【自主レポート】

「避難所給食」の充実と運営の強化に向けた提案

 東京都本部/自治研「地域防災・災害給食」作業委員会
同  港区職労学校職員ボランティアの会

1. はじめに

 阪神淡路大震災以降、学校が大規模災害時の避難所として認識され、中越地震においてもその重要性が再確認された。私たちは、この2つの大災害だけでなく、1昨年の新潟県の集中豪雨、三宅島全島避難と帰島においても、さまざま支援、ボランティア活動を行ってきた。
 このレポートは、そのような体験を通し被災者の立場で考えたこと、すなわち学校避難所は被災者が単に一定期間過ごすというものだけでなく、大きな心的外傷を負われた人たちにとってストレスを軽減し、明日への再起を促すような仕組みが必要だと考えてきたこと、特に学校避難所における災害給食のあり方と、災害給食を運営するための自治労の役割、新しい運動について提案するものである。

2. 大規模災害時の避難所としての学校

(1) 阪神淡路大震災後の課題
   課題を列記すれば、つぎのようにまとめることができる。
  ① 阪神淡路大震災では大量の避難者が発生し、しかも長期にわたった。
  ② 避難者の多くは小・中学校に避難し、長期的には体育館・教室等が避難所の機能を果たすことになった。
  ③ それまでの自治体の防災計画等では、大災害の発生の際には「広域避難所」を指定していた。そのほとんどは大規模な都市公園であった。
  ④ 阪神淡路大震災以降は、自治体が指定する「第1次避難所」は小・中学校があてられるようになっている。
  ⑤ しかし、はたして学校は「第1次避難所」の機能を満足するものになっているであろうか。

(2) 新潟県中越地震での経験―学校避難所の現状
   新潟県中越地震は、いみじくも学校避難所の現状を露呈することとなった。いくつかの事例をあげよう。

新潟県中越地震対策本部の調査結果(第1回調査:11月3日、第2回調査: 11月22日、調査地域はともに長岡市、小千谷市、川口町)
第1回・第2回調査(第1回のフォローアップ)
 

内 容

第1回

第2回

避難所ニーズが伝わっているか

88%

100%

暖かい食事が提供されているか

80%

89% (11%は弁当)

トイレ

数 量

100%

100%

臭い、汚れなどの問題あり

41%

30%

更衣室がない

72%

61%

 
   
新たなニーズ(第2回調査)  

暖房器具が不足している

11%

休養室・安静室がない

65%

 

ない場合必要

11%

プライバシーが確保されていない

89%

 

プライバシーの確保が必要

39%

女性避難者のニーズ

プライバシーの確保
風邪が心配
洗濯に時間がかかる

 
   
子どもを連れての避難で必要だと思ったこと  
(中越地震アンケート集計結果:2006年1月 NPO法人ヒューマン・エイド22)
 

授乳室

オムツ替え専用の場所

乳幼児が過ごせる場所

絵本

玩具

着替え

年齢にあった食事

その他

合計

小千谷市

15

16

40

5

16

36

42

14

184

長岡市

12

15

24

3

6

15

13

10

88

十日町市

7

5

19

4

4

11

19

8

77

見附市

4

8

17

 

4

9

10

3

55

その他

1

4

6

 

1

4

4

 

20

合計

39

48

106

12

31

75

88

35

434

  この2つの例から導き出される現状は次のとおりである。一言で言えば、現在の避難所は多様なニーズに応えられないのである。
 ① 暖かい食事、年齢にあった食事、アレルギー、心的外傷等に配慮した食事ではない。
 ② プライバシーが確保されない(更衣室、オムツ替え、授乳など)。
 ③ 休養室、安静室、病室など、特別な配慮が必要な者に対処できない。
 ④ トイレの数が足りない。
 ⑤ 乳幼児の過ごせる場所がない。
 ⑥ 支えるマンパワー不足、行政サイドの訓練不足。不確定なボランティアをあてにしている。
 ⑦ 自治会・町内会等の地域組織力と支えあう力の低下が著しい。

