【自主レポート】
~ 今 学校給食に求めるもの ~
島根県本部/松江市職員ユニオン
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1. 「食育」とは
今、「食」生活はグローバル化の中で、世界の巨大産業の市場と化しています。北(先進諸国)の飽食問題、南(途上国)の飢餓問題、そして食生活改善運動も世界の大企業の利益追求の場となっています。
外食産業による多くのファーストフードが販売され、一見個人が自由に選べるような錯覚にとらわれますが、与えられた商品の中で選ぶということにしかなっていません。そして、そこには食材をつくった人も調理をした人も存在しない、お金を出せば買えるただの商品(物)にしかすぎません。「食」が商品化し、市場の利益追求の対象として鉛筆やノートなどと同じように単なる物としてしか扱われなくなってきています。
昨年の7月に「食育基本法」が施行されました。『21世紀における我が国の発展のためには、子どもたちが健全な心と身体を培い、未来や国際社会に羽ばたく~』と始まっており、『今こそ、家庭、学校、保育所、地域等を中心に、国民運動として、食育に取り組んでいくことがわれわれに課せられている課題である』として、国民全体の責任として取り組み、食料自給率の向上につなげることがあげられています。
そして「食育推進基本計画」には、国民が総動員をしてそれぞれに取り組むべき施策が書かれています。しかし、『食育』は、法律で決めればできるというものではありません。
「食」は、私たち生き物の健全なからだ、生命を育むのに必要不可欠なものです。
かつて、身近に畑や田んぼがあり、野菜や米が作られ、川には魚が泳ぎ、牛や鶏が飼われていた環境の中では、互いにそのいのちを尊重し、感謝しながら「食」生活を送っていました。
そして、ゆっくりと流れる時間の中で、その「食」を通して家庭や地域の中で自然に学習し、多くのことを身につけるとともに、豊かなこころと人間性を育んできました。
人間としてのいとなみと、自然と地域とのかかわりの中で、『食育』などと言葉をつくらなくても育まれていたことです。
しかし、高度経済成長が進み、さらに市場万能主義といわれる現代では、効率化が求められ、生産性をあげるためさまざまな科学を駆使し、生産の集中・大規模化や高度機械化が進められました。その結果、自然界は破壊され、人間の暮し方も大きく変わりました。
人間性が失われ、地域での人間関係が薄れ、「食」に対する価値観も大きく変化してきている現代社会で、子どもたちが、人間本来のこころと身体を育んでいけるようにするためには、あえて、「食」について学べる場所と環境作りを『食育』として取り組む必要があると考えます。
そして、今、社会を見回したときに実践できる場所は、学校給食だと思います。
2. 食育をすすめるために
では、『食育』を行うには何を考え、どう取り組んでいけばいいのでしょうか。
「食」とはなにか考えてみたいと思います。
第一に、安全で安心しておいしい食事ができることです。
身体が健康に育つためには安全は欠かせません。そのために、まず食材が安全であることです。野菜・果物などは、化学肥料や合成肥料を使わず自然の堆肥を栄養分として、農薬を使わず野菜そのものの力で育つと、それだけでおいしいものです。また、肉や魚も合成飼料や化学物質を使わず、自然の中で自然の餌で飼育されたものは、人間の身体にもやさしく本来の栄養価を備えたものと言えます。
また、食べることは楽しみの一つです。おいしい食事ができるようにするために、幼少期からきちんとした味覚を形成していくことが大切です。小さい頃の食生活は大人になってからの身体を大きく左右するといわれます。ファーストフードやインスタント食品には食品添加物が多く含まれており、日常的に摂取することで味覚異常が起きるためです。食材の素朴なおいしさを感じるためには、食材本来の味が味わえる新鮮なものであることも欠かせません。保存技術が発達しているとはいえ、収穫されてから輸送に多くの時間をかければかけるほど、食材本来の味も栄養価も損なわれていきます。そして、経済性ばかりを考えた経費節減の調理法ではなく、食材の味を生かした料理法で、食べる人の身になり心をこめて作るからおいしい料理ができあがります。流れ作業で機械的に作っただけの食事はただ空腹を満たすだけの無味乾燥な「えさ」でしかあり得ません。
第二に、食材である野菜やくだもの、魚や肉などは、すべて同じ地球上の生きた命をもらっているということです。
料理され、食事として口に入るまでの過程は、社会科や家庭科などの授業の中で少しずつは学習します。しかし、実際の食材の成長過程や収穫までの努力などについては生産者から教えてもらわなければわかりません。
生産地でのさまざまな体験や生産者などとの交流を行うことで、具体的なその成長のしかたや育て方がわかってきます。
