【自主レポート】
自治体財政分析
三重県本部/「自治体財政分析」ワーキンググループ
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1. はじめに
(1) 近年の地方自治体を取り巻く状況
激動の平成大合併も2006年3月末には節目を迎え、全国3,232自治体(1999年3月31日現)が、1,820自治体(779市844町197村:2006年4月1日現、同年10月にはさらに町が△1)となり、地方自治体の減少率は、43.7%となった。
例に漏れず三重県においても2005年には合併が急加速し、これまでの69自治体から14市15町の計29自治体となり、県内から「村」が消滅し、その減少率は58.0%となることで全国平均を大きく上回った。これは、全国都道府県順位では自治体減少率11位にランクすることになり、全国的に見ても合併がかなり進んだ県の一つとなった。
また同時に、国主導による地方自治の根本的な改革、戦後長く存続してきた中央集権型行政体系から脱却し、「地方分権型行政体系の推進」という大儀の下、行政効率の見直しや行財政コストの削減等の推進に主眼をおいた、「地方でできることは地方で、民間でできることは民間で」というキャッチフレーズによる「小さな政府」路線が掲げられた。さらに、これらに基づく具体的で構造的な諸改革も進められており、今日の地方自治は大きな転換期を迎えている。
なかでも、地方自治の根底を支える重要な要素の一つである地方財政については、国により毎年策定される「地方財政計画」の大幅な圧縮や2001年に発足した小泉内閣により打ち出された、通称「骨太方針(経済財政運営と構造改革に関する基本方針)2001」、「同2003」によって、「地方自治体が、自らの権限、責任、財源で賄う割合を増やすこと」が方針づけられた。
その後、これをさらに具現化する政策として、国と地方自治体の行財政システムの方針について踏み込んで示されたものが、いわゆる「三位一体の改革」(2002年6月首相発言)である。
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国内総支出と地方財政・(平成16年度決算)
総務省『平成18年版地方財政白書』より
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公的支出の状況・(平成16年度決算)
総務省『平成18年版地方財政白書』より
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(2) 三位一体の改革と地方財政
「三位一体の改革」とは、「2006年度までの期間において、事務事業の徹底的な見直しを行いつつ、国庫補助負担金については、概ね4兆円程度を目途に廃止、縮減等の改革を行う。」(2003年6月27日閣議決定)と政策決定されたもので、その「三(位)」の内容を示す大きな柱は、①地方交付税の改革(見直し)②税財源の移譲(税源配分の見直し)③国庫補助負担金の改革(廃止・削減)である。
2004年度にはこの政策に基づき、国庫支出金が約1兆300億円、地方交付税が約2兆9,000億円削減されるとともに、地方自治体へ約6,560億円の税源移譲が実施されている。
しかし、地方自治体からは、税源移譲の額よりも地方交付税等の削減の割合が高いために税源移譲の不十分を指摘する声が多くあがり、さらに都道府県レベルでは税源移譲分をめぐり、地方交付税の交付団体だけではなく、不交付団体までも巻き込んだ総務省との対立が生じてきており、以前にも増して「都市部と地方部との対立」の様相が表面化するなど、いくつかの問題が生じてきた。
これらを受けて政府は、「骨太方針2004」において、補助金等を削減する代わりに2006年度までに所得税から個人住民税へ約3兆円(既に約6,560億円は移譲済。個人住民税所得割の税率をフラット化する方向で検討を行う。)の税源移譲を実施することを明記している。
しかし、このことは、今まで国が行っていた徴税業務が地方自治体の業務へと移行することになり、地方自治体では「住民税の税率を上げてこれに充てる」ことも想定されており、税源移譲にともなう地方自治体の受難、反発は必至で当然のことと思われる。
都市部と地方部の所得格差が進むなか、これら改革によって進められる(自治体の)財政調整機能を持つ地方交付税の削減により、今後より一層自治体格差は広がり、小規模自治体の財政運営は、さらに厳しいものになると考えざるをえない。
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国税と地方税の状況・(平成16年度決算)