3. 多様なニーズに応えられる学校避難所にするには

 小・中学校の避難所としての機能を満足させること、それは多様なニーズに応えることのできる避難所にすることであり、生活の場としての機能を充実することである。そのためには、次のことが必要とされる。
 ① 学校を避難所としてはもちろん、地域の防災の拠点、コミュニティの拠点として位置づけ、地域で活動するさまざまな団体との連携を日常的に強化することが重要になる。
 ② 体育館だけでなく、その他の教室等をふくめて、最大規模で何人の避難者をうけいれられるかを検証し、そこに避難するであろう高齢者、女性、子ども、障がい者などのニーズを日頃から把握し、保健衛生もふくめた受け入れ体制を整えておかなければならない。
 ③ ②のためには、①の活動を通じて学校関係者(教委、校長、教員、職員など)との協力、社会福祉協議会や民生委員、NPO等と連携した活動の実績を積み上げておくことが求められる。
 ④ 学校施設も、体育館を大規模避難所として想定すれば、可能な限り体育館の近くに給食調理室、保健室などを設置することが必要になる。
 ⑤ さらに高齢者、障がい者、病弱者、乳幼児などが安心して生活できる場所(教室等)が容易に確保できるように、またプライバシーに配慮した部屋が確保できるように、日ごろから想定しておくことが求められる。遺体安置所を学校に求めるなら、温度の低い場所にすることも考慮されなければならない。
 ⑥ トイレも車椅子や障がい者が安心して使用できる「だれでもトイレ」の設置や、避難所となった際に求められる数の確保のために、災害用仮設トイレの設置をあらかじめ想定した下水道管の布設などをすすめなければならない。
 ⑦ 仮設水洗トイレ用の下水道管の布設は、災害時には仮設トイレ用下水道管に設置されたマンホール上部に仮設トイレを組立・設置し、下水道に汚物を直接流す。これによりくみ取りの必要がなく、クリーンなトイレを保つことができる。下の写真(上段2枚)は都立野川公園のものであるが(ここでは井戸水汲み上げ用手押しポンプも設置されている)、学校においてもすすめられつつある。

神戸震災時・長田区長楽小学校仮設トイレ
 
新潟中越地震・柿小学校

4. 避難所給食の提案

(1) 避難所生活に対応するメニュー(テーマは、美味しく・楽しく・元気になれる)
   避難所給食は、自校方式の学校が持つ給食設備や給食調理員などの資源を活用することが重要である。そして、1ヵ月から2ヵ月に及ぶ避難所生活に対応するメニュー、年齢やアレルギー、宗教などの個別需要に応えられるメニューを準備しておくことが求められている。
   次のメニューは、日本調理科学会がNPOなどと協力して作成した2週間分のメニューである。できるだけ普段に近い食事で安心させるという点と、地方別のメニューも考えており下記の例は関東版である。今後、自治労の活動の中で、臨床栄養学的見地も加え、さらに工夫したメニューの作成を実践していく必要がある。
   「食べることは生きること」「生きることは食べること」、「食」は全ての活動の源である。発災当初は備蓄されている乾パンやアルファ米等の非常食の提供になろうが、出来るだけ早く避難者個別のニーズを探り、その場で栄養計画を立て、出来たての温かい食事を提供する必要がある。また、被災者と作り手が顔の見える関係の中で、相手を想い心を込めて調理するのが避難所給食のあるべき姿だと考える。この「心」の問題、「心に配慮する」といった視点が欠如しているのも現在の避難所の大きな問題点である。
   <参考資料> 日本調理科学会作成災害時の食事メニュー(協力NPOキャンパー)

(2) PTSD(心的外傷後ストレス)への対応
   避難所生活の中では体調をこわす人が多い。PTSD(心的外傷後ストレス傷害)の子どもなどをケアできる体制を整えておくことも重要である。ここで私たちが提案したいことは、避難所給食の提供を通じたPTSDに対する効用である。中越地震において行った炊き出しでは、ボランティアとして笑顔で接することによって、子どもたちが笑顔を取り戻す様子を実感することができた。普段からの子ども達との接し方や訓練で、災害時の心の問題にも私達職員が対処出来ることがある。PTSDに対しては、もちろんその専門家の派遣が行われなければならないが、心理面と食事の関係を研究した避難所給食の重要性も指摘したいのである。
 
 
(新潟中越地震支援)

(3) 都市ガスからプロパンガスへの切り替え方式の提案
   大災害時に都市ガスの供給がストップすることを想定すると、この課題は避難所給食だけでなく通常の学校給食においても重要だと思われる。すでに名古屋市においては、ノズルチップ交換方式(回転釜のバーナーに組み込まれている都市ガス用ノズルチップをLPG用ノズルチップに部品交換する)を取り入れ、この「プロパンガス切替え装置つき回転釜」の設置学校は47校になっている(すべて小学校―05年4月1日現在)。しかし切り替えには、ガス事業者が行っても約1時間を要するという難点がある。
 
 
名古屋
   これに対して、昨年から世田谷区が導入している緊急用予混合方式(プロパンガスと空気をあらかじめ混合し、都市ガスの設備のまま使用でき、また停電になっても使用可能なもの)は、きわめて優れているものである。昨年から名古屋と同じ方式から切り替え始め、すでに10校整備されている。今後は、すべての自治体がこの方式を取り入れることを提案したい。
世 田 谷


(4) 自治労の重要性
   避難所の運営は、自治労としても阪神・淡路の貴重な経験があり、また自治労関東甲地連の中越地震での経験もある。そこで重要なことは、1ヵ月や2ヵ月の長期にわたる避難所運営は、全国から職員のローテーションによる派遣ができ、さらに多様な職種のいる自治労が最も得意であるということである。これは被災地の行政の負担を大幅に軽減することにつながる。
   自治労には栄養士、調理士はもちろん、日ごろから子どもたちとの付き合いに慣れている用務など、貴重な人材が豊富である。現業職員が誇りをもって活動するためにも、避難所給食に取り組む意義は大きい。避難所給食は、1日3食を提供する。そのためには、1つの避難所に10数人の要員が必要になる。ローテーションが意味をもつのは、避難所給食規模が大きいことが最大の課題だからである。
   私たちもさらに研鑽を積んでいく決意であるが、思いを同じくする全国の自治労組合員の皆さんにも、このレポートを通じて呼びかけるものである。


