【自主レポート】

自然災害等の対応に向けた提言
~大規模災害(阪神・淡路大震災と台風23号による水害)の経験から~

兵庫県本部

1. はじめに

 未曾有の大災害といわれた阪神・淡路大震災から11年が経過した。その後、兵庫県下において北播磨や円山川流域、淡路島の市町等においても台風に見舞われ、その結果水害等の多くの被害が勃発した。また、国内外においても新潟中越大震災をはじめ、ニューオリンズ地域でのハリケーン等、自然災害が数多く発生した。いつ、どこで、どのような規模の自然災害が発生するかは全く予測できない。日頃から市民、地域との連携を深め「自分の命は自分で守る」「地域の安全は地域で守る」といった防災意識の向上、公共施設や個人住宅等の耐震化の促進等、災害に強い都市基盤の整備が必要である。

2. 阪神・淡路大震災の教訓と反省点

 未曾有の大震災に見舞われ、県内の多くの地域で、死者・負傷者をはじめ、家屋の倒壊、火災が発生した。また、道路交通の遮断、水道、ガス、電気等のライフライン、通信手段等にも大きな被害をもたらした。
 今回の災害で体験したことの問題点、反省点等を教訓として生かし、今後の災害時に役立たせることが最も重要である。自治体や住民が災害対策を進める上での基本的な考え方は、①日頃から個人・地域とのつながりを深め、安全・安心の取り組みを進める、②自助・共助・公助の役割分担と「安全は自分で守る、地域の安全は地域で守る」という認識をもち、それぞれが役割を果たす、③事前・事後及びハード・ソフトの対策を行い、総合的な防災対策として被害を最小限に抑えることのできるマネージメントを行う、④公共施設や個人住宅の耐震化促進を図り、災害に強い都市基盤を構築する、⑤他都市の災害を含め、経験と教訓を語り継ぎ、災害の備えとすること等である。

3. 災害対策本部の設置とその在り方

 大規模災害の場合には、各自治体に災害対策本部が設置されるが、統一的な指揮命令系統の確立、迅速で的確な情報提供が求められる。災害対策本部の役割は、①被害情報の全体把握、②迅速な初動体制の確立、③効果的な災害対応、④広域支援の要請、⑤復旧・復興施策への円滑な移行等である。そのため、災害対策本部から第一線現場までの縦横の組織的な指揮命令系統の確立によって迅速で的確な災害復旧活動につながる。

4. 災害発生と情報提供について

 自治体は、自然災害発生後、速やかに情報収集し災害対策にあたり、被災住民に災害関連の情報を迅速かつ正確に提供する必要がある。しかし、災害発生時には、ライフラインの寸断等による情報不足、災害対策本部からの情報やマスコミ報道、住民情報等が錯綜し混乱する場合も見受けられる。また、視覚・聴覚等の障害者や外国籍市民等の「災害弱者」は、それぞれの情報源にアクセスすることが困難な状況にもあり、すべての住民に対して迅速かつ正確に情報提供できるシステムづくりが求められる。自治体では、広報手段として「災害時における放送要請に関する協定」にもとづき、地元メディアに「災害弱者」に配慮した放送要請を行っている。一方、災害時には多くのマスコミが自治体の災害対策本部や現場に情報収集に殺到し、自治体現場はマスコミ対応に追われることもある。いわゆる「プール取材」についても検討する必要があり、日頃からマスコミ機関との協力関係を築いておくことが必要である。また、自治体間で危機情報の収集・提供体制、情報の共有化に資する危機管理情報システムを構築しておくことが求められる。

5. 災害被災状況の調査及び確認

 災害被災状況の調査・確認は、早期の全体被害像の把握、迅速な初動体制の確立・広域支援の要請、円滑な復旧・復興施策に対応する上での基礎データとなる。とりわけ、地震等の突然の災害については、初動期の救援体制にも関わることでもあり、被災直後の被災者の安否確認が優先されなければならない。このことからも地域における日常よりの防災体制と防災対策本部との連絡体制、災害弱者の把握と情報提供が求められる。
 また、倒壊家屋の状況をはじめ罹災状況は、その後の災害義援金・貸付金等の適用にも大きく関係するため、災害被災状況の調査は、公平かつ正確な調査・確認が必要なため専門的な知識をもつ職員が対応すべきである。災害被害調査の迅速化と統一化をはかるため、すべての自治体で日常的に専門的な知識をもつ職員養成が求められるところである。
 各自治体で発行される罹災証明の使用範囲については、行政権限や責任が及ぶ災害見舞金をはじめ義援金や税の減免、保険料の減免等に限定すべきである、一般の各種融資や保険業務については、それぞれの関係機関が責任をもち独自に調査すべきである。