総務省『平成18年版地方財政白書』より
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これに加えて、この税源移譲の示す内容は「予算の移譲」ではなく、あくまでも「課税権の移譲」であり、移譲そのものが直結して地方自治体の財政を潤すものではない。前述したとおり、「小さな政府」路線の下、全体的な財政規模の縮小、具体的にいえば「地方税で地方歳出を賄う(地方が必要なお金は地方で集める)」という、国の表現を用いると、「地方財政の効率化とスリム化」を達成しようとするものである。これにともない地方自治体は、これから一層の自立・創造性により地方経済を活性化させ、かつ住民の理解を得、魅力的で引き付け続けることができる「自主(自助)自立」に基づく独自の施策を展開することが期待されるものである。本稿でこれから取り上げる「自治体財政分析」については、税源の分野、いいかえれば、各地方自治体の税制の分野での「具体的な租税、課税等の検討・賦課」も課題の一つともいえる。
近年のこれら政策に関する動向を端的に表現すれば、周知のとおり国に「お金」がないから合併を促進し、(合併により)自治体数が減少することで地方財政全体の規模縮小を図る。つまり、行政経費(人件費を含める諸コスト)のスリム化、端的にいえば、削減を第一の目標としている。当然のことながら、合併した自治体では、見かけとしてそれぞれの財政規模は大きくなるものの財政基盤の強化という点においては多くの期待を寄せることはできない。
具体の自治体業務(事業)についてもこれら諸経費の削減(事業費、人件費の削減(≒公務員の削減))によって自ずと遂行することが困難になってくる業務が発生してくる。そこで「民でできることは民で」と掲げ、それらにかかる具体の業務内容等を再精査し、今までの自治体独占の業務市場からの脱却を求め、「指定管理者制度」、「市場化テスト」等により「公の業の民営化」の施策を進めようとしているものである。しかし、このことは同時に地方自治体行政の本旨ともいえる「公平公正な行政サービスの提供」という観点から見ると、著しく乖離(かいり)する点も多く、疑義や危険性が残るものでもある。
なぜならば、本来地方自治体の持つ、地方自治体であるからこそ可能であった利益至上主義にとらわれることのない公正公平に主眼をおいた行政サービスについて、それらが充分な政策方針や精査が無く、「全国的な……」、「国の方針だから……」、「お金(人)がないから……」、「そうせざるをえない……」等と安易に切り売りされることにより生じる弊害、つまり住民の生活に直結することとなる大きな諸問題が生じてくる。このことの実例が、2005年に露見した「建築確認申請耐震偽造問題(指定確認検査機関問題)」である。この事件により被害者となった住民は、かけがえのない財産を奪われ、計り知れない精神的苦痛を受けることになった。
このようなことからも地方自治の本来の主旨の一つである「住民の安心と安全を守る」ということについては、将来の地域の情勢、自治体の運営・経営、これらの動向をきちんと見据えた施策に基づき充分に精査・検討して実践しない限り、道州制の議論、医療費個人負担の増、社会保障給付の見直し等、住民一人ひとりの生活に直結する公共施策の撤退・減少化が提案されているなか、場合によっては本来の「地方自治の主旨」から著しく逸脱することが生じる可能性が懸念される。
今後の自治体経営については、これらの諸問題からも具体的かつ現実的な形として大きな課題が残り、また新たな問題が発生してくることも予測され、地方行政を支える地方財政の危機的状況とともに警鐘を鳴らさざるをえない。
地方自治体の弱体化は、住民サービスの後退に繋がる可能性が大きく、いい方をかえれば「地方財政の危機=地方自治の危機」と表現しても決して大げさなことではないであろう。
2. 自治体財政分析ワーキンググループの概要
このような背景から本稿においては、地方自治をとりまく情勢及び諸課題が蔓延する激動の時期に自治体運営・行政の要所、また自治体変革における重要な要素ともいえる財政分野に焦点をあて、分析研究を行うこととした。
分析対象として県内で3ヵ所のモデル自治体を設定し、また研究員についてはそれぞれのモデル自治体からの参加者も募り本部研究員と一体感を持ったワーキンググループ(以下「WG」という。)を編制した。
(1) WG設置のねらい
