【論文】

公営住宅の今後のあり方についての一考察

 大阪府本部/特定非営利活動法人・共生と自立のまちづくり・ふれあい 
矢田地域労働組合 濱本  哲・山田  望

1. はじめに

 今日では年々高齢化が進んでおり、団塊世代と呼ばれる第1次ベビーブーム世代が2015年に高齢期を迎えると、その10年後に高齢者人口はピークを迎える。また、核家族化や同居率の低下が進み、高齢者のみの世帯の急速な増加や多世代コミュニティの弱体化などが起こっている。同和地区をとって見てみると、昭和初期には、地区内に3000人を越える人々が生活していたが徐々に減少し、地区内人口はその三分の一となり、低所得者や高齢者層の増加(図―1①参照)、若年層の流出と高齢化(図―2参照)が目立つようになってきた。最近の人口流出の大きな原因の1つとしては家賃であるのではないかと考えられている。以前は、「箱家賃(一律家賃)」(※1)であったが、1996年に公営住宅法が改正され、その2年後の1998年4月から「応能応益家賃」(※2)が適用されることになったのでその影響があるのではないかと考えられる。

2. 高齢化社会に向けて、必要な「住まい」とは……

 高齢者人口の増加はこの15年(1990年~2005年)で65歳の人口が505万人増加、75歳の人口が624万人増加、高齢者世帯の増加は65歳以上単身は203万世帯増加、65歳以上夫婦は235万世帯増加という数字が出ている。こういった高齢化が進む中、高齢者の居住のあり方が見直されてきている。
 高齢者に対する施設や住宅は様々なものがあるが、ここでは6種類を挙げて比較してみる。
 第1に、介護保険による施設がある。施設には特定介護老人福祉施設~特別養護老人ホーム(特養)~(※3)介護老人保健施設~老人保健施設(老健)~(※4)、指定介護療養型医療施設~療養型病院(老人病院)~(※5)の3つの種類がある。また施設サービスに類似するサービス(介護保険法では居宅介護サービスの対象となっているが、施設サービスとよく似た介護保険サービスで2種類がある)があり、1つは痴呆対応型共同生活介護~グループホーム~(家庭的な雰囲気の中で、少人数で共同生活をすることによって、痴呆の進行を遅らせるように見守りをする介護方式)で、2つ目は特定施設入所者生活介護~有料老人ホーム~(特定施設とは介護保険適用施設として、都道府県が認めている有料老人ホーム(※6)やケアハウス(※7)をいう)である。
 第2に、高齢者向け優良賃貸住宅がある。これは都道府県知事の認定を受けた民間法人等が提供する賃貸住宅で、住宅はバリアフリーになっており、緊急時対応のサービス及びその他のサービスは別に契約することにより利用することができる。入居できるのは原則60歳以上の高齢者のみの世帯で、特に所得制限などはなく、家賃は、入居一時金と月払いの組み合わせ、または月払いのみ。所得が少ない場合には、家賃の一部が補助される。
 第3に、高齢者専用賃貸住宅がある。高齢者専用賃貸住宅の意義とは、賃貸借契約による住宅に限定する事により、入居者の居住の安定を図る。登録情報の統一的な公開により、複数の高齢者専用賃貸住宅について、情報を比較、選択することができる。高齢者専用賃貸住宅は、介護保険法・老人福祉法において、特別な取扱いがなされる。という3つの意義がある。
 第4に、シニア住宅がある。シニア住宅とは、都市基盤整備公団、地方住宅供給公社、認定を受けた民間機関が提供するケア・サービス付きの住宅で、住宅はバリアフリーになっており、緊急時対応や健康相談などの基本サービスの他に、食事や選択的に利用できる各種のサービスが付帯している。各種サービスを利用するための食堂やレクレーション施設等の共用施設が充実していることが特徴である。入居できるのは原則60歳以上の高齢者のみの世帯で、費用は、入居時に全額前払いするか、入居一時金と月払いを組み合わせる方法が一般的である。
 第5に、シルバーハウジングがある。これは、地方公共団体、都市基盤整備公団、地方住宅供給公社などが提供する公的な賃貸住宅である。住宅はバリアフリーになっており、ライフサポートアドバイザー(LSA)といわれる生活援助員が派遣されており、緊急時対応や生活相談などのサービスにあたる。入居できるのは原則60歳以上の高齢者のみの世帯、または障害者世帯で、所得制限がある。家賃は、入居者の所得によって違う。私が住む地域にもシルバーハウジングがあり、10世帯程度の利用がある。LSAといわれる生活援助員が特別養護老人ホームと連携をとりながら緊急時対応にあたっている。
 第6に、コレクティブハウス(共生の住まい)がある。コレクティブハウスとは①として、自立して助け合う共同の住まいづくりが挙げられる。健康な時は、自立して過ごす一方、相互の助け合いで病気などの不安を解消する。共有スペースを造り(リビング・キッチンなど)プライバシーを守りながら共同の生活をする。②として、いつまでも健康に、自分の人生を豊かに過ごすことを目指す住まいづくりが挙げられる。第2の人生を旅行やボランティアなど生き甲斐をもって生活し、施設ではなく自分の住まいとして健康と生活の質の向上を目指す。高齢者住宅に入所するのでなく、みんなで運営し入居者が平等に話し合い、介護が必要になれば事前に提携している訪問看護事業者が処置に当たる。③として、地域コミュニティと共生する住まいづくりが挙げられる。地域の人々に支えられながら、地域に開かれ、地域との共生を図る。共用部分には、地域ボランティアの活動拠点としてのスペースを創り、入居者サービス及び周辺の高齢者や子育て支援のボランティアを実施する。といったように、様々な居住体系が考えられる。
 最近ではこの中でも高齢者専用賃貸住宅が注目を浴びてきている。
 高齢者専用賃貸住宅とは、賃貸借契約による住宅に限定することにより、入居者の居住の安定を図り、登録情報の統一的な公開により、複数の高齢者専用賃貸住宅について、情報を比較、選択することができる。また、介護保険法・老人福祉法において、特別な取扱いの対象となりえる。高齢者専用賃貸住宅の登録における留意点については①賃貸借契約である旨が明記されていること、賃貸借の対象物が明記されていること<対象となる専用部分が明確となっていること、合意無しに居室の変更ができないこと>②賃貸借の対象物に対する資料に相当するものが明確であること<賃貸借契約と介護等のサービスが別々の契約となっていること>が挙げられる。賃貸借契約とは、居住者にとって借りている場所についての独立の排他的占有が確保されるということである。簡単にいうと借りている部屋については他の人とは関係なく自分自身で自由に利用でき、他人が勝手に自分の借りている部屋に入ってくるのを防止し、排除することができる。つまり、嫌な人は家の中には入れなければいい、無理矢理入ってくる人は住居侵入罪ということにもなる。これを「排他的な支配」と呼び、このような権利を居住者に与えるのが、賃貸借契約の意味である。老人ホームの利用は「利用権」を中心として構成されているが、高齢者住宅における賃貸借契約との違いは老人ホームにおいては食事のサービスや、一定の介護のサービスを受ける事ができ、そのサービスを受ける際の空間として個室が提供されているといえるが、賃貸借契約では、独立の排他的な占有が確保される。つまり、老人ホーム側の都合で個室を移動させられることはあっても、賃貸借契約の上では、独立の占有であるのでそのようなことは起こらないということである。このことにより、今後高齢者が増えていくと予想される我が国において、高齢者の居住の安定や健康な生活を確保していくことが可能になるのである。
 では、何故従来のような老人ホームではなく、高齢者住宅に魅力があるのか。高齢者にとって「住まい」とは何か。高齢者が魅力を感じる「住まい」とは「施設」ではなく「自由な暮らしのできる空間」ではないのだろうか。好きな時間に食事をし、自由に旅行や外出を楽しみ、気の合う仲間と談笑し、愛しい子や孫に会いたい時に会える喜び、そういうことではないのかと考える。「施設」には不安はない。介護が必要になれば介護サービスが利用できる。食事を作る労力も軽減される。しかし、そこに自由は多くはない。反対に「自由な暮らし」においては、急に介護が必要になったり、認知症が進んだりという状況もでてこないとは言い切れない。そういう状況になれば、自身で介護サービスを上手に利用し、自己管理や家族の支援も必要としながら生活をしていかなければならない。しかし、それでも尚、高齢者住宅が魅力をもつのはそこには自由が多く存在するからである。

