【要請レポート】

福祉バンクの取り組み

鳥取県本部/南部町職員労働組合連合会・自治研部・部長 岩田 政幸

1. 南部町の概要

 2004年10月1日に西伯町と会見町が合併し、南部町が誕生しました。
 本町は、鳥取県の西の端に位置し、東は伯耆町、南は日南町、北は山陰の商都米子市に接しており、東西約12km、南北17km、面積114.03km2、森林が町全体面積の約7割を占め、宅地が極めて少ない典型的な農山村です。また、人口12,071人に対し、高齢化率27.5%と高齢化が進んでいます。

(1) 歴史的・文化的な背景
   遠くは、縄文時代より人々が住み、山陰で最大級の「殿山古墳」や国指定重要文化財の「三角縁神獣鏡」など、多くの遺跡や史跡が残されています。その中でも、南部町寺内を舞台としている「赤猪岩神社」では、大国主命が八十神から恨みをかい、猪に似せて転がした焼け石を抱いて落命したが、キサガイ比売(赤貝)とウムギ比売(はまぐり)の力で生き返ったという記述が古事記の中にあり、歴史とロマンが現代にも伝えられています。
   西伯地区に伝わる一式飾りは、江戸時代からの伝統行事として漆器や陶器等の一式を材料にその時代を反映した作品を展示し、全国でも珍しい民衆芸術として町民はもとより、多くの方に親しまれています。また、孔版画の創作家として有名な板祐生は、多くの作品と郷土玩具等のコレクションを残し、それを町が譲り受け財産として「祐生出会いの館」に展示・保存しています。

(2) 保健医療福祉の充実
   町には、主な保健・医療・福祉施設として町立病院、県立と社会福祉法人立の知的障害者更生施設があります。他にも内科4院、歯科2院の開業医があります。1997年4月に完成した国民健康保険健康管理センターすこやかには、健康福祉課を置き保健・医療・福祉の総合窓口としての機能をはたしています。
   また、1994年9月にオープンした総合福祉センターいこい荘並びに、1999年4月にオープンした総合福祉センターしあわせは、福祉の拠点として多くの町民の皆さんに利用されています。
   2003年3月には、厚生労働省から認定を受けた公共事業としては、全国初となる全室個室で小規模生活単位型(ユニットケア)の特別養護老人ホームゆうらくが竣工しました。ここでは、在宅での暮らしに近いケアや一人ずつの生活を尊重した個別ケアが行える個室を提供し、入所者の自立生活支援を目的として、少人数単位で、家庭的な環境の中で介護を行っています。

(3) 商工観光の取り組み
   農業が町の主要な産業となっており、より魅力ある農業にするため、農地・農道の整備をして、安定した経営を目指し、中核農家の育成に努めています。
   一方、企業誘致にも力を入れ、雇用の確保や若者定住対策にも取り組んでいます。
   町の特産物のひとつに「富有柿」(ふゆうがき)があり毎年11月頃には、赤く実った「富有柿」が関西方面などに出荷されます。また、毎年11月23日には、町特産の富有柿の種を吹きとばす「全国柿の種吹きとばし大会」が開催されます。優勝者にはハワイ旅行が贈られることから、県内外から運と肺活量に自信のある多くの参加者で賑わいます。
   1999年の4月には、日本有数の規模を誇る「とっとり花回廊」が開園しました。伯耆富士の名で親しまれている秀峰大山を背にし、1周1kmの展望回廊をはじめ、四季折々の花が楽しめるフラワーゾーンや花や木々の間をゆっくりと散策できる憩いゾーンなど、約80haの自然の中でゆっくりとした時を過ごすことができます。



2. 南部町の福祉の現状

(1) 人口と高齢者化
   南部町の人口(合併以前については旧町を合計)は、2005年10月1日現在12,071人となっています。このうち65歳以上の高齢者人口は、3,321人であり、総人口に占める割合(高齢化率)は、27.5%となっています。
   合併前の旧西伯町、旧会見町いずれにおいても、過去において隣接する市街地のベッドタウンとして定住化施策がはかられ、宅地開発による人口流入により一時的に増加した年代もありますが、1980年代頃をピークに減少傾向となっています。
   65歳以上の高齢者人口は、年々増加しており、1980年には14%を超え「高齢社会」となりました。さらに1990年以降は、総人口が減少に転じたことも影響し2005年には、27.5%と高齢化が急速に進展しています。


   2006年3月末現在で、本町において65歳以上の者のみで構成されている世帯は、711世帯で全体の18.6%を占めています。このうち、65歳以上の独居世帯は335世帯、さらにこのうち70歳以上の独居世帯は、263世帯となっています。
   これには、労働環境を求め若年層が都市部へ流出していることが大きな要因のひとつに考えられます。
高齢者世帯の状況(2006年3月末現在)※施設世帯は除く

