【要請レポート】

自治体雇用・労働施策に関するニーズ調査結果の概要
─県中心地域と周辺地域で差異、
求職活動をする人が異なり、ニーズも異なる─

 富山県本部/富山大学経済学部 坂  幸夫

1. はじめに

 本調査は、富山県内において求職活動中の人に対して、主に自治体の雇用・労働施策としてどの程度ニーズが存し、ニーズの中身としてはどのようなものがあるのかを明らかにすることを目的に実施しました。
 以上の調査目的の背景にある問題意識は、以下のようなものです。富山県地方自治研究センター(理事長:竹川愼吾 以降自治研センターと略)は2005年度に県内自治体の雇用・労働施策の実施状況の調査を行いました。この調査は、県内におけるいわゆる平成の大合併の直前に実施したものですが、その目的は合併前、市民・住民にとって最も身近な自治体である市町村において雇用・労働施策がどの程度行われているのかを明らかにすることにありました。この調査結果によれば、富山市や高岡市といった県内の中核的自治体においては、一定程度雇用・労働施策が実施されているものの、それ以外の自治体においては実質的な取り組みはほとんどなされていないことがわかりました。周知のようにこの時期、広域合併に伴う自治体行政組織の再編と行政の見直しが進行しつつありましたが、上記の調査結果を受け、この機会を利用して雇用・労働施策への取り組みを求めることが喫緊の検討課題であり、かつチャンスであると考えました。
 今回の調査は、市民・住民の雇用・労働施策に関わるニーズを把握することによって、自治体に対して、具体的に提案を行いうるようなデータを収集することを目的に実施しました。

2. 調査の実施主体および調査時期、調査方法

 本調査の実施主体は、富山県自治研センターであり、調査を担当したのは同センタープロジェクトの雇用・労働政策部会です。
 調査は2006年3月から4月にかけて実施しました。調査方法は、県内4ヶ所のハローワーク(ハローワーク富山、同高岡、同砺波、同小矢部)の前で求職活動に訪れた人に対して、調査員によるアンケート方式で行いました。

3. 調査の主な項目と調査票の回収状況

 調査票は、部会メンバーによる数回にわたる討議を経て以下の項目が盛り込まれました。
 ①これまでの職歴、②現在の生活状況、③求職にあたっての希望、④求職情報、セミナー等の周知度・参加度、⑤自治体の雇用・労働施策へのニーズと期待、⑥性、年齢等回答者の主な属性。
 調査票は全部で530枚が回収されました。各ハローワーク前での回収枚数は以下の通りです。なお「その他」とはハローワーク前以外で求職活動を行っていた方々に回答していただいた分です。ハローワーク富山=222枚、同高岡=145枚、同砺波=79枚、同小矢部=64枚、その他=20枚、計530枚。

4. 求職者の主な属性(第1表)
 ─居住地によって異なる求職者の像─

第1表 回答者の主な属性

  
性別
平均年齢(歳)
家族構成
転職回数
現在の就労状況
  男性 女性 無回答 独身

親と同居
独身

単身
既婚 無回答 平均値
(回)
4回以上の比率 仕事は何もしていない人の比率
  総計
46.8
51.5
1.7
44.6
26.6
10.8
59.8
2.8
2.3
20.3
70.2
人口10万人以上
50.9
48.5
0.6
46.6
24.9
13.0
61.2
0.9
2.4
20.8
70.1
  男性
女性
100.0
0.0
0.0
100.0
0.0
0.0
48.0
45.3
31.4
18.3
19.8
6.1
48.3
75.6
0.6
0.0
2.5
2.2
28.3
12.6
72.1
68.9
人口10万人未満
41.1
58.9
0.0
40.2
30.8
7.0
59.5
3.9
2.2
20.0
70.3
  男性
女性
100.0
0.0
0.0
100.0
0.0
0.0
47.5
37.7
44.7
21.1
11.8
3.7
39.5
73.4
3.9
1.8
2.4
2.1
29.8
11.8
77.6
65.1
 
