、「聖域なき見直し」として様々な問題が想定されることとなった。
 県当局の賃金カット提案に対し、財政分析専門部会で財政問題の本質を明らかにする資料作成を行った。2005年1月末に「2005年4月から3年間、管理職5%、一般職3%の賃金カット」提案が出され、2月2日・10日の2回、知事との対話集会を取り組んだ。この集会では、財政危機の原因は単に交付税の削減によるものではなく、これまでの財政運営の結果起きたことであり、交付税の削減はいわば「最後の引き金」に過ぎないことを強く主張し、財政運営の責任の所在を明確にするよう知事に求めた。しかし、知事は責任の所在については全く発言せず、「教育・医療などについて、富山県が国の基準を上回る措置を採ってきたことが一因」と開き直り、論点をすり替えた。
 対話集会において、知事からは賃金カットについて「3年間で終了するよう誠意を持って努力する」旨の発言はあったものの、その確約はなく、また財政運営の責任についても具体的な発言はなかった。組合員にとっては賃金改悪が次々と行われてきた中で「更なる追い討ち」のような賃金カット提案であり、また管理職員にとっても少なからぬ影響があり、多くの組合員にとっては極めて不満ではあったが、一定判断の元、知事提案の内容で決着した。2006年7月現在、県職労本部では「賃金カットを3年間で終わらせる」ことを再度確認して秋季確定闘争に向け取り組んでいる。

2. 身の丈を超えた景気対策や大規模直轄工事で財政危機に

 地方交付税の計算の指標となる基準財政需要額の推移を見ると、当然のこととはいえ「経常経費のうちの教育費」が最も多い図-3。1989年度以降概ね24~29%程度で推移している。投資的経費分を加えると、概ね26%~30%で推移している。しかし、目的別歳出の推移を見ると図-4、中沖知事就任前の1979年度の教育費が27.6%あったのがそれ以降割合を下げていき、1989年度で23.1%、以降もジリ貧となり、景気対策での工事の最盛期と見られる1999年度では19.6%まで減少した。一般財源・特定財源の別などがあるとはいえ、このような推移の中で石井知事の言う「国の基準を上回る措置」というものが教育にあったのか、あってもどの程度なのか、甚だ疑問といわざるを得ない。
 平成年間に入ってからのバブル崩壊後の景気対策やガットUR対策など、富山県も全国の例外になく、建設事業が財政運営の中心となった。当時の中沖知事を筆頭にいわゆる「有利な財源論」に全面的に乗る形で補助金獲得に躍起になった。多数の社会資本が短期間に作られるということは、例えば本来なら数年かけて行うような工事が2年程度で行われるというように、極めて異常な工事量・ペースだったということである。また、必ずしも県民ニーズに合致しているとは言い難い不要不急の大規模な直轄事業が推進され、400億円以上を負担したとされる宇奈月ダムのように、多額の負担が行われた。現在も、本来の地元要求は道路で十分なのに、道路を作るためにあわせてセットされた利賀ダム建設が進められている。この間、数度にわたる補正予算が年々繰り返され、組合員からは「いくら残業しても処理しきれないような予算は受けないでもらいたい」と悲鳴に似た要求が何度となく出されたが、事業関係部局の幹部は「やらねばならぬ、受けてくれ」と繰り返すばかりであった。さらに、2000年度には国民体育大会開催のため、体育館や道路などの国体関連工事が積み重なった。この積み重ねが前述したような県債残高・公債費の増加につながったといえる。近年、公債費は800~900億円で推移しており、このうちの利子負担は近年の超低金利下で低くなってきたとはいえ200億円前後もあり、負担は大変重い。建設後の維持管理の大変な箱モノなどもあり、整備された社会資本の効果にはバラつきがある。

