【自主レポート】

出会いの場創出事業の取り組み
~少子化問題を考える~

福井県本部/丹南市民自治研究センター・幹事 川崎 仁美
川上 英子

1. 少子化が進んでいる

 2005年の日本の合計特殊出生率は1.25となった。福井県は1.47と全国よりは多少高いものの、現在の人口を維持するのに必要な2.08という数値には程遠い。すでに、我が国の人口は減少局面に入りつつあるといわれている。このまま出生数が減少し少子化が進行していくと、当然のことながら現役世代である生産年齢人口(15歳以上65歳未満人口)が減少し、1人にかかる社会保障給付の負担がますます増大する。フリーターやニートの増加も社会問題になっており、日本社会の維持が困難になっていく。

2. 子どもが生まれない原因

 厚生省の人口問題審議会が取りまとめた報告書において、少子化の主な原因の1つは未婚率の上昇(晩婚化の進行と生涯未婚率の上昇)であるとされた。女性の25~29歳では、1975年には5人に1人が独身であったが、2000年には2人に1人が独身であり、男性の25~29歳では、1975年には2人に1人が独身であったが、2000年には現在は10人に7人が独身となっている。(国勢調査)  現在の日本では結婚してから子どもを産むことが一般的となっていること、妊娠、出産できる年齢には限界があることから、未婚および晩婚化が少子化の原因となっているといえる。
 なお、2002年度の夫婦の平均出生児数は2.23であり、約30年間ほとんど変わらない水準である。
 以上のデータから、我が国において未婚率の高さと出生率の低さには相関関係があるということが導き出される。すなわち、結婚しない人が増えたから、子どもの数が減っているといえるだろう。

3. 未婚である原因

 結婚しない理由として、一番多いのが、「結婚したい相手にめぐり合わない」(41.5%)となる。ついで「金銭的に余裕がないから」(30.2%)、「趣味や好きなことをしていたいから」(24.3%)、「独身が気楽だから」(21.4%)と続く。(2003年度国民生活白書)。積極的に独身を選んでいる未婚者は、そうでない人に比べて少ないことがわかる。別の調査で「いずれ結婚するつもり」と答えた18~39歳までの未婚者は90%以上を占めており、「一生結婚するつもりはない」と明確に回答している人の割合は、男女ともに6%程度にとどまっている。
 「いい結婚相手を見つけて、幸せな結婚をしたい」という願望は、現代に限ったことではなく、独身男女の自然な望みといえる。

4. 今、出会いの場をつくりたい

 1947~1949年のベビーブーム期に生まれた人々が結婚、出産したことで、1971~1974年に第2次ベビーブームが起こった。その時期に生まれた人たちは2006年現在、32~35歳である。2003年度の平均初婚年齢は女性27.6歳、男性29.4歳(「人口動態統計」)で、晩婚化がどんどん進んでいるといわれているが、第2次ベビーブーマーの晩婚化が、この平均初婚年齢の高年齢化にも大きな影響を与えていると推測される。また妊娠、出産には年齢的な制限があることから、彼らのうちの独身者が近いうちに結婚・出産するかどうかは、今後の我が国の総人口の増減に大きな影響を与えるだろう。
 つまり、前述の「いい結婚相手を見つけて、幸せな結婚をしたい」という独身男女の自然な願望を叶えるのに、最も適した時期は、まさしく今だといえる。

5. 誰が出会いの場をつくるのか

 いわゆる「お見合いパーティー」や「結婚相談所」というものは、民間事業者が営利を目的として開催することが多い。また最近では行政が主催するそれらのイベントも少なくない。
 しかし、従来このような役割は民間事業者や行政のものではなかった。かつて、各地域には世話好きのおじさんやおばさんが必ず存在して、近所にいる独身の男女の仲をとりもつ作業を、すきずきに行っていたという。そういった「おせっかい焼き」が、市民自治活動として、互いの特性をよく把握しながらマッチングすることによって、なかなか自分からは相手が見つけられない人もいい相手を見つけることができたかもしれない。
 また、古来よりわが国の農村社会においては、盆祭りや収穫祭などの村祭りは、男女若衆の出会いの場として機能していた。そしてそれらのイベントが、村の大人達(村のおじさんやおばさん)によって運営されていたことを鑑みると、このような男女の出会いの場を創出するための市民自治活動は決して近代に始まったことでないことがわかる。
残念ながら現代では、盆祭りも収穫祭も若者の集う場ではなくなっている。また近所のおじさん、おばさんの存在も希薄化している。
 今こそ、地域の未来を憂い、無償で出会いの場作りに汗を流せるような、地域住民の結集が必要となっている。そして有志市民の手により、何某かの実践がボランタリーの市民自治活動として展開されていくことが望まれる。