は比率が多め
 
は比率が少なめを示す。

 回答者の主な属性を要約的に箇条書きで示すと以下のようになります。なお文中において回答者の居住地域として、中心地域と周辺地域という表現が出てきますが、中心地域とは人口10万人以上の地域を意味し、具体的には富山市と高岡市を指します。これに対し周辺地域とは人口10万人未満の地域、つまり富山市、高岡市以外の地域を指しますが、その大多数は人口4万人未満の地域です。
① 性別は、全体では男性が47%、女性が52%で、わずかに女性が男性を上回っています。地域別にみると、周辺地域では女性が59%と一層多くなっています。
② 平均年齢は男性が48歳で、地域差はみられませんが、女性は地域によって差異が生じており、中心地域では45歳なのに対し、周辺地域では38歳といった差が生じています。
③ 家族構成では、女性は居住する地域にかかわらず4分の3が「既婚」です。一方男性は地域によって違いが見られ、中心地域では既婚者と独身者はほぼ半々ですが、周辺地域では独身者が6割を占めています。しかもその多く(45%)は「親と同居」で、これは中心部の男性の比率(31%)を大幅に上回っています。
④ 現在の就労状況をみると、当然「現在は何もしていない」という回答が多い(70%)のですが、特に周辺部の男性はこの比率が78%と8割近くに及んでいます。それに対し、同じ周辺部の女性の3人に1人は現在「パートで働いている」と回答しています。

5. 注目すべき居住地別・性別にみた回答者の像

 以上のようにみてくると、回答者の属性は、居住する地域や性別によって一定の片寄りがあることがわかります。
 特徴が明瞭なのは、周辺地域です。すなわち同地域では女性の求職者がほぼ6割を占めていますが、その多くは30代後半と比較的若く、「子どもあり」の既婚者です。そのうちの3人に1人はパートを中心に現在も就労中です。
 他方、同地域の男性は、年齢的には40代後半層が多いにもかかわらず、6割近くが独身者であり、しかもその多くは「親と同居」です。さらに現在の就労状況では「現在仕事は何もしていない」と答えた人が8割に近く、転職回数も多めです。
 ところでこの調査において周辺地域とは、富山市や高岡市といった富山県の中心部以外の地域ですが、これらの地域は元来農業が中心の地域であるとともに、近年では県中心部へ通勤する人たちの新興住宅地という側面ももちつつあります。こうした地域性とこれまで見てきた回答者の地域別・性別の属性をつき合わせるなら、求職者に一定の像が浮かんできます。すなわち人口10万人以上地域の求職者は、都市部居住者の像にほぼ合致します。それに対し周辺地域の場合、女性は30代後半の既婚者で子どもがおり、生活費の不足分を補うためにパートで働こうとしている、ないしは現にパートで働いていますが、より条件のよいところを探しているといったイメージです。
 他方同地域の男性の場合、年齢は40代後半ですが、独身者が多く、かつその多くは親と同居です。地域性を考慮した場合、家は第2種兼業で農業を営んでいる可能性が高いと思われます。推測をまじえて言えば、結婚した兄弟・姉妹は家を出ており、家に残った回答者が、多分70代に達しているであろう親と同居し、場合によっては介護をしているといった像が浮かび上がります。
 ちなみにこの周辺部の農業後継者について、2005年農林業センサス(概数値)によって(北陸農政局富山事務所調べ)調べたところ、例えば独身者比率は、全体として農業後継者では高めではあるのですが、とりわけ山間地農業地域、および都市的農業地域と山間地農業地域の間に位置する中間農業地域ではかなり高いことがわかりました。かつて農業後継者の結婚難が社会問題になったことがありました。もちろん今もすべて解決された訳ではありませんが、問題なのはそれを引きずりつつも現在では、それらの人たちの中から求職活動する人がでているということ、つまり失業問題が生じているということだと思われます。
 以下、調査結果を順次みていきます。

6. 求職者の現在の生活状態と求める仕事の条件
─半数は「今は困っていないがこの状態が長く続くと困る」─

(1) 現在の生活状態(第1図)
   全体としては「今は困っていないがこの状態が長く続くと困る」が55%と半数強を占め、次いで「生活に困っており、早く何とかしたい」という困窮度の高い人が25%です。後者の比率が最も多いのは中心部男性の36%であり、逆に最も少ないのは同地域の女性の16%です。総じて女性は「生活に困っており、早く何とかしたい」という人は少なめです。なお周辺地域の男性も「生活に困っており、……」は29%と必ずしも困窮度は高くありません。当面住居は確保されていますし、兼業農家であれば、かつて親は正規社員・職員として勤めていたケースも少なくないでしょう。その場合親は厚生年金なり共済年金を受けている可能性は高く、そのために切迫した生活状態ではないのもうなずけます。しかし問題は今後であり、親と同居であれば必然的に介護の問題が生じ、老老介護に直面することもありえましょう。

