【要請レポート】
大阪市における規制改革、指定管理者制度に関する報告
大阪府本部/大阪市職員労働組合
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1. はじめに
大阪市は、2002年11月当時の磯村市長が「非常事態とも言うべき財政状況」との実質上の非常事態宣言を行い、公共事業の抑制や工事コストの削減、職員数の削減が取り組まれた。しかし、財政状況は一層厳しさを増し、昨年の財政局の収支概算では、2008年度には約800億円の収支不足額が生じるとされ、このまま推移すれば「準用財政再建団体」への転落も想定されることを公表した。
当然、財政再建のための取り組み、とりわけ施策や事務事業の「選択と集中」を求める声が強くなった。一方、一連の大阪市役所を取り巻く問題が発生する中で「市政改革」が焦点となり、市政運営全般の総点検が始まった。
今回、市政改革による規制改革・民間開放の動向、指定管理者制度の対応について状況を報告する。
2.「市政改革マニフェスト」について
(1) 2005年4月に「市政改革本部」が設置され、2006年2月には「市政改革マニフェスト(市政改革基本方針)」が発表された。
マニフェストの中心は、「マネジメント改革」であり、事業・財政・組織・人員などの行財政の規模を人口や税収に見合った水準にする"身の丈改革"、そして、市政運営に"経営"の考え方、仕組みを導入し、NPMの考え方による業務の効率化である。事務事業の廃止又は縮小、民間委託化などの官民の役割分担の見直し、経営形態の見直し、市場化テストの活用などが掲げられ、現在事業分析が行われており、5年間での取り組みとされている。
(2) マニフェストは、第三セクターの破綻やオリンピック招致、大規模開発など大阪市の本質的な問題を捉えず、財政再建の負担と市民サービスの低下を市民に求める「方向性なき削減マニフェスト」ものである。
経営形態の見直しでも明らかなように、「小泉構造改革」が進める規制改革・民間開放路線を積極的に進めようとする姿勢を打ち出したものであり、社会の公共性の形骸化、公共サービスの質と水準の低下、行政責任の放棄を招くものである。
大阪市職は、市の将来像を描きながら、市民とともに進める市政の実現に向け、市政改革の「提言」(第2次案)を公表し、「市政改革マニフェスト」に対する取り組みを進めているが、今後、経営形態の見直しや事務事業のアウトソーシングの個別課題が具体的になってくるだけに取り組みの強化を図っていく。
3. 指定管理者制度について
(1) 大阪市では、地方自治法の改正により277施設が条例改正等の手続きが必要な施設となった。
大阪市職は、指定管理者制度への対応が避けられないとしても、「単なるコスト論による検討とさせない立場で取り組む」(2003年次大会方針)こととし、とりわけ、外郭団体を直撃する課題であるだけに、大阪市関連の団体等で働く17単組(2006年8月現在)で構成する自治労大阪府本部第2ブロック共闘会議(以下、第2ブロック)の仲間と連携した取り組みを強めていくこととした。
(2) 大阪市職は、総合計画と行財政改革の政策課題について労使協議を行う場である「大阪市総合計画・行財政改革検討委員会」において、指定管理者制度の検討にあたっては、①設置目的や責務などの公共性が確保されているのか、②市民サービスの偏向や低下につながらないのか、③これまで蓄積された経験やノウハウが引き続き活かされるのか、④個人情報保護など守秘義務が保てるのか、などコスト論のみでなく総合的な観点から検討することを市側に求めてきた。
そして、2004年11月に策定された大阪市の「指定管理の指定手続き等に関する指針」では、「基本的な考え方」の中に「公的責任を十分に果たすことを基本として、経済性のみならず市民サービスの観点などもあわせて検討を行うものとし、各施設の設置目的、性質、管理状況、これまで蓄積された運営ノウハウや施設管理を取り巻く状況、市民との協働、本市の施策や地域とのかかわりや人権尊重をはじめとする行政の役割などを踏まえ、総合的な観点から、施設の目的を最大限に発揮できるよう管理運営のあり方を各所管局において検討していく必要がある」との内容を盛り込ませることができた。
(3) 大阪市は、2005年2月「大阪市監理団体改革基本方針」を策定し、同年9月には外部委員で構成する「大阪市外郭団体等評価委員会」が「監理団体の統廃合・再編及び委託料の見直しについて」を提言し、監理団体の統廃合・再編と委託料の削減の数値目標を掲げた。
こうした状況の中、大阪市職は大阪府本部とも取り組みについて協議を行いながら、2005年9月29日第2ブロックとして、自治労大阪府本部委員長と連名により「指定管理者制度の対応、監理団体の見直しに関わっての要求書」<別紙2>を提出し、2006年1月5日市側回答を引き出した。<別紙3>
また、第2ブロックに結集する各単組では、労使協約化や事前協議のルール化などの取り組みを進めることとした。
