【自主レポート】

労働組合と社会貢献活動
~尾瀬国体支援ボランティアを通して~

群馬県本部/青年女性部・みなかみ町職員組合 小野 宏和
みどり市職員労働組合 石内  聡

1.はじめに

 テレビ等でごらんになった方もいらっしゃるかと思うが、2006年の今年は冬季国体が群馬県の片品村(通称尾瀬国体)で行われた。テレビでは競技の模様しか放映されないが、それらの競技を行うまでにコース作りや雪かきなど様々な準備が必要である。
 片品村役場が事務局となり当然地元からも多くの方々がこの国体の準備のためボランティアとして参加していた。しかし、国体という大きな事業の準備には予想以上の手間や時間がかかったらしく、準備に係る人手が足りないという話が偶然、県本部青年女性部役員の耳に届くこととなった。
 今回の発表は、社会貢献活動に参加した組合員の声をアンケートとしてまとめたうえで組合が社会貢献活動に取り組む意義の検証とそこから組合と地域社会との関わり方を模索しようとしたものである。

2. なぜ組合が社会貢献活動をするのか?

(1) 現状と社会貢献活動への考え方
   自治労群馬県本部青年女性部は、2006年度の主な活動として、社会貢献活動を取り入れていくという方針で取り組んでいる。
   現在、私たち自治体職員を取り巻く状況は、マスコミなどによる公務員バッシングなどにより圧力が高まっている。また、地域給与制度が導入され、評価制度の導入も検討されているなど更なる改悪が行われようとしている。このような状況のなか、給与問題や職場環境の改善に重点をおき、組合活動を展開していかなくてはならない。それらの問題に対する取り組みは、今まで以上に強化し、団結して取り組んでいかなくてはならないが、私たちの既得権益のみを追求した取り組みだけで良いのかというと議論の余地がある。
    私たちの職場は社会の上に成り立っているものであり、「社会全体の改善」が進めば、「職場の改善」にもつながると考えられる。「職場の改善」と「社会全体の改善」というのは、同時に考えていかなければならないことであり、「社会全体の改善」の具体的な取り組みとして、社会貢献活動があげられる。
   また、県本部青年女性部は青年女性部を対象としたアンケートを各単組の協力を得て実施したが、組合として社会貢献活動を行うべきだ、もしくは組合が社会貢献活動を行ってもよい意見が予想以上に多く、また、個人レベルでも社会貢献活動を行いたい、またその中で自分の特技や趣味を活かしたいという意見も多数みられた。社会貢献活動というものに対して組合員が予想以上に興味や関心を持っていると判断できる結果が得られた。
    最近は若者の組合離れが進んであり、自治労もその点は否めない。若い組合員が興味や関心を持っている社会貢献活動の場を提供していこうというのが、基本的なスタイルである。贅沢を言えば、私たちがそのような活動に参加することによって、職員としてのスキルアップを図るものであり、参加いただける組合員の自己実現の場所でもあり、それらを通じて社会全体の改善を目指そうという理念がある。
   近年は自治体のみならず、一般企業としても地域に目を向け貢献していこうという動きがあり、地域の住民やNPOと一体となり企業責任を果たしていこうという考え方が広まりつつある。
   私たちのほとんどは行政の末端で住民の方々と直に触れ合う仕事をしており、そのような仕事をしている私たちにとって、社会貢献活動は働くうえでも意味をもってくるものであると考えられる。

3. 尾瀬国体支援ボランティア

(1) 尾瀬国体支援ボランティアを行うまでの経緯
   11月~12月に県内の単組オルグを行い、社会貢献活動を取り入れ活動していくという点について、ほとんどの単組から賛同の声をいただいた。今回のこの尾瀬国体に関するボランティアは、そのオルグの中で、尾瀬国体に際し、準備のボランティアが足りないという話が片品村職からあり、県本部として取り組むことを決定したものである。

(2) 尾瀬国体支援ボランティアを実施した目的
   「住民参加型のまちづくり」という言葉をよく耳にするが、これからの行政にとって住民との協働やボランティア団体との協力は必要であり、これからそういった機会は増えていくと考えられることから、ボランティアを提供する側の視点に立っての経験というのも必要になってくるものだと思われる。
   今回の取り組みは、ただ単に「尾瀬国体に協力したい」ということだけではなく、国体という大きな事業を動かす行政の対応、その行政とボランティアの関わり方という観点からも、私たちの今後の業務に活かせるものとなると考える。また、他の単組とも交流しながら社会貢献活動ができることなども視野に入れ活動に至った。

