【要請レポート】

地 域 医 療
― 市民との連携による小児医療の提供体制の確保 ―
(安心して子どもを生み育てることのできる環境づくりへ)

山口県本部/萩市職員労働組合・地方自治研究会

1. はじめに(萩市民病院の沿革と小児科の新設)

 萩市民病院は、「萩・健康維新の里」の理念に基づき、北浦地方(萩市を中心とする1市3町4村)の唯一の公的病院として、RC造3階建、延べ面積8,300m2、総事業費52億2,700万円で2000年4月に、「旧萩市立病院」を「萩市民病院」と改め開設されました。
 旧萩市立病院は、1926年7月に萩町立病院として病床60床で開院後、1957年3月には伝染病床(30床)・結核病床(180床)となり、1988年には、結核病床の30床を一般病床に変更し、呼吸器科と内科を併設、病床数は、一般30床、結核75床、伝染30床の135床の病院となりました。
 その後、「萩市立病院を総合病院へ」という市民運動を展開し、1991年3月に萩市立病院整備基金を設置、1994年3月、萩市立病院移転新築マスタープラン作成、1996年6月、萩市立病院整備基本計画素案作成、同年6月、へき地医療支援病院に指定され、1997年に現在の場所である萩市椿地区の用地取得及び造成、1998年・1999年の2ヵ年継続事業として施設整備されました。
 萩市民病院の施設の概要は、1階部分が外来、検診センター、透析、リハビリ、検査部門、2階部分が、病棟部門115床で一般100床、結核15床となっています。診療科目としては、内科・外科・整形外科・放射線科の4科で、特に内科は循環器科・消化器科・呼吸器科・神経内科と専門化しています。
 1995年に行われた「萩市に要望するもの」とした市民アンケートでは、萩市民病院の総合病院化が第1位に挙げられると同時に、「小児科の設置」の声も若い婦人などを中心に寄せられたところです。
 しかし、結果として医師会との協議などで「萩市民病院」には小児科が設置されませんでした。その後、『小児科』(入院病床を持つ病院)は、民間病院で開設されましたが、この病院も2003年4月末をもって大学病院から派遣されていた小児科の医師が、突如として「撤退」ということとなり、「小児科」への関心と不安が巷間の話題となりました(市民は山口市・宇部市等の病院での小児科治療を余儀なくされていました)。
 2003年4月に行われた萩市議会議員選挙(統一自治体選挙)に、自治労山口県本部副執行委員長であった斎藤眞治さん(萩市職労出身)を擁立し、「公約」の中で「萩市民病院に小児科の設置」を掲げ選挙戦をたたかいました。萩市民病院での小児科の開設は、民間病院からの小児科医師の撤退に伴い、若い主婦を中心に日増しに声が高まり、議会への要請行動などが行われました。また、萩市民病院での「小児科の予約制」についての「市民フォーラム」が開催されるなど、開設にむけた市民の意識はますます高まりました(365日、24時間体制となる小児科の医師への配慮から「予約制」を導入することへの布石。但し、半年後の実績を踏まえた評価による検討も付記されました)。
 これらを背景に萩市議会議員選挙後の6月の定例市議会において斎藤市議の初登壇となる一般質問で、「萩市民病院の診療科目の充実」の中で「萩市民病院の小児科の新設」の質問に対し、萩市長から「萩市民病院において小児科を開設する」ということが、初めて公の場で発言され、2004年2月に小児科を開設し、内科病床3個室を小児科病床として確保・開設するとともに、併せて、小児科医師の確保が進められました。また、新たに病床10床を確保するための増改築工事が着手されました(総事業費5,800万円、内訳は器具備品が2,900万円、工事請負等が2,900万円)。
 小児科を専攻する医師の数が少ないことや、2004年4月にスタートした国立大学や国立病院の独立行政法人化、新医師臨床研修制度の影響等により、大学からの派遣医師が地域の病院から撤退するという事態が生じたことから、小児科医師の確保は困難な状況下にあることが推測されました。このことは、2000年の第4次医療法改正の「病床区分の見直し」「臨床研修の必修化」「医療情報提供の推進」との整合性や病院の病床数の決定において、「その他病床」における療養型病床を含む一般病床と療養病床の種類を急性期病床と療養病床に分けて、「萩市民病院の病床数をどうするのか」ということから「小児科病床の新たな確保」にも影響してくることを提言し、「公的病院の責務から」早期の設備改善と医師の確保を追及しました。
 結果として、2005年4月より小児科の開業(入院病床の整備)となり、医師の確保における紆余曲折の中で山口大学医学部から2人の医師の派遣を受けることとなりました。