3. 交付税で借金返済の現実

 賃金カット提案が出される前、2004年9月頃に県職労組織内の菅沢県議が財政課に財政状況の資料請求を行ったところ、「富山県における公債費の交付税措置の状況」というデータを出した図-5。2003年度での基準財政需要額の中の公債費の割合は14.1%であるが、財政課の出したデータによれば、23.6%ということになる。基準財政需要額の公債費以外に借金返済用として計上されているものがあるのかもしれないが、基準財政需要額の一覧だけではわからない。しかし、財政課の出したデータは内容はともかくとして基準財政需要額の一覧での割合以上に交付税での借金返済が重いことを示したものといえる。公債費の割合は1993年度以降一貫して増加しており、今後も増加していくのではと考えられる。本来自由に使えるはずの交付税が借金返済に回される、極めて厳しい状況を財政課自ら示したものといえる。しかし、知事との対話集会において、知事からはこのことについては何も触れられていない。もとより、交付税の基準財政需要額の中の公債費が増加傾向にあるということは、総務省自身が「交付税を使って早く借金を返済しなさい」と表明しているようなものであり、それ自体で驚くこともないかもしれないが、財政運営の厳しさを示すには十分なものである。
 県議会においては、賃金カット提案が出された直後の2005年2月県議会において、社会民主党議員団を中心に県幹部の財政運営の責任を問う質問がいくつも出されたが、知事をはじめ県幹部からは財政問題の責任の所在について何ら表明することはなかった。議会最終日に副知事の退任挨拶の中でごくわずかに触れられた程度という、あまりのいさぎの悪さであった。

4. これまでの取り組み

 県職労では、石井知事との対話集会の直前の1月末に、「あれもこれもで1兆円」というビラを作成し、街頭ビラ配布行動を行った。これは、賃金カット提案が単なる県職員の賃金の問題ではなく、「県の財政運営の歪んだ姿の一端が表れたもの」として、県の財源不足対策案では解決しないとして批判し、お金のかかる公共建設事業の見直しこそが必要であることを県民に訴えた。
 2005年度の当センターの取り組みとして「財政当局の県財政に対する認識を質し、財政運営の責任を認識させる」との目的の下、2005年10月に当センター主催で「財政課長と語る会」を開催し、県財政に対する意見交換を行った。こちらからは、財政課が出した「富山県における公債費の交付税措置の状況」をはじめとして、県財政の厳しさを示す指標やその原因、今後の方向性などについて指摘した。また、行革や職場に対する認識などについても質した。「財政再建の定義」について質したところ、財政課長の認識は「災害等の突発的な行政需要に対して基金で対応できる状況」というものであった。財政課長からは「2008年度でも財源不足が260億円程度発生する」という説明はあったものの、具体的な対応はほとんど示されなかった。根本的な財政建て直しという趣旨には程遠く、また基金すら使い果たしてきた状況にあって、この答弁である。また、財政運営については、「行政改革懇談会で議論される内容を見てそれに沿って対応したい」といった内容に終始し、およそ自ら考えて答える、といった態度からは程遠いものであった。交付税による借金返済、その苦しさの程度、といった点については知事同様何ら触れられなかった。
 2005年12月に、「県立福祉施設のあり方懇談会」の答申を受ける形で県当局が県立流杉老人ホームの民間移管化を表明し、2006年6月県議会で提案してきた。一義的には福祉職場・施設利用者の問題とされるものであったが、根底にあるのは県財政の悪化である。しかし、これまで述べたとおり、財政悪化の原因をそらし続けて、目先の建て直しのために社会福祉施設を切り離す、という形でのやり方には組合員・利用者ともに納得ができず、あわせて、これまで県立の施設の果たしてきた役割を考えれば今後も県立で存続すべきだ、という民間移管反対の取り組みを行うこととした。
 県立福祉施設の民営化に反対する運動に賛同いただける各団体の皆さんと共に、「福祉を守る富山県民会議」を立ち上げた。県民会議として、2006年2月に新聞広告を行い、また1月から2月にかけて「利用者無視の民間移管は納得できない」という趣旨で署名運動を行ったところ、実質3週間の短期間ではあったが、11万人の署名を集めることができた。2月はじめに知事に提出し、2月議会での提案は見送られた。4月には「明日の福祉のあり方を考える4・22県民シンポジウム」を開催し、世論喚起の取り組みを行った。しかし、6月議会で提案されたことから、県内20万世帯に向けてビラ配布行動を行った。また、県庁前公園座り込み行動なども取り組んだ。しかし、6月県議会では県当局は自民党の支持を取り付けて可決した。この間、利用者家族が家族会を結成し、可決後も家族会で取り組みを協議し、8月2日には「今後も県が流杉老人ホームの運営を行うこと」を求めて、富山地方裁判所に提訴した。

