【自主レポート】
指定管理者問題と社会福祉事業団
~自治労福島県社会福祉事業団労組の取り組み~
福島県本部/自治労福島県社会福祉事業団職員労働組合・執行委員長 久間木恒規
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1. はじめに
私たち社会福祉事業団は、公設民営組織で、基本的には労働基準法・労働組合法にのっとった労働者であり、労働組合です。自治労が公共サービスの組織化を進めてきている中で、私たちも10数年前に自治労に加盟しました。
私たちの社会福祉事業団は、社会福祉法人で14の県立施設の管理委託をしてきました。社会福祉事業団は、戦後福祉施設整備5カ年計画が行われている時期に、従来その組織について特別な規定はありませんしたが、県立施設の担い手として、公設民営組織の活用が提起され、1971年に厚生省から、「社会福祉事業団の設立について」と題する通知(いわゆる「46通知」)が出され、その存在を認知されることとなりました。その意味では、設立の根本から、公務員を増やせない中での公共サービスの拡充に貢献するという行政改革の担い手であったといえます。その通知には、職員について「公務員準拠」規定されていましたが、「公務員ではない」ということで、賃金体系は設置自治体の公務員とは明らかに格差がありました。私はこれを第一の貢献、つまり安上がり行政に寄与した、と位置づけています。
福島県の場合は、1973年から事業を次々に受託することとなりました。
2. その後の社会福祉事業団の運営
その後、全国的にも公立施設の事業団委託は進められていきました。私たち福島県の場合も先にあげた通り14施設(特養3、身障2、救護2、知的7)の受託をするようになりました。そうした際に求められたのは、「県立施設だから」ということで、重度困難ケースの入所について、拒否はできない状況で、施設利用者は、重度及び困難な障がいを有する人たちが多く利用するようになりました。これについて、私は民間でありながら「公」サービスを担うことでの、重度・困難ケースを引き受けるという、第2の貢献を果たしたと考えています。
私たち社会福祉事業団は、重度・困難ケースを抱えながらも、労働条件は「46通知」に基づき「設置自治体準拠」とされていたため、人事院勧告に基づく毎年の昇給、公務員に準拠した休暇制度など、他の民間社会福祉法人と比較すると、たいへん有利な労働条件であることから、職員の定着化がなされました。それは、ある意味経験と知識、ノウハウが事業団の中に蓄積されていったともいえます。
3. 気がつけばコスト高
しかし、そうした職員の定着化により、毎年なされる賃上げにより、人件費の増大によるコスト高体質となっていきました。福島県の場合も、施設ができる度に大量採用を行ったことから、現時点で40歳後半から50歳代の職員が大変多くなり、施設の運営費である措置費(その後介護報酬、支援費収入となった部分もあるが)だけでは、とうてい運営費をまかない切れなくなりました。(ピーク時には、人件費が措置費を上回ってしまうこともありました)そのため、各施設での不足分が1億円以上、全体で20億円以上もの県からの委託料負担(持ち出し金負担)をしてもらわなければならない状態となっていってしまいました。
4. その体質はどうだったのか
そうしたコスト高組織ではありましたが、サービス内容としては、勿論重度・困難ケースの対応に追われていたこともありますが、施設内完結型のサービスとなり、地域移行はなかなか進まず、開設以来利用されている方もいるという現状でした。その当時は、地域移行の考え方は主流ではなく、「施設パラダイス論」という要保護すべき高齢者、障がい者を施設の中で保護し、施設内の生活の充実で、日常生活により近づけ快適な生活を送ってもらおう、という考え方が強かったように思います。