2. 萩市民病院の小児科は「予約制」

 救急医療体制において、初期救急(一次)、二次救急、三次救急の中で萩市民病院は、二次救急(入院医療や比較的専門性の高い外来が必要な場合)を担う役割があり、夜間・休日において、かかりつけ医・在宅当番医からの紹介や救急車により搬入の場合は、小児科医師が対応することとしました(初診を当直医が診察し当直医が必要と認めた場合、小児科医を自宅から呼び対応します。2人の小児科医師を確保したが、24時間体制では医師にかかる負担が大きく、医師を擁護することから実施されました)。
 開業から半年を経過した2005年7月に「萩市民病院小児科運営協議会」を設置し、運営方法の見直しを行いました(市民フォーラムで「予約制」についての実績・評価を踏まえた見直しを公約したことから、運営方針を見直しました)。
 その結果、開業からこれまでは『紹介による予約制で受診』を基本としていましたが、午前中の外来受診については、『紹介状がいらない予約制』へと運用が変更されました(実施は、2004年9月15日より。但し、午前中に限られた診療時間であるため希望日に受診できないこともあると付記されています)。

[市報による広報内容・市報抜粋]
 ● 午前中の外来は「紹介状」が要りません。他の診療科目と同じ『予約制』です。電話予約の上、お越しください。
  ・ 午前中の診療時間、午前8時45分~正午(診療受付は、午前11時30分終了)
  ・ 待ち時間を少なくするため必ず電話でご予約ください。
  ・ 予約センター(25-1235)電話受付時間
午前8時30分~午後5時(土・日及び祝日は除く)
  ・ 当日午前中の予約が定員になりましたら、翌日以降の予約となります。
 ● 午後は入院と専門外来に専念します。
  ・ 専門外来は、小児代謝・内分泌・小児腎臓、心臓、神経、アレルギーです。
  ・ 専門外来の受診を希望される場合は、すでに診断について紹介状をお持ちの方を除き、まず午前中の小児科一般外来を受診してください。検査の結果により院内紹介します。
 ● 救急は、詳しい検査や処置、入院を必要とする二次救急の小児科患者を対象とし、医師会等との連携によりいつでも対応します。

 他の医療圏に比べて、小児科の病院や診療所が不足している萩医療圏(萩市と阿東町を除く旧阿武郡)では、一次医療(初期救急)を医師会が、二次医療(二次救急)を萩市民病院が担うことによって、効果的な機能を果すように務めるとしています。

[萩市民病院の患者数の推移(全体の外来・入院/内、小児科の外来・入院)]

 
外来(全体)
入院(全体)
外来(小児科)
入院(小児科)
2000年度
43,504人
31,723人
──
──
2001年度
56,684人
25,144人
──
──
2002年度
55,605人
23,466人
──
──
2003年度
58,018人
19,918人
 348人
 124人
2004年度
56,395人
17,846人
5,689人
 841人
2005年度
58,334人
18,187人
7,695人
1,362人

3. 萩市民病院の小児科患者数の実績

(1) 市町村合併合併(2005年3月6日)に伴う、人口推計は次のとおりです。

(区  分)
2005年
(構成率)
2015年
(構成率)
総 人 口
59,578人
100%
50,164人
100%
14歳以下
 6,772人
11.4%
5,687人
11.3%
15歳~64歳
34,342人
57.6%
26,145人
52.2%
高齢者人口
18,464人
31.0%
18,332人
36.5%
65歳~74歳
 9,201人
15.5%
8,685人
17.3%
75歳以上
 9,263人
15.5%
9,647人
19.2%
(うち2006年7月1日現在、0~4歳児1,936人、5~9歳児2,191人)

  という人口推計になっています。小児科を開設後の患者の実績は、

  