5. 市民とともに歩む新しい組合活動

(1) 自治労運動の課題
   自治労の最重要課題として、市民の中に入り、市民を巻き込む運動を展開していくことにあることは、これまでの数々の研究や取り組みで必ずといってよいほど提起されてきた。しかし、敷居が高いとか、腰が引けてしまう、といった言も聞かれるほど困難な課題であったと思われるが、この課題に対する挑戦こそ公務員攻撃に対応し、理解者や味方を増やすためには必要不可欠な取り組みである。

(2) 組合として、防災やボランティアに取り組む価値と業務との関係性

(港区総合防災訓練で災害給食の試食会)
      災害列島と呼ばれる我が国にとって、防災・減災は全ての人の共通課題である。そこで、誰もが必要とする課題を切り口とし、組合の行う社会貢献活動やボランティア活動という形態で、被災地支援や防災訓練、また、防災セミナーや授業参加に取り組むことの意義も報告し提案したい。その特徴は次のとおりである。
 ① ボランティアという言葉は人々の中に、抵抗感なく受け入れられるという特徴がある。
 ② 外に開かれた自由な発想と活動が可能となる。
 ③ 軸足を被災者や市民に置き、真剣に活動することによって、親近感・信頼関係が生じやすい。
 ④ 自治会や町内会を始め、関係機関やNPO、企業などとも協働しやすい。  
 (防災問題は区民・議員にも直接訴える活動が可能)
 ⑤ 組合の持つ「仲間だけの利益」から、市民の事も考え行動しているというイメージを市民や被災者の方達に湧かせることが可能である。
 ⑥ 議員やオンブズマン、マスコミの理解や応援も得やすい。少なくとも批判はされにくい。
 ⑦ 活動で得たことを本来業務に活かせる可能性も高く、付加価値の増加につながる。
 ⑧ ボランティアを教える教師が体験のない場合が多く、体験を伝えることでその援助が出来る。
 ⑨ 災害支援や防災の取り組みは、自治労のスケールメリットとネットワークが活用できる。
   これらから明らかなように、業務上からみても特に大災害時は必ずと言ってよいほど学校避難所が利用される。そこで働く職員にとって、スムーズな運営と被災者のストレス軽減を含む生活支援は、どの職種にとっても重要な業務上の課題だと認識すべきである。これまでの私たち取り組みでも、市民の反応はすこぶるよい。防災問題はまだまだやるべき課題が多いことを考えると、私たちにとっても、また、組合組織にとっても有効な取り組みだと実感している。

 

 

  (子どもたちに防災授業を行う現業職員)
 

(3) 民間委託業者との差別化を図り、公務員労働者の価値を上げるために
   公務員労働者が民間のコスト・効率論に打ち勝つためには同じ土俵ではなく、別次元の可能性を創造していくべきだと考える。これは利益追求が至上命題の企業ではできにくいこと、採算が採りにくい部分や苦手な部分、さらには高い精神性を持った取り組みが必要なところである。また、取り組みに際しては「答えは相手の中にある」という点と、「Win-Winを考える」つまり、相手も私たちも含め、皆が勝利し満足するという事を意識し、企画や取り組みを進めることが大切である。様々な地域団体や企業、NPO、ボランティアの人たちと協働してきたことは、私たちにとって自らの狭い見識の壁を取り払い、自らの可能性という大きな裾野を広げる結果となった。

(4) 当局との交渉だけでなく、市民の理解と共感を得るたたかいを
    既得権を次々にはがされる、あるいは手放さざるを得ないのを見ても明らかなように、市民や議会が納得できないものは潰されてしまう。これからのたたかいは市民を味方につける戦略が不可欠と考える。
   全国の各単組が、この防災の取り組みを始める意義は大きい。中でも避難所給食は必ず役に立つし、説得力を持つ取り組みといえる。
   これからも日本で大災害は必ず起こる。日本だけでなく近年は世界的に異常気象等もからみ、自然災害が急速に増えている。そのようなとき、全国の自治労の仲間が結集・協力し、被災者のために働く姿を想像してほしい。美味しく温かな出来たての食事を提供し、生きている喜びを実感しながら食事をほおばる被災者の顔を想像してほしい。スピーディに被災地に駆けつける体制が出来たとき、きっとテレビや新聞には、自治労の働く仲間の姿が映し出され、多くの人に共感を持って迎えられるに違いない。この取り組みは人の命と生活を守るためだけでなく、私達の存在価値を高めることが可能である。さらには、次代を担う子どもたちへの総合学習等の教育の一環としても有効で、さらに継続して研究を進める必要性を感じている。