【自主レポート】

安心して子育てできるまちづくり
~松江市における小児救急と子育て支援~

島根県本部/松江市職員ユニオン


目  次

1. はじめに

2. 松江市の現状

3. 住民の声

4. 松江市立病院の現状

5. 小児救急医療電話相談(♯8000)について

6. 他地域の取り組み

7. 考 察

8. 総論~松江市の医療行政のあり方

9. 提 言

 

1. はじめに

 小児救急は、一般救急と異なった特殊性を見出すことができる。受診者は乳幼児、その中でも特に年少児が多く、疾患別に見ると風邪症状を主訴とする軽症患者が多く、真の救急患者が少ないのが特徴である。
 親と同居する三世代家族が一般的であった時代には相談できる相手が身近にいるため、小児救急は問題になりにくかった。しかし、現在は核家族化が進み、身近に相談できる親世代がおらず軽症でも慌てて救急外来に駆け込むケースが増えている。さらに市民の大病院思考が進み、地方公立病院小児科勤務医師の過重労働による勤務医の減少を招き、休日や夜間に小児科医師が待機していないケースが増えている。その場合、内科医が診察するのだが、救急外来は本来の役割である重篤な患者の対応に追われるために、風邪症状などの小児患者の診察待ち時間が長くなる場合もある。
 近年先進的な自治体では、夜間小児救急の体制が進んでいる。一つの例として隣市である出雲市では健康福祉部医療政策課を設置し、2006年4月から夜間小児診療を開始した。同市が市内などの小児科医に対応を要請し出雲医師会に属する開業医7人と島根大学部小児科医局が応じ、平日夜間の体勢を整えた。水曜を除く週4日間の午後7時半から2時間、小児科医1人と看護師ら計3人で対応している。また「子どもの急病」について書かれたハンドブックを保護者に配布し、軽症患者の救急外来減少を図っている。
 ところで、松江市の夜間小児救急体制はどうであろうか。小児科を設置する救急告示病院においても夜間には必ずしも小児科医が勤務していないケースが多々見られる。次世代を担う子どものため、小児科専門医による救急医療体制の整備が必要ではないだろうか。松江市の小児救急体制の現状、他自治体の取り組みについて調べてみた。

2. 松江市の現状

<総合病院の小児科医師不足、開業医の協力体制の構築困難、コンビニ受診>
 松江市の現状として現在小児科専門医として開院している数は橋北で五院、橋南で七院である。開業医は高齢の医師や女性医師が多い。
 2006年現在における松江赤十字病院、松江市立病院、松江生協病院の医師数は、松江赤十字病院が5人、松江市立病院が3人、松江生協病院が1人という構成である。
 現状では松江赤十字病院は地域の二次救急を行っていて新生児集中治療室(:以下NICU)を有している。NICUには24時間医師が詰めていなければならないため、原則として夜間の小児科医師による小児救急を行っておらず、内科系医師による小児科の夜間救急を行っている。
 松江生協病院は医師数が1人しかいないために小児科医師による夜間救急は行っていない。
 松江市立病院は平日時間外の日直内科系医師が診察し、必要があれば小児科医師を呼び出して対応している。土曜日は基本的には開業医が開院しているため15:00までは待機勤務は行わず、日直内科系医師が診察し、必要があれば小児科医師を呼び出して対応している。15:00から22:00までは小児科医師が待機して救急診療を行っている。
 日曜日、祝日は9:00から17:00まで小児科医師が待機して救急診療を行う。
 17:00以降は当直内科医が診察を行い、必要があれば小児科医を呼び出して対応している。
 数年前、松江保健所にて、松江市内の小児医師が集まり夜間小児救急の体制の整備についての会議が行われたが、市内の開業医は高齢の医師、女性医師が多く、夜間救急を行うことに対して、一部の医師を除いては消極的である。
 松江赤十字病院の場合、医師数は多いが1人はNICUに待機をするため、平日勤務を含め実質5人で診療に当たっている。その中でさらに1人夜間小児救急に派遣を行えば、通常業務にも支障が出る恐れがある。このために地域の医院や診療所、総合病院が協力して小児の夜間救急体制を整備するのは難しいのではないかという結論に至った。
 また24時間小児救急を行うと、親の都合に合わせて夜間に来院する患者が増える恐れがある。というのも小児診療は一施設月間1,000円払えばそれ以降は何回、いつ来院しても診察料も薬代もかからないからである。このためかかりつけ医離れが進み、より一層の市民の大病院思考が進むのではないかという意見もある。