人口と高齢化率

区   分
1975年
(昭50)
1980年
(昭55)
1985年
(昭60)
1990年
(平2)
1995年
(平7)
2000年
(平12)
2005年
(平17)
総 人 口
西伯町
7,750人
8,459人
8,702人
8,610人
8,393人
8,168人
12,071人
会見町
3,360人
4,013人
4,152人
4,164人
3,979人
4,042人
世 帯 数
西伯町
1,823世帯
2,027世帯
2,094世帯
2,124世帯
2,366世帯
2,262世帯
3,536世帯
会見町
836世帯
949世帯
980世帯
1,006世帯
1,026世帯
1,111世帯
高齢者数
65歳以上
西伯町
1,077人
1,227人
1,412人
1,660人
1,936人
2,160人
3,321人
会見町
461人
568人
654人
771人
852人
989人
前期高齢者
65~74歳
西伯町
696人
775人
833人
938人
1,093人
1,159人
1,602人
会見町
299人
377人
420人
455人
505人
533人
後期高齢者
75歳以上
西伯町
381人
452人
579人
722人
843人
1,001人
1,719人
会見町
162人
191人
234人
316人
347人
456人
高齢化率
西伯町
13.9%
14.5%
16.2%
19.3%
23.1%
26.4%
27.5%
会見町
7.9%
9.1%
10.3%
12.0%
14.5%
24.5%
(資料:国勢調査・住民基本台帳)

(2) 要介護者の状況
   介護保険制度における要介護・要支援と認定された者は、2006年4月現在で572人であり65歳以上の者に占める割合は、17.1%となっています。
   認定者のうち、85%以上が後期高齢者といわれる75歳以上です。後期高齢者については、全国的な傾向として65歳から74歳までの前期高齢者と比べ有病率が高く、寝たきり・認知症状態の発生率が高いことがあります
   サービスの受給状況をみると割合としては、在宅サービスが多いものの、依然施設志向が高い状況にあります。

要介護認定者の状況
 
サービスの受給状況

   介護保険制度発足以来、在宅サービス事業所も増加し在宅での生活を支える環境は改善されてきました。在宅復帰支援策の充実や、2005年の制度改正により食事・居住費の利用負担がもとめられたこと、今後について施設整備の増加が見込めないなどから保険者である南部箕蚊屋広域連合の介護保険事業計画では、在宅サービスの利用が促されることを見込んでいます
   介護が必要となった原因を2005年4月から12月分の要介護認定新規申請からみると、脳血管疾患及び認知症を理由とする申請が全体の40%を占めています。
   また、これまで申請理由として適当でなかった、「がん」「腎不全」などの医療的要素が強い疾病を理由とする申請がみられます。


介護が必要となった主な理由(2005年4月~12月要介護新規申請分)

要介護認定者の状況と出現率

区   分
2000年
4月
2001年
4月
2002年
4月
2003年
4月
2004年
4月
2005年
4月
2006年
4月
要支援
西伯町
41人
38人
33人
27人
41人
100人
90人
会見町
24人
27人
28人
24人
45人
要介護1
西伯町
50人
66人
83人
93人
97人
135人
147人
会見町
27人
19人
32人
46人
51人
要介護2
西伯町
40人
61人
67人
73人
79人
79人
83人
会見町
19人
25人
22人
28人
23人
要介護3
西伯町
39人
47人
57人
49人
42人
80人
74人
会見町
13人
13人
22人
21人
28人
要介護4
西伯町
58人
71人
48人
49人
51人
83人
78人
会見町
22人
24人
19人
19人
20人
要介護5
西伯町
36人
30人
65人
83人
77人
98人
100人
会見町
11人
11人
15人
18人
25人
合 計
西伯町
264人
313人
353人
374人
387人
575人
572人
会見町
116人
119人
138人
156人
192人
出現率
西伯町
12.5%
14.7%
16.1%
16.6%
17.1%
17.4%
17.1%
会見町
11.3%
11.5%
13.3%
15.0%
18.4%
(資料:南部箕蚊屋広域連合介護保険事業計画)