おいしい野菜やくだものを育てるために、どんな肥料がいつ頃必要か、農薬を使わないために、草取り、病気や虫の予防はどんなふうにするのか、また、食肉として出荷されるまで牛や鶏はどんなところで何を食べて育ったのか、おいしい食肉にするためにどんなことに注意して育てているのかなど、生産者との話や実際に育てる作業を行うことによって理解できることです。そういった経験を通して、食材が単なる「もの」ではなく「生きた食材」として感じるようになります。そして、生産者や食材に対し、感謝の気持ちをもつことにつながります。
第三に、「食」(食べること)は人間のからだをつくっているということです。
食材それぞれの持つ栄養が、食事としてからだの中に摂りこまれたあと、からだの中でどんな働きをしているのか、からだの成長にどうかかわっているのかを知ることによって、食事は重要であるということがわかります。そして、バランスの取れた食事が必要で、好き嫌いや偏食がよくないことだと学びます。また、いろいろな食材があり、それぞれに役割があることを知ることにつながります。
また、年齢やからだに応じて適した量を摂取することで健全な身体を保つことも理解できます。
第四に、みんなで楽しく食べるということです。
さまざまな理由で、家庭での一家団欒の食卓が少ない今、給食の時間に食材や料理法、体験談など共通の話題で楽しい時間をすごすことで、食事がよりおいしく、また、楽しいと感じます。
このことは、子どもから保護者に伝えられることによって、家庭での食事の習慣や考え方に良い影響を与えることにつながります。
この四つのことを子どもたちが学校給食を通して理解するためには、
① 自分たちが食べているものがどんなふうに育てられ、どういう努力があって作られたのかを知る。
② 安全で安心して食べてもらうためにどんなことに注意しているのか知る。
③ 身体をつくる給食をおいしくて食べてもらうための工夫や努力がわかる。
この三つが必要だと考えます。
そして、①~③のことがきちんと理解できれば楽しく食事ができるのではないでしょうか。
そこで、実際に進めていくために、現状がどうなっているのか見ていきたいと思います。
(1) 子どもたちの生活
眠い目をこすりやっと間に合う時間に着替え、朝食もそこそこに、そそくさと登校する。
年間スケジュールに沿った授業をつめこみ、短い時間で給食を食べ、片付けと掃除を済ませひとしきり遊ぶ。遊ぶときの笑顔はかわいい。本来の子供たちの姿をそこに垣間見る。
午後の授業を詰め込むと、クラブ活動をする子、帰宅する子、塾へ行く子など。帰宅しても家で通信教材や家庭教師によって勉強している子も多い。遊びはテレビやゲームなどで遊んでいる子が多く、小学生でさえ外で遊ぶ姿は余り見かけない。
両親とも働いている家庭が多く、食事時間もまちまち、一人で夕食をとる子(孤食)もいる。就寝時間も遅い子が多く、大人と同じ時間に寝る子も結構いる。毎日の食事の内容は、一品物やできあいの惣菜品など、時間的な制約から家庭での手作りはどうしても少なくなる。こんな毎日では、規則正しい食生活もバランスのとれた食事も難しいのが現実。
あわただしい毎日の生活では、家族の会話も少なくなる。必要最低限の会話では、学校での様子や子どもの気持ちなどなかなかわからない。そして、大人は家族のために働いているのだからとついあれこれ命令口調になってしまう。
土曜・日曜になるとやっとで学校のことや友だちのことを聞き出す。まとめて聞かれても子どもは面倒くさがる。その時その時が大切だとは思うが、なかなか毎日の対応はできないことが多い。特に何か困ったことがあれば子どもから言うと思ってる。
これは、小学生を持つ保護者からの生活の様子です。
あらためて、書き出してみると「家族」「親子」の関係もずいぶん希薄になっています。
(2) 子どもたちをとりまく現状
日本経済は回復に転じてきているといわれつつも、経済のグローバル化の進行もあいまって雇用の不安定化が進んでいる中、所得格差は拡大し、さまざまなストレスや不安を抱える国民が増加しています。
このような社会情勢の中で、人々は、早朝・深夜勤務、長時間労働、かけもちのパート・臨時勤務などにより生活を維持しています。生活そのものにゆとりがなくなり、毎日の「食」の大切さはわかっていても、そこまで考える精神的余裕、時間的余裕、そして経済的余裕もなくなってきています。所得において格差が二極化し、国民の75%の人が国民総所得の25%を分け合っているといわれる現在、給食費すら払えない家庭が増えてきていると報じられています。
「食」市場へは、ファーストフードやインスタント食品の普及が進み、健康補助食品と称する商品が大量に販売されています。街中に限らず、ジュースやインスタント食品の自動販売機が設置され、24時間営業のコンビニエンスストアが増え、いつでもどこでも簡単にそれらを買うことができます。また情報の氾濫によって誤った知識や認識をしている場合も多く、食生活の乱れは進んでいます。