3. 住民の声

<乳幼児健診で住民アンケート調査を行った・厚生労働省が大規模調査を行った>
 今回、我々独自に松江市の乳幼児健診に来ている保護者100人を対象に夜間小児救急についてのアンケートを実施し、住民の夜間小児救急に関するニーズ調査を行った。
 また、厚生労働省の研究調査班が子どもの病気に対する職場の対応についての大規模な調査を行っている。

(1) 夜間小児救急に関するアンケート項目

夜間小児救急に関するアンケート調査

 近年先進的な自治体では、夜間の小児救急の体制整備が進んでいます。松江市職員ユニオン病院支部自治研推進委員会では、松江市における夜間小児救急の現状と課題を調査して、安心して子どもを育てることが出来る環境を提供するための対策を検討していきたいと考えています。つきましては以下のアンケートにご協力ください。

*家族構成         □核家族 □二世代同居
*子どもの人数、年齢層    0~1歳未満(  )人
              1~6歳未満(  )人
              6~15歳未満(  )人
① 子どもの病気で救急外来を受診したことがありますか
   □ ある    □ない
② どこの病院を受診しましたか
   □ 松江市立病院  □ 松江赤十字病院  □ 松江生協病院  □ その他(         )
③ ①で「ある」と答えた方のみ、それはなぜですか?(複数解答可)
  □かかりつけ医からの紹介 
  □急に発症したため
  □症状が治まらなかったため
  □どのくらい重症か判断できなかったため 
  □相談できる人や場所が無かったため
  □診察時間外でないと都合がつかないため 
  □その他
④ ①で「ない」と答えた方のみ、それはなぜですか?(複数解答可)
  □当日小児科で受診したため
  □翌日小児科を受診するため
  □自分で判断して受診せずに様子を見たため 
  □誰かに相談して様子を見たため
  □その他
⑤ 子どもが病気になったとき、どのように対処していますか?(複数解答可)
  □すぐに医院や病院に受診する
  □かかりつけ医や医療機関に電話で相談する
  □家族や友人などに相談する
  □以前の経験から判断する
  □その他
⑥ 現在の松江市における小児救急医療に対してご意見ご要望などがあればご自由に意見をお書きください。

(2) 乳幼児健診におけるアンケート調査結果
   このアンケートに対する結果は以下のようであった(グラフ中の数字は人数)

*家族構成 ① 救急外来の受診歴の有無
   
② どこの病院を受診したか ③ 子どもが救急外来に受診した理由
   
④ 救急外来を受診したことが無い理由 ⑤  子どもが病気になったときの対処
   

【自由記載】
・ 救急外来で受診した時にどこの医療機関でも、小児科担当の先生が当直でおられて必ず受診しやすいようにしてほしい。
・ 夜間に小児科医が常時待機している所を知らせて欲しい。
・ 引き続き、夜間、時間外に小児科医師を駐在させ、対応していただけるように希望します。
・ 休日でも、小児科医が充実して安心して医療を受けられる環境を整えてください。きちんとした子育てができるか今、みんな不安がっています。だから少子化になってしまうと思います。
・ 夜間救急でも小児科の先生をおいていただけるとうれしいです。
・ 夜間、時間外にも小児科医さんがいて下さると安心ですが。
・ 救急外来を受診しても、他科の医師の診察しかできない。「ちょっとわからない」とか「たぶん○○でしょう」と、あいまいな答えをされる。
・ 子どもは夜間熱が出ることが多いので、夜間の小児医療が充実するようにしていただきたいです。
・ 市立病院、小児科医が時間を決めておられるので助かる。普段外来は仕事があり行きにくい。
・ 不安で行くのだから冷たくしないで欲しいです。
・ 急な場合でも待ち時間が長い。
・ 救急外来は長い時間待つことが多い。子どもが相手なので少しでも早く診てもらえると嬉しい。
・ 橋北地区にも24時間年中無休の小児救急を設置してほしい。
・ 市立病院は週末、救急外来に小児科医がいるので大変助かります。平日もいてもらえるともっと安心できる。ほかの病院でも夜間対応してほしい。
・ 待ち時間が長すぎる。小児科の先生がいない。
・ 初めての子育てで、病気の症状が分からないことが多いので気軽に相談できると良いと思う。
・ 救急で病院にいっても小児科の先生が診ていただけるのか不安です。
  確実に小児科医のいる救急外来を希望します。
・ まだ引っ越してきたばかりなのでこれからいろいろ勉強したいと思います。
  夜間も小児科医が必ずいると嬉しい。
・ 救急外来では小児科医師にいつもいてほしい。