6. 避難所の開設・仮設住宅の建設と避難住民の受け入れ

 避難場所・避難所の確保にあたっては、各自治体の人口状況・分布等をふまえ、自治体が指定し、避難状況、被災状況に応じて開設されている。避難所の開設にあたっては、自治体の広報誌やホームページを通じて住民に周知する必要がある。避難所の解消策としては、避難住民の意向を確認し、住宅確保・あっせんの努力を行い、最終的な恒久住宅へつなぐことが必要である。
 大規模災害の発生後、様々な地域、関係者から善意の救援物資が搬送されるが、マスコミ報道等とも協力して、不足している救援物資、必要としている救援物資の品目と必要数、現地への送付方法、物資の中味の表示等について明らかにするよう要請しておく必要がある。自治体にも、必要な物資を必要な時期に必要な場所に届けるようなシステムが求められている。また、義援金が最も望ましいことを率直に訴えるべきである。
 仮設住宅は、市保有の空地、公園等と民間用地の確保により建設されるが、今後、大規模災害に備えて広域空地が確保できる街づくりが求められている。
 また、大規模災害の場合には、仮設住宅での生活期間が長期に亘ることが多く、独居高齢者や障害者については、地域社会のコミュニティに配慮した入居としなければならない。
 保健所や公的医療機関等は、災害発生後の初動期には、負傷者の搬送・収容・救護活動に速やかに対応できる体制が求められるが、さらに避難所や仮説住宅への巡回訪問や指導等の役割を担う必要がある。また、大規模災害時には、不幸にして多くの犠牲者が発生する可能性があり、遺体の収容所(仮安置所)と搬送車両や火葬場の確保にむけた周辺自治体との広域の協力関係も求められる。

7. ライフラインの復旧と確保

(1) ライフライン(生命線)の重要性と意義
   ライフライン(水道、下水道、ガス、電気、電話)は、人間が生きていくのに欠くことの出来ないものばかりで、まさに生命線と呼ばれる要因で、あらゆる大災害に対する事前対策、復旧、復興の準備が必要である。

(2) 被害の規模と特徴
   上下水道の被害は施設、管路、装置(設備)などにおよぶが、災害の種類によって内容も変わる。下水道は給水開始によって被害が分かるという特徴を持っている。
   ガス・電気には緊急遮断の設備が重要で、災害経験によって改善されてきた。
   電話は、回線交換の能力以上の使用数によって使用不可能状態が考えられる。

(3) 初動体制
   発災直後は、被害の内容、規模を早期に把握し、的確な情報によって、的確な判断を下す初動体制の確立が重要である。水道の火災発生に対する対応、生命に係わる応急給水、電気では病院など生命に係わる給電などが急がれる。下水管路では流入土砂の「排出・洗浄」の対策を初動体制で準備する必要がある。

(4) 復旧・復興
  ① 災害規模・被害規模の想定―防災計画は、実際の応用編を明記することが重要で、耐震状況や危険性の事前抽出によって情報を把握し、シミュレーションによる被害想定を行って、具体的な体制を確立しておくことが必要である。
  ② 復旧の優先順位とその方法―関係者の合意を前提に、復旧の優先順位を事前に確定しておき、復旧の方法についても、事業体内で事前に方針を確定しておく必要がある。
  ③ 財政の確保―ライフライン事業の災害に対しては国民の生命・財産を守るため、官・民を問わず公的資金補助のルールが必要である。公的な復旧・復興に向けての行財政制度・共済・保険制度も有効である。

(5) 災害に強いライフラインの整備
   大規模の災害に対し、被害を最小限にとどめ、住民生活を支え、早期の復旧・復興を進めるには、日常から対策を講じることが必要である。ライフラインの災害に強い施設づくりには、各事業体の様々な条件が前提で、検討・研究する必要がある。日常業務において災害を強く意識した維持管理が重要で、平常時に各施設、資機材の点検・パトロールを行っておく必要がある。原材料の複数確保はもとより、基幹施設の複数化・分散化、管路(配線)の系統多重化や相互連絡、ブロック化等が有効となる。