3. 「住まい」から生まれるコミュニティとは~公民パートナーシップについて~……

 公共住宅供給や事業は、今日の少子高齢化・人口減少社会に向け大きな転換を余儀なくされつつあり、「官」から「民」への政策の転換や住宅市場における公共政策の在り方を踏まえた新たな住宅供給を模索せざるを得なくなってきた。そのひとつの方向として「公民パートナーシップ」による住宅供給が注目されている。ここ最近での経済不況の中、国の行財政運営は大きな改革をみせ住宅政策においても①住宅政策から居住政策へ、②市場政策への転換、③ストック政策への転換、④地方分権化への対応と転換してきている。ここでいう「公民パートナーシップ」とは一般に行財政のスリム化の視点から民間の経営力を広く活用するPPP(Public Private Partnerships)として概念され、その思想的源泉は欧米諸国の公共サービスのマネジメント手法としての展開理論である。その後1999年のPFI法の制定により種々の取り組みが見られている。PFIの原則は公共施設等の建設・維持管理・運営等を民間の資金、経営能力及び技術能力を活用し、効率かつ効果的な公共サービスの提供を目指すものである。しかし、その効果は必ずしも十分とはいえない。PFI事業を公民の新しい役割分担の下に再編しつつ公共サービスの質向上に向けて活用すべきである。「公民パートナーシップ」の視点として見落とせないのが住民組織や地域組織との関係である。当事者や受益者である住民や住宅供給者、サービス事業者が自らの地区を自らの責任で発展させていくボトムアップ型のまちづくりであり、「公民パートナーシップ」は効率化を主体としつつもアイデンティティーを高めるための住民自身の主体的な取り組みも一層重要となる。そこで住民とのワークショップ等により住民に対して「住民参加型」「パートナーシップ」による住宅づくりを理解してもらい、居住者による話し合いを繰り返しながら様々な経験をしてもらう事で住民自身がコミュニティを形成していく事ができる。