(3) 福祉施策の状況 ~本町における介護保険制度と保健・医療・福祉の連携
  ① 背 景
    私たちの社会福祉は第2次世界大戦後、生活困窮者の保護、救済を中心として開始されました。しかし、時代の経過とともに社会的背景から、保護、救済とは別に、幅広い領域のサービスが求められ、次の時代に対応する多様な福祉の展開が必要になりました。
    そこで、福祉ニーズの多様化、利用施設の種類の増加、多面的な供給体制などに対応するため、介護保険制度の導入等、行政が権力で措置をする福祉制度から制度を利用する方の尊厳を重視するものに変わってきています。
    特に近年の動向として、少子・高齢化、核家族化、低成長経済などの社会的状況の中で、社会福祉に対する住民の意識の変化と、将来に渡り安心した生活を支える福祉制度へのあり方への期待があります。
    このような動きを背景に、1951年の社会福祉事業法の制定以来、あまり変わらなかった法律も1998年からの中央社会福祉審議会の論議を経て、社会福祉事業法を初めとする関連の法律が一度に改正されるなど、社会福祉の基礎構造全般にわたる改革が行われました。
  ② 介護保険制度
    このような背景の中で、本町でも急速な高齢化社会の進展に伴い、介護を必要とする高齢者が急増しています。また、介護の重度化・長期化が進む一方で、核家族化、女性の社会進出、少子化等の要因により家族による介護では十分な対応が困難となり、介護問題は高齢社会の最大不安要因となっています。
    介護問題の解決に向け、2000年4月に介護保険制度がスタートすることとなり、西伯町・会見町・岸本町・日吉津村による3町1村(現在は、南部町・日吉津村・伯耆町)で「南部箕蚊屋広域連合」(以下「広域連合」という。)を設置し、介護保険事業を共同で実施しています。広域連合による運営の特徴として事務処理の効率化、保険料の統一化、保険財政の安定化、サービスの向上・効率化があります。また、地方分権の試金石である介護保険を広域連合で運営することとして、市町村が保険者では認められない在宅サービスの事業所指定権限を得ています。
  ③ 介護予防事業
    介護保険制度によるサービスに加え、要援護高齢者やひとり暮らし高齢者、さらにはその家族に対して高齢者が要介護状態にならないための介護予防サービス・生活支援サービス・家族介護支援サービスを提供しています。2006年4月1日からは、さらなる高齢化社会に向け要介護者の出現率の抑制と安心した在宅生活を支援するため、広域連合に地域包括支援センターを設置し介護予防事業に取り組んでいます。
  ④ 老人保健事業
    介護予防事業などの福祉サービスと連携し、身体状況の把握・身体機能の改善・健康に関する指導助言を行う総合的な予防事業として老人保健事業を展開しています。
  ⑤ 保健・医療・福祉の連携
    在宅療養者が増加している中で、在宅サービスを担う保健・医療・福祉関係者の連携強化を図ることが当然のこととして求められます。高齢者をはじめ地域住民がいつまでも健康で暮らすための各サービスの総合的な提供が求められています。
    そこで、健康管理センターを保健・医療・福祉の拠点と位置づけ、地域住民の健康状態や身体状況を把握し、健康指導、健康教育、予防対策を積極的に働きかけます。また、広域連合に設置されている地域包括支援センターの支部として、特定高齢者の把握からその要介護状態になることへの抑制及び一般高齢者施策の展開を行っています。
    今後においても保健・医療・福祉の拠点として、あらゆる人的資源や施設・機関と高齢者やその家族とを結びつけるコーディネーターとしての役割を担っていく必要があります。

(4) 南部町の福祉のまちづくり
   坂本昭文南部町長は、西伯町時代から町政発足と同時に、「福祉のまちづくり」を掲げ積極的な福祉先進施策によるまちづくりの展開をしてきました。

区   分
福祉のまちづくり(ソフト面)
福祉のまちづくり(ハード面)
西伯町時代
1995年(H7) ⑤坂本町長誕生  
1996年(H8) ④あいのわ銀行設立  
1997年(H9) ③新老人保健福祉計画策定 ④健康管理センターすこやか完成
1998年(H10) ⑫西伯いきいきまちづくりの会発足  
1999年(H11) ⑧南部箕蚊屋広域連合発足 ①西伯病院に介護療養型医療施設
④総合福祉センターしあわせ完成
2000年(H12) ③介護保険事業計画策定・老人保健福祉計画策定
④介護保険制度スタート4級ヘルパー認定制度開始
⑩介護保険推進全国サミット開催
⑪5級ヘルパー認定制度開始
 
2001年(H13) ⑦介護保険推進ミニサミット開催 ④特別養護老人ホーム西伯有楽苑県から町へ移管
2002年(H14) ③介護保険事業計画策定・老人保健福祉計画策定  
2003年(H15) ②(福)伯耆の国設立 ⑤特別養護老人ホームゆうらく完成
2004年(H16) ⑩南部町発足 地域福祉計画策定
⑫市町村介護予防モデル事業開始 
③介護研修施設、高齢者自立訓練センター完成 
南部町
2005年(H17)   ⑨南部町国民健康保険西伯病院 完成
2006年(H18) ④地域包括支援センター設置  
○内の数字は月を示す。