(2) 再就職先を選ぶ際に重視すること(第2表)
   総計では「現在の生活水準を維持できる収入」をあげた人が38%で最も多く、次いで「今までの経験が生かせるような仕事」が26%で、この2つが他の項目を引き離しています。これを地域別・性別にみると、男性は居住地に関係なく第3位に「正社員として勤められること」があげられており、安定した職への希望の根強いことがわかります。
   他方、女性は男性と異なり、「非正規やパートで働けること」が上位にあげられているのが特徴的です。そうした中で、周辺地域の女性は「現在の生活水準を維持できる収入」が44%と中心部の女性の同回答の比率(38%)を大きく上回り、仕事の目的が生活補助的色彩を有していることを強く感じさせます。と同時に「今までの経験が生かせるような仕事」(32%)や「専門的な技能・知識を生かせるような仕事」(15%)といった仕事の中身に関わる回答が多いことも見逃せません。これらの回答者は年齢も比較的若く、前職を育児等の理由で離れたものの、培った職能を生かした仕事につきたいという気持ちが強いように思えます。しかしいわゆる家庭責任のもとで先にふれたように「非正規やパートで働けること」が条件であり、そのために「不規則勤務や交代勤務がないこと」(16%)も相対的に高いウエイトを占めており、それらの条件のすり合わせが就職を難しいものにしているようにみえます。しかし生活補助的色彩が強いということは、収入水準にはこだわりが少ないということにもなり、そのことを前提にすればむしろこうした人的資源が周辺地域に少なくないことを企業に周知するとともに、条件のすり合わせ次第で例えば短時間正社員など、多様な働き方を念頭に求人誘導することなども考慮してよいように思えます。


第2表 就職の際、重視すること(2つ以内選択)
  現在の生活水準を維持できる収入 安い賃金でもよいから楽な仕事 経営が安定している会社 今までの経験が生かせるような仕事 今までと違った新しい仕事 正社員として勤められること 非常勤やパートで働けること 専門的な技能・知識を生かせる仕事 福利厚生が充実した会社 不規則勤務や交代勤務がないこと 知名度の高い会社 どんな仕事・会社でもよい 無回答 件数
総計
①38.1
13.6
④17.4
②26.2
6.8
③19.1
⑤14.5
10.6
8.3
10.8
0.9
6.4
1.5
530
人口10万人以上
①36.1
13.3
④18.6
②24.0
8.0
③21.0
⑤13.6
9.2
9.2
10.4
1.5
5.3
1.2
338
男性
①34.3
⑤14.5
④20.3
②25.6
9.9
③24.4
5.8
8.7
6.4
8.1
2.3
7.0
0.6
172
女性
①37.8
12.2
④17.1
②22.6
5.5
④17.1
③22.0
9.8
12.2
12.8
0.6
3.7
1.8
164
人口10万人未満
①41.1
④14.6
④14.6
②30.3
4.3
④14.6
③16.8
13.5
7.0
11.4
・・・
8.1
2.2
185
男性
①36.8
⑤17.1
④19.7
②27.6
2.6
③25.0
3.9
11.8
6.6
5.3
・・・
14.5
1.3
76
女性
①44.0
12.8
11.0
②32.1
5.5
7.3
③25.7
⑤14.7
7.3
④15.6
・・・
3.7
2.8
109
※網かけ数字は総計との差が5ポイント以上多いことを示す
※下線数字は総計との差が5ポイント以上少ないことを示す

(3) 望ましい就労場所(第2図)
   以上に関連して、望ましい就労場所をみると、多くの回答者は「市内がよい」(71%)と答えていますが、これも地域別や性別によって分岐が生じています。圧倒的多数が「市内がよい」としているのは中心部の女性(87%)であり、これは市内に就職可能な求人が多くあることを反映しているように思えます。これに対し周辺地域の女性は「市内がよい」は65%にとどまり、「県内がよい」というように範囲を広げている人がほぼ3割です。その背景には(2)で述べたような条件の難しさがあることは容易に想像されます。このように就職の場を拡げる傾向は周辺地域の男性では一層増え、「市内がよい」は54%と半数程度にとどまり、「場所は問わない」という人が18%と2割近くに及び、身近での就職の困難さを伺わせます。