6. 「越前市次世代育成支援対策推進行動計画」

 国はこれまでもエンゼルプランなどの少子化対策を実施してきたが、少子化に歯止めがかかることはなかった。2003年には、厚生労働省が策定した少子化対策プラスワン(2002年)をふまえて次世代育成支援対策推進法が制定された。越前市においても「越前市次世代育成支援対策推進行動計画」が策定され、「出会いの場の創出」が特に重点を置く事業のひとつとして挙げられている。これに基づき市は、2006年度において若者の交流を目的とした事業に補助金を交付することとした。
 この補助金は、市内の独身男女各15人以上を集めて行うイベント等に1事業あたり5万円を上限に交付されるというものだ。我々はこの補助金を受けて、市民自治活動として独身男女の出会いを目的としたイベントを実施することにした。

7. 独身女性の本音

 今回の実践について具体的に声を上げたのは、第2次ベビーブーマー真っ只中の独身女性を含む数人であった。
 独身女性と話をすると、個人的な話題のときでも、結婚について互いに話すことは少ない。特に避けているつもりはないが、話題の優先順位としては低いように感じる。彼女らと結婚や出産の話をすると、たいていは「いつかはしたい」ということが多い。しかし、それに向けてこんな努力をしているとか、理想の結婚はこうだとか、具体的な話になると非常に乏しいことに気付かされることが多い。
 ある女性の言葉が印象に残っている。「私たちは、男女平等の精神を鼓舞する社会のなかで子ども時代を過ごし、そのような教育を受けてきた。勉強や仕事を一生懸命にすれば男性と同じような幸せを手に入れられるというメッセージを受け続け、がんばってきた。そうしているうちに、結婚について考えることを後回しにしてきた。」また、別の女性はこう語る。「結婚こそが女性の幸せと考えることが主流でなくなり、結婚について真剣に考えることに価値を見出せない。何かほかのこと(仕事や趣味)に関心を向けているのが普通という空気がある。」
 彼女らに共通して感じられるのは、結婚に対する非具体性と消極性だ。結婚はいつかはしたいし、大切なものだとわかっているが、それに向かってのプランがなく、行動に移すこともない。
 このような女性たちでも、参加してみようと思えるような出会いの場をつくる必要があった。

8. 仲 間

 幸いにも、我々の思いに寄り添ってくれる仲間がいた。少子化対策は国を挙げての課題となっており、その対策の一環としての出会いの場の必要性は理解されやすく、連合福井南越地域協議会、市内NPOの協議会的組織であるNPO武生(現NPOえちぜん)、武生商工会議所青年部、武生青年会議所から協力が得られることになった。これらの団体から強力なメンバーが集まり、市職員などからなる有志のメンバーとともに、「出会いの場創出事業実行委員会」を立ち上げた。
 この委員会の特徴は、当事者である独身男女と、既婚者が混在していることだ。どのような出会いの場を独身男女が求めているかを考えるのには、当事者が適していることはいうまでもない。ここで大切なのは、できれば結婚へとつながるような出会いをつくりたいということだ。それには経験者の意見は欠かすことはできないということで、既婚者の参加がどうしても必要だった。

9. 出会いの場創出事業実行委員会

 2006年1月から4月にかけて、6回の実行委員会を重ねた。その間に、必要に応じて小委員会も開催し、イベントのあり方や詳細について話し合った。
 イベントの対象者は、越前市内に在住または勤務するおおむね25歳以上の独身男女とした。このイベントの目的として、出会いを結婚へと発展させてほしいということがあり、結婚を真剣に考える年齢ということでこのような年齢制限を設けた。また、たくさんの参加者の中で素敵な出会いをしてもらうように、募集定員は、男女それぞれ80人とした(実際の参加者は定員オーバーの220人となった)。会場は、雰囲気を重視し、披露宴にも使用される市内ホテルのパーティー会場とした。
 イベントの内容、料金、飲み物の出し方、広報などについてもさまざまな意見を出し合い、細部にわたって検討を行った。 独身と既婚の委員の意見の食い違いが印象的だったが、互いに理解するまで話し合い、最もいい方法を見出すことによって、解決していった。