そして、事業団職員がまだ若いこともあったことから、県からの天下り人事がなされ、多くの管理職を占めていました。そこに、事業団の不幸がありました。というのは、天下りの方々は、余り先駆的な取り組みをする気力はなく、県からあてがわれた第二の職場でもあり、県に対して大変従順であり、一方で自分が在籍する期間だけ無難にすぎればいい、という風潮が強かったと思います。そうした中で、職員は先駆的な取り組みや、積極的な取り組みなどを提案するものの、まず事業団の壁、そして次は県の壁の前に跳ね返され、無力感を感じるようになっていきました。閉塞感をもった組織の中で、最大の被害者は、利用者であったと強く反省する昨今です。
5. 社会福祉法の制定
福祉の流れは、明らかに介護保険制度により、「措置から契約」という劇的な変化を見せました。そうした中で、当然社会福祉事業法の改正が求められ、2000年に「社会福祉法」が制定されました。
ここで、私たちを襲った不安は、「46通知」は社会福祉事業法のもとでの通知であり、社会福祉法においては、どのようになるのだろうか、ということです。その理由は、社会福祉協議会のように、社会福祉事業法でも社会福祉法でも、その規定が明記されている組織とは異なり、法律の上には「社会福祉事業団」はどこにも明記されていないからです。 労働組合としての私たちや、同じように組合を結成し、自治労に結集していた社会福祉事業団労組は、それまでの要求目標である「設置自治体準拠規定に基づき、労働条件を設置自治体に近づける」ことにしていましたが、「46通知」の維持、継続を求める活動へ変化してきました。というのも、「46通知」が私たち事業団の設立根拠であり、その根拠を失えば、様々な労働条件が脅かされることになるからです。
自治労の運動の中で、こうした取り組みが積み上げられ、社会福祉法制定から2年後の2002年8月に、「46通知の取り扱い通知」が出され、地方分権の視点から、国の通知はガイドラインとはいえ、私たちはようやく自分たちの設立根拠を確保し、新たな時代に立ち向かう体制を整えたかに見えました。
6. 指定管理者制度の登場
そうした中で、2003年6月に指定管理者制度が登場しました。当初は、社会福祉施設にはこうした制度は関与しないのではないか、という期待は、その年8月に厚生労働省が出した通知により、社会福祉施設にも適用する、とされてしまいました。
このことから、必死の思いで守ってきた「46通知」がその意味をなさなくなりました。指定管理者制度における「公募」は、コスト高を容認するとはならないからです。福島県においても、指定管理者の選定委員の中に「公認会計士を入れる」とされ、よりコスト問題はクローズアップされ、一気に緊張感が走りました。当時、私たちの組織の中では、すでに経営改革10カ年戦略を構築し、徐々に経費の節減を行っていましたが、やはり年間10億円以上の県からの持ち出し金が必要な組織でした。不安がピークとなりました。
7. 経営改革10カ年戦略
当時、事業団においては、コスト高の組織のスリム化をめざし、動き出していました。2002年度から徐々に開始された経費削減は、早期退職制度の導入、調整給の定額化、運転手の委託、寒冷地手当の廃止などが進められ、2004年1月には、2012年には"県からの持ち出しゼロ"を目標として10カ年戦略を、県知事も了解しました。これにより、経費の削減はソフトランディングできる、と安心したのもつかの間、その2月、事業団職員による利用者への虐待事件が起こり、事業団に対する見方が厳しくなったことと、指定管理者制度を県としても再検討したことで、先の県知事に了解された事業団の経営改革10ヶ年戦略は白紙に戻されてしまいました。
8. 必死の指定管理者問題への対応
県の事業団に対する見方が厳しくなり、指定管理者制度による選定を控え、事業団としても腹をくくった対応を求められることとなりました。事業団から組合に突きつけられた提案は、指定管理者選考にさきがけ、10ヶ年戦略の前倒しによる2006年には県からの持ち出しゼロにする、というものでした。そのために、賃金の削減などを求める厳しいものとなりました。半年間の攻防の末、各種手当ての廃止、賃金の15%カットの提案を次の条件をつけながら組合としては承認することとなりました。その条件は、
① 全職場を確保する「不退転の決意」を全職員に通知せよ。
② 今後のシュミレーションの変更に際しては、組合も参画して協議せよ。
