【自主レポート】

学童保育でのランチサービス実施について
組合運動と自治研究活動

福井県本部/越前市児童福祉課 小林  勲

1. はじめに

 越前市職員組合(旧武生市職・旧今立町職)では、長くその運動方針の中で自治研究を自治体改革の中核的活動として位置づけ積極的に推進しています。
 そのことは、組合員が日常的に、市民の視点から、あるいは市民との協働により、自らの仕事をより多くの市民に受け入れられるよう改善する取り組みとして徐々に定着してきています。
 このレポートでは、調理員職場改善の取り組みを支援し児童福祉課職員として学童保育を進める立場で、報告します。

2. 越前市における学童保育の状況

 学童保育事業は、放課後の児童の居場所、安全確保・健全育成の場として、共働きやひとり親家庭の支援を目的に実施しており、利用児童は年々増加しています。さらに事業には、地域での子育て支援の拠点として、養育困難家庭支援や虐待防止の窓口として、児童福祉分野での大きな役割が求められてきています。
 越前市では、学童保育の児童福祉法が改正され法制化がなされる1998年以前より市内の公私立保育園及び児童館児童センターで学童保育を実施してきています。児童館のみならず保育園での自主的な実施が早い段階からできていることで、今のところ待機児童はありません。
 しかし現在、児童館・児童センターには施設に厨房設備がなく、小学校休業期は昼食を弁当持参としていますが、近年、保育園での同事業が昼食を提供していることからも、昼食提供について保護者からの要望が強まってきている状況にあります。

3. これまでの福祉と教育委員会との学童保育に関する連携事例

 越前市では一昨年(旧武生市において)、学童保育の実施施設として学校施設利用を検討しました。増えつづけている学童保育希望者に対応するには既存の施設だけでは厳しい学校区が生じてきていたことと小学校からの距離が遠く実施施設として安全上の課題のある学校区があったためです。
 各小学校区では実施施設にばらつきもあり、学校区ごとの課題もさまざまであるので、特に課題の大きい小学校区の校長に集まってもらいそれぞれに協議していただいて、結果としてひとつの公立幼稚園(小学校隣接)の1室を学童保育施設として利用することとなりました。
 現在その幼稚園には、社会福祉法人越前市社会福祉協議会の児童指導員が同校区の児童センターから学童保育の時間帯(午後1時から6時ごろ)になると移動して児童の処遇にあたっています。
 こうした連携は今後も状況に応じて進めていく必要があります。

 福祉部局と教育委員会の協議は、一般的に困難を極めます。双方に組織体制(命令系統や業務の割り振り)に明確なライン(縦割り)があり、さらに命令系統では学校単位で校長に大きな決定権が(実質的に)もたらされているため、上記の取り組みについても、福祉部内での課題整理と教育委員会への協力要請、教育委員会・担当課での意思決定、そして、校長・学校担当者の理解といくつものハードルを越えなければ実現しません。
  そうした現状も踏まえて、仕事のあり方、組合運動と自治研活動の関係についても考えていきたいと思います。

4. 組合運動としての調理員のプロジェクト 

(1) 調理員職場の危機感
   越前市ではこれまでも給食センターへの業務委託が議会で取り上げられたことがあります。その際は、保護者会と組合そして市職の組織内議員らとの連携により直営・自校方式を堅持することができた経緯があります。子どもたちの食の安全を行政の責任と位置づけ保護者を巻き込み、市民活動として成果を挙げた、自治研活動の実践でありました。
   しかし、学校調理職場は常に民営化の標的として議会や委員会で取り上げられ、直営堅持というにはぎりぎりのところまで人が減らされている状況があり、市場化テスト法の施行などを受けいつ委託話が噴き出すとも限らない危機感が常に付きまとっています。

(2) 調理員の取り組みの意義 
   今回の夏休み期間の児童センターでの保育へのランチサービスの実施に向けた取り組みは、きっかけとしては「よりよい仕事を目指して……」という日常的な自治研究活動ではなく、本来の組合活動として、つまり「仕事とそこで働くものの生活を守り、働くものがその仕事に集中できる環境を整備する。」と言う発想で進められています。
   調理員が本来の仕事である調理業務を、これまでできなかった夏期休暇中に行えることに大きな意義があります。

(3) 試験的実施 
   今回の取り組みは本格実施に向けた試験的実施と位置づけています。
   以下の内容の検証や、関係課の連携内容や責任の所在の明確化、特に児童館児童センターは昨年度よりすべて越前市社会福祉協議会に指定管理していることから、本格的に実施する際には市の業務としてランチサービスを明確に位置づける必要があります。

