【自主レポート】
県立病院統廃合反対のたたかい
<一人の組合員の首切りも許さない>
福島県本部/福島県職員連合労働組合
|
1. はじめに
2003年3月に包括外部監査は、「県立病院を県費を投入して存続させるべきものか再検討すべき時期にきている」と報告した。
県は、過去に2度県立病院廃止提案を行ってきたが、社民党・県労協ブロックを中心とした県民の力の前に屈した。医療費抑制策や国立病院合理化後の自治体病院攻撃と監査報告は、県に県立病院廃止攻撃再開の大きな口実を与えたといっても過言ではない。
福島県は、包括外部監査報告後に「地方公営企業法全部適用」の提案、廃止ありきの「県立病院改革審議会設置」を強行してきた。
私達は、県立病院の果たしてきた役割や、高齢社会の中での公的医療の必要性を討論し、地区共闘・全県共闘の中で署名活動や決起集会等を行いながら、「県立病院を守り、充実させるたたかい」を実施してきたが、2006年2月の県議会で、3病院1診療所廃止条例が14万筆を超える県民の声を無視する形で可決されてしまった。現在、労働組合として組合員の雇用を守るたたかいに軸足を移している。
これまでの経過と今後のたたかいを報告したい。
2. 県立病院の現状
① 福島県の総面積は、岩手県に次ぐ広さで13,800km2に213万人が住んでいる。
この県土を7つの地域保健医療福祉圏(二次医療圏)に分けている。
② 南会津保健医療福祉圏を除いて、既存病床数が多いとされている。また、精神病床、結核病床も多いとされている。
③ 県立病院・診療所は、9病院1診療所で1,474床となっている。
リハビリテーション飯坂温泉病院(191床)、同本宮診療所(無床)、三春病院(86床)
矢吹病院(294床)、喜多方病院(135床)、猪苗代病院(65床)、会津総合病院(348床)
宮下病院(55床)、南会津病院(150床)、大野病院(150床)
⇒矢吹は精神科単科病院。宮下は僻地。
④ 04年度収支状況
総収益 16,559,014,000円(前年△294,853,000 -1.7%)
総費用 18,136,590,000円(前年△709,754,000 -3.8%)
純損失 1,577,576,000円(前年△414,901,000 -20.8%)
医業損益は前年より895,796,000円(22.3%増)
⇒総収益対総費用比率は91.3%、医業収益対医業費用比率は72.2%
累積欠損金18,129,008,000円(前年より1,577,576,000円増)
負担金・補助金繰り入れ
⇒収益的収入と資本的収入合わせて5,010,858,000円(前年より23.0%増)
3. 包括外部監査報告から地方公営企業法全部適用までの経過
(1) 県の動き
① 2003年3月 包括外部監査報告⇒県病の役割は終わったかのような報告。
② 2003年5月 県病・診療所を2004年度から地方公営企業法全部適用提案される。
県提案概要
⇒2001年度で末累積欠損金は約138億円になる。公共性のある医療を提供していることのみをもって、県費・県税を投入することは、県民から許されない。
ア 県立病院事業は公営企業として経営メリットを求められている。
イ 県議会・県民から経営の改善を求められている。
ウ 管理者配置による自立的・機動的・弾力的な病院経営が求められている。
エ 職員の企業意識の高揚が求められている。
⇒2004年4月1日より、県立病院事業を地方公営企業法全部適用にしたい。関連条例を2003年12月議会に提案。詳細は保健福祉部と充分協議すること。
(2) 県職労のたたかい
① 全適移行に対する方針
ア 全適が人員削減や賃金・労働条件の切り下げにつながる可能性があること。
⇒一層の累積欠損金解消努力の強制
イ 累積欠損金発生の原因と責任をあいまいにしたまま、解消を組合員に強制する。
⇒意識改革をさせ、もの言わぬ労働者を作り、次の大合理化の布石とする。
ウ 最終的に県立病院の廃止につながる恐れがある。
⇒基本的に反対
② どのようなたたかいを組んだか
ア 闘争委員会の設置、職場学習会の徹底、全県集会での意志統一、対県交渉の強化を基本とした。
イ 6月12日に闘争委員会設置。
ウ 学習会3回開催⇒3交替のため1施設3回 同課題で実施
⇒何故今全適か、累積欠損金138億円は労働者の責任か等を議論。
エ 交渉は病院領域(勉強会含)4回、保健福祉部長・総務部長各2回、知事要請1回
③ 最終的に譲れない5つの課題で交渉
ア 県立病院の公的役割の明確化
回答⇒県病の価値はなくならない。責任を持って経営する。未来永劫存続とは言えぬが、救急体制や地域中核の役割が求められる。廃止するなら全適にしない。
イ 賃金・労働条件は知事部局に準ずること
回答⇒移行時人員削減、賃金・労働切り下げ考えない。賃金・労働条件は移行時知事部局に準ずる。確認書・労使慣行尊重。移行後は管理者権限だが、皆さんの意向は充分伝える。退職金支払いは実質変わらない。福利厚生はこれまで通り。
ウ 繰り入れ金の増額をすること
回答⇒国のルールに基づきこれまで通り実施。県立病院領域の必要額は出す。
エ 医師を確保できる事業管理者を選任すること
回答⇒専任の事業管理者で県民の信頼を得たい。医師を確保できるよう考える。
オ 医師確保策を具体的にすること
回答⇒県立医大で県病に医師を送り出す体制を作る。医大への県内学生優先枠(5人)を作る。奨学金制度新設。医大から県病への枠拡大。医大から行きやすい環境整備をする(研究費・研究期間の保障等)