8. 交通手段の確保

 すべての災害において交通手段の確保が重要といえる。避難用の道路の確保をはじめ、人命救助、負傷者の救済等、人命にかかわる搬路の確保は初期活動における重要課題である。また、公共交通機関の確保も同様に重要である。大規模災害の場合は、道路が利用可能であっても車両の集中により大渋滞が起こり、通行できなくなる。従って、交通規制による優先ルートを決め、人命救助にかかわる緊急車両、消火活動の車両等の事前優先対策が必要である。災害を想定して、交通手段のあらゆる方法を検討し、個々人も有効な交通手段を用意しておくべきである。

9. 大規模災害時の県の役割

 大規模災害が発生したとき、県や市町村等の諸機関の役割分担を明確にしなければならない。市町村の役割は、基礎自治体として常時住民と向き合って仕事をしており、災害発生時もその役割は被災住民への対応を中心に明確である。
 大規模な自然災害発生時の県の役割を明確にし、整理しなければならない。
第一は情報の共有である。
 第二に救援物資のとりまとめと公平な支給である。
 第三に被災自治体が複数もしくは広範囲に及ぶときの応援態勢の構築である。
 第四に県からの職員派遣体制の構築である。

10. 他都市からの応援態勢

 大規模災害が発生すると、被災経験をもつ自治体から、経験を生かしたアドバイスができる職員を派遣し、初期対応、災害対策本部の立ち上げに協力することが重要である。必要な人員等の派遣調整は県を通じて行い、受け入れ自治体に混乱を生じさせないことが必要である。
 災害規模が広範囲に及ぶ場合、現場業務に対応できる職員は限られてくる。特に、建築・土木技術者を中心に災害調査を行う段階で人員体制の充実が必要である。自治体は県内の災害被害が発生していない自治体に応援体制を求めることとなるが、被災自治体が複数もしくは広範囲に及ぶとき、被災自治体が必要とする職種別、職能別の応援職員の人数調整や派遣先、派遣可能な応援職員の確保について調整機関としての県や県民局が、迅速に対応できるシステムの構築が必要である。
 近畿を中心に2府7県が廃棄物処理について、人、機材の提供を含む相互協定を結んでいる。大規模な自然災害を想定した、自治体間の「派遣協定」や、各自治体においても労使間で労働条件について「災害対応協定」を結ぶことが重要である。

11. 職員等の労働条件の在り方

 自治体の職員等の大規模災害時の労働条件等はどうあるべきか、をあらかじめ個別の労使間で協議・検討しておく必要がある。
 災害が発生以降では、物理的に労使間での交渉は困難であり、事前に平時から災害発生時に備えた労使間での協議やそれに基づく協定等は極めて重要である。第一には当該自治体内の労使間の交渉による包括的協定では、個々の自治体の災害対策マニュアルの各レベルに連動した労使間での協議を経た人員の配慮や処遇、その任務(職務)等を考慮すべきである。第二には公共民間を含む公共サービスの担い手を想定した民間事業所における協定づくりの自治体側の指導責任である。地方自治法改正に伴う指定管理者制度や今国会で成立した「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(市場化テスト法)の施行は、一層の公共サービス部門の外部委託を結果するきらいがある。その際に、公共民間部門への公契約の中で上記自治体に準じた事業所内の労使の協定・協約を必至とする、分野の検討は必要である。また、そういう事業所への自治体の指導姿勢が急がれる。

12. 公共対人サービス部門の民営化の課題と問題点

 災害の復旧・復興を迅速に行うには、現業職場を含む公共対人部門を担う「直営職場」の役割が重要である。人的な面ではライフラインの復旧にかかる職員をはじめ、救護や保健活動を担う職員、災害に伴うゴミや廃棄物処理、修繕部門にかかる職員、資機材ではゴミ収集車や防疫のための消毒車両等である。直営部門の民間委託・縮小に拍車をかけているが、大規模災害の発生時に「ゴミや廃棄物処理」にかかって直営部門が大きな役割を果たしている。
 また、福井県の水害や中越地震の際にも自治体の「直営職場」が現地に応援に駆けつける等、民間では困難な事態に対応できている。一方、旧豊岡市の水害被害の際には、「自治体に直営職場」がなく、他都市にその多くを依存しなければならないという事態も生じた。日常的に作業に携わっている職員がいなくなった場合、大量に排出される災害ゴミの量から収集車を何台必要とするか、処理にどの程度日数・時間を要するかといった判断をすることが困難であり、応援要請等の迅速な対応ができていない。当然、他都市で発生した災害を支援することもできない。住民の「安心・安全」の確保は行政責任である。自治体の規模にかかわらず他都市の応援に応えられる「対等・互恵」は自治体間の原則でなければならない。
 また、多発する自然災害に対し、県単位や市町村単位で「災害時の相互応援協定」が結ばれつつあるが、労働組合間でも当局を巻き込んだ、直営を基本とした「相互応援協力協定」(仮称)を早急に締結する必要がある。

