【要請レポート】

若年者の就職支援から……包括的な自立支援へ

 三重県本部/三重県職員労働組合・生活部・勤労・雇用支援室 福島 頼子

第1 若年者雇用支援における成果と課題

 三重県では、2004年度から県の総合計画において若年者の雇用支援を重点的な取り組みとして位置づけ、三重労働局、県教育委員会、県内の大学、民間の就職支援会社等の関係機関と連携し、若年者の職業観、勤労観の醸成や就職支援に取り組んできました。
 平成16年度当時は若者の雇用問題の背景には、新規学卒の求人の減少や求人の非正社員化、間接雇用化が進展していることなどによる求人と求職のミスマッチ、企業採用方針の変化など、雇用側に関連する要因がある一方で、働く側の要因として、働くことに対する意識・意欲の低下などの影響があると考えられていました。
 そのため、国と県が一体となって運営する若年者就職支援のためのワンストップサービスセンター「おしごと広場みえ」の充実やコミュニケーション能力やビジネスマナーなど就職に向けてのスキルを身に付けるための座学と実際の職場でのインターンシップを組み合わせた約5ヶ月間の講座「就職しま専科」の実施などを進めてきました。
 これらの取り組みにおいては、当初、「フリーター」や「無業」となっている若者をどのようにして「おしごと広場みえ」の利用や「就職しま専科」への参加に結び付けていくかが大きな課題であり、各種の広報を通じて若年者の就職意欲を高め、これらへの参加へ結びつけることに力を入れて取り組んできました。
 若年者に対する広報は、これが効果的であるという絶対的なものはありませんが、あらゆるメディアを活用したり、イベントを開催するなどにより、「おしごと広場みえ」や「就職しま専科」について認知度を高めることができました。
 特に「就職しま専科」については、第9期を現在開講中で、第5期までに422人が受講し講座修了者の就職率が約80%、途中就職を含めた受講生全体の就職率は58.2%と一定の成果を得ることができました。
 しかし、これらの取り組みを進める中で、若者本人が抱えている課題は、就職に対する意識、意欲の低下のみではなく、個人によって様々であるということが明らかになってきました。

第2 若者が抱える課題

 まず、「おしごと広場みえ」でのカウンセリングや「就職しま専科」を実施する中で明らかになった様々な課題のうち、若者本人が抱える課題としては、
① 心理面での課題を抱えており、メンタルクリニック等へ通院中の場合も多数ある。
② 軽度の発達障害などの課題を抱えている。(診断を受けておらず、本人、家族ともに自覚がないままに就職活動で困難に直面している場合もある。)
③ 雇用情勢が大変厳しかった平成10年以降に学校を卒業し、正社員経験がないままに20代後半を迎えている。
④ 就職したいという意欲があり来所しているが、実際の職探しや企業でのインターンシップには踏み出せない。
⑤ 学校、家庭以外で他者と関わる経験が著しく不足している。
⑥ 集団での講座では非常にストレスがかかり受講継続が困難な若者がある。
 といったことが明らかになってきました。
 また、マスコミ等によって「ニート」という言葉が急速に広がり、無業の若者は「働く意欲がない」、「ニートとは、ひきこもりである」と言うイメージが広がりました。
 しかし、そこで、「ニート」として若者を一括りにすることは、私たちの目の前にいる若者が抱える様々な課題を見失うことになると考え、若者の就職を困難にしている原因を明らかにしていくことに取り組むこととしました。
 若者の就職支援の現場から見えてきた課題は、若者が無業であることの背景には、様々な課題があるということです。まずは、「働けない」理由となっている課題を解決する必要があります。
 そのため、心の問題を抱えた若者については、専門機関との連携が必要であることから、県の精神保健センターである「こころの健康センター」や「自閉症・発達障害支援センター」との連携を図るため情報交換などを行いました。
 その結果、「こころの健康センター」では「ひきこもり」の相談を受け付けていますが、「こころの健康センターの相談窓口が知られていないためなかなか早期の相談に結びついていない」「外へ出られるようになり、当事者グループなどへ参加できるようになったあと就労まで進めない」「就労前の社会参加などの機会やその支援を行う機関がない」などの課題がありました。
 また、「自閉症・発達障害支援センター」においても、発達障害という言葉の認知度があがり、相談が増えているが、就労先がない、就労しても続かないなどの課題があることがわかりました。