(5) 施設の充実 ~保健・医療・福祉の連携
  ① 健康管理センター「すこやか」
    健康福祉課と地域包括支援センター支部を置き、保健・医療・福祉の拠点とし、総合的な役割を担う。
  ② 総合福祉センター「しあわせ」と「いこい荘」
    プール、トレーニングジム(「しあわせ」のみ)、浴室を完備し町民の健康保持増進を目的とする。また、介護保険制度に備えデイサービスセンターを一体的に備えた施設。
  ③ 南部町国民健康保険西伯病院
    地域医療を目的に1951年に5ヶ村一部事務組合直営として開院。その後、1955年に5ヶ村合併により西伯町国民健康保険西伯病院、2004年の西伯町・会見町の合併により南部町国民健康保険西伯病院となる。施設の老朽化、狭隘化により求められる診療機能・療養環境に対応できなくなり全面改修を行い2006年に新病院として竣工。内科・外科・精神科・整形外科等の11診療科198床(一般病床42床・療養病床57床・精神病床99床)を有する自治体病院として地域住民への安心の提供を基本理念に地域医療の充実に努めている。
    病院内に、回想療法などの認知症の治療の場として、病院内に昭和30年当時の町並みを再現している。
  ④ 特別養護老人ホーム「ゆうらく」
    特別養護老人ホームゆうらくの前身である特別養護老人ホーム西伯有楽苑は1970年8月に県下初の特別養護老人ホームとして設置された。県立町営の施設として30年以上に渡り地域の高齢福祉に貢献してきました。その後、県から町への移管を受け、改築を行い2003年5月に竣工。厚生労働省から認定を受けた公共事業としては全国初となる全室個室で小規模生活単位型特養(ユニットケア)として国・県の補助を受け整備された施設。特養95床、ショートステイ5床、デイサービス
  ⑤ 介護研修施設
    個人の尊厳を重視したケアのあり方を習得するための施設。将来的には高齢者・障害者の生活管理指導事業(短期宿泊)の施設機能として活用。
  ⑥ 高齢者自立訓練センター
    高齢者及び地域住民を対象とした運動交流施設。また、高齢者の日常生活訓練施設。


 


3. 取り組みの背景

(1) あいのわ銀行について
  ① 助け合いの精神とセーフティーネットの構築
    あいのわ銀行は、ここ近年の高齢者の増加や福祉サービスの需要の拡大に伴い、住民の福祉のニーズに対応することを目的として設立され、中学生以上の住民であれば誰でも元気な時にボランティアを行い、それを点数化し貯めておき、将来、自分自身の手助けが必要になった時に、各自の貯めた点数に応じてボランティアを受けることができる制度で、介護をみんなで支えあう介護保険の制度が存在しなかった1996年にスタートしています。
    介護保険制度の導入後には、介護等を必要としていても、要介護認定から外れたために介護保険制度でのサービスを受けることが出来ない方のフォロー施策のひとつとして位置づけ、地域の一人ひとりが主役となって、お互いに助け合い、「しあわせで安心して暮らせる福祉のまちづくり」を目指してきました。
    公的な施策では、補いきれない部分を、自助・共助・互恵の精神に基づき、地域住民が互いに助け合うことで、セーフティーネットの構築を図るとともに、ボランティアというものを銀行制度にあてはめ、目に見えるように数値化することでボランティアを明確にしています。
  ② あいのわ銀行設立の背景 ~ボランティアの位置づけ
    あいのわ銀行の仕掛け人は、現在の南部町長である坂本町長です。
    坂本町長は、1995年に町職員から町長に立候補し当選しました。そのときのまちづくりの柱の一つに「あいのわ銀行」の設立がありました。
    それは、「ボランティア」というものが、明確に位置づけられていなかったことがあります。かつて、全国社会福祉協議会が実施したアンケートによれば、「ボランティアをして何を認めてほしいか」という問いに、「自分達の活動を認めてほしい」という回答が約80%を占めていました。
    また、坂本町長が、職員である福祉担当者時代に、町内在住のある高齢の女性の存在を知りました。その方は、ひとりで、誰にも知られることなく、長年、視覚障害者の為の点字訳をされていたそうです。町長は、その方の活動にとても感銘を受けたと同時に、その活動にスポットをあてることで励みにしてもらいたいと思い、また一方で周囲にそのことを気づいてもらいたいと思いました。
    これらを具体化するため、「ボランティアの制度化」について検討し、あいのわ銀行を考案されました。しかし、異動により職員時代には、制度制定には至りませんでしたが、その後、住民相互の助け合いと信頼による共生の社会の実現に向け、町長当選の翌年の1996年に設立されました。
  ③ あいのわ銀行の仕組み
    ボランティア活動をしたい方とボランティア活動によるサービスを受けたい方が、あいのわ銀行を通じての点数のやり取りによって、サービスを提供又は利用する制度です。
    ボランティア活動をした方は、その活動に応じた点数を「あいのわ銀行」に預託することができ、将来、サービス利用が必要になった場合、基礎点数を加えた預託点数に応じサービスを利用することができます。
   ア あいのわ銀行の概念図とフロー

