【自主レポート】

庁内意識改革と地域連帯から公契約改革を進める

 東京都本部/練馬区職員労働組合

1. 賃金格差是正の運動から

 練馬区では、図書館への非常勤職員導入を始め多くの職場で臨時・非常勤職員の導入が進められ、現在、臨時・非常勤職員の数は概ね2,500人に達し、常勤職員の2分の1近くになっている。また委託、民営化の拡大により非常勤職員よりも更に労働条件が劣悪な不安定雇用労働者が大量に作り出されている。ここに目を向け、組織化と共に、社会的規制をかける運動が必要との認識から、練馬区職労として公契約の運動に取り組み始めた。
 東京清掃労組の職場でも都から区に身分移管される中で、練馬区でも職員不採用が続き職場に委託労働者、派遣労働者と様々な雇用形態の労働者が存在する状況を強いられてきた。同じ仕事をしているにもかかわらず賃金等があまりにも違うということの矛盾をひしひしと感じ、こうした状況を放置することは自分達の首をしめ、自分達の身分を不安定にすることも切実に感じていた。 
 一方地域では建設関係で長引く不況と公共事業の削減で仕事自体が減少し賃金は低下の一途をたどっている。役所の入札では低い価格での落札が増え、そのしわ寄せが下請けに入った建設労働者に集中していた。また低入札は手抜き工事などにつながり公共建設物の品質の低下を招くなど社会問題化し、品質確保のための法律も制定されることになった。こうした流れを追い風に建設業関係では、2000年11月に国会が「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律に対する付帯決議」を採択し「建設労働者の賃金労働条件の確保が適正に行われるよう努めること」を政府に求めた。これを受け全建総連は地域での公契約条例制定運動を進めていた。
 こうした中で、全建総連東京土建練馬支部の呼びかけを受け学習会を共に企画することから始め、民間委託職員問題、委託先労働者の低賃金改善などの運動、地域での全建総連の生活賃金を求める運動を背景にしながら、区職労の臨時・非常勤労働者の組織化を契機として公契約運動を始めてきた。

2. 地域連絡会での取り組み

 地域的には「練馬公契約連絡会」(区職労、清掃労組、全建総連東京土建等参加)を結成し、月1回情報交換を中心に行い、対行政や地域での取り組みをそれぞれの特徴を生かしながら行っている。それぞれの力を総合し、運動を前進させようと確認し進めている。連絡会としてはこれまで「公契約条例制定運動」の必要性を理解するために地域学習会を2回開催し、運動の全体化に努めている。
 また公契約運動を前進させるために、「公契約」の下に置かれている関係労働者の実態を把握し、事実を持って突き出そうと、大学の教授と研究室のスタッフの力も借りながら練馬区に働く臨時非常勤職員や委託企業の労働者へのアンケートとヒヤリングを実施した。そして、1,200人近くから集まったアンケートの結果をまとめ、ブックレット「地域から生活できる賃金の確立へ―公契約条例が地域を救う―」にし発行した。今後作成したブックレットを使い、行政、議会、地域への働きかけを強めていくことにしている。

3. 区内全労働団体で練馬区へ申し入れ

 こうした取り組みの上に立ち、練馬区で進められている「委託・民営化方針」による大泉勤労福祉会館への指定管理者の導入では、練馬区内の全労働団体(連合練馬地協、練馬区労協、練馬労連、練馬全労協)が共同で練馬区に対して、導入前に働いている下請けの労働者の雇用が確保されるよう申し入れを行った(資料1-1)。また保育園運営の民間委託に際しは、委託労働者の労働条件の水準確保を求める申し入れを同様に行い、その後、委託後四ヶ月足らずで3分の1近くの職員が退職するという事態を受け、再度申し入れを行ってきた(資料2-2資料3)。こうした練馬区内の労働界あげての取り組みは、委託業者選定に向け一定の成果にもつながってきている(資料1-22-1)。 