7. 自治体雇用・労働施策へのニーズの有無と内容
─自治体雇用・労働施策へのニーズは高い─

(1) 自治体に求人情報や相談窓口があった場合の利用の有無(第3図)
   市町村に求人情報サービスや労働相談窓口がある場合、それを利用するかどうかを問うた結果では、全体で8割の人が「利用する」と回答しており、これは居住地や性別による違いは見られません。市町村が雇用・労働施策を行うことへのニーズは高いといえますが、しかし多くの市民・住民にとってはサービスや窓口があれば、「利用する」というのは当然の反応と考えるのが妥当でしょう。むしろ問題なのは、たとえ少数であっても、「利用しない」という人がいたという事実でしょう。

(2) 利用しない理由(第4図)
   では利用しないと答えた人は、その理由としてどのようなことをあげているのでしょうか。最も比率が多かったのは「専門的なアドバイスが受けられないと思うから」(40%)というものでした。興味深いのは周辺地域の男性は「市町村に個人情報を知られたくないから」が36%と総計の24%を大きく上回っている点です。人間関係の密度が濃くならざるを得ない周辺地域において、個人の生活状況を外部に知られたくないという思いがあると考えられ、施策の実施にあたって十分な配慮が必要であることがわかります。

(3) 自治体の雇用・労働施策への期待の有無(第5図)
 しかし、そうした自治体の雇用・労働施策へ期待するかどうかをみると、回答は微妙です。全体としては(期待が)<ある>(「大いにある」+「多少はある」)が49%、<ない>(「まったくない」+「あまりない」)が48%と、回答が二分されているからです。特に周辺地域の男性では<ない>が59%と「期待しない」方に大きく傾いており、自治体行政の役割を一歩引いて見ている様子がうかがわれます。この点についてさらに一歩踏む込めば、もしこれら周辺地域の男性回答者の多くが農業後継者であるとすれば、これまでの(自治体)行政への不信もその背景にはあるのかもしれません。

8. ニーズの内容(第3表)
─「求職相談窓口の設置」「求人情報の提供・斡旋」「職業訓練の場の提供」がトップスリー─

 そうはいってもニーズそのものは多くの回答者が持っています。その中身を見ると、全体としては「求人情報の提供・斡旋」(40%)、「求職相談窓口の設置」(36%)、「職業訓練の場の提供」(22%)がトップスリーですが、ここでも居住地や性別によって違いが見られます。

第3表 市役所や町村役場に対して期待すること

  求職相談窓口の設置 求人情報の提供・斡旋 職業訓練の場の提供 転職・就職活動に関する取り組みPR ハローワーク機能を持つ機関の設置 若者対象の就職相談活動の実施 高齢者対象の就職相談活動の実施 非正規の就職相談活動の実施 就職口が増える様な企業の誘致 その他 無回答 件数
②35.5
①39.8
③22.4
⑤12.7
④17.8
8.1
10.8
12.0
⑤12.7
1.9
1.2
259
人口10万人以上
①37.7
②37.1
③24.6
12.6
④15.4
9.7
⑤13.1
11.4
10.9
2.3
0.6
175
男性
①39.8
②29.0
③24.7
⑤14.0
12.9
⑤14.0
④17.2
7.5
12.9
3.2
・・・
93
女性
②35.4
①46.3
③24.4
11.0
④18.3
4.9
8.5
⑤15.9
8.5
1.2
1.2
82
人口10万人未満
②31.0
①45.2
④17.9
13.1
③22.6
4.8
6.0
13.1
⑤16.7
1.2
2.4
84
男性
①48.3
②24.1
②24.1
⑤17.2
②24.1
10.3
10.3
・・・
13.8
・・・
・・・
29
女性
②21.8
①56.4
14.5
10.9
②21.8
1.8
3.6
④20.0
⑤18.2
1.8
3.6
55
※濃い網かけ数字は計との差が15ポイント以上多いことを示す
※薄い網かけ数字は計との差が5ポイント以上多いことを示す
※丸文字は比率の順位

