【自主レポート】

地域支援ネットワークにおける自治体サービスの役割
~ 仕事のノウハウを地域福祉へと活かすために ~
 
車いす体験講習会
(乗ってみよう・押してみよう・押されてみよう)

大阪府本部/大阪市従業員労働組合・民生支部・
大阪市立心身障害者 リハビリテーションセンター管理課

1. 要 旨

 この「車いす体験講習会」事業は、大阪市立心身障害者リハビリテーションセンター(略リハセン)職員が住民から必要とされる「自治体サービス」のあり方を模索検討し、自分たちの日常業務で得た技術・技能・経験を、地域リハビリテーションや地域支援システム構築へと寄与するべく、2005年7月から実施してきたものである。
 事業内容については、車いすの操作方法や介助の仕方を基本とした体験型講習会を小学校・中学校や地域へと出向き開催することで、障害のある人への理解やボランティア活動への認識を深めていくことを目的にしている。  
 今後も実施内容の充実をめざし、地域住民や子どもたちに求められる講習会の提供に努めるため考察していく。

2. はじめに

 自治体職員に対する社会情勢が厳しさを増す中、私たち自治体職員は、住民から必要とされるサービスの提供ができているのか、また地域社会の中でリハセンの存在意義が地域に認められているのかを今一度職場の仲間で考えることから始めた。
 まず、私たちが自治体サービスの一環として地域・住民に提供できるものは何かを検討した。リハセンでは、様々な障害のある人が施設利用していることから、私たちの業務の中には利用者介助が含まれている。こうした毎日の利用者と接することで積んだ介助の経験や技術を施設の中だけにとどめず住民に提供することはできないか、また、そうすることが地域や住民にノーマライゼーションに対する社会通念も深めることもでき、住民から必要とされる自治体サービスへ、さらにはリハセンの存在意義に繋がるのではないかという考えに達した。
 一方、介助の技術や経験を啓発事業の一つとして進めようと考えた因子の中に、これまでの間、リハセン内においても施設見学者を対象に車いすの介助方法や操作体験などの講習会を実施してきた経過があった。これらの経験から住民の方々が車いす介助の仕方などに対しての関心度が高いことを認識できた。
 また、講習会の対象者については、小学校などにおいて2002年に実施された新教育課程で「総合的な学習」の時間が設けられ、その中でボランティアなど福祉についての課題が扱われるようになったことを知り、講習会対象者を小学校や中学校の生徒とすることとなった。
 次に、講習会としての今後の需要予測としては、大阪市の出生人数の推移(大阪市データネット参照)が2000年が2万4,922人で、その後、緩やかな減少傾向にはあるが2004年で2万3,508人と、当面の間の児童数については現状の水準を維持していくものと予測できた。また、小学生の年度別児童総数については2001年では126,153人、2002年126,000人、2003年126,549人、2004年127,040人、2005年128,204人(大阪市における学校の概況参照)とこちらの数字に関しても現在の水準を基本に事業検討を行ってきた。これらのデータや経過を基に、職場内での議論や調整を幾度となく行った結果、「車いす体験講習会」事業の実施へと繋がっていった。

3. 実施目的

 この「車いす体験講習会」事業は、リハセン職員が小学校や中学校、または地域へと出向き、車いす利用者への介助の仕方や実際に車いすに乗り操作方法などを指導することにより、児童に障害のある人への理解などを深めてもらい、地域でのボランティア活動や地域福祉などへの認識を持つことで、障害者の地域リハビリテーションや地域支援システム構築の一翼を担っていくことを目的としている。

4. 講習会内容

 職員自らが「講習会内容の企画」・「立案」・「学校との事前打合せやモデルプランの作成」・「機材の準備」・「教材の作製」・「実施」を行うことで効果的な体験講習を確立していく。
 体験講習会の内容としては、「乗ってみよう・押してみよう・押されてみよう」をキーワードに「理解」と「体験」の二部構成とした。

(1) 「理解」について
  ① 「理念」の理解……
    子どもたちに、この学習の大切さを、いかに理解してもらうかを大事にしていく
  ② 「障害そのもの」の理解……
    障害とは何か、についての理解を促す
  ③ 「基本的なマナー」の理解……
    相手と目線を同じ高さにするなど、人と人との交流にはマナーが大切であることを理解
  ④ 「個別の障害の援助」の理解……
    視覚障害、聴覚障害、肢体不自由など個々の障害に応じた個別の理解がいること

(2) 「体験」について
  ① 「なりきり」体験・「使ってみる」体験……
    『乗ってみよう』
    自分で車いすに乗り、操作体験をする
  ② 「援助する」体験……
    『押してみよう』『押されてみよう』
    車いすを利用する方への介助の仕方などの体験
  ③ 「参加する」体験……
    町全体を調べて車いすマップを作るなどの体験
  ④ 「交流」体験……
    高齢者や障害のある人との交流体験