というものでした。こうした結果の理由としては次のような背景がありました。
2004年5月に私たちの組合の定期大会が開催され、非正規職員の組合加入を決議し、非正規職員を組合員にすることとしました。そのために、一部で噂のあった、民間移譲提案施設(先行して特別養護老人ホーム)の切り離しという考え方に対し、我々は非正規職員も含めた課題を担う組織であり、非正職員の一人たりとも解雇させないという強い決意をもって交渉にあたりました。そうした中で、将来を悲観して、早期退職制度による正規職員の大量退職(3年間で100人)という事態も起こりました。基本的に福祉の仕事は、人が人に対する支援であり、どんな立場の労働者も仲間である、という視点を貫くことで、全体の賃金水準の低下を容認することとなりましたが、結果的にはそうした労使の努力を評価され、全ての施設の指定監理あるいは移譲を受けることができました。
9. その後の経過
指定管理者問題については、私たちは必死な努力を重ねたわけですが、県全体の状態は、あまり努力の姿勢もなかった団体も含め、大半が既存の組織への指定ということになりました。いま振り返って指定管理者制度を考えるとき、実際の民間移譲なり廃止をするというより、指定管理者レースを作り上げ、それぞれの団体のスリム化競争を強いることで、県が負担してきた経費を削減することに成功した、といえるように思います。次は市場化テスト法で国や地方の直営のサービスをいかににスリム化するかということなのかもしれません。私たちは、今回の指定管理者競争に勝ち残ることができましたが、次回の指定管理者選定(5年後)あるいは民間移譲提案を受けている施設に対し、今度は容赦ないコスト競争が待ち受けている、と覚悟をしています。それを乗り切るのは、持ち出しをなくすためのコスト削減と共に、他の法人との選別化されたサービス内容で勝負する、ということになるでしょう。まだまだ、たたかいは続きます。
10. おわりに
厳しいたたかいが続く中で、私たちは今回、正規職員だけでなく非正規職員も組合員にするという手法をとり、組織拡大や問題の共有化を図りました。利害が必ずしも一致するものではありませんが、それぞれの課題や目的をきちんと整理しながら、運動を構築していかねばならないと考えます。最近、非正規職員の待遇改善を求めた成果で、この4月から、非正規職員(嘱託、契約)の給与の給料表への位置づけ(福祉職1級)を獲得することができました。さらに、非正職員が究極的に求める、正規職員への内部登用の途も、少しずつ切り開いています。
何よりも若いエネルギーが、マンネリ気味の私たちの組合に活力を与えてくれています。
今後も様々な苦難に対し、正規と非正規職員が、一丸となってたたかっていきたいと思います。
(資料)
2・28労使交渉経過経過及び組合声明
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2005年3月3日 |
1. 平成17年4月から実施
(1) 決定されていたもの
ア 寒冷地手当の廃止
イ 時間外手当予算積算率の引き下げ
ウ 新雇用体系の導入(契約職員制度の導入と待遇改善)
契約職員の有給休暇については職員準拠を原則とする。
臨時職員の有給休暇については現行水準の引き上げを図る。
(2) 前倒しで実施するもの
ア 給料表の統合(福祉職給料表の導入)
現在の、一般職・医療職(二)・医療職(三)・技能労務職給料表を国の福祉職給料表に一本化し、あわせて、係員・副主任・係長等の格付給料に切り替え(現在の支給額か直近上位の額)る。
なお、切り替えにあたっては次の措置を加える。
① 資格職以外にも係長相当職として「管理主査」を設ける
② 昇任時の不利益解消のため「号給対応表」を設ける
③ 職務加算については当面、原則現行水準とする
④ 昇任基準の見直しを図る
⑤ 現医療職給料表適用職の初任給基準は、現行水準維持で別設定する
イ 資格手当の創設
人材の育成とモラルの向上を目的として、「社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員」の有資格者に1資格当たり月額2,000円を支給する。ただし、管理職を除く。