 中心地域居住者では、先の上位2項目がほぼ同率で並び、次いで「職業訓練の場の提供」が多くなっていますが、その中にあって女性求職者では半数近くが「求人情報の提供・斡旋」をあげている点が目立っています。
 他方、周辺地域では「求人情報の提供・斡旋」への要望が強く、とりわけ女性求職者は中心部の女性をさらに上回って多い(56%)のが特徴的です。周辺地域で求職活動をしている女性は、既述のように近隣のパートタイムやその他の非正規の職を多く求めていますが、彼女らは年齢も若く、育児等の理由で中途で離職したものの、前職で培った職能を生かしたいという思いも強いことが示されていました。しかしそれらの条件にマッチする求人は周辺地域には少なく、より多くの情報を求めているように思えます。そうであれば自治体に求められるのは、地域に密着した詳細な求人・求職情報、例えば企業が求めている職能・求職者が有している職能の詳細な情報の収集と開示、さらには求人の開拓といったことのように思えます。その際彼女らは高い収入水準よりは残業や交替勤務がないなど労働時間の短さ、負担の軽さを重視しているという点も考慮されるべき点でしょう。
 これに対し周辺地域の男性の半数近くは「求職相談窓口の設置」をあげており、他の項目を大きく引き離しています。周辺地域の男性は、提供されている求人件数に問題があるというよりも、40代後半で独身、かつ親と同居の人が多いという条件との折り合い求めている可能性が高く、その場合に必要とされるのは、相談機能の充実であると思われます。しかし窓口での相談は、個人のプライバシーに関わらざるを得ず、それゆえに相談内容を外部に知られたくないという思いは一層強くなっているように思えます。このあたりは公務労働における倫理感覚が問われる場面でもあり、職員配置の面での配慮も不可欠でしょう。

9. まとめ

 まず地方自治体が雇用・労働施策を行うことへのニーズの有無では、多くの人がニーズを有しています。 ニーズの内容としては「求人情報の提供・斡旋」、「求職相談窓口の設置」、「職業訓練の場の提供」がトップスリーですが、このうち「求人情報の提供・斡旋」へのニーズは総じて女性で強く、とりわけ周辺地域の女性で目立っています。これらの地域の女性は、育児等の理由から一端離職し、子どもの成長に伴って就労経験を活かした就職や転職を希望している人が多いのが特徴です。しかし通勤可能な範囲で勤務できる求人数が少なく、まずは情報提供への期待、そして可能であれば求人の開拓への期待も少なくないと思われます。そのためには企業に対しては人的資源の視点に立った情報提供なども必要でしょう。
 これに対し「求人相談窓口の設置」は同じく周辺地域の男性で目立っています。前述したような困難な生活条件を抱える中で、親身な相談を必要としているように思えますが、その際彼らは自治体施策への期待という点では一歩距離を置いており、また個人情報を守りたいという意識も強いことなど十分配慮されるべきでしょう。
 こうして、人口10万以上の県中心地域よりは、10万未満の周辺地域の方が求職活動面で多くの課題を抱えており、そうしたいわば地域的格差が存在することを前提に雇用・労働施策を策定することが必要であるということが1つの結論です。
 そして今回の調査結果から周辺地域の男性求職者については、かかえる問題は一層深刻であり、さらなる検討が行われるべきといえましょう。かつて農村地域で言われていた結婚難の問題は、一部解決しつつも、一部は未解決のまま、今日では独身・中高年農業後継者の失業問題というより深刻な事態に転化しつつある可能性が浮かび上がっています。これは、いうまでもなく農業後継者の雇用問題として取り組みがなされねばならないことを示しています。さらにこの問題は、来年に迫る農業高度化施策のもとで、それについてこれない小規模農家の将来に関わる農業政策の問題でもあります。そしてさらに彼らの少なからざる部分が老親との同居であることを考えれば、それほど遠くない将来に老々介護の問題に直面すると思われます。これは、いうまでもなく介護問題を含めた福祉の問題でもあります。このように幾十にも絡み合った問題を抱えつつあるのが、周辺地域における男性求職者であることを、今回の調査はその片鱗ではあるのですが、明らかにしたといえましょう。