(3) 厚生労働省~子どもが病気でも仕事を休みにくい実態調査~

 子どもが病気になっても仕事を休みにくい実態が、夜間や休日の小児救急外来に訪れた家族を対象とした厚生労働省研究班の調査でわかった。我が子の病気を理由として、休んだり早退したりすることに、職場の理解・協力を得にくいと感じている人は3割を超え、不満や不便を感じていない人を上回った。
 調査は今年1月23~29日に、全国の67病院の小児救急外来に訪れた5,964人から回答を得た。
 子どもの病気を理由に、仕事を休んだり早退したりすることに職場の協力・理解があるかどうかを聞いたところ、「ない」「あるが、自分としては休めない」とした人は、計32.8%に達した。「通常時間帯に受診できない」としたのは15.2%の909人。この人たちに、職場の理解・協力について尋ねると、「ない」が22.4%、「あるが、休めない」が56.3%で、休みを取れないと感じている人は78.7%だった。
 昨年4月に施行された改正育児・介護休業法により、企業など事業所は小学校就学前の子どもを持つ親に対し、年間5日までは看護のための休暇を認めることが義務づけられた。だが、それまでは努力義務だったため、厚労省が04年にした調査では、休暇制度を導入しているのは26.5%にとどまっている。
 小児救急調査を担当した渡部誠一・土浦協同病院小児科部長は「通常時間帯の方が、救急よりも良い医療を受けられる。子どもが病気になった時に休めなければ、少子化社会のなかで貴重な子どもたちを大切に育てられない」と話している。
■子どもの病気に対する職場の対応
 (小児救急外来に来た5,964人を対象にした厚労省研究班調査)
 職場の理解・協力はない       8.6%
 理解・協力はしてくれるが、休めない 24.2%
 不満や不便は感じない        22.6%
 無回答               44.6%

 

(4) 2つのアンケート調査の結果から
   今回、我々が行ったアンケート調査の結果から8割の保護者が子どもを救急外来に連れて来た経験があり、その大半は子どもが急に病状を発症したために重症軽症を問わず受診している。また受診した病院の9割を松江日赤病院、松江市立病院、松江生協病院で占めている。
   厚生労働省の調査の結果では32.8%の人が「職場の理解がない」「理解協力はしてくれるが休めない」と答えており、子どもが急病になっても仕事を休みにくい実態がうかがえる。今回のアンケート調査の中にも7人ではあるが時間外でないと都合がつきにくいと答えている。核家族の共働き世帯ではこのような意見は多いと思われ、安易に無視することは出来ない。

4. 松江市立病院の現状 ~2004年度の救急外来受診状況~

 

    年度
科別
2004   
時間内救急 時間外救急 深夜救急
内科
800
3,275
910
4,985
呼吸器内科
100
250
83
433
神経内科
155
193
32
380
放射線科
2
27
6
35
皮膚科
96
413
102
611
第一外科
34
227
36
297
第二外科
19
183
18
220
脳神経外科
207
400
88
695
整形外科
429
1,365
250
2,044
産婦人科
26
192
22
240
泌尿器科
56
213
82
351
耳鼻咽喉科
153
622
127
902
眼科
36
174
34
244
麻酔科
23
132
16
171
精神神経科
98
255
137
490
リハビリ科
0
0
0
0
歯科
20
150
18
188
小児科
634
2,959
499
4,092
2,888
11,030
2,460
16,378


時間内;8:00~17:15 時間外;17:16~23:59、6:00~8:29 深夜;0:00~5:59

 2004年度1年間で市立病院の救急外来を受診する患者の約四分の一が小児科患者であり、約85%が平日の夕方から夜間と休日の受診を占めていることから、夜間・休日の小児救急のニーズが高いことが言える。