一方、学校教育だけでは将来不安だからと学習塾へ通ったり、家庭教師をつけたり、習い事をしたりと子ども自身も毎日忙しい生活を送っています。
その結果、大人だけではなく子どもの「食」生活にまで、栄養の偏り、不規則な食事、生活習慣病などの問題が発生してきています。
子どもは、経済的な面だけでなく、心の面で大人以上に支えが必要です。しかし、厳しさが増す社会の中では、職場の中で必死に働いている大人にも余裕がなくなり子どもときちんと向き合うということが少なくなっています。その結果、一人で悩み一人で解決しなければならない子が増えています。現代の子どもたちの問題行動と言われる現象はこういったことが原因のことも少なくありません。
たびたび起こる子供の誘拐殺人事件や学校でのいじめ、不登校、増加する家庭虐待などの現象は、「食」のみでなく、現代の子供たちが安心して生活し、生きていく基盤が失われつつあることを表しています。
今一度、子供たちの生活や思いにきちんと目を向け、親として大人として、将来を担う大切な生命がおかれている状況を正しく認識し、それをどう改善していくか、正しい判断が求められている時期にきていると感じます。
(3) 松江市の現状
① 学校給食の実施状況(2006年度)
学校数:中学校16校、小学校34校、幼稚園8園
児童数:中学校5,284人、小学校10,723人、幼稚園371人
給食調理場と食数(計:18,024食)
調理場名
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方式
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直営・委託
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食 数
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調理師
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正 規
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臨 時
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パート
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南学校給食センター |
センター
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直 営
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4,600食 |
13人 |
7人 |
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北学校給食センター |
センター
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直 営
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4,750食
|
13人
|
7人
|
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西学校給食センター |
センター
|
委 託
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4,200食
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11人
|
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16人
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鹿島学校給食センター |
センター
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直 営
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750食
|
5人
|
2人
|
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島根学校給食センター |
センター
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直 営
|
310食
|
4人
|
2人
|