13. 自然災害と市町村合併

 兵庫県においても市町の合併が進展している。県内の市町数は、1999年3月末日には21市70町だったのが、2006年7月時点では、29市12町となっている。
 市町村合併の結果、市(町村)域は広くなり、人口規模は大きくなるが、合併効果を追求することで、本庁機能の集中化が行われ、支所・出張所など出先機関や公共施設等において人員も含め縮小・統廃合が行われる。
 また、合併の目的のひとつである人件費等の削減のために行われる、定数削減、事務事業の民間委託等の「経済効果面」が引き起こす影響は、災害現場での「人員・施設不足」の状況となり、住民の命・財産を守るべき自治体の責任が果たせなくなる恐れがある。
 市町村合併後の自治体の姿は、地域で住民が安心して暮らせるシステムをどう構築するかにかかっている。各自治体においては、「災害時の対応」に焦点をあて、広域となった自治体における「防災計画」や「防災マニュアル」の検証・策定が求められる。

14. 関係機関との連携

 災害防止対策、災害復旧・復興には消防や警察、自衛隊等との協力・連携は欠かすことができない。災害時に防災機関が円滑に連携し活動を行うには、日頃から「顔の見える関係づくり」が重要である。神戸市では、総合防災訓練での連携訓練、災害医療に関するワークショップを開催するなどして消防、警察、自衛隊、海上保安庁等が一緒の課題に取り組み、協力・連携体制の充実に努めている。

15. 単位消防の強化と災害救助の在り方

 自然災害が多発する日本列島で災害に対応する組織が確立されていないことは、住民生活にとっては危機的な現状である。災害発生時には、基本的に単位消防署が重要な役割を果たすことになる。災害救助体制を強化するためには、各自治体の消防力を強化していくことが必要不可欠となる。そのためにも消防職員の処遇改善と職員定数の充足が課題である。また、住民生活を守るためにも、戦争のための自衛隊でなく自然災害への訓練や装備をもつ別の組織を創設することが課題である。全般的な検証は必要となるが、災害救助体制の強化を考えるとき、憲法違反の自衛隊の段階的解消にもつながる自衛隊の災害救助隊(仮称)への再編を行うことが具体的かつ効果的である。
① 現在の自衛隊組織の三分の一から二分の一を災害救助隊(仮称)へ再編する。
② 予算については、防衛費を削減し災害救助隊(仮称)関連予算として組み替え、国の予算より支出する。
③ 施設や訓練場所については、自衛隊基地の一部をこれにかえる。全国をいくつかのブロックに分け設立するとともに海外支援部隊についても創設する。
④ 災害救助隊(仮称)の出動などの権限については、各地方の知事会等の代表者として、災害時での出動が迅速に行われるようにする。海外等への出動については、内閣総理大臣が行うものとする。

16. 労働組合の役割

 自然災害時には、自治体に働く職員の率先した業務遂行はもちろんであるが、一方、労働組合としての責務も有している。最低限の人員確保に努め、直営堅持を重要視しなければならない。また、災害時に備えての人員増は困難だとしても退職・長期休職者は正規職員で対応すべきである。
 災害時といえども組合員の健康と安全を守ることが重要である。組合員の健康と安全を自衛策に委ねるのではなく、労働安全衛生の見地から、事前に健康と安全に関し対策を講じておくべきである。そのため、安全衛生委員会は、随時、開催できるよう協約・覚書等により労使双方で確認しておく必要がある。
 また、災害に見舞われた職員は勿論、その家族が被災した場合の状況把握や援助に対する対応を事前に確立することが必要である。
 災害対策従事者の意思や要望を代弁し、活動をより民主的にすすめることを保障するため、労働組合役員を災害対策組織に配置することも考慮すべきである。
 また、他の労働組合との交流・ネットワーク、上部団体の共同行動や連携に加えて、職能団体としての威力も発揮される。その他、労働組合による地域での活動や労働組合から国、都道府県、市町村へ財政的支援等を中心に働きかけることも必要である。

17. 法令関係

 震災後、新たな法律制定や従前の関係法の改正があった。被災者生活再建支援法では、居住安定支援制度の新設等はあったが、建物自体の建て替えや補修に対する使途は認められない等の厳しい内容となっている。また、災害救助法や被災者生活再建支援法の適用条件についても、被災という点では大小にかかわらず適用する等、条件等の緩和を再考する必要がある。