財政分析は、自治体財政におけるトレンドを観測し、具体の数値、中身を分析・検証したのち、具体的課題に対する対策等、政策的な提言を行うことがこのテーマの大きな目標とするところ、つまり理想として捉えてはいるが、今回のWGにおいては、財政分野の初心者に多く参画いただき、WGを通して「自治体財政一般についての知識を養う」とともに「財政分析にチャレンジする」、「財政分析アレルギーを減少させる」、「財政分析を多くの人に広げる」、「初心者でもできる(できた)財政分析」等という部分に重点をおいている。
つまり、プロフェッショナルな技術は持ち合わせておらず、内容については、絶対的指標との比較等、機械的な分析になった部分が多くなったことは否めない。このことは予めお示ししておきたい。
このような出発点であったことからWG開始当初には迷走することになったが、WGの進行に対し道筋、方針、具体の分析手法等について、丁寧かつ的確なご教示をいただいた(財)地方自治総合研究所 飛田博史研究員にこの場を借りて厚くお礼を申し上げたい。
WGにて具体の財政分析(作業)を行う前に現在の地方行政を取り巻く具体的な状況を整理し、確認しておくと、まず時期的に全国的な市町村合併の過渡期にあるということが挙げられる。とくに合併の影響を受けた各自治体決算においては、合併特例債の影響、また合併に伴う諸事業(駆け込み事業等)等の特質的な要因も多く発生しているとも推測することができる。つまり、合併までの通常の決算とは異なり特異的な決算状況(決算の重複、ダブツキなど)が発生している場合があり、また比較対象でもある「類似団体」の状況も同様であることも容易に推測される。いいかえれば、決算混乱期ともいえるこの時期に「財政分析は時期尚早である」という指摘もあるかもしれないが、財政分析における重要な視点として「継続してトレンドを見ていく、分析を行う」、また、「自治体の変革のための主要な手法である」という基礎的なポイントがあることから、「合併も一つの政策・事業」と捉えて分析に取り組んだ。
また今回のように同時に複数自治体の財政分析を行うことは、近くに先例もなく、私たちにとっても初めての経験であったが、あえて3つのモデル自治体の財政分析について相互に連携を保ちながら並行して分析作業を行うことに挑戦した。
今回のこのWGでの取り組みが、今後、各自治体の財政分析作業に取り組む際の動機付けや課題提起となり、加えて自治体行政、まちづくりの将来へ繋げる「橋渡し的役割」を果たす意味での記録又は手がかりになれば幸いである。
(2) 分析の視点・キーワード
WGにて財政分析を行うに際しての視点及びキーワードについては、以下の点とした。
① 「自治体財政の現状及び傾向」
② 「なぜ財政危機といわれるのか、財政逼迫の原因は何か」
③ 「どのような事業分野に政策が展開されて、いかように予算が執行されているのか」
④ 「類似団体等、その他の自治体と比較してどうか」
⑤ 「将来的な予測」
(3) モデル自治体の設定
モデル自治体の設定については、各自治体の地域性、独自要因、人口規模等の差異等により厳密に精査しきれない部分があるが、大きな枠組みとして以下のとおりとした。
① 県域を大きく北部、中部、南部と分割し、地域区分にて抽出。
② 市と町(村)の自治体(行政)区分にて抽出。
③ 合併した自治体、合併しなかった自治体の区分にて抽出。
この抽出方法に基づき具体のモデル自治体として、Ⅰ「朝日町」、Ⅱ「伊賀市」、Ⅲ「熊野市」を設定した。
(4) 分析の方法・資料等
各モデル自治体の財政分析に際しての主な資料として各自治体の通称「決算カード」(普通会計:「一般会計」と「公営事業会計以外の特別会計」)を入手し、手がかりとした。
調査年度については、基本的に過去10年間決算についての(主要な)指標・数値に着目することとし、後述の視点、調査年度、切り口等を設定した。
具体の作業としては、最初に統一した入力フォーマットを使用し、各決算カードの全てのデータを入力してモデル自治体毎のベースとなる資料を作成した。
次にこのベース資料(電子データ)を元とし、さらに具体的な数値、指標等について、WGにて絞り込みの作業を行い、最終的に次項のとおり数値・指標の抽出を行い、これらに着目した具体の表・グラフ等を作成し、各モデル自治体の財政についての分析・検証を行った。
(5) 着目した数値・指標等
具体的な分析・検証の対象とする数値・指標は以下のとおりとした。
① 財政力指数・実質収支比率
② 公債費負担比率・公債費比率・起債制限比率
③ 積立金残高比率・地方債残高比率・実質債務残高比率
④ 経常収支比率(うち人件費、うち扶助費、うち公債費)
⑤ 実質収支・単年度収支・実質単年度収支
⑥ 歳入の状況(地方税、地方交付税、その他一般財源、国庫支出金、県支出金、地方債、その他)
⑦ 財政規模の推移(歳入総額、歳出総額)