 これら「理解」と「体験」を講習会の基本とすることで、効果的かつ理想的な体験講習会ができるものと考えている。また、体験講習会については、学校カリキュラムの中での限られた時間内の開講であることから、『③「参加する」体験』『④「交流」体験』については講習会終了後に各学校に合わせた事後指導として行って頂くことを要望した。
 小学生を対象に講習会を開催するにあたり、わかりやすく講習内容にスムーズに入っていけるようにとワークシートを用意し、各学級で事前に記入して頂いた。これは、参加する児童に正しい答えを求めるものではなく、自由な発想を引き出し、車いすに対して興味を持ってもらう事を目的とした。このワークシートについては、当日、持参してもらい講習会の中で子どもたちに質問形式で投げかけながら進めていくとした。ワークシートの内容については、低学年から高学年まで同じ内容で使用することが難しいので、その都度、学年に応じた内容にワークシートを変更している。
 また、各学校では生活班などと呼ばれる小グループを形成していることから、講習会においてもこの小グループを基本に進めることとした。
 体育館内で行う体験内容としては、自分で車いすに乗り操作する体験(自走体験)と友達を車いすに乗せて介助の仕方を学ぶ体験(介助体験)、または、実際に日常生活を行っている校舎内を使用しての介助体験などを考案した。
 自走体験では、最初にコース(図1)を歩いて回わることから始める。これは、高さ2センチの段差(図2)やスロープなどを設置したコースを歩くことで、普段は気づかないほどの段差でも、車いすで自走した時にはどうなのかを体験する為である。この様に細かな工夫を重ねることで、実際に車いすを利用する人がどのように感じているかを体験できると考えている。


 
(図1、体育館内のスタッフ配置図)
(図2、段差)

 また、介助体験を体育館内で行う場合は、介助の仕方を学習した後に自走体験で設定したコースを使用し、車いすに友達を乗せて回ってもらう。ここでは介助している生徒は乗っている人に対して、声をかけることの意味合いや重要性、段差を越える時の車いす操作などを学習し、介助してもらう生徒は段差やスロープの昇り降りがどれだけ怖いかや普段何気なく歩いている速度でも車いすに乗れば高速に感じることなどを体験する。また、校舎内を利用した介助体験では、各学校によって設備が様々なケースがあり一概には言えないが、基本は普段生活している学校内でどんな部分が車いす利用者にとってバリアとなるかを実感できるコースを考えている。歩いている時には気づかない窪みや段、教室の入り口、廊下の幅や廊下に置かれている荷物、階段、廊下から校庭に出るスロープなど、最近ではかなりの部分で改善・改良されてきているものの、まだバリアと感じられる部分もある。そういった様々部分を利用しながら、廊下に仮想段差やスロープなども設置し、各グループで交代しながらコースを回ってもらうことで車いす介助の仕方をより実感できると考えている。
 最後に、車いすに乗っている人が出かけやすい街にするにはどうすればいいか考えて下さいと問いかけ、車いす体験講習会のまとめとした。

5. 事業結果

 大阪市には、2005年度において小学校が市立296校、国立2校、私立7校があり、1校あたりの児童数は約420人、1学級あたりでは約28人、中学校においては、市立が151校、国立2校、私立22校があり、1校あたりの生徒数は約439人、1学級あたりでは約32人となっている(大阪市における学校の概況(2005年度基本調査)参照)。
 このデータに対して、2005年度は事業実施の初年度であったことからも2月、3月に幹事校長会への趣旨説明を行った後に4月から具体の資料作成や事業展開予定区の区校長会への説明、機材の準備などを行い、7月から平野区・東住吉区(大阪市全体では24区)の小学校を基本に事業展開を進めてきたところである。
 事業展開した結果としては、小学校は10校、43学級、受講生徒数1,498人となり、平均受講生徒数は83人/回、最大受講人数147人/回、最小受講人数28人/回となった。また、中学校については1校で、10学級336人に対しての開催となった。(2006年1月18日現在・実施予定も含む)
 結果の背景には、大阪市の小学校3・4年生で使用している道徳の教科書「にんげん」の中には車いす利用者への介助の仕方が記載されており、学校側としてもこの学習を行う時には、人数分の車いすの確保、効果的な指導方法などの課題があったようである。これらの実情からも、リハセンが実施している「車いす体験講習会」は、学校が抱えている課題解決に対しての一助になったと考えられる。

6. 今後の方向性とまとめ

 今年度実施した7ヶ月間の結果からも「車いす体験講習会」に対するニーズは、少なくなかった。これは、講習会開催校に対して行ったアンケートや生徒から寄せられた作文などを集約した結果からも継続事業として確立し、さらに発展させていくべき啓発事業であることがわかったからである。
 今後、この事業を発展させるための課題として次の3点が挙げられる。
① 全市的な事業展開
② 1年間を通じ安定した事業実施
③ 「総合的な体験講習会」を開催
 今年度は事業初年度ということもあり、平野区と東住吉区の2区で事業を開始したが、今後、全市的な事業展開を視野に入れた実施計画を作成し随時実施していく。2006年度は、南ブロックとして天王寺区・阿倍野区・東成区・生野区・住之江区・住吉区・西成区の7区の小中学校を基本として実施するものとし、その後、中央ブロック、北ブロックと順次事業展開を図っていく。
 また、1年を通じて講習会が実施できるよう、夏休みの登校日の体験講習会実施や地域の住民イベントへの参画など、夏休みを始めとした学校の長期休暇中についての事業実施のあり方についても検討していきたい。
 さらに、長期的展望として、「車いす体験講習会」を『総合体験講習会』として現行の車いすを通じた講習だけにこだわらず、アイマスク体験など総合的な体験講習会を検討し、リハセンにおける人材を活用し、また他施設との連携も図りながら、障害のある人への理解を深めるため、より高度な講習会を進めていく。
 今後は、この「車いす体験講習会」を継続事業として確立していくことで、人に対する優しさや思いやりの大切さを一人でも多くの人が気づくきっかけとしたい。そして、全てのひとが「共生」しながら生きていける地域社会の構築に向け、職場の仲間が一丸となり、この事業を推し進めていきたい。