   イ 会員の種類(あいのわ銀行設置条例第3条)
    a 基礎会員 南部町内に居住する中学生以上の方
    b 利用会員 基礎会員のうち、原則として65歳以上の方及び障害者等で、生活をする上で何らかの支援が必要なため、家庭における福祉サービスを希望する方
    c 協力会員 基礎会員のうちサービス提供活動を希望する方
    d 賛助会員 この銀行の趣旨に賛同し、会費を納める方
   ウ サービスの内容
     利用会員として登録すると、誰でも基礎点数の100点を受けることができます。その点数と預託点数の範囲内であれば、無料でサービスを利用することができます。但し、持ち点数がなくなった場合には、1時間100円の利用料を支払えば、サービスを受けることが出来ます。

(2) あいのわ銀行に取り組んだ背景
  ① 地域づくりは「みんなが主役」的考え方の普及と啓発 ~地域福祉の推進
    行政は、これまで公的な施策として、社会的弱者と言われる「高齢者」・「障害者」・「子ども」を中心に施策を展開してきました。しかしながら、これまでの施策で決して十分とは言えません。また、地域は社会的弱者の方だけが暮らしているわけではありません。不自由なく暮らす方であっても、日常生活を営むうえで心配に感じたり、困難に思うことがあります。今後、これらの課題に向けた一層のセーフティーネットの構築を住民参加のもと主体的に取り組んでいく必要があります。
    地域に暮らす多くの者が、住み慣れた地域で安心した生活を送るために必要なことは何かを考え、あいのわ銀行を始めとする地域で福祉を支えるボランティアの考え方を進めていく必要があります。また、地域づくりは「役所が主役」から「みんなが主役」へ意識改革を行うことも重要であると考えます。
    つまり、住民・行政・社協・事業所・団体等の地域を構成するメンバーが、地域でできることは地域で、地域でできないことは行政や関係機関へ働きかけることで課題を解決していく、地域みんなによる"しあわせ"のきずなを作っていくという「発想の転換」をすることが必要と考えます。
    このような考え方から、南部町職員労働組合は、地域を構成する一員として、「地域づくりはみんなが主役」的意識の必要性を啓発し地域づくりに取り組んでいく必要があると考えたわけです。そして、南部町の特徴的な福祉施策である「あいのわ銀行」に視点を置き、組合員へ取り組みを呼びかけました。
  ② 自治研活動のステップ2
    南部町職員労働組合では、自治研部を中心とし自治研活動を展開しています。さらに自治研活動を3段階に分けて取り組んでいます。
    3段階のうち、2006年は2段階目で、あいのわ銀行への取り組みを中心とする自治研活動についてSTEP2と位置づけて取り組んでいます。
   ア ステップ1 ~はじめの一歩は職場から(2005年)
     自治研活動は、「もっと知りたい」「変えた方がいい」「こうすれば改善できるのに」と思うことがスタートと考えます。昨年、「2005年度地方自治研究鳥取県本部集会」において、福祉のまちづくり施策の現状について、現状の把握・研究分析を行い「南部町における福祉のまちづくり」と題しレポートを報告しました。
福祉・社会保障の分野から現状を把握・分析し認識しました。
   イ ステップ2 ~職場から地域へ(2006年)
     次に研究内容について根拠をもって政策を提案したり、改善策を示し実践してみることが必要と考えます。そして研究分析結果を基に、職場・地域に問題提起をし、実績をつくり見えるものにします。
     ボランティア活動にスポットを当て、特徴的な施策である「あいのわ銀行」を絡めながら、地域の一員として組合員ができることを考え実践します。
   ウ ステップ3 ~組合は地域から信頼されるパートナー(2007年以降)
     公共サービスの担い手として、地域活性化、地域公共サービスの向上に向けて住民とともに活動していくことを考えます。
     政策提言の実現をはかるとともに、地域住民と協働し、継続して地域社会の活性化に向けて取り組んでいきます。
  ③ 町独自制度への期待
    あいのわ銀行を設立目的のひとつに、現在はもとより将来にわたり福祉のまちづくりを展開し、次の世代までも活用できるものにしていくことがあります。
    今後より一層少子・高齢化がすすんでいく南部町において、地域の中でお互いが助け合うという相互扶助を核としたコミュニティーの形成が必要不可欠であること、また、行政が行う介護保険等の公的施策では不十分な方や要介護認定から外れた方への対策として有効な施策でもあることからも継続運営が必要と考えています。
    2000年4月に施行された介護保険制度は、制度の見直しが行われ2006年に改正法が施行されました。見直しの概要の中に、予防重視型システムへの転換・施設入所者の利用者負担の見直し、新たなサービス体系の確立等があります。
    あいのわ銀行制度の充実を図ることにより、要支援1・2の創設や在宅サービスの支給限度額の見直し等により従来のサービスを受けることが困難となった方への受け皿としても期待できると考えます。
    また、福祉サービスで地域を支えていくことが一層必要となる将来において、また、交付税の削減等の財政課題が山積する中で、あいのわ銀行の充実による福祉施策の展開は、中長期的にみて財政面から考えた場合の福祉施策のシフト策の一つとしても期待できます。