⑧ 性質別歳出の状況(人件費、扶助費、公債費、投資的経費、その他)
⑨ 普通建設事業費・地方債・うち臨財債(公債費負担比率、公債費比率、起債制限比率)
⑩ 目的別歳出の状況(総務費、民生費、衛生費、農水費、土木費、消防費、教育費、公債費、その他)
⑪ 職員数と給与
なお、今回のWGで使用した各モデル自治体の最新の「決算カード」(2006年6月現在では平成16年度(2004年度))及び具体の財政分析に際して取り上げ、使用した主な指標、数値、用語等の解説は、本稿最終章へ「資料編」として掲載したので併せてご参照いただきたい。
(6) 調査年度及び切り口
モデル自治体の状況について、さらに絞り込み作業を行い、以下の分析対象年度及び内容等とした。
Ⅰ 「朝日町」
未合併自治体。調査年度は、過去10年間(1995年度~2004年度)を対象とした。
Ⅱ 「伊賀市」
2004年11月1日に上野市・伊賀町・島ヶ原村・阿山町・大山田村・青山町の6自治体が合併して「伊賀市」を構成している。トレンド重視の視点から、合併構成市町村の数値の合算(ただし、「率」関係は再計算。2004年度は、伊賀市単独決算)とし、調査年度は、過去4年間(2001年度~2004年度)を対象とした。
Ⅲ 「熊野市」
2005年11月1日に紀和町と熊野市の2自治体が合併しており、新「熊野市」を構成している。旧2自治体は、人口規模等は大きく異なるものの、地域性動向等、概ねよく似た傾向を持つことが観測され、また2004年度決算も旧自治体単位であることなどから旧熊野市分のみを抽出し、調査年度は、過去10年間(1995年度~2004年度)を対象とした。
3. WGの体制
座 長 郡 山 武 司 自治労三重県本部自治研推進委員・三重県職労
事務局長 西 口 裕 登 自治労三重県本部自治研推進事務局次長・自治研センター
委 員 田 中 靖 自治労三重県本部自治研推進委員・松阪市・自治研センター
宮 﨑 光 義 自治労三重県本部自治研推進委員・鈴鹿市・自治研センター
森 川 訓 吉 自治労三重県本部副委員長
野 口 貴 弘 自治労三重県本部調査部長
若 林 公 之 自治労三重県本部組織部長
安 田 美保子 自治労三重県本部中央執行委員・三重県職労
二 階 堂 樹 伊賀市職労
岩 本 昌 子 熊野市職労
佐 野 恵 史 熊野市職労
吉 田 健 二 熊野市職労
後 藤 秀 彦 朝日町
矢 野 尚 孝 朝日町
田 川 好 平 自治労三重県本部書記
4. WG等の開催状況
事前打合
と き 2006年 3月8日(水) 午後2時~
ところ 津市・(財)三重地方自治労働文化センター2F自治研修室
第1回
と き 2006年 4月10日(月) 午後1時30分~
ところ 津市・(財)三重地方自治労働文化センター3F小会議室
第2回
と き 2006年 5月19日(金) 午前10時~
ところ 津市・(財)三重地方自治労働文化センター2F自治研修室
講 師 (財)地方自治総合研究所 研究員 飛田 博史氏
第3回
と き 2006年 5月29日(月) 午後2時~
ところ 津市・(財)三重地方自治労働文化センター2F自治研修室
第4回
と き 2006年 6月16日(金) 午後1時~
ところ 津市・(財)三重地方自治労働文化センター2F自治研修室
第5回
と き 2006年 6月28日(水) 午前10時~
ところ 津市・(財)三重地方自治労働文化センター2F自治研修室
5. モデル自治体財政分析
Ⅰ 朝日町
Ⅱ 伊賀市
Ⅲ 熊野市
6. WGを終えて(結びにかえて)
私たちは、ここ数ヶ月の間、ある意味期間限定で設置された今回の自治研「自治体財政分析WG」という好機を得て、少なくともモデル自治体として分析対象とした県内3つの自治体の財政・決算状況の概要及びそれぞれの地域実情を垣間見ることができた。
これにより各研究員においては、現実としてそれぞれの自治体の置かれている状況、つまり自治体の現実的な経営の状況や財政規模の推移、全国的な水準等について知ることができた。また、各々視点、受け止め方は異なろうが、初めて眼耳にする事象も多かったこととも思われる。
このようなことからも本稿の結びに代えて、今回のWGに参画して、また地方財政、財政分析について思うこと等についての「思い」を綴った各WG研究員のレポートを以下のとおり掲載し、最後に時事問題として、また総括的な意味合いも含め、2006年6月20日に財政再建団体の申請を行うことを表明した北海道夕張市の事例を紹介しながら本稿を閉じることにしたい。
(1) WG研究員レポート
① 自治体財政分析WGに参加して
あなたの街の実質単年度収支は、ここ数年、連続して赤字ではありませんか?