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美保関学校給食センター |
センター
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委 託
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550食
|
7人
|
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八雲学校給食センター |
センター
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直 営
|
750食
|
4人
|
4人
|
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玉湯小学校給食調理室 |
単 独
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直 営
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380食
|
1人
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5人
|
2人
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大谷小学校給食調理室 |
単 独
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直 営
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44食
|
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1人
|
2人
|
玉湯中学校給食調理室 |
単 独
|
直 営
|
190食
|
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2人
|
1人
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宍道学校給食センター |
センター
|
直 営
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1,100食
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2人
|
8人
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八束学校給食センター |
センター
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直 営
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400食
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3人
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4人
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② 教育委員会の取り組み
現在、松江市教育委員会として、松江市食育推進委員会が設置されており、具体的には「母衣校区食育推進委員会」「八雲地区食育推進委員会」の2つの委員会で『食育』の取り組みを行っています。
昨年度の母衣校区食育推進委員会での取り組みとしては、食に対する関心を深めるとともに親子のふれあいなどを目的として、各学年ごとに、米や野菜作り体験、郷土料理や外国料理などの親子クッキングを行っています。その他、養護教諭による保健指導や食育コーナーを校内に設けるなど、子どもたちが食に関する知識を得やすい努力も行われています。
また、保護者を対象とした食育に関するアンケート調査や食育講演会、調理実習、児童への食育授業などが実施され、くにびきメッセにおいての「松江市食育フェア2005」と題したイベントでは、パネル展示や体験コーナーなどを設置し、給食の試食会も行われ、多くの参加者から好評を得ています。
八雲地区食育推進委員会では、旧八雲村のときから地域、家庭、生産者、学校が協力して食育推進を進めています。昨年度は、幼・小・中学校の給食時間における食の指導、親子健康教室・料理教室の開催や祖父母を招いての給食試食会を行っています。また、野菜生産者の協力を得て、畑作りから野菜作りまでを体験する食農体験学習も行われました。