(4) 2006年度までの大阪市の指定管理者制度への対応の状況について大別を行った。
①公募・非公募の内訳、②指定管理者の内訳、③公募による内訳
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公募
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非公募
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民間
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監理団体等
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その他
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民間
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監理団体等
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その他
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福祉 |
33 |
44 |
1 |
76 |
0 |
1 |
32 |
0 |
社教・文化 |
15 |
20 |
4 |
30 |
1 |
4 |
10 |
1 |
市民利用 |
0 |
32 |
0 |
32 |
0 |
0 |
0 |
0 |
スポーツ |
63 |
10 |
63 |
10 |
0 |
63 |
0 |
0 |
人権啓発 |
18 |
0 |
0 |
18 |
0 |
0 |
18 |
0 |
都市施設 |
23 |
1 |
12 |
12 |
0 |
12 |
11 |
0 |
環境・廃棄物 |
1 |
10 |
1 |
0 |
10 |
1 |
0 |
0 |
その他 |
4 |
3 |
4 |
3 |
0 |
3 |
1 |
0 |
合計 |
157 |
120 |
85 |
181 |
11 |
84 |
72 |
1 |
※福祉施設は、高齢者施設・障害者施設・子ども家庭支援施設など
社教・文化施設は、生涯学習センター・美術館・博物館など
市民利用施設は、区民センターなど
スポーツ施設は、プール、スポーツセンター、競技場、体育館など
人権啓発施設は、人権センター・男女共同参画センターなど
都市施設は、公園、駐車場、墓地、港湾施設など
環境・廃棄物施設は、環境啓発の施設・騒音対策にかかる施設など
その他は、観光集客施設など |
(5) 大阪市の指定管理者制度への対応結果については、総合的な観点からの検討を求めた成果ともいえるが、民間事業者が指定管理者となった割合は約30%に留まり、また、約74%の施設は従来の管理委託者が引き続き指定管理者となった。しかし、スポーツ・レクレーション施設や駐車場施設などの分野においては、民間事業者のノウハウが高く、民間事業者が指定管理者となることを想定した対応とならざるを得なかった。
また、今回対応以降の動きでは、「市政改革マニフェスト」において監理団体の委託料を2005年度~2007年度の3年間で280億円削減など非常に厳しい目標が掲げられている。とくに、施設の管理運営については「指定管理者制度の導入など原則として競争原理の生じる形態での外部委託とし、その効率化、変動化を図る」としている。監理団体等を取り巻く状況は引き続き非常に厳しい状況にある。
(6) 大阪市の今回対応で、市会等で最も問題とされたのは、公募・非公募の取り扱いである。大阪市の公募により実施した割合は約57%であったが、「指定管理の指定手続き等に関する指針」では原則公募(但し書きがあり、「施策を展開していくうえでの拠点となる施設であり、その管理運営主体が施策を展開するうえでの中心的役割を担う団体」などはこの限りでないとされているが)となっていることから、非公募で対応する施設について、市会における厳しい追及が行われた。結果、「指定管理の指定手続き等に関する指針」では4年を基本となっている指定期間について、市会における市長答弁において、非公募の施設は、指定期間をすべて2年間に短縮された。今後、原則公募の徹底が強く求められたことからも、2回目以降の対応など厳しい状況となる。
(7) 大阪市は、人口約260万人(昼間人口約360万人)、行政区も24あり、行政区単位やブロック単位で複数の施設を持っているが、その対応についても市会等での議論となった。手続きの効率性や事業連携の必要性の観点から一括した対応を行った施設について、1施設ごとの対応によって、より民間参入が図りやすい対応が求められた。この点も、今後、2回目以降の対応など厳しい状況となる。