夕張市が財政再建団体になったニュースが全国を駆けめぐりました。マスコミでは、その責任を問う報道をしています。
今回の財政分析は、県下の3市町のデータにて行いました。財政に余裕があると思われている自治体においても、実質単年度収支が連続してマイナスになっていることに驚きました。
ご自身の街が、今どのような状態にあるのか一度確認し、今後どうしていけば良いのかという議論が職場でされることを期待します。
② 自治研活動と自治体財政分析について
自治研活動において、たびたび自治体財政分析が取り上げられるその理由は、既にこのレポートの頭書に記されている財政分析の目的のとおりである。このWGに参加しそれぞれの自治体の財政分析に臨まれた方たちの努力により、目的の一端は既に成果を成しているといえよう。
一方、2005年3月31日に失効した旧合併特例法を引き継いだ新合併特例法の下、三重県内をはじめ、日本中で多くの市町村が合併へと駆り立てられ、実際に数多くの合併が成立してきたことは、衆知の事実である。その際、国は「地方交付税の算定替え」、あるいは「合併特例債」という財政的配慮を前面に押し出し、合併を強力に推進していたことも同様である。今後、これらの財政的な配慮から、合併自治体で費やされた多大な労力と費用に見合うだけの効果が得られるのか、また得られていくのか注視していくことが必要とされるものである。
また、「三位一体の改革」という名の下、地方交付税特別会計予算が大幅に縮小されようとしていることからも、それぞれの自治体の財政状況を見守っていく必要性はますます高まっていくといえる。同様に「三位一体の改革」に含まれている国庫負担金補助金の削減、及び国から地方への税源移譲についても、一方的に国の財政負担のみが軽減するにとどまらせないようにしなければならない。 自治体財政を取り巻く環境は、今後さらに厳しさを増していくことから、自治研活動及び財政分析の取り組みの重要性は高まっていくものである。
③ 財政分析に用いる新しい財政指標について
地方分権一括法の施行に伴い、地方自治体の自主性をより高める観点から、地方債の発行(起債)が許可制度から協議制度に移行した。この2006年度からの制度移行により、起債に協議を要する団体と許可を要する団体の判定に用いられる「実質公債費比率」という新しい財政指標が導入され、県内自治体でも過去3か年分の算定が進められている。
これまで元利償還費の水準を測る指標として用いられてきた起債制限比率は、標準的な財政規模に対する公債費(交付税措置分を除く)の割合を算定したものであるが、これを市場の信頼性や公平性の確保、透明化、明確化等の観点から見直し、(ア)下水道など公営企業の元利償還金への一般会計からの繰出しを算入、(イ)PFIや地方自治体の組合の公債費への負担金等の公債費類似経費を原則算入、することで、実質的な公債費を算定対象に追加するとともに、(ウ)満期一括償還方式の地方債に係る減債基金積立額を統一ルールの下で算入し、(エ)満期一括償還方式の地方債に係る減債基金積立不足額を反映、させた指標が「実質公債費比率」である。
起債に際し、この「実質公債費比率」や普通会計及び公営企業会計の決算収支の赤字(=「赤字比率」)が一定の水準を超える自治体は、従来同様の許可を要する等の早期是正措置が講じられることとなる。
本稿の財政分析でも、決算カードからは読み取れない公営企業等への繰出金に関するコメントが見られたが、今後の自治体財政分析においては、「実質公債費比率」を観測することにより、自治体の実質的な元利償還費の水準について、よりリアルに捕捉することが可能となるであろう。
④ 自治体財政分析について ワーキングに参加して
今回のワーキングの目的は、県内で合併が進み一区切りついた自治体の財政についてタイプの違う市町を南北に長い県であるところから、北、中、南と3自治体を選んで分析を行いました。
全般的にいえるのは、三位一体改革の影響から、今までにないような事業の見直しだけでなく、人件費の削減等これまでと違った自治体での対応が見られるようになったように思う。
交付税が下がり自主財源が増加すると、自治体間の財政力格差がますます広がり債務が多く公債費が過重な団体は、償還の財源確保が難しくなり、最終的には夕張市のような結果になってしまうのではないかと思った。
