【自主レポート】
民間活力の活用について
愛知県本部/常滑市職員労働組合 村田 聰
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1. はじめに
近頃、国において構造改革が進められるなか、「民間でできることは民間に」を基本に民間事業者への規制緩和など行政サービスの民間開放が進められ、民間によるサービス活動の領域が拡がっています。
また、地方分権が進められており、地方自治体の業務は複雑化しています。拡大、多様化する市民ニーズに対応するため、民間の活力を導入する動きが高まっていますが、単に民間に委ねれば良いというものではなく「なぜ公共サービスなのか」、「なぜ今まで公務員がそのサービスを提供してきたのか」という理由をよく考えなければなりません。しかし同時に、実は民間の手法に任せた方が効率良く、より利用者に即したサービスができるのではないだろうか、という考えも必要で、民間に習う部分があることも確かです。そこで、より良いサービスの提供のために考えられているのが『民間活力の活用』です。
当市におきましても、行財政改革を進める中、市民病院の給食調理、広報誌等の配達業務などの民間委託、市立養護老人ホームの民間委譲、温水プールへの指定管理者制度の導入を実施しています。
今回は、近隣でも民間活力の活用が進められている図書館に焦点を絞って考えてみたいと思います。
2. 図書館の現状と問題点
現在、図書館は市の正規職員とパート職員によって運営されており、正規職員は主に図書館全体の管理運営、蔵書の管理を行っています。具体的には、本の選定、展示室の利用、他の図書館との協力業務を行っています。
パート職員は、利用者に対しての図書の貸し出し業務を行っています。
では、図書館にはどういった点で利用者や職員に不便な点があるのかみてみましょう。
第一に、施設の老朽化が挙げられます。当市の図書館は、建設されてから既に30年以上が経っており、設備にしても旧世代のデザインが施されています。図書館は、身体に障害のある方や高齢者の方、小さなお子様連れの方など色々な方が利用する施設です。しかし、これらの方が利用できるスロープやエレベーターなどは無く、多目的トイレもありません。本棚の高さも平均的な成人男性の身長より高いので、身体の不自由な方は、階を移動するときだけでなく、本を探すときにも苦労をしなければなりません。
第二は、職員の専門性が挙げられます。市の正規職員にはジョブローテーションがあり、一つの職場に配属されている期間は通常5~6年間です。そのため、その分野の専門的な知識を習得しても、それを活かせる期間は短くなってしまいます。もちろん、図書館司書の資格取得などがあり、図書に必要な知識の勉強はします。しかし、せっかく知識を得ても、5~6年経てば別の職場に異動となってしまい、新しく別の職員が配置されて、始めから勉強しなければならなくなります。これでは、専門性を保つのは難しく、読みたい本や調べたい事柄について利用者から尋ねられたとき、すばやく的確に対応できない場合があります。現在、専門職員として図書館員を採用していない以上、この専門性とジョブローテーションは、大きなジレンマとなっています。
第三は、図書館で扱う資料は本だけではないということです。図書館でも、CDやDVDなど、本以外の多くのメディアを取り扱うようになりました。このことは、利用者にとっては大変便利なことです。また、図書館にとっても、より多くの方々に利用してもらえる機会が増えることになるので、良いことではないでしょうか。しかし、扱うメディアが増えると、それだけ予算もかかります。図書館を運営している自治体の予算によっては、満足に資料を揃えることができず、利用者のニーズに対して十分にサービスを提供できないということにもなります。
職員の業務
正規職員 |
本の選定
展示室の利用
他の図書館との協力(本の相互貸借) |
パート職員 |
貸し出し業務 |
図書館の問題点
施設の老朽化 |
スロープ、エレベーターが無い
多目的トイレが無い |
利用しづらい |
職員の専門性 |
専門職員がいない
ジョブローテーション |
専門性が保てない |
本以外の多様なメディア |
揃えるには予算がかかる |
十分に提供できない |
これらの問題点を解決するのに、民間活力はどのように有効なのでしょうか。
3. 民間活力活用の手法
民間活力の活用については、次の4つの手法が考えられています。サービスの種類に応じて、どの手法が適切か検討しなければなりません。
・民営化
事務事業の全部または一部の実施主体を全面的に民間に移行すること
・PFI(Private Finance Initiative)
公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、運営能力、技術力を活用して行うこと
・指定管理者制度
地方公共団体の指定を受けた法人その他の団体が施設の管理を代行すること
・民間委託
事務事業の全部または一部を民間企業や外部の団体、個人等に委託すること
(1) 民営化
民間の受け入れ体制が整っており、民間が実施主体となって役割を担うことが十分に可能かどうかを考えなければなりません。図書館の設置については図書館法で規定されており、公立図書館を設置できるのは地方公共団体だけ、私立図書館についても日本赤十字社などに認められているだけで、民間の受け入れ体制が整っているとは言えません。また、公立図書館は入館料その他の利用料などを徴収することができないため、民営化には不向きです。