4. 労組内プロジェクトの結成

 政策課題では区職労の取り組みがかぎを握る。そのように連絡会の中で期待される中、当初は正直なところ、「理屈はわかるが、いざ運動となると、どこから最初に手を付けて良いか皆目見当がつかない」というのが実情であった。そこで区職労三役を中心とした「プロジェクト」を設置し、公契約条例制定を進めるにはどうしたらよいか、区役所内外の状況を分析しながら、取り組みの方向を検討してきた。区幹部の認識はどうか、区幹部のやる気を後押しするためにはどうしたら良いか。企画、財政は委託、民営化の推進と支出の削減でしばられており、ここに旗振りを期待するのも当面困難だろうなど、区役所内の状況の分析を行った。そして議会への働きかけと契約担当課への働きかけから始めることにした。

5. 職員の意識改革と庁内世論形成

 契約を結ぶときに作業内容等を指示する「仕様書」を作成するのは、その委託事業を主管する課の組合員であり、賃金水準に関与するのは不可能でも、担当課の段階で委託労働者の労働条件の改善に結び付く部分もかなりある。このように、入札制度改革を待たずとも、契約内容を業務の中で点検する中で担当課段階でも変えていける部分もある。また公契約条例が出来た後も、その条例が実行力を持つか否かは、監督、検査などを担う担当課の取り組み次第であり、組合員や管理職の理解を得ないと運動自体が進まないことなどから、職員の意識改革に取り組むことも同時に重視した。
 そのため 組合員の理解を図るための、公契約条例制定運動キャンペーンを行うこととし、組合機関紙やパンフレットなどでの教宣活動を行った。また契約担当課長に練馬区の「入札制度改革」の検討状況を聞く場を分会役員を対象に設け、公契約条例が決して時代の流れからも要請されていることを理解させ、自信を持って運動に加わる状況を作るよう努めた。この取り組みは、契約担当課に我々の公契約運動への並々ならぬ思いを伝える重要な契機であると位置付けた。
 学習に関しては区労協主催の春闘学習会で公契約を主題の学習を企画したり、自治労練馬地区協議会、都労連練馬地区協議会などでも機会ある毎に公契約条例運動についての学習会を設定してきた。また東京土建練馬支部も庁舎前で公契約条例制定を訴えるビラ配布を毎年春闘時に行い区および職員に対してアピールしている。
 この取り組みの延長として契約書、特記仕様書などのチェックを行い、出来るところから改善する取り組みを今後開始することにしている。

6. 議会への働きかけ

 公契約条例制定は地域雇用の拡大など普遍的な政策課題であることから、議会に対しても積極的に意見交換をするなど共感の輪の広がりを求めている。練馬区議会では2005年12月に国に対して「公共工事における建設労働者の適正な労働条件の確保に関する意見書」を全会一致で採択している。これは練馬の中小建設業団体が大きな広がりをつくり、ともに働きかけたことで、区議会で全会派の総意として採択されたものである。この到達点にたち、今後は区における委託の現状、委託労働者の労働条件を把握し、非常勤職員、下請け労働者や建設業従事労働者の状況について、連絡会のブックレットの活用など図り一層の理解を求めていくことにしている。

7. 委託導入後の経験を生かす

 これまでも区職労は中学校給食、学童擁護や保育園などの委託職場に関して、委託後の検証作業を交渉妥結時に確認し実行してきた。そして委託内容に問題が見つかれば、次回の契約時に改善するなどの取り組みもしてきた。またこれまで区の委託はその多くが丸投げである状況から、委託管理問題を委託導入交渉に際しては重視し取り組んでいる。こうした取り組みの積み重ねの上に立ち、その中に委託労働者問題を付加する取り組みを始めている。例えば現在下請けに入っている清掃労働者などが、指定管理者導入に際して契約を解除されないように交渉し、区に努力を約束させるなどさせている。こうした取り組みを今後も進めて行きたい。また住民の共感を広げることが運動の成功にとって不可欠であり今後の課題である。自治体労組はこの運動の核であるし、区職労ががんばらなければ運動は進まないと言うことが、地域を含めたみんなの共通認識であり、こうして期待に応え、大きく運動を作っていく中で条例化に結実させていきたいと考えている。

資料1-1 大泉勤労福祉会館委託に対する適正労働条件確保等を求める要請書
資料1-2 勤労福祉会館指定管理者選定評価項目
資料2-1 覚 書 勤労福祉会館および勤労福祉センター(サンライフ練馬)の指定管理者への委託について
資料2-2 区立光が丘第八保育園における適正労働条件確保等を求める要請書
資料3 区立光が丘第八保育園における適正労働条件確保等を求める再要請書