(3) 当日の様子
   早朝からの作業のため、前日から現地入りし、事前会議を開催した。事前会議では、片品村職の三浦青年部長からあいさつを受け、県本部青女部としての社会貢献活動に対する方針を確認した。また、今回の活動における意義の提起を「これからの行政にとって住民との協働やボランティア団体との協力は必要であり、これからそういった機会は増えていくと考えられることから、ボランティアを提供する側の視点に立っての経験というのも必要になってくるものだと思われる。今回の取り組みは、ただ単に『尾瀬国体に協力したい』ということだけではなく、国体という大きな事業を動かす行政の対応、その行政とボランティアの関わり方という観点からも、私たちの今後の業務に活かせるものとなると考える」とし、今回の社会貢献活動に対する意思統一を行った。
   作業当日、「ジャンプ会場」と「クロスカントリー会場」の2班に分かれ、大会事前準備の作業を行った。
   「ジャンプ会場」は、選手が上り下りで使用する200段余りの階段に2メートル以上積もりに積もった雪を除雪するもの。慣れない除雪作業を、日常業務として対応している、みなかみ町職が作業を引っ張り、見事、時間内に作業を終えることができた。
   「クロスカントリー会場」は、コースの両端にポールを立て、ネットを張る作業。与えられた作業は、2区間の2.5kmだったが、時間までに3kmを終えることができた。
   国体運営に協力、貢献できただけでなく、単組間での連係が生まれ、ヨコの繋がりの強化となった。一つのことをやり遂げようとする参加者の熱意と、それぞれの連帯感は凄まじいものがあった。国体事務局、選手、一般客のいる中、元気のある自治労群馬県本部青年女性部をアピールできた。
   今後、ボランティア活動について言えば、活動を続けることにより自治労群馬県本部青年女性部の単組間、組合員間の団結がさらに強まる。ボランティアは、比較的参加しやすいと思う。今まで以上に県本部、単組が一丸となった取り組みに繋がる。組合離れが進んでいるが、このような活動を通し、青年層をも取り込むことが可能ではないのか。

4. 参加者アンケートから

 労働組合における社会貢献活動のありかたについて、尾瀬国体支援ボランティア参加者の参加前後の意識変化から探ってみたい。

(1) ジャンプ台班に参加した率直な感想(みなかみ町)
   一体どんなことをするのかほとんど知らぬまま、メンバー4人(執筆者含)はかり出された感を漂わせながらも片品を目指した。雪掘が主な仕事と知ると、「休みの日まで…」と、安堵感にも似た微妙なテンションのダウン。今回の冬、みなかみ町は例年にない大雪に見舞われ、毎日のように行ったあの繰り返し作業を考えたとき、とにかく夜を楽しまなくてはと思い、前夜祭もとい懇親会でそれぞれが自主規制に引っかかるほどフィーバーした。(一部誇張)
   さて明けて翌朝、頭痛がちな我々が依頼されたのはスキージャンプ台の階段を使えるように掘り起こすという作業だった。使うのは翌日。翌日には多くの選手がこの階段を上ってジャンプしなければならないのだ。が…あまりの雪の量と階段の段数に今日中に作業完了は到底無理とその時思ったが、ふと道具置き場に目をやるとそこには見慣れたスノーシューターが!(雪のすべり台のこと。多少の勾配をつけるだけで、その上に雪をのせると気持ちいいほどサーッと滑っていく)いけるかもと思いながら、みんなが一丸となって階段の頂上を目指した。しかし相手はスキージャンプ台。上に行けば行くほど角度は急になって行く。進めば進むほどキツくなって行くこの作業だがやり終わった時、とても気持ちが良かった。組合活動における社会貢献活動を定義づけることはとてもむずかしい。ほぼボランティアと考えてしまう? いや、それだけでは社会貢献活動という名詞を使う必要はない。今年から重点的な活動としてあげた社会貢献活動。皆さまはどうお考えだろうか?

(2) 参加者アンケートの結果
  ① ボランティアに参加する前の心境
   ・個人では出来ない活動である。
   ・普段の仕事・生活の中ではふれあうことの出来ない作業であること。
   ・国体の現場・会場はどんなものなのか見てみたかった。
   ・興味の持てる内容であるので遊び気分で。
   ・もしかしたら無料でスノーボードができるかも。
   ・たまには人のために役立つことをしてみてもいいかな。
    社会貢献のために参加したという意識はほとんど見受けられず、軽い気持ちで参加した人が多かったようだ。今の若者らしい意見である。
  ② ボランティアに参加した後の心境
   ・普段の仕事で会場作りなどをしたことがなかったので勉強になった。
   ・国体会場の規模に驚かされた。
   ・ジャンプ競技の練習を真横で見ることが出来、とても新鮮だった。
   ・国体に携われたことで、新聞やテレビなどの国体中継に興味を持つことが出来た。
   ・トリノ五輪クロスカントリーを見ていて、競技はともかく、コース設備などにも目に止まり、違う角度で競技を楽しめた。
   ・視野が広がった。
   ・テレビや新聞で現場(雪掘をした階段)が写ったとき自分が誇らしく思えた。
   ・雪かき・雪掘を初めて体験した。(知らない世界を体験できて良かった)豪雪や雪下ろしなどのニュースが目に止まるようになった。
   ・スノーモービルに乗れて良かった(クロスカントリー班)。
   ・全体が一つになり、大きな目標が達成できたときの満足感は格別だった。
   ・組合活動のインドアなイメージが払拭された。
    我々の意図する社会貢献活動における効果とは乖離した若々しい意見ばかりであるが、肯定的な感想が多数であり、一人一人が何らかの形で知識・経験・スキルの向上が図れたことが見受けられる。
  ③ 要望・課題など
   ・交流会(宴会)が作業前にあったことが残念であった。
   ・男ばかりでむさ苦しかった。
   ・社会貢献活動の意味がよくわからない。(組合としてどのような利益をもたらすか)
    日本人の特性なのだろうか、「ボランティア活動をおかずに飲みたかった」という意見が多く、作業終了後打ち上げのパターンを希望している人が多数であった。中には「作業前ならやらなくてもよかったのでは?」という厳しい意見もあった。「やっぱり飲み過ぎて次の日の作業が地獄だった」、「飲み過ぎて反省、脱ぎすぎて反省」という、奥深い意見もあった。今回のタイムテーブルの決定については、国体期間という日程の制限があったことが大きな要因であるが、単組間の交流も社会貢献活動の目的の一つであるので、「飲み会」といえども軽視できない課題である。
    また、作業内容に重労働なイメージがあったからか、女性の参加が少なかったことは残念であった。しかしその反面、得意、不得意、興味有り無しの判断材料として作業内容をより明確化してほしいとの意見もあり、主催者側とすると頭を悩ます課題である。作業内容の表現方法などに工夫を施し、女性が容易に参加出来るような作業を検討していく必要がある。また、社会貢献活動とうたう以上ボランティアに固執する必要はなく、広い視野で活動の計画実行していくことが大切である。