5. 小児救急医療電話相談(#8000)について

 ♯8000は子どもの突然の病気や思わぬ事故に対応するためプッシュホン回線の固定電話なら「#8000」番を押すだけで、小児科の医師や看護師などによる電話相談が受けられる制度で、国の助成で東京都、兵庫、奈良、岡山、山口など各県がすでに実施している。今回兵庫県における小児救急医療電話相談(#8000)の実施状況について分析を行った。

(1) 兵庫県における小児救急医療電話相談の実施状況

① 事業開始
  2004年11月21日~
② 対象圏域
  県下全圏域
③ 相談日時
  平日、土曜日      18:00~22:00
  日曜、祝日及び年末年始 9:00~22:00
④ 対応者
  看護師2人、小児科医師(必要に応じて対応)
⑤ 電話機及び電話回線
  電話機数 :4台(相談対応用2台、転送切替用1台、医師との連絡用1台)
  電話回線数:6回線(相談対応用2回線、予備用1回線、転送及び応答メッセージ用2回線、医師との連絡用1回線)
⑥ 相談内容
  急病及び疾病に関する小児患者の保護者への助言、適切な受診医療機関の紹介

(2) 兵庫県における小児救急医療電話相談(#8000)実施状況の分析

(3) 兵庫県における小児救急医療電話相談(#8000)実施状況の分析結果
  ① 小児救急医療電話相談については、相談のあった中の約80%が相談のみで解決している。
  ② 相談状況としては、夜間の相談が約76%、6歳未満の患者が約88%と大部分を占めている。
  ③ 相談の多い症状としては、発熱が約42%と最も多く、次いで嘔吐、下痢等風邪の諸症状が特に目立っている。 

6. 他地域の取り組み

 夜間小児救急は松江市だけの問題ではなく、他地域でも重要な課題として取り組みが行われている。小児科医有志、医師会、自治体と中心となるものもさまざまで、考え方も多種多様となっている。

(1) 在宅輪番制での対応
   昭和中期、多くの開業医が日曜祝日も診療していたため、医師の健康保持策として医師会等が中心となり休日の在宅輪番制をスタートさせた。各地域で幾つかの医療機関が交代で当番に当たり、一次救急を担っていた。しかしいつも異なる医療機関であり、患者にとってはその日の当番医が解りにくい、場所が不明などといった問題が生じていた。現在は在宅輪番制単独ではなく、急病診療所等と並行している場合がほとんどである。

(2) 医師派遣事業での対応
   笠岡市では、夜間の小児急病患者の初期救急診療体制を確立するため、2003年4月1日から笠岡市夜間小児初期救急診療医師派遣事業補助金交付要綱を施行し、医師を派遣する笠岡医師会に対して補助金を交付している。

(3) 休日診療所での対応 出雲市の取り組み
   出雲市は市町村合併の際、旧平田市立病院(現出雲医療センター)や公立診療所(出雲・佐田・大社・平田・休日診療所)の運営を所管するため健康福祉部に医療対策課を設置した。
在宅輪番制の当番医や場所が分かりにくい問題点の解決策として打ち出されたのが、急病診療所を中心とした定点方式である。
   出雲市では本来2次・3次救急を担う医療機関である島根大学医学部付属病院や県立中央病院に小児の軽症患者が集中していたため、重症緊急患者への対応が困難となっていた。また小児科医の待機がなかったり、待ち時間が長くなる場合もあり改善が求められていた。このため同市健康福祉部医療対策課が市内などの小児科医に対応を要請し、出雲市に属する開業医7人と島根大学医学部小児科医局が応じ、出雲休日診療所で平日夜間の診療態勢を整えた。
   また出雲保健所を中心に島根大学医学部付属病院、県立中央病院、出雲市医師会、出雲市医師会学校医部会、島根小児科医会、出雲小児医会、斐川町、出雲市で「出雲地域小児救急医療検討会議」を構成。親への受診教育に活用するため「どうする? 子どもの急病~上手なお医者さんのかかり方」ハンドブックを作成した。
   同市では乳幼児健診や保育所、幼稚園での保護者会等の会場で保健師等が保護者と直接対応できる機会に内容を説明しつつ配布したり、6月からは市内医療機関窓口に常設配布を始める予定である。