第3 若年者の自立に向けた包括的支援体制の構築

(1) 2005年度の取り組み
   このような課題に対して、若者の自立に向けての包括的な支援へ取り組みを検討するため、2005年9月に、県庁内で若年者自立支援検討会議として、総合企画局、生活部、健康福祉部、農水商工部、教育委員会の担当者が集まり、若者の自立に向けて、各部局においてどのような取り組みがされており、どのような課題があるのかといったことの洗い出しに取り組みました。
   9月から翌年3月までの期間に、3つの部会に分かれ、それぞれの発達段階や状況における課題を洗い出しました。その結果、各部局が現在取り組んでいる施策や事業、課題を共有できたことは大きな成果であると言えます。
   また、今後の政策に反映するため総合企画局において「若年無業者支援に関する実態調査」も実施しました。
   これらの結果を受けて、平成18年度は、生活部に若年者自立支援特命監を配置し、三重県若年者自立支援推進本部を設置しました。

(2) 2006年度の取り組み
   2006年度は、庁内関係部局(政策部、生活部、健康福祉部、農水商工部、教育委員会)による若年者自立支援推進本部(以下「推進本部」という。)を設置し、これまでに導き出された課題の解決に向け、各部局が連携した若年者自立支援にかかる方針を検討してまいりました。
   そこでは、昨年度の検討から導き出した課題を中心に、これまで対応されてこなかった課題も含め、若年者の自立支援にかかるすべての課題について話し合い、これらの課題を解決するために、各部局において必要なものについて事業化、予算化するとともに、各事業の連携を図っていくことを目標としました。
   その結果、従来から行われている事業を新たな視点から見た課題を反映して充実させることにより充実していくこと、これまで、どこの部局においても取り組まれずに隙間となっていた課題を解決するため新たな仕組みを作ることなどを取りまとめて整理してきました。今後、この取りまとめ結果から、県の重要な施策に位置づけ、各部局が連携して取り組みを進めるための方針を確認したところです。

※ 参 考

「推進本部において整理した今後の取り組み方針」

① 取り組み方向1:児童・生徒(小、中、高校生)の社会的自立を進める仕組みづくり
  就学前の段階から小中高校までのキャリア教育の充実を図るとともに、不登校、ひきこもり、発達障害などの課題を抱えた児童生徒に対し継続的な支援を実施します。
  また、卒業後の一定期間において、就労状況を確認するための関係者の連携体制を構築します。
 ア 学校における地域資源を活用したキャリア教育の充実
 イ 不登校・ひきこもりの状態にある児童・生徒に対する継続的な支援の実施
 ウ 軽度発達障害児等への支援
 エ 卒業後一定期間の就労状況の確認を行うための体制づくり
② 取り組み方向2:若年無業者(学卒者、中途退学者、無業者等)の社会参加を進めるための仕組みづくり
  自立に困難を抱えた若年者を支援するネットワークづくりと、適切な支援がスムーズに行われるための仕組みづくりを行います。
 ア 若年無業者の自立支援のためのネットワークづくりと支援者の育成
 イ 中途退学者に対する総合相談、支援
 ウ 若年者の自立支援のためにワンストップで情報提供、総合調整できる組織の創設
③ 取り組み方向3:若者早期就職支援のための取り組み
  正規雇用に向けて、適職診断、基礎的座学教育、キャリアカウンセリング、インターンシップまで一貫した就労支援を行います。
 ア フリーター、若年失業者の就職支援のためのワンストップサービスセンターの運営
 イ セミナー等を通じた若者の早期就職支援
④ 取り組み方向4:産業を担う人材育成と雇用のミスマッチの解消
  企業や経済団体と連携し、企業の求める人材を育成するとともに、労働組合等とも連携し早期離職防止に向けた対策を検討します。
 ア 県内の産業を担うべき人材の育成
 イ 企業、経済団体、労働組合と連携した若者の早期離職防止のための取り組み
 ウ 雇用環境の改善に向けた調査研究

 

