【要請レポート】

児童自立支援施設のグループホームづくり

 東京都本部/自治労東京都庁職員労働組合・福祉保健局支部・誠明分会 大野 則和

1. はじめに

(1) 近年、特に少年非行問題については家庭や地域における養育機能の低下や学校現場における学級崩壊、いじめ、不登校、引きこもりといった問題、重大な少年事件の発生など、子供たちを取り巻く環境や問題が一層深刻になっており、社会的支援を必要とする子どもの範囲が拡大し、多様化する傾向にあるといわれている。児童自立支援施設では1997年の児童福祉法改正により「教護院」から「児童自立支援施設」へ名称を改めるとともに、対象となる子どもを拡大し、「家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童」を新たに加え、その機能面においては入所児童のみのケアをするだけでなく通所機能や、家庭環境の調整機能などを充実し、その後も2005年「地域支援の努力義務化」、2004年「アフターケアの義務化」、「自立支援計画策定の義務化」など制度面で自立支援を強化してきた。
(2) 全国的には入所児童の長期的減少傾向が続く中、都市部と地方での入所率の差が顕著となっている。近年の誠明学園の状況は8割以上と高い水準を維持してきている。
   また入所してくる子どもたちの抱える問題の質も、いわゆる元気のいい非行児童から、虐待を受けた経験や発達障害等を有する子どもの割合が増加する傾向にある。入所期間については都立誠明学園では1年2ヶ月程度となっており、生活の建て直しを中心に処遇の積み重ねをしてきている。
(3) 処遇課題の中の一つ、進路指導では多くの子どもは中学卒業と同時に家庭に戻り、進学することになるが、その後のアフターケアを重ねても通学しきれずに、一年を待たずに卒業という目標を断念し、進路変更する傾向が高い。一方では中卒での就職も定着するまでの道のりは険しいものがある。施設内で順調に生活改善がなされ、社会へ戻っていった子どもたちがその後も安定した生活を送りながらそれぞれの目標に向けた生活を営むことが出来ないものだろうか。そこから施設内での生活を社会へと段階的に広げていきながら、段階ごとにきめ細やかなケアを継続的に行うこと、また、地域や、家庭に問題が多く生活の場の確保が困難な場合もあり、そういうニーズに対応できる体制作りとして誠明学園では1993年より中学卒業児童を対象とした高齢児寮男女各一寮ずつを整備し、18歳までの子どもの処遇を展開してきている。近年では高齢児寮から高校進学し通学を順調に継続する者、アルバイトや、職場実習へ取り組み者等、一人ひとりに合わせて処遇が充実・展開してきている。
(4) 高齢児処遇では、園内処遇での「枠のある生活」から一歩踏み込み、社会の中で自律した生活を維持し積み重ね、真の自立への段階的なステップアップをめざしている。しかし、高校生が毎日3年間かけて通い、日中過すクラス内の仲間の暮らし振りと比較すると、生活条件での差異が多くあり、そのことが学業継続に困難性を与えている。
   そこで将来へ向けて、前向きに取り組む姿勢を支え、励ましていくためにも、高齢児寮での生活で一定の改善が認められ、評価された児童にはより一層、自由度の高い生活を用意することが出来ないものか。以上の事から取り組んだ結果が提携型グループホームということになった。

2. グループホームの構想

(1) 児童自立支援施設を退所し、家庭から高校進学するしかなかった児童に自立支援施設より自由度があるが大人が見守り必要な生活指導を行う生活の場を用意し、退所した児童が高校を継続できるようにする。
(2) グループホームは既に制度としては存在するが、児童自立支援施設を退所した子どもが既存のホームを利用することは難しい面がある。そこでホームの職員と共に児童自立支援施設の職員が高校生活の中でおきる様々な問題やホームで発生した問題について連携をしながら児童に関わり指導していくよう仕組みを作り出す必要がある。
(3) 施設分園型として設置することも考えられたが児童自立支援施設とは別個の組織が運営するホームの方が地域との関係等から妥当である。そうしたことから民間養護施設の公募・提携を進めることになった。

3. 立ち上げと実際

(1) 事業概要
    設置主体 児童養護施設を運営する社会福祉法人
    事 業 名 児童自立支援施設提携型グループホーム(都の重点事業の1つ)
    対象児童 高等学校に通学する児童 男子6人
    目  的 児童自立支援施設で自立支援目標が達成された中卒児で高校等に進学する者は、家庭に帰るほか、児童養護施設へ入所して高校等に通学します。
         児童養護施設に入所した児童のうち、より家庭的環境の下で生活し自立をめざすことが望ましい子どもが生活する場としてグループホームがあります。
    グループホームでの生活
         ・地域に普通の住宅を確保し、そこで6人程度の子ども(高校生等)が生活します。
         ・子どもたちは、高校等に通学して卒業をめざします。
         ・職員は、4人で24時間の交代制により、食事の準備をしたり、子どもからの相談を受けたりして、社会で自立して生活していける力を育てていきます。
         ・児童養護施設や誠明学園のバックアップもあります。
         ・地域の理解と協力が大切ですので、子どもたちには、地域の一員として自覚し生活していくよう十分指導します。

(2) 物件選定について
   誠明学園周辺地域の不動産会社を通し、5LDK,100m2以上、一軒家を条件に探していった。

(3) 地域との関係
   この事業で一番重要な点は、いかに地域に理解してもらえるかであった。事業自体は理解されても、グループホームを地域住民が生活を今後も続けていく自宅の隣家で運営することに納得してもらうことが非常に難しい。紆余曲折を乗り越えて時間をかけ丁寧に説明を繰り返しながら要望を聞き、納得していただく努力を重ねていった結果、実現に結びついた。

(4) 開設までの流れ
   2005年6月:誠明学園と児童養護施設との間で「グループホームの実施における事業形態に関する協定書」の締結をする。
   2005年夏以降: 物件について候補をあげて準備を進める。物件を確保、現地における説明会、町内会や近隣住民と交渉を重ねる。
   2006年1月:提携型グループホーム開設の合意を得る事が出来る。
   2006年2月:東京都より認可
   2006年2月:当初より予定をしていた高校2年生児童2人を送り出す。
   2006年4月:新学期より高校2年生児童1人を送り出す。  
   2006年6月:高校2年生児童1人を送り出す。

(5) 子どもの様子
   当初の予定からは開設は遅れたが、楽しみしていた生活が始まり、それぞれに生活の自由度を上手に活用できており、順調に推移している。

(6) 連絡協議会
  
グループホームと誠明学園の間で、連絡協議会を設け、経過・検討事項・協力体制など定期的に行っている。

4. 今後の課題と展望

(1) はじまったばかりの取り組み
   高校卒業に向けて、実績作り。

(2) 地域の中で生き残れるか
   今のところ、穏やかに地域から受け入れられている。

(3) 子どもが社会に出た後、頼りに出来る場の提供
   今後、長い目で子どもたちと向き合っていけるか。