出雲市で配布されているハンドブック

(4) 救急医療センターでの対応 沼津市の取り組み~みんなでやっている救急医療~
   沼津市では救急医療はみんなでやろうという共通認識のもと、医師会全員参加による夜間・休日救急医療在宅輪番制と公設民営の沼津夜間救急医療センター(管理責任者は沼津市長・運営責任者は沼津医師会長)を開設し、いわゆる沼津方式が発足した。沼津夜間救急医療センターは在宅輪番制をサポートするという重要な役割を果たしている。一夜勤務(勤務時間帯 20:30~7:00)と、準夜勤務(診療時間 20:30~23:30)の2本立てで、一夜勤務は大学病院の小児科医局からの医師の派遣契約し、準夜勤務は沼津医師会員その他の医師が担当している。一次救急も受け入れなければならなかった待機病院の負担が軽減され、二次救急医療に専念することが出来るようになった。

(5) 2次救急病院での対応 吹田市の取り組み
   豊能二次医療圏(豊中市、吹田市、池田市、箕面市、豊能町、能勢町)は、夜間の初期救急診療体制が十分でなかったことから、これまで入院を要しない軽症の急病患者が救急診療を行っている各市立病院等の小児科に集中していた。患者の待ち時間が長い、診療にあたる小児科医の過重な負担、本来入院を要する患者の診療がおろそかになるといった問題があった。このため効率よく小児救急医療体制を堅持するには、4つの市立病院は二次救急病院としての機能をきちんと果たし、初期救急を一箇所に集中して専門化する必要性が生じ、豊能広域こども急病センターが設立された。(救急医療センターでの対応と同様)
   しかし豊能広域こども急病センターの開設に伴い、吹田市南部地域ではすぐに病院に駆けつけられない、待ち時間が長くなるなど、急病の子どもを抱える保護者の不安は強くなる一方であった。そこで市民病院で夜間の小児救急を確保することを要請する「小児救急をなくさないで市民の会」が発足し、20,000筆を超える署名運動や労働組合の活動により、こども急病センターの後送病院として吹田市民病院でも部分的に一次救急を担う形で診療が再開された。

7. 考 察

(1) 夜間小児救急の必要性
   数年前、松江保健所にて松江市内の小児医師が集まり夜間小児救急の体制の整備についての会議が行われたが、地域の診療所、総合病院が協力して小児の夜間救急体制を整備するのは難しいのではないかという結論に至った経過がある。
   しかし我々が行ったアンケート調査の結果から、100人のうち78人の保護者が救急外来の受診歴があり、小児科の専門医による救急診療を求める声が多く聞かれた。また厚生労働省の実態調査からも子どもが急病になっても職場を離れにくい現状があることから時間外の受診を余儀なくされる実態があり、市立病院の救急外来の状況からみても時間外や休日の小児救急が多いことから休日夜間小児救急の必要性は明らかである。

(2) 保護者が気軽に相談できる窓口を
   100人の保護者を対象に行ったアンケート調査から、子どもが救急外来に受診した理由として23人が「どのくらい重症か判断できなかったため」、15人が「相談できる人や場所がなかったため」と答えている。このことから身近な相談相手がなく、救急外来に駆け込むケースが多いのが分かる。兵庫県で行っている小児救急医療電話相談(♯8000)の実施状況から多い月で1ヶ月1,200件程度(400件/日)の電話相談があることからも、保護者が気軽に相談できる窓口の必要性が言える。
   また兵庫県の電話相談の分析結果から見て"電話相談をしてきた約80%が相談のみで解決している"ことから救急外来を受診せずに対処されている。
   小児救急電話相談は子どもの急病やケガに際し、直ちに電話で適切な助言が得られ、救急医療機関に駆け込む必要性があるか否かを迷わずに済む一方、救急患者を受け入れる医療機関としては不要な救急対応の減少を図る事によって無用な混雑が解消でき、重症患者の待ち時間を短縮化できるなどの効果が期待できる。
   特に市町村合併により広域化した松江市では、救急病院から離れた場所に住む小児を抱えた保護者にとって「小児救急医療電話相談」は安心して暮らせる要因の一つになるであろう。

(3) 保護者への受診教育について
   日本小児科学会のホームページでは子どもが急病になったときの対応方法について情報提供がされている。また出雲市では健診に来た保護者を対象に"子どもの急病"のハンドブックを配布し、保健師から直接の指導を行っている。
   核家族の保護者が子どもの病気について理解することで、子どもが急病になった時の保護者の不安軽減につながり、適切な対応をとる助けになることから、ハンドブックなどのツールを用いて、診療所や病院に受診した際や健診など様々な場面で受診教育を行う必要がある。