(8) 大阪市のいくつかの実例を紹介する。大阪北港ヨットハーバーでは、指定管理者としてJ社が市会での指定も受け、この4月1日から管理運営を開始する予定となっていたが、今後の事業展開や運営方法について利用者の理解が得られず、3月22日になって指定管理者が辞退した。市側は、暫定措置として現行の管理者に管理委託を継続しながら、再度、公募による手続きを行った。指定管理者制度の対応における利用者ニーズの把握などに問題を提起した事例といえる。
(9) いくつかの施設においては、民間事業者(もしくはNPO法人等)と監理団体(これまで管理委託を行っていた団体)の共同体(連合体)を構成し、公募において指定管理者となっていることが特徴的な点としてあげられる。業務の切り分けなど今後の動向に注視が必要であるが、「協働」的な新たな対応の仕方である。
(10) 指定管理者制度での対応とは直接関係しないが、「市政改革マニフェスト」に基づく「健康福祉局長マニフェスト(案)」において、勤労青少年ホーム(25館)と児童館(10館)を2005年度末に廃止すると発表した。4月からは新たに実施する子育て活動支援事業施設に転用などを行うことを予定していたが、唐突に廃止案が出されたことにより利用者をはじめとした住民の不安や反対の声があがり、3月30日の市会では施設を廃止する条例案が継続審議となり、急遽従来どおりの施設運営が2ヶ月間行われた。利用者や住民に対する説明のあり方やニーズの把握について問題を持つ事例である。
(11) 指定管理者制度への今後の対応のポイントをいくつか挙げておきたい。
1点目は、民間事業者側も対応の傾向など調査・分析を行っていることから、労組側としても今回の対応について課題の検証を行い、今後の対策を検討していくことである。
2点目は、「安全性」をキーワードとした自治体の責任の追及である。市民の安全性を最重点においた自治体の施策・事業、とりわけ施設管理のあり方を追及していくべきであり、指定管理者制度への対応に関わっても安全性についての検証や検討の市側追求が必要である。
3点目は、利用者ニーズや住民ニーズを十分に把握した対応決定を求めることである。施設の在り方そのものが問われていることもあり、施設の公共性を積極的にアピールしていくことも重要である。
4点目は、コスト面を重視した検討ではなく、総合的な観点からの検討を行政に対し求めていくことである。指定管理者制度における対応においても、コスト面での比較は人件費の比較に繋がることから、公正労働をはじめ総合評価による選定を求めていくべきである。また、必要に応じた議会対策や利用者・市民との連携した取り組みも必要といえる。
(12) 指定管理者制度の対応は、雇用不安を招くだけに、労使協約化や事前協議制のルール化の取り組みをより強めていくことが重要となる。
また、大阪市への要求書の提出を行った対市交渉でも明らかとなった市側姿勢は、使用者は施設の理事者であるとしながら、市側は施設の設置者である自治体の雇用主責任を放棄しようする姿勢に終始することである。こうした市政を許さないためには、県本部の協力も得ながら、自治体単組、当該施設組合が連携した取り組みの強化が求められる。
「市政改革マニフェスト」にあげられた規制改革・民間開放につながる主な項目
① 民間企業やNPO等の活用⇒地域、民間企業やNPOなど、本市以外の主体が出来ないかといった代替策を検討・実施することにより、事業費の圧縮を行う 例)PFIを活用するとともに、対象を従来の箱物整備から公営住宅の整備などへも拡大
② 未収額の圧縮に向けた取組の強化⇒外部の専門家(弁護士、金融機関等)の知識経験の活用
③ 利用者制限の緩和⇒施設の設置趣旨や事業目的によって年齢などの利用者制限を設けた施設があり、利用率向上には制限の緩和が必要
③ 面積あたりの経費の削減⇒施設の管理運営は、指定管理者制度の導入など原則として競争原理の生じる形態での外部委託とし、効率化・変動化を図る
④ 施設の統廃合⇒施設において実施されている各種事業について、公共性に応じて廃止や民間委託も含めた今後のあり方を整理
⑤ 土地の転活用の徹底⇒転活用の障害となる法制度の改正要望 例)国庫補助金を受けて取得したことによる転活用の制限について緩和を国に働きかける
⑥ 監理団体の組織運営体制の見直し⇒監理団体は、委託料・出資の見直し、法人形態の見直しとあわせて派遣職員の8割引き上げ
⑦ 共通管理業務の集約化、民間委託化⇒各局・区・事業所等の庶務関連部署の職員を数百人規模削減
⑧ 民営化・独立法人化など経営形態の見直し⇒大阪市の組織全般にわたり、市役所組織で継続するのか、独立行政法人・財団法人・株式会社等他の経営形態へ見直すのか、経営形態の見直し検討 ※環境事業、博物館・美術館等の文化施設事業は独立行政法人化を前提、バス・地下鉄事業は公設民営化を前提として作業を行う
⑨ 事務事業全般にわたる民間委託等の推進⇒全ての事務事業について民間委託等の可能性チェック(統一的チェックシートにより第三者が点検)を行い、順次実施