(3) 総 括
   公務員の集まりである自治労が公益的な作業をボランティアとして取り組んだことを知った人々は、私たちを見直すだろう。私たちを取り囲む暗雲を振り払うすばらしいアピールになったはずである。
   私事、民間企業を経て公務員になったとき、組合の存在を知り驚愕した。なぜ、公の力で守られている労働者が、自分の生活の向上を主張しているのか、そらバッシングも受けるで、と。先の不景気で世間は、「公務員はいいね」、「人の税金使って遊んで」、などと被害妄想に似た感覚をみな抱く。また、メディアはそれを煽るかのように、連日、公務員の過剰優遇や、無駄な施設の紹介などといって、大げさに報道する。世間は公務員のことを自分たちの幸せのことだけを考えている集団と認知している。
   この現状を改善するために社会貢献活動を行うことは大変有効である。社会貢献活動を通し、公務員は通常業務はもちろん、それ以外でも社会のために行動している、がんばっているということをアピールできるのである。遠回りのようだが、社会貢献活動を行い、住民に認めてもらうことで、私たちの組合活動を応援してもらうことができ、結果的に幸せをもたらす。
   もちろん社会貢献活動の目的はわたしたちのことだけに限ったものではない。その名のとおり地域社会に貢献し、地域社会全体を改善していこうというものである。もちろんそれは特定の人たちだけが取り組むものではなく、個人、企業、行政、住民など地域社会の上に成り立っているあらゆる枠組みで考えていかなければならない。組合という枠組みは職場の上に成り立っているものであり、その職場は地域社会の上に成り立っている以上、組合が社会貢献活動に取り組む意義も見えてくるはずである。冒頭に「職場の改善」と「社会全体の改善」というのは、同時に考えていかなければならないことであると述べたが、社会貢献活動を行う上では、それらは切り離して考えるものではなく「職場の改善」は「社会全体の改善」の一部なのである。社会貢献活動という言葉は抽象的でわかりにくいが、これらを理解した上で社会貢献活動を行えたなら、やりがいは増し、より一生懸命取り組めることが期待でき、さらに有意義である。
   一方、実際アンケートでもあったように言葉の意味が理解できない若い組合員はボランティアをしたところで賃上げにならないではないかと感じている人が少なくないと思われる。組合の意図に沿っているということの理解を深め、社会貢献活動に対する基本的な考え方を周知するため、並行して学習会などを行っていくことも大切である。
   今、青年女性部で抱えている問題の一つとして若年層の組合離れがあげられる。私たち青年女性部員は組合活動をイコール賃上げ活動と思っている人が少なくない。なかなか組合活動の成果があがらない状況で、集会や、勉強会などを若者はどっちでもいい行事であると感じてしまうことがある。そんな中で、社会貢献活動といった、わりと軽い気持ちで参加でき、かつ組合臭くない活動に参加することで、若者の組合離れを阻止し、組合活動の視野を広げてあげることも大変有益である。また懇親会などを行うことで、いろいろな交流・意見交換・団結力アップを図ることができ、意識改革も期待できる。
   これらを踏まえると、社会貢献活動は青年女性部にとって、その意義以上の効果をもたらすと考えられる。ただ、そのためには主催者側の入念な準備はもちろんのこと、時代に沿ったものの考え方を持って、社会貢献活動が目に見えて生活向上に繋がらないことを踏まえつつも、結果的に自分たちの幸せに繋がるということを分かり易く伝えることが重要である。