また、特養でケアプラン作成業務に従事する介護支援専門員には、月額3,000円を加算して支給する。
なお、資格手当は、嘱託職員及び契約職員も支給対象とする。
2. 平成18年4月から実施
(1) 決定されていたもの
ア 調整額の廃止
なお、経過措置は行わない。(この部分は4年前倒し)
イ 休暇等に係る給与保証見直し
産休・病休などで休業する場合は無給とし、健康保険からの休業補償(約60%)に切り替える。
(2) 前倒しで実施するもの
ア 扶養手当の見直し(対象を子どもに限定) 1年早めて実施
イ 住居手当の見直し(持ち家除外・借家上限減) 2年早めて実施
ウ 交代制夜間特殊勤務手当の廃止 3年早めて実施
エ 夜勤手当の見直し(積算率10%アップ) 3年早めて実施
オ 扶養手当の見直し(子育て支援)
子ども一人当たり最高11,000円だったものを乳児から大学生まで一律に一人当たり20,000円に引き上げる。
カ 期末・勤勉手当の名称変更及び支給率見直し
名称を「賞与」に改め、当面(平成18年度から20年度までの見込み)支給率を年間3.2月分(△1.2月分)とする。
なお、21年度から22年度は年間3.8月分、23年度以降は現在の支給率である4.4月分に復活する見込み。 |
組 合 声 明
私たち自治労社会福祉事業団職員労働組合は、先の2月28日労使交渉において、長時間の交渉の結果、経営改革の見直し案について妥結をしました。これにより、平成17年度に福祉職給料表の導入と、平成18年度には平均で15%の賃金削減を了解しました。
妥結の背景には、今年の夏場を最大の山場とする、私たちが受託している14の社会福祉施設の「指定管理者問題」「移譲問題」があります。この課題に関して事業団事務局側のスタンスは、「事業団における収支均衡の体質の確立が、この競争のスタートラインにたてる前提条件であり、スタートラインにたてれば民間には負けない」としていますが、この問題は県の判断と県議会の判断であり、決して事業団事務局提 案をのんだからといって、「全職場の確保」の担保が取れるわけではありません。
しかし、問題の決着は目前に控え、組合としての独自の運動では、県の担当部局への交渉も実現しない中で、事業団事務局の提案を受け、その努力を求めるしかない、との判断となりました。組合は今後事業団事務局の活動を注視していくとともに、組合としても自治労への協力要請をしながら、県及び県議会対策を強化していく決意です。
今回の計画では、削減の大きな要素は「調整給の廃止」と「ボーナスの1.2月カット」そして福祉職給料表による、昇給幅の圧縮があげられます。
福祉職給料表の導入については、組合として「不動の自分たちの給料表の獲得」をめざした結果であり、給料表の級の数が少ないことでの昇給幅の圧縮は認めるものの今後の賃金交渉(福祉職は今後も人事院勧告準拠になる)での賃金ベースの基準とし て活用できるものと考えますし、私たちの導入で県内の福祉職場への波及も実現できれば、福祉の職場の待遇改善にもつながると考えています。
調整給については廃止されれば復活は難しいものの、ボーナスは平成23年度までに復元できるとしていますので、収支経営状況が好転すれば、調整給に代わる新たな手当の要求も今後行っていきたいと考えています。
今後における最大の課題は、全職場の確保であり、その前提が崩れれば当然組合は労使合意の前提は崩れたとして、雇用確保の最大限の活動を図る決意です。
組合員の皆さんには、大変な苦労を強いることになろうかとは思いますが、雇用を守ることを最優先としての判断であることを理解して頂き、今後とも変わらぬご理解とご協力をお願い申し上げます。
平成17年3月3日
自治労福島県社会福祉事業団職員労働組合
執行委員長 久間木 恒規 |
別表
社会福祉法人福島県社会福祉事業団事業実施計画に基づく収支シミュレーション(社会福祉施設委託料+事務局補助金)福祉職給料表導入+全計画前倒し+期末手当廃止賞与化 (案)
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