4. 自治研活動の展開  ~あなたの元気をちょこっとお裾分けください~

(1) あいのわ銀行協力会員の獲得と組織としての活動
   上記に示す本町の福祉施策への期待と地域のセーフティーネットとしての社会的必要性等から南部町職員労働組合は、地方自治研究活動の第2段階(ステップ2)として2006年度の運動方針に掲げあいのわ銀行制度に取り組みました。

  ① 2006年度運動方針(2005年10月20日定期大会議案書抜粋)
 自治研活動は、「自治体・公共サービスに働くものとして、仕事、労働組合としての取り組み、住民としての暮らしの中で、地域とかかわりを通じて培った"人と知恵"をつなぎ、育て、協働とパートナーシップによる新しい地方自治・地方主権の時代をつくり上げる活動」と位置づけ、積極的な取り組みを推進しています。
 介護サービスを中心とした福祉サービスの取り組み及び医療との連携等の分析・実践、特に、南部町独自の施策でもある「あいのわ銀行」についても組合として積極的に支援を強化します。

  ② 取り組みの経過

月・日
内     容
備 考
2004年10月
2005年8月1日
2005年11月28日
   12月
2006年1月31日
 
 
 
   2月20日
    ~3月2日
 
 
   3月~4月末
   5月22日
 
   6月~
 
   10月
   12月~
2007年1月~
・南部町職員労働組合自治研部設立
・「2005年度地方自治研究鳥取県本部集会」
・全国自治研対策本部設置
  随時会議
・自治研部学習会の開催
 「ボランティアに参加しよう!」
  ~地域福祉のお手伝い。今自分ができること~
 「あいのわ銀行」制度周知と取り組み提案
・支部オルグによる意見交換
  組合員へ意向の確認
  協力会員への登録勧奨及び制度周知
 
・支部オルグ補足と協力会員加入勧奨
・組合員、協力会員へ45人の協力
 南部町職員労働組合ボランティア連絡協議会登録
・あいのわ銀行協力会員と活動の展開
 
(地方自治研究全国集会)
・活動の集約、研究分析、政策提言
・自治研活動ステップ3へ
 
 
 
 
37人
 
 
 
9支部
延べ72人
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  ③ 内 容
   ア 全国自治研対策本部の設置
     自治研部員3人に加え、保健福祉医療を所管する南部町健康福祉課に所属する組合員を中心に対策本部を設置し取り組みを強化しました。

全国自治研対策本部

氏 名
所 属
氏 名
所 属
岩田 政幸
自治研部(本部長)
藤原  幸
町職書記次長
加納 諭史
自治研部
山本 香織
保健師
石谷麻衣子
自治研部
石賀 志保
社会福祉協議会
田村 勝年
町職副委員長
景山  毅
あいのわ銀行所管課

   イ 学習会の開催
     自治研活動に対する取り組み提案の理解と協力、「あいのわ銀行」の制度理解と併せて全国集会への取り組みについて組合員を対象に学習会を開催しました。
     自治研活動のあり方と取り組みに対し組合員に次の2項目を提案し理解を得ました。
     ・と き:2006年1月31日(火)
     ・ところ:総合福祉センターいこい荘
     《提案内容》
    a あいのわ銀行の協力会員に登録しよう!
      あいのわ銀行の協力会員に登録し活動を行います。
      住民主体の福祉のまちづくりにおける特徴的な取り組みを推進します。
    b 南部町職員労働組合としてボランティア連絡協議会へ登録します。
      組合として、ボランティア連絡協議会へ登録し、活動に比較的多くの者を必要とする活動を行います。
   ウ 支部オルグの開催
     学習会において全体の理解を図った上で、支部単位にオルグを開催し、細かい単位で組合員へ取り組みについて理解を得、意見交換をし、協力会員の勧誘を行いました。
     その結果、45人の組合員の申込みがありました。
     自治研活動という認識にもとづき、取り組みを提案・周知しましたが、ひとつの目標と考えた全組合員の登録は達成することができませんでした。
   エ 協力会員としての活動