このほか、子どもたちが地域の農産物や魚介類などへの知識や理解を深める目的で、地元で取れた野菜を給食の食材として利用する地産地消の取り組みも進めています。野菜では、食材全体に占める地場産の割合は約40%となっています。
③ 学校給食での食教育への取り組み状況
ア 学 校 訪 問…調理師・栄養士が学校へ出向き子どもたちに調理過程の説明や栄養バランスなどに関する指導を行う。
イ 親子料理教室…親子のふれあいと食事への関心を高めること、また保護者が家庭での食生活を見直す参考にしてもらう機会として、学校や公民館を利用して実施。
ウ バイキング給食…食事バランスや自分にあった量、また他人への思いやりの心を考える機会として実施。
エ 交 流 会 食…生産者の方を給食に招いて、野菜の育て方や作り方などの説明を聞き、食材について学ぶ。
オ 食育クッキング…出前クッキングでバイキング朝食を行い、望ましい朝食のとり方のアドバイスをしながらみんなで会食。
④ 取り組みを行った成果
栄養指導などでは「今まで何気なく食べているものが、からだの中でとても大切な役割を果たしていることがわかった」「バランスの良い食事をとっていきたい」「嫌いなものもちゃんと食べるようにしたい」と、それぞれに栄養が異なることや身体には何が必要かなどが理解できています。
親子料理教室では「難しかしいところもあったけど自分たちで作ってみんなで食べたらとてもおいしかった」「栄養のことが考えてあってすごいと思った」「工夫すれば苦手な野菜でもおいしく食べることができると思った」など、普段気にせず食べている食事も実はバランスやおいしく食べれるように料理されていることがわかったり、自分たちで料理することで食の大切さを知ることにつながっています。
生産者との交流で特に子どもたちが栽培に関わったところでは、「もったいない」と食べ残しをしなかったり、嫌いな野菜も自分で育ててから食べれるようになったり、大事に食べるようになったりと、食べ物や生産者への感謝の気持ち、大切にする心もめばえてきているようです。また、そのことによって保護者にも良い影響をもたらしているようです。
(4) 地産地消を進める他市町村での取り組み ① 他市の現状
ア 千葉県佐倉市
小学校23校、中学校11校すべての学校で単独調理場方式による学校給食を実施。各学校に1人ずつ栄養教員を配置。1982年から地場産物の活用を行っています。現在、米・梨・メロンは100%、その他の野菜は約40%の割合となっています。
取り組み内容は、全校バイキング給食に生産者を招待しての交流、珍しい食材の展示や回覧、家庭科や総合学習の時間に旬の食材を使った献立学習、郷土料理や特産品を使った調理実習などを行っています。
成果としては、子どもたちが、地元の特産物であることを学習してから、給食に出ると食感や食味を味わいながら食べるようになり、地域への愛着を感じるようになった、また保護者からも学校給食が身近に感じられるようになった、とあげられています。
イ 福島県新地町
小学校3校・中学校1校すべてで単独調理場方式による学校給食を実施。各学校に1人ずつ栄養教員を配置。1995年度から地場産物の活用を行っています。米・味噌・こんにゃく・納豆・りんご・いちじく・いちごは100%、じゃがいも・大根は約65%の割合になっています。
取り組み内容は、給食室から食材についての紹介のお便りを発行し、子どもたちに生産者の紹介や安全性等の説明、地元の生産者の協力を得て収穫を体験・交流、地場産物を使った調理実習、ちびっ子料理コンテスト、草取りからする野菜作りなどを行っています。
成果として、「今まで苦手だった野菜が食べれるようになった」「好きじゃないけど6年生が考えた献立だからおいしく食べれた」など偏食への効果や、「これは○○さんのりんごかな?」と生産者を身近に感じたり、新鮮野菜による野菜そのものの甘みや素材の味を発見し地場産野菜が身近になったりしていることがあげられています。また、野菜作りからは、働くことの尊さに気づき、働く人への感謝の気持ちを持つようになったそうです。
ウ 高知県南国市
小学校13校で単独調理場方式の完全米飯給食を実施。1999年度から委託炊飯方式から転換。給食室から配膳される温かいご飯により食べ残しは減少。地場産物は、米・四方竹・ぶどう・すももが100%、ねぎ・ほうれんそう・にら・ピーマン・小松菜・きゅうりが80~90%の割合になっています。
取り組み内容は、近くの棚田を借りてのうるち米ともち米作りでは、田植えと水の管理、稲刈りの体験、梅の収穫とジュースやジャム作り、地域生産者との郷土食による給食交流、たけのこ堀、竹細工、竹炭焼きなどを行っています。
成果としては、「世界一おいしい学校給食だった」「育てた芋を使ったご飯はとてもおいしかった」と自分たちが育てた野菜が給食で食べられることに感動し、「こんな給食だと安心して食べれます」「地元の食材をこんなにおいしくいただくことができ感激した」と保護者からは給食への信頼と感謝の気持ちが出されています。また、市内では地場産の野菜が多く販売されるようになってきたといわれます。
