【要請レポート】

森林バイオマス利用で資源循環型の活力ある
地域づくりをめざして
~NPO法人森のバイオマス研究会の取り組み~

広島県本部/NPO法人森のバイオマス研究会 竹常 明仁

1. はじめに

 1960年代に燃料革命といわれる薪炭から化石燃料への転換と田畑における化学肥料の普及が始まるまでは、地域の森林・里山から産出されるバイオマスは建築等の生活資材、薪炭や田畑の堆肥としてうまく利用され、地域の森林・里山は我々の生活と密接に結びついて存在していた。しかし、価格や効率が優先される現在では、輸入木材や化石資源に取って代わられ、社会全体がこうしたバイオマスがなくともやっていける仕組みに替えられてしまい、森林と人々との関係は希薄になり、森林・里山の荒廃と地域経済の長期低迷が進行している。
 こうした状況の中で、近年、森林のバイオマスをエネルギーとして使っていくことが、林業や中山間地域の活性化、地球温暖化防止等の環境問題への対応や循環型社会の形成にとっても重要な役割を果たすことが期待され、NPOや自治体等により森林バイオマス利用に向けた取り組みが始まっている。
 当研究会の活動拠点である広島県北地域(三次市・庄原市)は、総面積の81%を森林が占める典型的な中山間地域で、過疎化・若年層の減少・高齢層の増加が同時に進行しており、担い手の確保や地域資源を活用した魅力ある産業づくりが重要な課題となっている。
 当研究会は、こういう地域の森林が生み出すバイオマスをエネルギーとして活用することにより、①森林・里山の再生と心豊かな暮らしと環境にやさしい地域づくり(資源循環型の地域づくり)、②地域に雇用とニュービジネスを創出する(地域の活性化)ことを目的に、広島県北部の地域づくりや環境問題等に関心を持つメンバー(大学教官・林業・行政書士等の様々な市民)が中心になって、2002年6月に結成した。2003年7月からはNPO法人として活動している。
 ここでは、①森林バイオマスを利用した地域づくりの意義、②当研究会のこれまでの活動の成果、③当研究会の今までの活動の成果と今後の課題等について報告する。

2. 森林バイオマスを利用した地域づくりの意義

(1) 森林バイオマスとは
   バイオマスとは、光合成によって太陽エネルギーを有機物として固定している植物とその植物を食べる動物及びその排泄物のことで、農業や林業の副産物、家畜の糞尿や生ゴミなど、さまざまな形で存在しており、「再生する資源」であることが最大の特徴である。
   これらのうち樹木に由来するものを「森林バイオマス」(一般的には「木質バイオマス」と呼ばれる)といい、間伐材、伐採現場の林地残材、製材工場から出る端材の他、産業廃棄物として扱われている建築解体廃材等に分けられる。
   森林バイオマスは、①化石燃料に変わるエネルギーとしての利用、②プラスチック等に取って代わられているマテリアルとしての利用、③石油の代わりに精製し各種の工業用原料や燃料を取り出すバイオマスリファイナリー的な利用がある。最近は、ストーブやボイラーでバイオマスをそのまま燃焼させるだけでなく、バイオエタノールやバイオディーゼル等の輸送用液体燃料としての研究開発や普及がスタートしている。

(2) 森林バイオマスを利用した地域づくりの意義
   森林バイオマス利用のメリット・意義を整理すると次のようになる。
(図-1)バイオマス利用によるCO2循環
  ① 地球温暖化防止に寄与するカーボンニュートラルなエネルギー
    バイオマスエネルギーは、大気中の二酸化炭素が光合成によって植物体内に固定されたエネルギーであり、それを燃やすことにより再び大気中に二酸化炭素が放出されたとしても、エネルギーの消費と植物育成のバランスを保つ限り、実質の二酸化炭素排出がゼロとなる「カーボンニュートラル」なエネルギー源である。さらに、NOxやSOxの排出も少ないことから、環境への負荷が低いクリーンなエネルギーであり、地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出削減に大きく貢献できる。
  ② 循環型社会の構築を実現する再生可能エネルギー
    現在、地球温暖化や資源の有限性等の問題から持続可能な循環型社会への転換が課題となっており、森林や農地が生み出す再生可能なバイオマスを循環型資源として有効に活用していくことで、資源循環型の環境にやさしい地域づくりに貢献できる。
  ③ 林業木材産業の採算性向上と森林整備の促進に貢献
    用材生産を目的とした現在の林業生産にバイオマス的利用が加わることにより、林業・木材産業の採算性を向上させ持続可能な森林経営の確立に貢献できる(経済面)。こうして林業生産活動が活発になることで健全な森林整備の促進と、生物多様性の確保や森林生態系の安定化に貢献できる。(環境面)
  ④ 新産業・雇用の創出に貢献
    森林バイオマス資源は小規模に分散し、収集・運搬に割高なコストがかかることが欠点であるが、この性質は半面、長所でもあり、地域分散型のエネルギー(電気・熱)供給を行うシステムを確立することで、地域に新たな産業と雇用を生み出すという効果が期待できる。