4. まちづくりの中での住宅問題の取り組み

 矢田においては新しい地域社会の結成に向け、「まちづくり」の主役は「地域で生活している住民である」の観点から、自治労矢田地域労働組合の組合員も参加して2003年7月、NPO法人(特定非営利活動法人)を取得し、地域住民とともに、「豊かなまちづくり」の活動を展開するために「NPO法人共生と自立のまちづくり・ふれあい」が発足した。また、地域ニーズにあったモノを創るためには住民参加型のまちづくり活動が必要であり、東住吉矢田中住宅地区では、建て替えや全面的改善事業を進めるにあたり、住民参加で新しい改良住宅のあり方や事業対象地区を含む広い範囲でのまちづくりを進めるため、2005年6月、「東住吉矢田中住宅地区改良まちづくり協議会」が結成された。「東住吉矢田中住宅地区改良まちづくり協議会」では、住民参加型のまちづくり学習会を定期的に開催し、地域住民と一緒にまちづくりの学習をしている。また、地域住民を対象としたワークショップを専門家を交えて企画し、アンケート調査やグループヒアリングなどを行うことによって、地域に本当に必要なモノは何なのかを地域住民と一体となって考えながら活動している。(資料1参照)

5. おわりに

 住宅に関わる仕事をしていて常に考える事は、どのような住宅にすれば多くの人が自由に快適に過ごせるのかということである。子供、子育て世代、中高年世代、高齢者世代、全ての年齢の人々が「住まい」を選ぶときに「住宅」を候補に挙げるようになるには何が必要か。「住宅」を選んで良かったと思えるような快適さや環境を作っていくために、今後も日々勉強を重ね、それを私の好きなまちに活かしていけるように頑張っていくとともに、部落解放同盟矢田支部、財団法人結愛ネットワーク矢田、東住吉矢田人権協会、矢田生活協同組合、社会福祉法人ふれあい共生会、株式会社ヒューマンコミュニティやた、NPO法人共生と自立のまちづくり・ふれあい、矢田地域労働組合、東住吉矢田中住宅地区改良まちづくり協議会などの矢田地域内の全ての団体と地域住民と一緒になって「みんなのまち・矢田」を目指し活動を進めていきたい。



(※1) 「箱家賃」とは、同じ団地内で建築された年度や部屋の広さが同じなら家賃も同じとなるもの
(※2) 「応能応益家賃」とは、入居している家族全員の収入をもとに決定されるもの
(※3) 指定介護老人福祉施設とは、老人福祉法に規定する特別養護老人ホームで、要介護者に対し施設サービス計画にもとづき、①入浴・排せつ・食事等や介護等の日常生活の世話、②機能訓練、③健康管理、④療養上の世話を行うことを目的とした施設である。
(※4) 介護老人保健施設とは、要介護者に対し施設サービス計画にもとづき、①看護、②医学的管理下での介護、③機能訓練等の必要な医療、④日常生活上の世話を行うことを目的とした施設である。
(※5) 指定介護療養型医療施設とは、療養型病床群等をもつ病院・診療所の介護保険適用部分に入院する要介護者に対し、施設サービス計画にもとづき、①療養上の管理、②看護、医学的管理下の介護等の世話、④機能訓練等の必要な医療を行うことを目的とした施設である。
(※6) 有料老人ホームとは民間機関が提供するもので、食事サービスが必ずついていることがその特徴である。住宅の条件は特に決まったものはないが、ワンルームから2LDK程度の独立した住戸と、食堂をはじめとして各種のサービスが利用できる共用施設を備えているものが多い。入居条件は各ホームが設定しており、費用の支払い方も様々で、一般的には入居一時金月額利用料を支払う場合が多く、一時金の額は億単位から数百万円程度のものまで幅がある。施設経営者と契約を結ぶことによって、入居できる施設である。
(※7) ケアハウスとは老人ホームの1種類で、ケア・サービスの提供だけでなく、プライバシーの守れる生活が出来る新しい種類のものである。地方公共団体や社会福祉法人等によって提供されており、施設長との契約によって入居することができる。居室は独立しており、小さなキチネットや便所が付帯している。浴室は自室にある場合もあるが、共同浴場の場合が多いようである。入居できるのは原則60歳以上の単身又は夫婦等であるが、所得制限は特になく、所得が少ない場合は、利用料は軽減される施設である。

<参考文献> 高齢者専用賃貸住宅の手引き ― (高齢者専用賃貸住宅研究会)
        日経ヘルスケア21 2006.5
        北摂版 介護保険施設 サービス情報
        介護保険制度の解説 ― (社会保険研究所)
        むこうにみえるは Vol.2 ― (NPO人権ネットワーク・ウェーブ21)

◇ 図-1① 〔人口の変動〕

◇ 図ー1② 〔世帯収入別世帯数の変化〕

◇ 図-2 〔5歳階級別人口の変化〕

(資料)矢田のまちづくりに関する住民の声