8. 総論~松江市の医療行政のあり方

 今回行ったアンケート調査の結果や松江市における小児救急の現状、他自治体の取組状況から言っても松江市における小児救急体制の整備は急務の政策課題である。
 確かに小児救急をはじめとする医療体制整備に関する国や県の役割は大きい。
 島根県では市町村、保健医療機関・関係団体とともに健康の保持増進から疾病の予防、治療さらにはリハビリテーションに至る一連の施策を総合的かつ計画的に推進するため島根県保険医療計画を策定している。国の示す医療制度改革大綱のなかでも、へき地等における医師不足や小児科・産科など特定の診療科における医師不足の問題を取り上げ、都道府県ごとに医療対策協議会を設置し医師確保策を総合的に講じていくことが明記されている。島根県医療対策課ではしまね地域医療支援センターを設置し、専門診療科や総合診療科の医師を全国から募集したり、大学との連携で地域医療を担う人材育成するなど医師確保の様々な取り組みを行っている。
 しかし先に上げたように松江圏域においては保健所主導で松江圏域における小児救急体制について協議をされた経過があるが結果は物別れに終わっており、住民ニーズは満たされないままである。
 市立病院では地域の診療所や日赤病院・生協病院など他の総合病院で小児科医が不在の時間帯をうめる形で小児科医待機の態勢をとっており、市民が求める小児科専門医による救急体制を一部実現はしている。しかし合併により広域化した本市において市立病院だけが小児科医を担えばいいという問題でもないし、市立病院が小児救急センターとして小児救急を一手に引き受けることになると、他の救急患者の対応ができなくなることは明らかである。
 小児救急体制の課題は住民生活に密接に関わる課題であり、課題解決のためには松江市として住民の意思を基礎とした政策形成と問題解決を図る事業が一体的に行われなければ実現しない。すなわち松江市に医療政策課(仮称)を設置し、医療政策・施策を企画立案し、松江市立病院を核とした事業展開を行う必要がある。
 また松江市の医療政策の課題は小児救急の問題だけではない。
 ひとつは医療費適正化や公費負担医療の課題である。
 現状では松江市の国民健康保険は国からの交付金や国保の財源でまかなっているが、他自治体では一般会計からの繰り入れを余儀なくされているところもある。今後、益々進むと言われている少子・高齢化や国から市町村への交付金の抑制により、本市においても国保財政が圧迫されることが予想される。このことから糖尿病等の患者・予備軍の減少や平均在院日数の短縮など中長期の医療費適正化対策を図るため、市町村自ら重点的な保健施策の実施や在宅医療の推進、地域ネットワークの構築を行う必要ある。
 また現在複数の部署で所管をしている福祉医療や自立支援医療、保健所から事務移管された未熟児医療、小児慢性疾患などの公費負担医療について適正な運営を図るためにも組織横断的な調整が必要となってくる。
 さらには松江市休日診療所と来待診療所の課題である。
 近隣の出雲市においては大学や地元医師会の協力を得て、出雲休日診療所で平日夜間と休日の小児救急体制を整えるなど、出雲市医療政策課の果たした役割は大きい。松江市医師会に委託している松江市休日診療所や専任の医師や看護師を配置している来待診療所のあり方についても再検討する必要がある。
 最後に真の保健・医療・福祉の連携の課題である。
 子育て支援や高齢者・障害者の課題どれひとつとっても、保健、医療、福祉それぞれ単独では課題解決をすることはできない。健康推進課、介護保険課、障害者福祉課、医療対策課(仮称)など有機的な連携が必要である。

9. 提 言

 
~安心して子育てできるまちづくりのために~

1. 救急医療はみんなでやろうという関係者の共通認識に立ち、松江市主導で市立病院を核とした小児救急体制を構築すること。
2. 子どもが急病になっても保護者が適切な対処ができるように、保護者への「受診教育」と気軽に相談できる場所を確保すること。
3. 小児救急や医療費の適正化など住民や地域のニーズに応じた政策医療と真の保健・福祉・医療の連携を実現するために、松江市に医療政策課(仮称)を設置すること。