3. 森のバイオマス研究会のこれまでの活動の成果

(1) 研究会の組織及び活動の概要
   当研究会は、生活のあらゆる場面に森林を総合的に利用していた、かつての地域の森林・里山との密接な関係を新しい形で作り直していくことを目的の一つにしている。そのため、森林バイオマス(木材)の利用も、今の建築用材中心の使い方から、エネルギーや生活資材として幅広く木材を使う方向での活動を展開している。
   当研究会の組織及び活動の概要は、次の(表-1)及び(表-2)のとおりである。

(表-1)森のバイオマス研究会の組織の概要
■ 理事会:理事長 1名、副理事長 2名、理事 14名、監事 2名
■ 事務局:事務局長 1名、専属事務局員 2名
■ 部 会:①ペレット部会 ②ボイラー部会 ③森の手入れ部会 ④エンジン化部会 ⑤商品化部会(こつぶ会)
■ 会 員:個人会員 122名、法人会員 30法人
■ 会費(入会金):個人会員3,000円/年(1,000円)、法人会員10,000円/年(5,000円)

(表-2)森のバイオマス研究会の活動の概要
1) 情報の収集・交換・発信とイベント・フォーラム開催を通じた市民へのPR
  定期的に講演会・イベント・フォーラムを開催、会報・HPによる情報発信
2) ペレットストーブの普及及びペレット生産システム導入に向けた調査・普及【ペレット部会】
  デモ機の活用及び販売代理店と連携した普及活動
  ペレットストーブの販売促進・ペレット生産の事業化を目的に「ペレット生産販売組合」を設立(05年9月)
3) ペレットボイラー・チップボイラー導入に向けた調査及び普及活動【ボイラー部会】
  重油・灯油で稼動している冷暖房・給湯用のボイラーをペレット燃料に切替えるための調査と普及啓発活動
4) 里山の手入れ活動【森の手入れ部会】
  市民参加による里山・人工林の保全整備活動
5) 森林環境とバイオマスに関する調査・コンサルタント事業
  庄原商工会議所から木質バイオマスエネルギー利用に向けた委託事業を実施
  県北部各自治体の森林バイオマス資源量を調査
6) 出前バイオマス講座の開催
  小中高校・公民館等の市民・子供たちへの環境教育
7) 木質バイオマスガス化発電・木炭バスの開発に向けた調査研究【エンジン化部会】
  森林バイオマスを活用した観光振興を目的に開発中
8) 森林バイオマスを活用した新商品の開発【商品化部会(こつぶ会)】
  ペット用消臭ペレット(猫砂)、アロマペレット等の付加価値の高い新しい商品開発

(2) ペレットストーブ・バイオマスの普及活動及び広島型ペレットストーブの開発
   当研究会では、森林バイオマスエネルギーを市民に分かりやすく、目に見えるかたちで普及するため、石油ストーブと同様にワンタッチの取扱いができる「ペレットストーブ」の普及から取り組みを始めた。ペレットストーブの特徴は、(表-3)のとおりである。

(表-3)ペレットとペレットストーブ
【ペレット】
灯油との発熱量比較:灯油1リットル=ペレット2kg
 製造:木質資源⇒粉砕⇒乾燥⇒成型
 長所:エネルギー密度が高く、取扱いが容易で
    輸送性貯蔵性に富む。自動運転に適する。
 短所:水気に弱い。貯蔵容積が石油の3倍必要
【ペレットストーブ】
長所:石油の嫌な臭いがない。
   木の燃える炎が安らぎを与える。
   完全燃焼するため煙や灰が殆ど出ない。
   NOx・SOxが発生せずクリーン。
   CO2削減につながる。
短所:価格が高い。煙突が必要。ペレットの確保が不安定。

   助成金を活用して導入した4台のペレットストーブを活用して2002年から始めたモニター活動は、導入先の農産物加工販売施設等の公共施設や小学校等、どこでも大変好評で,新聞やテレビの報道を見て広島市内から見学者が訪れるなど、多くの方に関心を持ってもらうことにつながった。
   その後、研究会の会員がペレットストーブの販売代理店となって販売活動を始めたり、様々なイベントへの出展やバイオマスフォーラムを開催する中で年々普及が進み、この4年間で106台が導入されている。
   中でも、2003年に、会員や市民の出資協力を得て導入した小型ペレット成型機を活用してペレット燃料の製造を始めたことの意義は大きい。市民にとっては、樹木だけでなく、ススキ・竹・松くい虫の被害木等「日頃ゴミとして扱われているバイオマスからエネルギー(ストーブの燃料)が出来る」ことを再発見することにつながり、予想以上の反響が得られ、県内・県外から見学者が訪れるようになっている。
   また、2004年秋には、当研究会と県内企業が連携する形で、西日本では初の「広島型ペレットストーブ」の開発を行った。広島県庁ロビーで燃焼展示が行われ、県内に広く普及していくための大きなステップとなるとともに、2005年からは、県北の企業に技術移転されて製造・販売が始まり、県北部の産業振興につながっている。

(図-2)広島市でのフォーラム(05年6月)
 
(図-3)庄原市でのフォーラム(06年3月)
 