(2) ボランティア活動からみえたサービスの現状
   あいのわ銀行は、住み慣れた地域で安心した生活を送ることができるように、住民相互の助け合いと信頼による共生の社会づくりを目的に制度が成り立っています。行政の立場としても、銀行制度の健全な運営に資するために「南部町あいのわ銀行基金条例」に基づき、前年度の福祉サービス預託点数の5%以内で基金を積み立て制度自体の保障をしています。現在はもちろん将来を見据えて福祉のまちづくりに向け住民・行政が一体となって行っています。
   近年の利用実績をみると、「配食サービス」「いきいきサロン」「医療機関への送迎」が多数を占めています。「買い物」「身の回りの世話」「食事の調理」などは、利用実績はあるものの少ない利用状況です。また、サービス内容の利用に偏りがあるのが現状です。
   このことには、介護保険制度によるサービスの提供が優先していることが理由に考えられます。また、かつての農業が主であった時代に近所同士が連携し作業を行う「手間返し」に代表される様に地域における協力意識が依然高いことも考えられます。
   一方で、利用会員が求めるサービスと協力会員が提供できるサービスとに多少なりとも相違が生じているのではないかと考えます。
  ① 地域住民の相互扶助意識について
    かつての手作業での農業が主流であった時代において、本町をはじめ多くの農村地域では、農繁期にはお互いに助け合う相互扶助的な機能が働いていました。しかし、現在では、かつてあったような、地域住民相互の社会的なつながりはどうなのか、地域福祉に関する住民意識について、会見町地域福祉活動計画(2003年3月)及び地域福祉に関するアンケート調査報告書(2006年6月)により検証しました。
   ア 「福祉」という言葉について
     いつもどのように感じているかについては、「福祉とはお互い支え合い助け合うこと」と回答した者が多くみられ、福祉に対する積極的な意識が高いと言えます。また、年齢別の資料では、特に若年層(15~19歳)において「福祉とは困っている人を助けてあげること」とした意見が60%を占めていました。

   イ 近所の人との普段の付き合いについて
     普段どのような付き合いを行っているかについては、「家族同様の付き合い」「簡単な頼みごとをし合う付き合い」をしていると回答した者は、全体の35%を占めています。また、高年齢層(50歳以上)になるにつれ、あいさつ程度のつきあいか
ら、簡単な頼みごとをし合う付き合い方に移行しています。
     特に町内でも山間部になると普段からの頼みごとをし合う付き合いをしている傾向が強いことがうかがえます。都市部になると「簡単な頼みごとをし合う付き合い」の割合は少なく「いざという時に助け合う」との回答が多く見られました。日常的には関わりが少ないが、緊急時には一致団結するという地域に対する信頼がうかがえます。
   ウ 地域における助け合いを活発にするために重要なことについて
     地域における助け合いは、日頃の意識が大切です。その中で、「地域における活動の重要性をPRする」という意見が多くみられます。このことは、地域住民が「地域はみんなでつくるもの」という意識が高い一方で、まだまだ重要性について周知をはかる必要があります。また、「困っている人と助けることのできる人との調整を図る施策の充実」と回答した者が次に多く全体の14%を占めています。
     「あいのわ銀行」に代表されるコーディネート的施策の充実が必要と考えられます。
    上記のことから、地域で暮らす者にとって、お互いに協力し合い助け合うことが生活する上で重要であり、日頃から、助けを必要とする時や緊急時には近所同士で助け合う意識が高いと考えられます。また、地域での助け合いを一層活発にするためには、地域活動の重要性の周知に加え、相互扶助を核とする施策の充実も視野に入れる必要があります。
  ② 求めるサービスと提供するサービスの相違
    地域住民による相互扶助的意識は高いものの、地域における活動をより活発なものにしていくためには、困っている人と助けることのできる人との調整を図る施策の充実が必要とのことでした。このことから「あなたがしてほしいボランティア」と「あなたができるボランティア」について実態を調査しました。
  ③ ボランティア活動に関するアンケートの実施
    2006年6月に実施した「地域福祉に関するアンケート」によれば、提供できるボランティアについては、買い物が多くみられたものの、屋内外に限らず多様な内容が多くみられました。
    一方、してほしいボランティアについての問いには、屋外で比較的労力を要する内容のものが見られました。
    地域のなかで求められているボランティアとこれまで実際にあいのわ銀行でメニューとして存在したボランティアは、制度発足から約10年を迎え社会の多様な変化と相まって相違が見られます。
    南部町職員労働組合自治研部としても、中山間地で高齢化のすすむ本町の実態を把握し、利用者のニーズを捉えた内容のものとして見守っていくことが必要です。
    そして、介護保険制度や公的福祉施策までは必要としない自立者のニーズの把握とメニューの検討に関与していく必要があると考えます。