② 松江市と他市町村の取り組みの比較
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松江市
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他市町村
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センター・単独 |
センター |
単 独 |
食育への体制 |
モデル地域を設定しての拠点的取り組み |
全 校 |
取り組みへの参加者 |
学校・家庭・学校給食・地域(八雲地区のみ) |
学校・家庭・学校給食・地域・生産者 |
取り組み内容 |
○ 食に関する知識
・ 栄養指導・ 講演会
・ 保健指導
○ 体験的学習
・ 調理実習・ 親子クッキング
・ 地場産物生産者との交流試食会
・ 米・野菜つくり |
○食に関する知識
・ 栄養指導
・ 給食時の放送で当日の地場産物の紹介
・ 珍しい食材の展示・回覧
・ 旬の食材の献立紹介
・ 地場産物だよりの発行
○体験的学習
・ 特産物の収穫
・ 特産物の調理実習
・ 郷土料理の調理実習
・ 郷土食による生産者との給食交流
・ 米・野菜つくり
・ 料理コンテスト・
・ 独居老人との給食交流 |
一致する点
ア 給食の調理場はセンターと単独で異なるが、松江市の場合、モデル地区を指定し食育を実施しており、実質学校単位といえます。
イ 食に関する知識として、栄養バランスは基本的な部分として指導があります。
ウ 体験的学習の場として、調理実習や生産者との交流が行われています。また、米や野菜作りの体験も行われています。
異なる点
ア 松江市の場合は全市での取り組みとなっていません。
イ 食育を進める体制として、松江市の場合は八雲地区のみ地域の体制があります。また、生産者が加わっていません。
ウ 食に関する知識の中で地場産物や旬の食材等についての学習が少なくなっています。
エ 体験的学習として、松江市の場合は生産者や地域との交流が少なくなっています。
(5) 食育を進めている他校の特徴的な取り組み ① 五感でわかる食材
給食室から漂ってくる匂いで給食の食材当てゲームをしている学校があります。においでどの川の水かずばり当てた人の話を聞いた先生が、水の学習につながると感じてはじめたそうです。
3時間目の休み時間に給食室まで行き、においをかぐ。重ねるごとに煮込んだり調理された複雑なにおいからも食材をあてることができるようになったということです。この学校では、生徒の発想から塩の利き味や音での食材当てなども行っているそうです。
こうしたことを行う中で、現代人の味覚異常の事実に気づいたそうです。食品添加物のリン酸塩を多く摂ることによって味覚をつかさどる味蕾の形成に異常をきたし、例えば、ラーメンを食べ続けると味覚が破壊されるということだそうです。
② 野菜ビンゴゲーム
野菜の絵のビンゴゲームを作って野菜への興味を引き出している学校があります。野菜嫌いの子どもたちが多いのと、スーパーへ買い物に行っても丸々一個で売れていないものも多いことから、丸のままの野菜をブラックボックスに入れ、ヒントを聞きながら当てていく。見たことのない野菜があればますます野菜への興味がわいてくるそうです。
③ 給食の疑問から
給食のことで不思議に思っていることや疑問に思っていることを子どもに書かせることによって食育を進めている学校があります。疑問を項目別にまとめ、それを直接、給食調理師、市場生産農家に聞きに行くことを行った。聞いているうちに、次々子どもたちから新たな質問が出てきたといいます。
④ 有機肥料づくりから野菜作り
自作の有機肥料で野菜の栽培に取組んだ学校があります。有機栽培でできたきゅうりの味に新鮮な驚きを感じた子どもたちが、有機肥料をつくることからはじめ、1ヶ月間毎日毎日温度管理や攪拌をし、みごとに自作の有機肥料を完成させそれを使っていろいろな野菜を育てたそうです。そして、収穫した野菜は甘くておいしい野菜になっていたそうです。
⑤ 給食作り
校長先生の提案により、4日間給食を止めた小学校があります。4月下旬に3年生から6年生までの子どもたちを集め、10月の給食を4日間止めるので自分たちで給食を作りなさいという提案でした。その上、お金は使えない、家から何も持ってこない、先生はあてにできないという3つの条件で、子どもたち自身で食材すべてを準備するという内容でした。しかし、いろいろな人のアドバイスをもらい、農家で余った苗をもらい、畑で野菜を作り、米を作り、味噌を作り、どうしても作れない食材はできた野菜を売ってそのお金で買うという方法で、献立もカロリー計算もすべて自分たちでやりとおしたそうです。見守った先生は「子どもは教えなくてはならない存在ではなく、信じるに足る存在であることを証明してくれた」と言われたそうです。