5. 今後の課題

 中沖前知事の下でも様々な行革や組織の改変などはあったが、石井知事の就任後は県民に大きく影響する行革・組織改変がいくつも進められている。どれ一つとっても、背景には財政が関わっているが、知事をはじめ県幹部らは財政に関するコメントを何一つ出さず、財政運営の責任表明からは逃げ続けている。
 しかし、財政当局は「基金さえある程度持っていれば財政再建である」といった、一般的な感覚から見ればピントの外れた認識を示している。これは「基金さえあれば、当座の自転車操業で財政再建団体を回避できる」という、現行の枠組みを追認したものであり、さらに「どんな財源不足になっても、その都度、人員削減や組織の縮小や施設の廃止などでいくらでも対応できる」という認識を言外に示したともいえ、ツケは県民・組合員に回されるということになる。したがって、こういった認識を跳ね返すためには
○ 財政の状況を丹念に調査し、多くの組合員・県民に知らせる。
○ ほとんどの合理化の背景には財政悪化があることを認識し、その上で施設の廃止や組織の縮小の動きに対し、問題点を洗い出して、多くの県民に広めていく。
といった取り組みが不可欠になる。
 現在の富山県財政の問題点と、それに関連する課題としては、多数あるが、例として、
● 大きな負担を伴う直轄公共事業(新幹線・新湊大橋・利賀ダムなど)が続いている。今すぐにでも見直すべき。「今からでも遅くない」という気持ちだけでも持つ必要がある。
● 公共事業職場は、仕事の中身を考える必要がある。(財源は補助金と地方債。この現実からどうやって財源構造を持続可能なものにするか、県の幹部に考えさせ実行させるような取り組みが必要。)
● 産業政策は地域の自立につながる取り組みが必要(バイオマスの推進など)。
● 教育・福祉・医療などを行財政の中心にすえる運動が必要。(公的サービスの水準の維持向上こそ、利用者及び現場労働者の権利確保に重要である。)
● 知事や県幹部にこれまでの財政運営を反省させるための運動が必要。現在の財政当局の基本的認識は「基金さえあれば財政再建」だが、一般的な感覚とはズレがある。借金を減らして少しでも身軽になる必要がある。その一方で借金返済は負荷がかかる。この影響も考える必要がある。
● 県債残高は大変多い。しかし、これに惑わされずに、むしろ普段の行政サービスや県民との関わりなど、「足元」をしっかり見ていくことに集中すべきと思われる。公的サービスの必要性を確認し、県民に訴えていくことである。今般の福祉での取り組みは今後の県職労自らの取り組みに対しても、大変有効なものであると考える。
 以上のようなものがあげられる。今後とも財政分析を行い、各行政分野と県民とのつながりを目に見える形にして、公的サービスの維持・充実などに取り組んでいきたい。

 

図-1 富山県の性質別歳出の推移(2005年度は一般会計当初予算)
図-2 県債残高の推移(2005・2006年度は一般会計当初予算から推定)
図-3 富山県の基準財政需要額の動向
図-4 富山県の目的別歳出の推移
図-5 富山県における公債費の交付税措置の状況(2004年9月、財政課公表)
「あれも、これも」で一兆円  = 立ち直れるのか 富山県財政 =(県民福祉を守る富山県民会議)
知事 もっと利用者や県民の意見を聞いて(富山県職員労働組合)
「小さな政府論」は国民負担の増加へ(富山県官公労働組合連絡協議会)