④ 2003年10月29日の闘争委員会で、全適受け入れやむなしを確認するとともに、医師確保を知事に要請することを確認。
2. 県立病院統廃合反対のたたかいと雇用を守るたたかいの経過
(1) 県の動き
2004年3月 県立病院改革委員会から最終提言(県立病院改革審議会の基礎に)
2004年4月 県立病院診療所が地方公営企業法全部適用(財務・組織・身分)に移行。
2004年5月 県立病院改革審議会発足⇒小委員会・全体会各6回開催
2005年3月10日、県立病院改革審議会答申
2005年3月28日、県行財政改革推進本部が審議会答申どおりの実施を発表
⇒飯坂病院・本宮診療所・三春病院・猪苗代病院廃止と会津病院・喜多方病院の統合
2005年7月 3病院1診療所の廃止(2005年度末)工程表発表。併せて職員の処遇(全庁的異動・退職勧奨制度を使った希望退職の募集・再就職の斡旋)も発表した。
2006年3月 2月議会で3病院1診療所を今年度末で廃止する条例を可決。
(2) 県職労のたたかい
① 県立病院統廃合反対方針
ア 審議委員が「廃止を議論する前にその地域の医療の在り方を議論すべき」。患者が審議委員へのハガキで「近くに県病があるから安心して生活できる。廃止しないで」と言っているのに、「諮問は県立病院の存廃。地域医療の在り方は別の委員会で議論する」との座長発言にあるように、「廃止ありき」の審議会だった。
イ 医療法上必要医師が14人(2005年度は10人)も不足していることや、経営改善のための三次に及ぶ県立病院事業経営長期計画が実行されないことへの指摘が全くされないばかりか、経営失敗の責任が明確にされない審議会になっていた。
ウ 廃止答申理由は、・診療圏の広域性・一般的医療の提供だけ・都市部に近い・民間医療と競合だが、全て県立病院事業経営長期計画を実行すれば理由にならない。
エ 県立病院の経営責任者である県立病院課長・事務局長(事務長)が2年で交替することにもあるように、激変する医療制度、診療報酬制度に的確に対応していないことによる累積欠損金増大への責任には全く触れていない。
オ 累積欠損金の解消の目的で地方公営企業法全部適用に移行したのに、県の言う効果が出る前に「廃止ありき」の審議会を設置したことも容認できない。
カ 県立病院は、僻地の医療をはじめとして不採算医療や特殊医療に大きな貢献をしてきた。特に、高齢者医療を含めて地域の医療に大きな役割を果たしてきた。今、県病が廃止されたら、患者さんを放り出すことになり「医療の空白」が生じる。
キ 県立病院は廃止ではなく、充実して存続すべきである。
② 住民運動を組織
ア 県立病院を守り地域の医療を守るため、各地に地域医療を考える会などを平和フォーラム・社民党・自治労を中心に結成し、集会・チラシ配布・署名を展開。
イ 4月9日に平和フォーラム・社民党・自治労を中心に「地域医療を守る福島県民会議」結成。全県署名・集会、首長要請行動、県会議員要請行動を実施
ウ 5月19日 「地域医療を守る福島県民集会」を開催⇒627人参加
エ 地域医療を守る福島県民会議でも対県交渉
③ 署名数2005年6月22日現在144,530筆を集約
⇒当該三春町、猪苗代町では住民の70%以上の署名を集約。福島市飯坂町では署名の2回目は観光協会をも巻き込んだ署名に。
④ 保健福祉部長・総務部長交渉の中では、「住民の70%と言っても県全体からは一部だ」等の暴言もあったが、「地域の医療水準を低下させない」ことを確認する。
⑤ 2006年1月 職員の処遇提案
ア 「全庁的異動」「希望退職募集(退職勧奨制度50歳を45歳に引下げ)」「再就職の斡旋」を労働組合へ提案
イ 分限解雇をしないことを確認。
⑥ 県職連合の職員の処遇に対する基本的考え方
ア 職員の処遇のうち「全庁的異動」以外は首切り策であるので、基本的に認めない。
イ 県は組合員の雇用を守る責任を持つが、県の経営失敗で職場が廃止される異常事態での異動であるので、第1希望を過員ででも配置させる責任と義務を持つ。
ウ 診療報酬の改定で、看護師を増員しないと減収になる。何人増員するか
⑦ 2006年4月に病院局労働組合が組合での異動意向調査を実施。
⑧ 別紙要求書提出・7月14日交渉
⇒今年中に組合員の希望どおりに、「一人の組合員の首切りも許さない」たたかいを
実施し異動先を決定させる。
3. おわりに
2006年2月議会で、3病院1診療所を2007年3月末で廃止する条例が可決された。私達の運動は敗れ去ったのだろうか。
バブル崩壊後、大リストラ攻撃にさらされ、労働運動の弱体傾向もあって、地域での大衆運動ができない状態になっていた。今回の県立病院統廃合反対闘争は、その状況に歯止めをかけ、大衆と労働組合が一体となったたたかいを組織することができた。
骨太方針2006で、社会保障費の1.6兆円削減を初めとして公務員総人件費2.6兆円削減等をねらっている時、また憲法問題、平和問題等で労働運動と大衆運動の共同行動が必要になっている時、そのさきがけの役割は果たし得たものと考える。
そして、その力を来春の統一地方選、来夏の参議院議員選に発揮しなければならない。
今後は、大衆運動の発展と、組合員の雇用を確保するため全力を上げる。
資 料
県立病院の存続と充実を求める要請書
要 求 書
チラシ 県立飯塚病院を存続させる署名にご協力を!
|