(2) 課題としては、外来や入院は増加の傾向にあるものの、「緊急・救急」に対する病院の受付に対して「救急車ならすぐ検査してくれるのに、電話や自家用車での受診について、断られることがある」とか、「待ち時間が長い」といった声があります。このことについては、「小児科」に対する認識(小児科は、小児科患者を対象とした「内科」であることから外科や整形外科の疾患は対象とならない)という周知が必要です。
   しかし、患者(親)は、「市民病院なら全て受診可能」という理解をしていることから、院内医師との連携(医師の数にも影響するが)の強化を求めるニーズに対する課題への解決が望まれます。

4. 看護師の状況について

 ところで、少し話を変えますが、萩市民病院を開業し、毎年のように新規(5年以内)の看護師が退職するという現況があります。すでに10数人を超えるという状況が発生したため、市議会における常任委員会(教育民生委員会・2003年9月議会)において、委員会条例第97条の規程に基づき、会期内の所管事務調査による調査権(組織内議員を活用)と労働組合として「市民病院緊急対策本部」を設置し「病院職員アンケート調査」を実施し、2面からの実態を調査することとしました。
 常任委員会では、退職事由・勤務状況(勤務表・休暇の取得状況)、時間外勤務手当支給状況(労基法第36条との関連)、組合アンケートでは、労働条件(休息・休憩の取得、時間外手当の支給、年次有給休暇の取得、育児休業取得、介護休暇の取得、生理休暇の取得)、医院内研修の実態(院内・院外研修の割合、時間内外の状況、強制・自己決定)、そして労働組合の取り組みについてアンケートを行いました。
 早期退職については、結果として、人事管理における人間関係によることが判明しましたが、監督責任にある者(管理職)に対する個人攻撃と受け取られない対応が必要であり、また、「労働組合」への認識不足から生じる自己決定が「退職」へと連動される傾向にあることが分かりました。

5. 市民との連携による小児医療の提供体制の確保

 終わりに、医療制度改正に伴い医療職場の労働環境は改善(働くものからすれば改悪となるものもある)されますが、そこには、「費用対効果」「コスト論」、更には「ギブアンドテイク」といった様々なことが生じます。
 結論から申し上げるとそれらに対する労働者としての認識と職務・職員としての任務との整合性を「どう組合運動へ連動させるのか」ということが課題となります。職場における人間関係については、地方公務員であるために「服務の規程」を受けなければならないことと、「職場・労働環境の変化に対する迅速な対応」について「いつ・どこで・誰が・どのようにするのか」ということを、組合員のなかで議論されなければなりません。また、医院内会議で職場環境にかかる議論がなされなければ、3Kとも5Kともいわれる職場の改善にはつながりません。
 「いつでも・何処でも・誰でも、安心してかかれる医療体制」を実践するためにも、職場における「プライドと団結」が必要であると考えます。
 「萩・健康維新の里」の理念である「①変化する社会情勢に進取の気性をもって取り組み、新しい健康のあり方を提案します。②現状に妥協せず、創意工夫を惜しまず、温かく思いやりのあるサービスを実践します。③自らの役割を明確にし、地域と連携して、保健・医療・福祉を統合したサービスを目指します。」、これらによって「萩市民病院」が建設されたのであり、「自らの役割」として、住民ニーズに応える「小児科の新設」へと導かれました。
 一方、「この理念を誰が実践するのか」ということを考えると、働いている者へもサービスがなければ決して「求められる医療体制」「求める医療体制」とはなりません。
 「地域住民が健やかで、快適に暮らせるまちづくり」のためには、医療の充実がもっとも重要となることから、民間医療機関と公的医療機関で連携を取り合い、安心して医療サービスが受けられるように、医療水準の向上や診療科目の充実・強化を図らなくてはなりません。
 そのようなことから、今回の「小児科の開設」は、極めて厳しい実態にある「小児科」を人的な観点から擁護しながら、公的な役割を果す意味で進められたものですが、住民の意見を取り入れ改善はされたものの「満足度」という観点ではこれからも変革が求められます。
 「少子・高齢化」とりわけ、「高齢化」に対する国策はある程度整ってはいますが、「少子」に対することについては、まだまだ「求められるもの」と「創らなければならないもの」があると考えます。
 その一つとして「安心して子どもを生み育てられる環境づくり」の最低条件づくりはされたものの、これからの医療制度改革を含む、社会保障制度改革を労働組合として「どのように受け止めるか」、まさに、市民サービスの最前線である医療関係職員の実態と住民ニーズの相違を「うまく噛合わせられるか」ということではないでしょうか。