子どもたちは、お金の重みを知り、自然のありがたさに気づき、野菜にいのちがあると言い出し、野菜の花の美しさに気づいたそうです。そして、ねぎの香りやほうれん草の甘さにいのちをいただいていることに気づいたといいます。
(6) 現状から見えること
松江市と他市の現状をみると、かなりの違いがあることがわかります。
ここで、松江市の保育所での取り組みを見てみます。
保育所においては、おもに4~5歳児が保育所内菜園や近隣の農地でサツマイモ・ミニトマト・きゅうりなどを栽培し、子どもたちは水やり、収穫を楽しんでいます。
「サツマイモさんにやさしくお布団かけてあげよー」「このおいもさんきょうだいだね」「トマトの葉っぱってトマトのにおいだがー」「きゅうりおいしい! 僕のあげた水たくさんのんだかなぁ」どこの保育所でもこんな声が聞かれます。まだ、動物も虫もともだちのような感覚でいる年齢だから、少しの体験でも野菜のいのちを感じています。
成長するにつれて、この感覚が「物」に変わってきます。成長に合わせ、もっと広く深く体験ができるように、子どもたちに投げかけてやる必要があると考えます。
このように考えていくと、松江市の現在の取り組みで不足している点や、改善しなければいけない点は次のような内容になります。
① 松江市では、学校とその関係者のみの取り組みとなっており、生産者の顔がほとんど見えません。一部で生産者と給食交流会を行っていますが、表面的でしかありません。
② 生産者の顔が見えないことで、地場産の野菜や魚介類などについての知識が乏しく、興味がもてません。
③ 一般的な栄養指導による知識は学習していますが、教科書の中だけのことが多く、実感として感じにくいため、次へのステップにつながっていません。
④ 調理実習もある程度行われており、偏食に効果があった部分も見受けられますが子どもたちも含め自己満足に終わっている感がします。継続して効果があったのかは疑問です。
⑤ 米や野菜作りについて、自分たちで最初から最後まで行っているわけではなく、ちゃんと育てるために、草取りや防虫対策が必要ですが、農家の方にお願いしており、いろいろな苦労があったことはわかっていません。
⑥ 一面的なとらえ方で、多面的にとらえることになっていません。これらのことがつながって理解できていません。
以上のことから、食育を進めるために、次の実践を提案します。
3. 食育の実践
(1) 自分たちが食べているものがどんなふうに育てられ、どういう努力があって作られたのかを知るには、どうすればいいか
①
食材を知り、産地を知る
ア まず自分達の給食の中に入っている食材は何か、を見る。知らない食材があれば、色や形、味などを書き出しておき、自分達で調べてみる。
イ 食材の仕入れ先は、学校給食の献立を作った担当者や仕入担当者から聞き取る。
ウ 給食に出た食材の産地を日本地図に落とし、どこから来たのかを目で見て確認する。遠くから運ばれた食材があれば、なぜ地元の食材を使わないのか、という疑問につながり、地産地消について考える機会になる。
エ 近くでとれた食材があれば、直接生産地に行って、食材がどのように採れて運ばれてくるのかを体験できるきっかけにもなる。
特に、松江市は農業だけでなく、日本海・宍道湖での漁業も行われており、さまざまな食材が生産される地であることから学ぶ資源はたくさんある。
オ 地元の産物を知ることは、地元への関心が高まることにつながる。
② 生産者から聞く
ア 食材の中から、子どもたちが苦手なもの、あるいは好きなものをピックアップし、その食材の生産者から直接話を聞く場を設ける。
イ 食材の種や苗、葉や収穫前の実をさわったり、育ち方や世話の仕方、どれくらいの期間で出荷できるかなど具体的に話を聞く。魚介類などもそのものを直接さわってみたり、獲れる時期や加工の仕方、運ぶときの配慮などを聞く。
③ 地域の人から話を聞く
ア 地場産の食材を使った郷土料理などについて話を聞く。なぜその料理が生まれたのか、その作り方などについて話を聞いたり、実際に調理をしたりして地場産の食材に興味が持てるような機会を作る。
イ 秋鹿ごぼう等ブランド食材があれば、他の地方でとれた同じ食材とどこが違うのか、なぜこの土地でその食材が生まれたのか、などの話を聞き、地元の食材に興味と誇りをもてるきっかけにする。
ウ 松江市は合併して1年が経過している。旧町村で受け継がれてきた様々な伝統的文化が今後も伝え続けられるために、地元の人から産業や食文化について話を聞くことにより、地元への関心や愛着が生まれてくる。
④ 実際に体験してみる