今回の3つの自治体はそれぞれ地域特性がはっきり出ていて、南北の地域格差、合併での影響の特殊要因など、初心者にもより理解できたように思う。
⑤ 財政分析のはじめに……(WGのおわりに)
財政分析って……いったい何をしたらいいのやら、財政分野に携わったことがなく、課題の大きさにとまどってしまいました。財政分析に取り組むにあたっては、市町村(自治体)の地方財政状況調査表の要約版である「決算カード」を見ながら進めていった。数値だけを見ているだけではピンとこなかったが、経年経過をグラフで表すことにより近年の財政状況の流れが見やすくなったことは実感である。
厳しい財政といわれ続けて、厳しいことはなんとなくわかっているが、どうして厳しくなっているのかはあまり考えたことはなかった。財政分析を進めていくなかで、「どうしての」一片が見えかけたような気がしている。
財政は、いろいろなピースが集まって構築されており、大変に深い事柄ではあるが、はじめの一歩として、決算カードから見る財政のグラフ化の取り組みは有効であると感じている。
財政分析は、自治体基盤を知るためのツールであり、地方財政の危機的な状況がどうして起こってきたかを確認できる作業のひとつであり、地方自治体を取り巻く状況を的確に反映しているものだと感じている。この分析方法をきっかけとして今後とも感心を持って取り組んでいかなければと考えている。
⑥ 自治研自治体財政分析WGに参加して
今回のWGに参加してみて、一口に自治体の財政力を分析するといっても様々な視点から考察することによって、その自治体のいろいろな姿が浮かんでくるということを改めて実感した。
財政分析を行うにあたり各自治体が保有している「決算カード」というものがベースになるわけだが、この決算カードは単に数字の羅列ではなくその自治体の財政状況はもちろん、周辺の自治体を含めた過去何年間のデータを調べることにより、その自治体の置かれている状況や今後の進むべき道を教えてくれているような気がする。
平成の大合併がとりあえず終了したいまだからこそ、その自治体は合併したことにより今後の危機的状況を改善することができる、一方では合併しなくても十分その自治体の特色を出すことができ、よりよい住民サービスを提供できる等、本当に合併が正しかったのかどうか改めて問い直すということは非常に重要である。
各自治体においては、この数字は紛れもない事実であるが、単純に決算状況を調べるだけではなく、今後の行政のあり方について考えなければならないし、我々もそういう意識を持ち続けることにより今後理想の地方財政に近付けることができるのではと思う。
⑦ 財政分析WGに参加して
財政分析WGへは、第2回からの参加となりましたが、当初は「財政分析って一体何をするのだろう?」、「財政分析って難しそう。」、「私でもできるのかな。」と不安ばかりでした。しかし、(財)地方自治総合研究所研究員 飛田博史先生の講義を受け、少しではありますが、自治体財政一般についての知識を身につけることができました。また、初めて「決算カード」という存在を知りました。
「決算カード」には、財政分析に必要な財政指標、データが入っていて、記載されている各項目についてある程度理解することができました。そして、「決算カード」を使って、「歳出、歳入の特徴」、「収支の均衡」、「財政の自立性」など様々な角度から、自治体財政の姿を捉えることができました。
結局、WGには、仕事の都合であまり参加することができませんでしたが、当初あった財政分析に対する不安はなくなりました。むしろ、分析することで自治体財政の状況や特徴が浮かびあがってくる、一種の楽しさ? というものを感じることができました。WGに参加できてよかったです。ありがとうございました。
(2) 夕張市の事例
地方財政を取り巻く状況は、これからもますます厳しくなることが予測され、このことを象徴するかのように2006年6月20日に北海道夕張市が「財政再建団体」の申請を行うことを表明した。
財政再建団体とは、実質収支の赤字額が、都道府県では標準財政規模の5%、市区町村では20%を超えた債務超過状態になり、総務大臣に申請し、指定を受けた地方自治体のことであり、一般企業に例えると「倒産」を意味する。夕張市の2004年度の標準財政規模は約45億円であり、これに対し負債額は、600億を超える規模に上っている。