学童ランチサービスの試験的実施

1.対 象 施 設    武生西小学校調理室及び厨房機器 
2.対 象 児 童    武生西児童センター学童保育児童 利用登録45人
3.実  施  日    2006年7月25日(火)~28日(金)の4日間
4.検 証 事 項    職員配置、児童センター職員と調理員の連携・役割の確認、調理作業手順、運搬方法、配膳方法、後始末、食器・運搬車の利用、費用の算出(ガス水道使用の量)、食材費等

5. 「学童保育でのランチサービス」それぞれの立場と思惑 

 学童保育を進める児童福祉課としては、ランチの提供は利用児童の保護者から強い要望があり実現を願うところですが、子どもたちの生活を預かり、食を守る立場から、指定管理者が安易に給食センターなどを導入することには慎重でした。今回のプロジェクトは行政の責任のもと、児童の健全育成という学童保育の事業目的の上からも望ましい形といえます。
 また、教育委員会の立場から、近年厳しくなった公務員をとりまく環境で、調理職場を「直営自校方式」を進めることの整合性を確保する上でも、長期休暇中に行政の業務として「調理」ができることはおおいに受入れられています。
 そのことは、教育委員会庶務課が、試験実施に伴い当日参加する調理員14人が所属する9小学校の校長にあて、業務での参加であることを通知していただき当初ローテーション調整で有給により実施しようとしていたところ、職務として実施できたことからも理解いただけると思います。

(1) 業務実施の流れ
 下図の材料費については今回徴収せず。

(2) 試験的実施の様子  

 

 

6. 調理職場は守れるのか

 今回の取り組みで調理職場が守られるのでしょうか、やはり、それだけでは守られると言い切ることは難しいと思います。
 これまでも、直営・自校方式堅持には議論が繰り返しなされてきました、今、指定管理制度、市場化テストの導入がなされ、ますます経費節減を求められます。調理業務のコスト=人件費と捉えられさらに人が減らされていくかもしれません。もう減らせるだけ減らされているのに……
 また、先にも記述しましたが、本格的に実施する際には市の業務としてランチサービスを明確に位置づける必要もあります。理論的に整理をしてからの実施でなければ、指定管理者の委託先となるような矛盾が生じ、この取り組み自体が、また民間委託の対象になってしまうことが危惧されます。
 今回の取り組みが、調理職場を守るという「自分たちの都合(保身)」でなく行政として明確な「直営自校方式」という方針を持ちつづけるものに結びつけていくことが大切です。上記の(1)業務実施の流れの図のとおり、学童事業担当課からの(サービスの質の向上を目指した)要望に始まり、調理員の業務としているところがポイント。

7. 行政として明確な方針を持たせつづけるために

 行政として明確な方針「直営自校方式」を持ち続けるために、今回の取り組みを、調理職場を都合よく使う「おまけ」的な発想で市民に提案するのではなく、市民から求められるサービスへの質の高い対応として位置づける必要があります。そこに、市民の視点から、あるいは市民との協働により、自らの仕事をより多くの市民に受け入れられるよう改善する自治研活動の本質があると思います。
 
(1) 顧客満足を目指す発想
   学童でのランチサービスは来年以降、実施条件が整ったところから進め、1食当たり220円を予定しています。
   市民(学童にくる子どもたち・保護者=当事者)を、お金をはらってサービスを受ける顧客と捉えられた時、顧客が経費節減ばかりを望んでいないことを理解する必要があります。
   顧客=市民は、サービスを選択し納得したいと望んでいます。よいサービスと納得できれば対価を払うのが顧客です。(もちろん、要援護家庭への利用料軽減など制度上の配慮は別個に議論がなされなければなりません)
   この取り組みを上手に発信していくことが、成功のかぎを握っています。
   手作り、作りたての食事、地産地消、安全な食材、作った調理員の配膳、ふれあいのある食環境などなど。顧客満足を目指す発想と説明が重要です。

(2) 自治研活動の具体的推進 
   今、職場を守ることは、組合だけでも現場だけでも担当部署だけで取り組んでも困難な情勢にあります。
   関係する部署の連携と議論、ひいては、市議会での議論と方針(意思)決定に組織内議員と連携していく中で深く不断に関与していかなければなりません。日常的な自治研活動(=議論)のなかで、それぞれの立場で明確な目的を共有して、役割を果たしていかなければなりません。そのために、市民とともに実践する意識と土台が必要となると思います。