ア 種まきや収穫などのポイントのみの体験だけでなく、最初から最後まで全てを通して体験ができるようにする。そのため、学校の近くに体験農園などを確保したり、農家と契約したりして、子どもが毎日のように観察や世話ができるようにする。自宅に畑などがあっても、手伝いなどほとんどしないため野菜そのものを知らない子が多い中では、有効な体験となる。
イ 生産調整や農業の大規模化により、遊休農地があちらこちらに見受けられるため、こうした土地を活用することで、地域の人たちとの交流も深められる。
ウ 収穫した食材は、自分達で調理し、命を育てる大変さと、命をいただく感謝の気持ちを育てる機会にする。
(2) 安全で安心して食べてもらうためにどんなことに注意しているのか知るには、どうすればいいか
① 生産する人から話を聞く
ア 安全な食材を生産、出荷するためにどんなことに気をつけているのか、話を聞いたり、また、より細かい配慮を知るために生産過程を通して体験してみる。
② 農薬や細菌について調べてみる
ア 野菜に使われる農薬について自分達で調べてみる。また一般の野菜と無農薬野菜についての違いを見たり味わったりして体感してみる。形が立派でなくても安全なものが、おいしくて体によいものだということを知る機会をつくる。
イ 体に悪影響を及ぼす菌について調べてみる。食材を洗って調理したり、食べる前に手を洗ったりすることの意味と大切さを学ぶ。
③ 調理をする人から話を聞く
ア 衛生面でどのように気を使っているのか、調理担当者から話を聞く。
イ 調理する人から話を聞いたり、調理の体験をしてみる。
ウ 給食調理現場と調理の様子を見学し、どのように配慮されているのかを見る。見学することで調理過程や音、においなどを体感し、食材が料理になると実感できる。
(3) 身体をつくる給食をおいしくて食べてもらうための工夫や努力がわかるには、どうすればいいか
① 調理をする人から話を聞く
ア 食材を活かした調理の仕方を工夫していることなどを聞く。
イ 調理の仕方によって変わる食材のフシギを体験(実験)する。
ウ アレルギー体質への除去食の配慮について聞く。
② 献立を作る人から話を聞く
ア 食材や栄養のバランス、年齢に合わせた献立内容の工夫、カロリー計算などについて話を聞く。
イ 旬の食材を知ることで野菜から季節感を養う。
ウ 食材の栄養素について子どもたちで調べてみる。
③ 実際に体験してみる
ア 子どもたちで実際に献立を立てて作ってみる。
イ 親子で郷土料理や地場産物を使った料理作りを行い、会食・交流を行うことで親子のコミュニケーションの場にもなる。
ウ 生産者と一緒に調理し食材を味わう。
エ 地元の高齢者、調理師との交流会食を行う。松江市でも農村地域を中心に過疎化が進んできており、若者や子供の減少が続いているため、高齢者との交流を深めることで互いをより理解でき、互いを思いやる心を育てることにつながる。
オ 他の市町村の学校と、給食メニューの交流をする。
カ 外国の食事情などについても調べてみる(外国の料理、飢餓などについて)。外国の料理を知ることで郷土料理に関心をもつきっかけにもなる。
キ いろいろな人との給食交流を行う中で、食事のマナーを学ぶことにつながる。
4. まとめ
学校給食を通して、さまざまな体験を行うことで、私たち人間が自然の中に生かされていると気づくことができると思います。
しかし、このような食教育を行っていくためには多くのハードルを越えなければなりません。
安全・安心な食材の確保、安定した量の食材の供給、学習や体験できる時間と場所の確保、そして、何より、学校・保護者・地域・生産者の連携した協力が必要です。そして、学校単位で行える単独調理室の確保が重要です。
今、文部科学省では、学校給食における地場産物の活用とその教育的意義を認め、単独調理方式の利点として、①食材の納入量が少ないため近隣で収穫された産物を多様な献立で使用が可能。予定量が確保できないときの献立変更等の対応が容易にできる。②規格のそろわない産物も活用可能。③各学校における食の指導計画、指導の進捗状況に応じて献立に地場産物を活用しやすい。④体験的な学習において栽培し収穫した産物を献立に活用しやすい。⑤保護者・生産者との交流給食の実施や教科等の外部講師として招く等の交流を深めやすい。ことをあげ、自治体で調理法式を検討する際には、行政の効率化という点だけでなく、こういった点も踏まえて検討することが必要であるとしています。
今まで述べてきたように、子どもたちを取り巻く環境は、改善することなくこのまま進んでいけば、生きる力さえ見失ってしまうのではないかと危機感を感じます。
何より、子どもたちが元気で生きる力を育める環境をつくることが、松江市地域にとって活力をもたらす源となり、ひいては定住化の促進につながり、少子化の歯止めにもつながるものと考えます。
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