財政再建団体の申請を行った過去の記録を見てみると「市」では、1977年の三重県上野市(現伊賀市:今回のモデル自治体の一つ)以来の出来事となる。
ここで総務省HPより入手可能な2001年度~2004年度の決算カードから夕張市の近年の財政概要を若干観察してみる。
「財政力指数」は、「0.2」前後の数値でかなり低いのであるが、それよりも特徴的で目を引くことは、単年度決算としては「歳入歳出差引(形式収支)」は、全て「黒字」であったということである。とくに、最新2004年度のいくつかの数値(項目)を見てみると、「実質単年度収支」は、わずかに「600千円」のみの赤字となっている。しかし(もう少し見ると)自治体の貯金を示す「積立金(基金)」もなく、一般的に自治体財政の「赤字」か「黒字」かの判断基準を示す「実質収支」についても「534千円」しかない。このことは、自治体を経営するためのキャッシュフロー(≒自己資金)が全くない状態を示している。
しかし、前述の「黒字」にはカラクリがあり、「一時借入金」というものが大きく関係している。「一時借入金」とは、自治体決算における当座の資金繰りのために金融機関等からの(一時的な)融資を受けるものであり、予算書や決算書に掲載されないものである。決算整理期間(3~5月頃)に借り換えを行えばその部分の年度末の負債残高は「0(ゼロ)」になる。このような手法を用いてその年度決算は、表面上は「黒字」となっているが、実際には一時的に急場をしのいだだけに過ぎず、さらに「借り換えに次ぐ借り換え」を繰り返すことで「自転車操業」的な自治体運営となり、決算(カード)に表れない債務が「雪だるま式」に大きく累積した、という説明が現時点では有力である。
また、「経常収支比率」についても「116.3%」となっており、100%を大きく超えて財政的にかなりの重症の域に達している。このことは、投資的経費、臨時的経費だけでなく、経常的経費にまで臨時的財源を充てていることを示し、財政の硬直化がかなり進んでいるといえる。いいかえれば、経常的な財源は経常的な経費のみに消費されているわけである。
夕張市において、このような財政状況を招いた背景(財政破綻の大きな要因)を整理してみると、全国的な地域経済の景気要因もあろうが、第一に主要産業(炭鉱業)の衰退が大きい。つまり、炭鉱の閉山により全体的な地域経済の退廃とともに、これらにともなう急激な人口減少(ピーク時の人口の約1/10。2005年3月31日現在 13,615人:住基人口)が発生した。
第二にこれらの危機的状況を受け、市として自治体の生き残りをかけて、「炭鉱から観光へ」のキャッチフレーズのもと、ホテルの買収、テーマパーク、スキー場等の開設、国際映画祭等のイベントの開催等、主要産業を観光産業へシフトさせ、人口の流出抑止や雇用促進を図ったのであるが、これら観光誘致等の事業は、ことごとく頓挫した。当然のことながら、地域経済及び自治体財政の起死回生が図れることはなく、身の丈以上ともいえるこれら事業への過大な投資や、さらには公営企業及び第三セクターへの債務や損失補償が、市の財政に大きく伸し掛かった。
以上からもわかるように、今回の財政破綻の原因は、昨日今日発生した事象によるものではない。このことからも今回の状況は、(本稿冒頭にも記述したが)全ての自治体に共通し、至上命題とするところでもある「財政規律意識」であるとか、「地域情勢、将来を見据えた政策立案、展開」という点において、夕張市の自治体経営には、放漫さと政策(展開)の甘さがあったことは否めない。
今後夕張市は、財政再建団体の指定を受け、国主導による財政再建政策により財政を立て直していくことになるのであろうが、この財政再建政策により、自主的事業の制限、住民サービスの規模縮小(利用料、手数料等の引き上げ)などの制約を受けなければならないことになる。
つまり、本来自治体が地方自治の本旨に基づいて自治体独自で優先すべき事業の縮小や限定がなされることは間違いなく、現実として地域、住民に与える負担も大きくなり、その影響は計り知れない。
今回の夕張市の例は、近年では前例が無い(1992年の福岡県赤池町(現福智町)以来)ことからもマスコミ等においても大きく報道された。