5. 提言すべきこと ~活動から見えた内容

(1) あいのわ銀行の普及
   あいのわ銀行の必要性は、すでに既述したとおりであり、それを地域の中でも必要としていることは明らかなところです。この制度に限らず、地域に暮らす多くの者が、住み慣れた地域で安心した生活を送るために自助・共助・互恵の精神に基づき福祉のまちづくりを展開していくことが必要です。制度の運用も重要ですが、地域福祉の理念と併せ、制度の一層の周知が必要と考えます。
   南部町職員労働組合としても、自治研活動を通じ協力会員としての若い労力と併せ自治体職員としての知識・経験の提供を継続することで活動と普及に今後においても取り組んでいくこととしています。

(2) 将来性について
   介護保険制度改正にともない介護支援をあまり必要とせずに生活できる者が受けることのできるサービスに利用限度が設けられたことから、高齢化がますます進んでいく本町においてその受け皿的な施策として制度の充実の必要性が求められます。
  ① 地域の見守り
    前述のとおり本町は、独居高齢者や高齢者のみで暮らす世帯が増加しています。傾向として地域とのつながりが薄れやすくなり、閉じこもりや低栄養状態などを引き起こし結果要介護状態となることがあります。配食サービスなどの食事の提供と併せた高齢者の見守り、併せて、こども達をはじめ地域全体を見守ることで地域社会を実現することができます。
  ② 交通の問題
    中山間地である本町で、交通施策は生活をする上で大変重要なことです。
    民間の路線バスも経営状態の悪化から路線廃止の傾向にあります。町としても2004年10月から町内に循環バスを運行し町民に活用されているところです。しかし、定期的な利用は循環バスで対応が可能でも、谷あいが多い本町で路線化されていない地域や運行便数の制限の問題もあります。以前、あいのわ銀行では、医療機関等への移送サービスを行っていましたが、道路運送法の関係から有償輸送に制限が加えられ、医療機関等への移送サービスを中止しているところです。合法的かつ合理的な利用の検討を実施主体(町)へ求め、解決策の検討に関与していくことが必要です。

(3) 地域通貨との絡み
   現在のあいのわ銀行制度は、活動を通じて貯めた点数を将来助けを必要とする時に使う制度です。逆に言えば、原則65歳に満たない者は、点数を使うことができません。助けを必要とする機会は、高齢者になるほど頻度は高いので、若年層への利用は必要がないかもしれません。しかし、上記のアンケートで地域における活動の重要性を周知することが必要との意見がある様に、また、制度の活性化・利用実績の向上のためにも、若年層(多くの方)にも利用ができるものにしていくことが必要と考えます。
   このようなことから、求められる手段のひとつとして、あいのわ銀行の預託点数と地域通貨を絡めた運用を検討することが必要です。協力会員として貯めた点数で、町内施設・循環バス・町内企業等に利用できれば地域活動の活性化にもつながります。また、多くの方が地域通貨を使用することで、普段はかかわることがないような異世代間での交流が促され、あいのわ銀行の活性化と併せ地域の活性化も期待できます。

6. 南部町職員労働組合における自治研活動の今後について

① 地域福祉の理念に基づき、地域を構成する一員として地域づくりに取り組んでいきます。
② 自治研活動第2段階で得た課題を基に、政策立案・政策提言に関与していきます。
③ 自治研活動の第3段階として、自治体職員として地域活性化・まちづくり・地域公共サービスの向上に向け住民と活動していきます。
④ 引き続き福祉のまちづくりに組合員として参加していきます。


参考図書
○介護保険事業計画と福祉自治体
○介護保険制度の解説
○南部箕蚊屋広域連合介護保険事業計画
○老人保健福祉計画(H6~H15)
○平成15年版高齢社会白書
○ホームヘルパー養成研修テキスト 社会福祉の知識
○南部町みんなでしあわせのきずな計画
○南部町あいのわ銀行
○視察資料(旧西伯町)
○福祉サービスの基礎知識
○みんなでしあわせのきずなづくり 地域福祉に関するアンケート調査結果報告書
○いま労働組合にできること-自治研活動のススメ(未定稿)
○社会福祉用語辞典
○南部町総合計画
○花ごよみ 西伯町50周年記念要覧