(2) PFI
三重県桑名市の桑名市立中央図書館が、このPFI方式で運営されています。桑名市の場合は保健センターなどを含む複合施設であることや人口規模の違いなどから、単純に当市の場合と比較はできないと思います。しかし、PFIは事業範囲を施設の建設または改修と管理、運営がセットになるため、現在の施設をそのまま使用する場合には選択対象とはなりません。施設の新設または改修を含めて考える場合には有効と言えます。
(3) 指定管理者制度
公共施設の管理代行を民間で行う手法です。図書館の管理運営ができるノウハウを持った民間事業者等を管理者に指定することで、効果が得られます。
(4) 民間委託
大府市などが実施している手法です。窓口サービスなどの定型的な業務や専門的な知識を必要とする業務など、具体的な業務の実施を民間に委ねます。現に実施している事務事業について業務の整理、分類を行ったうえで、必要な業務だけを民間に委ねることができるため、最も実施しやすいと言えます。
4. まとめ
図書に関する専門知識を有する民間の能力を活用することで、現在、図書館で問題となっている職員の専門性についてはクリアできると思います。経費の節減を図ることで、資料を揃えたり、老朽化した施設を改修したりする予算的な余裕ができる可能性もあります。
しかし、メリットばかりとは限りません。コストが削減できても、サービス水準を保てなければ本末転倒ですし、個人情報などの機密が漏れる心配もあります。
そのようなことが無いよう、市の監督が十分に働くようなチェック機能を持っておくこと、契約において責任や義務を明確にしておくことが必要です。ただし、過度の干渉によって民間の努力を阻害することの無いようにしなければなりません。
また、民間に職場を明け渡して、そのまま行き場が無くなるようなことの無いよう、職員の配置の見直しを併せて行うことも重要です。
当市では、職員構成比の高い年代層の退職時期を迎えようとしており、一般行政職の定年による退職者は、2003年度から15年間で300人となることからも、将来を見据えた民間活力の活用と、職員配置の見直し、新規採用をバランス良く実施していくことが必要ではないかと思います。
5. 最後に
レポート作成にあたってご協力をいただいた自治労愛知県本部、桑名市職員労働組合、桑名市役所市長公室政策課PFI推進係、常滑市立図書館その他の皆様に厚くお礼申し上げます。
<参考>
自治研部会開催日程
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日 付
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内 容
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第1回
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1月26日(木)
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自治研レポートの大まかな内容について |
第2回
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2月16日(木)
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先進自治体視察、図書館職員への聞き取り調査について |
第3回
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3月09日(木)
|
図書館職員への聞き取り調査(現状) |
第4回
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3月16日(木)
|
先進自治体視察『くわなメディアライヴ』…三重県桑名市 |
第5回
|
4月17日(月)
|
自治研レポート(案)の作成について |
第6回
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4月27日(木)
|
図書館職員への聞き取り調査(問題点) |
第7回
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5月11日(木)
|
図書館の現状・問題点について |
第8回
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5月29日(月)
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自治研レポート(案)協議 |
第9回
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6月16日(金)
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自治研レポート(案)協議 |
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