⑩ 大阪府・堺市等他の自治体、国の機関等との連携⇒組織統合も含めた新たな連携について検討 例)水道事業、社会教育施設、中小企業経営支援施策、新産業創出支援施策、産業技術支援施策、消費者施策、男女共同参画施策、青少年施策、ボランティア活動支援等
⑪ 第三者評価委員会による独立した包括的評価体制の確立⇒個々の事業について、民間経営のノウハウ(経営形態の見直し、アウトソーシング・民間委託の推進等)を取り入れた評価・見直し |
2005年9月29日
大阪市長 關 淳一 様
自治労大阪府本部
執行委員長 山田 保夫
自治労大阪府本部第2ブロック共闘会議
議 長 木下 平和
指定管理者制度の対応、監理団体の見直しに関わっての要求書
日頃より地方自治の発展と市民福祉の向上に向けご尽力されていることに敬意を表します。私たち自治労大阪は、大阪府内の自治体で働く労働者と地域公共サービスに関連する労働者で構成されており、そして第2ブロック共闘会議は、大阪市関連の団体等で働く18組合で構成しています。
さて、地方自治法の改正により指定管理者制度が導入されました。大阪市においても指定管理者制度の導入が順次行われており、2006年4月からの制度改正に向け、この9月市会に211施設についての条例改正案が上程されました。また、この9月市会に条例改正案の上程がされなかった施設についても、今後、施設のあり方検討も含めて対応がはかられようとしています。
あわせて、大阪市は、昨年12月「大阪市監理団体改革基本方針(案)」を策定し、監理団体数や委託料を削減する数値目標を明らかにし、本年4月には「大阪市監理団体評価委員会」を設置し、実施する団体改革の検討を行っており、具体的な見直し内容が示されようとしています。
指定管理者制度の導入や監理団体の見直しは、コスト論を最優先した対応が行われ、公共サービスの安定的な供給や公正性の停滞を招くことが想定されます。
とりわけ、こうした対応は、施設で働く職員の雇用について不安定化を招く危険性があり、私たちの職場においても不安が広がっています。
自治労は、本年1月22日に指定管理者制度に関わって総務省交渉を実施しました。その中で、総務省は、①公の施設設置・管理の責任は地方公共団体にある、②導入の判断は地方公共団体の判断である、③移行の際は関係者の十分な協議が必要であり、勤務条件の変更は労使交渉の対象である、との回答を行っています。
自治労大阪は、こうした対応に関わっては、「住民サービスの低下を招かないこと」、「雇用責任をはじめ自治体行政の責任を十分果たすこと」が必要であると考えています。
つきましては、指定管理者制度の対応、監理団体の見直しに関わって下記のとおり要請します。
記
1. 公の施設管理は、あくまでも自治体の責任であり、公共サービスの質と水準の確保を図ること。
2. 指定管理者制度への対応や監理団体の見直しに関わっては、事前に組合との十分な意見交換を行うこと。
3. 指定管理者制度の対応にあたっては、「手続きに関する指針」の「制度への対応にあたっての基本的考え方」で示されている「経済性のみならず市民サービス向上の観点などもあわせて検討を行うものとし、総合的な観点から検討していく」ことをふまえた対応を行うこと。
4. 監理団体職員の雇用確保について、大阪市は設置責任者として責任を持って対応すること。
5. 指定管理者制度の対応、監理団体の見直しに関わっては、監理団体職員の雇用・身分保障の観点から、労使の十分な協議と合意にもとづく対応を行うこと。
以 上 |
大経企第105号
平成18年1月5日
自治労大阪府本部
執行委員長 蜂谷 紀代美 様
自治労大阪府本部第2ブロック共闘会議
議 長 木下 平和 様
大阪市長 關 淳一
指定管理者制度の対応、監理団体の見直しに関わっての
要求書について(回答) |
2005年9月29日付けで要請のありました標題について、下記のとおり回答します。
記
1. 公の施設管理については、地方自治体の責任であり、今後とも公共サービスの質と水準の確保に努めてまいります。
2. 指定管理者制度への対応や監理団体の見直しに伴い、勤務労働条件に影響を及ぼす事項については、必要に応じ組合との意見交換を行うなど、各監理団体において適切な対応が図られるよう指導してまいります。
3. 指定管理者の対応にあたっては、「公の施設の指定管理者の指定の手続等に関する指針」に基づき適切な対応をしてまいります。
4.・5. 指定管理者制度への対応、監理団体の見直しに関わる雇用の問題については、監理団体評価委員会の報告書においても、「人員体制の見直しに際しては、在籍する固有職員の雇用についての配慮が必要である」との意見も頂いており、大阪市としてはその報告書を尊重し、各監理団体において適切な対応が図られるよう指導してまいります。 |
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