(3) ペレット生産システムの導入に向けた活動
(図-4)冷暖房用ペレットボイラー(山口県)
   こういう取り組みの中で、2005年9月に、地域の林業・木材業の関係者等が中心となってペレットストーブの販売促進とペレット生産の事業化を目指し「ペレット生産販売組合」が結成された。ペレット生産の採算性を確保するためは、ペレットストーブの普及だけでは十分でないことから、石油で稼動している冷暖房・給湯用のボイラーをペレット燃料に切替えるための調査や普及活動を始めている。
   また、現在、市民の生活の中に森林バイオマス利用を浸透させる目的で、広島型のペレットストーブを開発した企業が家庭の給湯用小型ペレットボイラーの開発を行っており、今年秋には完成の見込みになっている。今後は、「ペレット生産販売組合」と連携し、ペレット生産の事業化も視野に入れた活動に力を入れていくことにしている。

(4) 森の手入れ活動
   当研究会では、地域の森林・里山との共生やその資源活用を体験することを目的に、会員以外の市民・高校生等にも呼びかけ、定期的に森林・里山の整備活動を行っている。
   現在まで、①スギ・ヒノキの人工林の枝打ち・間伐、②間伐材からベンチを作り地元のバス停等に提供、③広葉樹林(かんぽの森)の下刈・間伐を行い、間伐材を活用し炭焼きやペレット生産等の活動を行っている。
   また、継続して手入れした「かんぽの森」では、森の中を数区分して「野鳥の森」・「ササユリの森」等に整備しながら、毎年秋には「里山の秋祭り」と称し、コンサートや森に親しむイベントを開催している。今後も整備活動を継続し、地域の人たちにとっても「憩いの森」「体験の森」として整備していく計画である。

(図-5)間伐材で作ったベンチ
 
(図-6)森の手入れ作業
 

(図-7)里山の秋祭り

4. 今までの活動の成果と今後の課題

 広島県北地域の森林・林業の現状をみると、人工林資源が充実し蓄積量が増大している中で、林業は元気をなくし、森林バイオマスを安定して供給できる体制や、地域の森林を持続可能な状態で管理していく仕組み自体がなくなりつつある。そのため、当研究会では、エネルギーとして森林バイオマスの新しい需要をつくることにより、森林バイオマス(木材)を循環的に利用していく仕組みづくりが出来ないかとの問題意識で活動を行ってきた。
 この間、当研究会が森林のウェイトが高い県北地域を拠点に活動を始める中で、循環型社会へ向けた動きも加わり、地元自治体である庄原市が、森林資源を活用したペレット生産等の新産業の振興を目的にした施策展開を開始した他、県北部の殆どの自治体が森林バイオマス利用を中心とした新エネルギーの利用計画の策定を始める等の成果が現れ始めている。
 また、もう一つの成果として、当研究会の活動を通じ、林業・製材業と建築家・大工・工務店が連携し「地域の木材を使った家づくりグループ」が結成されたり、里山保全や環境問題に関心のある市民や県内外のバイオマス・環境関係のNPOや企業との交流が始まる等、地域の森林・里山を活用した環境にやさしい地域づくりに向けた取り組みが発展していく可能性を見出している。
 しかし、今後、本格的に森林バイオマス利用の取り組みを進めていく場合の課題としては、①環境にやさしく地域を豊かにすることにつながるバイオマスに関する知名度がまだまだ低いこと、②バイオマスを安定的に供給するためには林業や中山間地域の活性化が必要なこと、③バイオマス利用の需要面で誰もが使い易い利用システムづくりが必要なこと等、が考えられる。
 特に、グローバル化が進む現在の競争社会の中で、バイオマス利用を中山間地域の新しい産業として確立していくためには、当研究会や中山間地域の努力だけでは実現困難な面がある。NPOと行政・市民・企業等の循環型社会移行に向けた協働体制の確立や、環境先進国EUのような炭素税・環境税の導入等、バイオマスの活用を促進するための各種制度の創設が必要である。
 また、地域みずから、このような取り組みをスタートするためには、「地域通貨」等の新たな発想も必要である。地域の森林・里山の整備活動に参加した市民に地域通貨を発行し、その通貨でペレット燃料が購入できるような仕組みづくりを行うことで、コスト問題の解決や新たな需要創出につながっていくものと期待できる。

(図-8)地域通貨等の活用による集落単位でのバイオマス循環

5. おわりに

 現在、地球温暖化等の様々な社会問題の原因である大量生産・大量消費型社会への反省から、持続可能な循環型社会への転換が求められている。
 かつての中山間地域では、森林や農地が生産している再生産可能なバイオマスが繰り返し利用され、それが地域の産業を支えていたことを考えると、再びこれらの再生産可能な中山間地域の資源を活用していく道筋を作ることは、環境に付加を与える有限な化石資源から環境にやさしく再生産可能な資源を活用した循環型の社会システムへの移行に向けた動きにも牽引役を果たすものと期待している。
 今後とも引き続き、中山間地域の活性化、地域の森林・里山の再生や、地域資源である森林バイオマスを循環的に利用した、環境にやさしい心豊かな地域づくりを目指して活動していくつもりである。