第4 地域におけるネットワークづくり

  また、若者の自立に向けて、地域社会において多様な主体が果たす役割も大きく、地域における若者の自立を支援するためのネットワークを構築していく必要があります。
三重県では、若者の就労支援に専門的に取り組むNPOはありません。そこで、県の支援機関と県内の各地域でNPOの活動を支援する中間支援団体等に呼びかけ、勉強会を立ち上げました。
 そこでは、まずは、県外から若年無業者支援に取り組む方を講師として招いて話を聞き、若年無業者についての共通認識を持つということからはじめました。
 このようにして、若者の自立に向けて地域社会や行政がどのような役割を果たしていくことができるのか、試行錯誤の取り組みがはじまりました。
 また、県としては、これまでの雇用対策において明らかになった課題に対して、2006年度は新規事業として「ニートサポート事業」を実施することとなりました。
 この事業は、
① 「若者就労支援研究会」を設置し、関係機関のネットワークの構築をめざす。
② これまで相談や就職支援講座の利用に結びつかなかった若者に対して情報を提供し、相談機関などの利用に向けた一歩を踏み出してもらうためのア ウトリーチ事業
③ 就職活動を行うまでにNPOや農業、介護などの現場で社会体験や就労体験を積み社会との接点を持つための就労体験プログラム
をそれぞれ県内のNPOに委託して協働事業として実施しています。
 このアウトリーチ事業については、三重県の「NPOからの協働事業提案」の制度を活用し、「若年無業者に対するアウトリーチとネットワークづくり」というテーマでNPOからの提案を募集しました。
 その結果、昨年度の勉強会に参加していた「NPO寺子屋プロジェクト」からの提案が採択され、ネットワークづくりの取り組みがスタートしました。
 今年度の「若者就労支援研究会」には、昨年度の勉強会から引き続き参加のメンバーに加えて、県内のNPOの中間支援団体等に参加を呼びかけました。
 研究会の目標は、「若年無業者の就労支援に向けて、課題に対する共通の認識を形成し、共通認識の社会化(啓発)を推進すると共に、セミナー等の具体的な事業を通じて、支援組織同士の専門性を理解し、頼りあえる関係、すなわち若年者就労支援ネットワークを構築する。」としています。
 そのための具体的なアクションとしては、行政とNPOがそれぞれの専門性を活かした役割を果たしながら
① 課題に対する共通認識を形成するための研究会、ワークショップの開催。
② 共通認識の社会化(啓発)を行うためのセミナーや広報活動の実施。
③ 支援者同士の互いの専門性を理解し頼りあえる関係づくりを進めるため、メーリングリストによる意見交換、支援プログラムマップづくりや就労体験の場の提供。
などの取り組みを進め、若者就労支援のためのネットワークの構築をめざしています。
 研究会は、2006年度に入ってから、これまでに4回開催し、
① 第1回:研究会及び県事業の趣旨、これまでの経過、めざすネットワークのイメージ、研究会参加メンバーに期待する役割などの説明。
② 第2回:2005年度実施の「若年無業者支援に関する実態調査」の内容説明
  キックオフイベント(県アウトリーチ事業の一環)に向けたワークショップ
③ 第3回:キックオフイベント講師を迎えての勉強会
④ 第4回:キックオフイベントの振り返り、親向けセミナーの開催、就労支援プログラムマップづくりについての検討
などを行ってきました。
 このキックオフイベントについては、9月18日(月・祝日)に県庁講堂において、「働く」ことに悩みを抱えている若者やその家族が支援機関の利用や就職活動に向かうきっかけを提供するとともに、NPOと行政による若者就労支援のネットワークの構築をめざすということを目的として開催しました。
 その中では、講演とパネルディスカッションを行い、会場には、各支援機関紹介のためのブースを設置し、NPO、相談機関、就職支援講座、就職支援機関、職業能力開発校などが各団体の取り組みの紹介を行いました。
 当日は、約100人の参加があり、各ブースとも多数の相談が寄せられ、その多くは保護者からのものでした。これまでどこにも相談できずに家族で悩みを抱えていた方々にきっかけを提供できたことやNPOなどが社会体験の場を提供するという新たな役割を見出し、また、様々な機関が若者の自立支援に向けともに取り組んでいるということを若者や家族に知らせることができたことなどは大きな成果と言えます。
 しかし、このイベントやこれまでの取り組みを通じて見えてきた課題もあります。
 その課題としては、
① 就労支援までの段階の社会体験や居場所を求めている若者や家族も多くあり、新たなネットワークや取り組みが必要であるということ。
② 外へ出られる状態にありながら就職に向けた具体的な活動を行っていない若者自身を就労支援に結び付ける情報提供や機会などのあり方。
③ 就労に向けては企業を含めた社会の理解を得る必要があり、これまでの取り組みでは、出口がないような状態となってしまっていること。
 などがあり、今後の研究会において検討を進めていきます。
 このように、若者の自立に向けては、一つの機関が全てを担えるものではなく、行政の各機関や地域の多様な主体が連携して取り組み、地域において困難を抱えた若者や家族が孤立しないためのセーフティネットを構築していく必要があります。

第5 おわりに 雇用対策の継続的な推進

 今後は、社会的な合意形成を得られるように啓発にも努め、市町や企業、経営者団体、労働組合などへも働きかけを行い、若者を取り巻く多様な主体がそれぞれの果たすべき役割を見出し、若者が包括的に支援される社会づくりを進めていきたいと考えています。
 また、本県では、有効求人倍率が1.42倍(2006年8月)と安定して推移しており、雇用情勢は改善していますが、若年者については、依然として失業率も高く、また、長期の失業者も増加しているため、今後も「おしごと広場みえ」を中心とした若年者に対する就職支援策の充実に努めるとともに、若年者を取り巻く就労環境を整備するため、企業、経営者団体、労働組合等と連携した県内の就労実態の把握や早期離職防止に向けた取り組みを行っていきます。