地方財政の展望を悲観的に見るわけではないが、このことは決して特異な例ではないとも考えられる。なぜならば2006年6月末の北海道のまとめでは、決算カード(2004年決算)の主要数値から読み取れる3指標(①経常収支比率→注意ライン90%以上、②公債費負担比率→注意ライン20%以上、③起債制限比率→注意ライン14%以上)だけを取り上げて調査してみたところ、これら3指標の注意ラインを全て超えている自治体は、道内で26市町村も存在しており、「自治体財政への警鐘=「イエローシグナル点灯」が鳴らされている」という内容の報告もされている。
全国的にみても自治体財政の深刻な状況は同様であり、今回の夕張市の事例は、「財政再建団体の申請」という形で表面化したケースの一つであり、「氷山の一角に過ぎない」という見方もできるのではないだろうか。
(3) 最後に……そしてこれから……
今後の私たちの取り組みとしては、(本稿冒頭にも記したが、)財政分析は、「継続してトレンドを観測し、分析を続ける」ということが最も重要な基礎であり、その起点であるということである。加えて「なぜ?」、「どうして?」といった「問題意識をもつ」ということも忘れてはならない。
また、各自治体の決算概要を掴み、そこからの「発見」や「気付き」、「導き出される問題点」についてさらに深く追求することで、その課題とされる原因をつきとめ、今後の財政運営、もう少し大きくいうならば、自治体の政策・運営に何かしらの提言ができるような域にまで高めることが究極の目標の一つともいえる。
今回の財政分析では、資料として各自治体の「決算カード」を用いた分析を行ったが、(用語解説にも言及したが、)「決算カード」は、主に自治体の一般会計の概要を示すものである。つまり、公営事業(企業)、第三セクター等の状況は深く見えてこない。当然これら公営事業(企業)等は、自治体事業の中で欠くことができない分野として位置付けられた事業展開がなされており、前述の夕張市の事例ではないが、「決算カード」から読み取れないこれら分野の状況も含めた検証・分析が必要であり、それは急務であるとも考える。
今回のWGでは、期間的にまた体制的にそれぞれの自治体の財政分析について、(例:上記のように)表面には表れない(財政の)奥の部分まで踏み込んで詳細な追跡研究・分析を行い、具体的な自治体経営についての政策提言等を行う領域にまでは達することはできなかった。しかしながら、甚だ「手前味噌」にもなるかも知れないが、「着目点の設定」、「基礎的な分析の手法」、「課題意識の芽生え」等という点では、私たちのような財政初心者中心の研究員構成において、手探りでWGを開始したにもかかわらず、自治体財政にかかる分析・検証に対して大枠が捉えられたことは、各研究員の熱意、とくにモデル自治体研究員の忍耐的な基礎データ入力作業の礎によるものに他ならない。
その意味では「財政にふれてみる」という当初の目的の一つも達成でき、一定の成果を得ることができたのではないだろうか。
最後に、周知のとおり日本の財政赤字は、年々右肩上がりで上昇しており、827兆円(財務省発表:2006年3月末現)という膨大な額にまで膨れ上がっている。
また(経営方式は若干異なろうが、)世界的に見ても日本の地方自治体の債務は、欧米諸国の自治体と比べると数倍の額ともなっている。
地方自治体が存在するかぎり「地方財政」は、全国的な合併の影響、改革による地方交付税の削減、合併算定替(及び合併特例債)等の困難に立ち向かいながらこの激動の時代を生き続ける。
ここに引き続き自治体財政を観測していく必要性を今一度確認し、このような取り組みが、今後各自治体、各労組等が自治体財政を観測する上での「きっかけ」や初段のアプローチとしての出発点となり、隅々まで浸透し、継続し、拡がっていくことを切に希望するものである。
7. 資料編
(1) 決算カード
(2) 財政分析の主要指標及び用語の解説
WGにて具体的に着目し、かつグラフ・表等を作成し、具体的に分析・検証を行った財政(分析)・決算における主要な指標・用語を解説した。
財政分析の主要指標及び用語の解説 |
(3) 市町村財政の数値及び指標
分析・検証を行うに際して、比較等検証等を行う一つ指標として、上記のうち、いくつかの数値・指標等について、全国平均、三重県内平均、また住民一人当たりの額等について調査し、算出した。
決算の状態と同様に2004年度(平成16年度)のデータとした。
市町村財政の数値及び指標 |
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