10. 参加者募集

 各実行委員の口コミ、雑誌や市広報誌への掲載、報道機関への周知、インターネットなど、あらゆる方法を利用し、できるだけ多くの人にこの事業を知ってもらえるようにした。市の協力を得て公共施設にチラシを置いてもらうとともに、各実行委員はそれぞれ自分の行動範囲の商店や飲食店の目に付くところにチラシを置いてもらい、各職場の独身男女や知人にも周知した。チラシのQRコードを携帯電話に読み込むことによって、簡単にEメールで申し込みができるように応募方法も工夫した。
 男性については当初の締切り日を待たずに定員に達したため、早々に締め切った。一方、女性の参加者は締切り日を過ぎても十分な人数が集まらず、再度各委員の力を結集し、また報道機関を通じてアピールすることにより、最終的には男女とも定員を大幅に超える申し込みがあった。

11. 予 算

 参加費以外の収入としては、前述の市児童福祉課からの補助金が5万円と、この事業に賛同してくれた市内の各企業からの協賛金及びアトラクションにおけるビンゴの商品の提供を受けた。

12. 現代版「地域の世話人」

 イベントは立食パーティー形式とした。趣味ごとにテーブル分けをして、話のきっかけをつかみやすいようにし、フリータイムの時間を長くとり、意中の相手と自由に話せるようにした。しかしながら、この方式は、ややもすると消極的な独身男女にとっては、結局話しかけることができずに終わってしまう恐れもある。そのような男女でも楽しく話せるように、「天使隊」と呼ぶ既婚者からなるサポートスタッフ30人を配置した。天使隊は、親しみやすいキャラクターと人の会話を盛り上げる能力を持つ人物が選ばれ、ボランティアで参加してもらった。天使隊には白いジャケットを着てもらい、一般参加者と区別が付くようにした。ひとりでいる参加者や、異性とうまく話せない参加者に、積極的に声をかけて、場を盛り上げている姿がそこここにみられ、参加者からも好評を得た。かつて地域社会にどこにでもいた、「近所の世話好きの人」のイメージそのままに、役割を果たしてもらえた。
 ビンゴゲームは異性に話しかけてキーワードを聞いてマスを埋めていく方式にした。話しかけないと豪華賞品がもらえないとあって、参加者のなかには積極的に異性に話しかける人も多数おり、ビンゴが話しかけるきっかけになってよかったという感想が聞かれた。その反面、ビンゴのマスを埋めることに懸命になるあまり、異性との会話を楽しむ時間があまりなかったという参加者もいたようだ。

13. 最後に

 参加希望者は我々の予想を超えて非常に多かった。このことは、こういう出会いの場を待っている人が多く存在し、またその人たちに今回の企画が受け入れられたことを意味する。
 申し込みの際に開設した実行委員会のアドレスには、イベントが終わった後も感想や問い合わせなどが何件か寄せられた。また参加者からは、イベント後に何回か会ったり、そこで知り合った何人かで飲み会を開いたりという話も聞く。
 イベントでは各参加者に名前入りの名刺を10枚ずつ渡し、電話番号やEメールアドレスを自由に交換してもらい、それ以降の連絡も自由に取ってもらうという方式をとったため、カップル成立件数は把握できていない。 成果としては、どれだけのカップルが成立したかということが最もわかりやすい指標となるし、達成感が味わえるだろう。しかし、今回の事業は自然な形での出会いということに主眼を置いたため、イベント中にカップルを発表するというような仕掛けはあえてつくらなかった。
 ビンゴの賞品は、レストランや居酒屋、旅行会社の協力を得て、男女のカップルでないと利用できない食事券や入場券とした。24件の賞品のうち7件が、カップルの署名入りで利用された。
 今回のイベントでは、反省点や改善すべき点もいくつか見受けられた。より多くの独身男女に、よりよい出会いの場を提供できるように、そして「あのイベントがきっかけで結婚したんです。」という報告が聞こえてくるように、今後も考えていきたい。