【要請レポート】
ビルメン業界から見た入札改革と民間における
公共サービス |
全国一般鹿児島地方本部/南日本総合サービス分会・副分会長 肥後 良二
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「指定管理者制度」。入札改革の一つとして最近盛んに耳にすることばである。これは「官」から「民」にと事業運営形態が移行され、表面上は民間ができることは民間でやりましょう。となっている。しかし現状はどうなっているのか。
「指定管理者制度」は本来、自治体が保有する「公の施設」の「民営化」を推進する為に改正自治法が施行され導入された。ビルメン業界も毎年の一般競争入札の低金額競争から開放され複数年契約(随意契約)をも可能との期待の中で関心をみせたがいざ制度が進んでいき現状を見てみると、今までと変わりない結果が待っていたのである。まず「指定管理者」となった団体が「民」とは素直に言えない財団法人等の自治体の外郭団体が圧倒的に多く、以前の管理委託制度とほとんど代わり映えのしない事となった。その結果、「指定管理者」となった自治体の外郭団体が「指定管理者制度」導入の大きな目的である管理経費の削減を達成するために今まで以上に委託管理費を削減して運営が始まってしまった。そのような外郭団体と管理委託契約を結ぶビルメン業者は雇用確保のためにやむ終えず委託契約を結んでいる事例も少なくない。また委託管理費の削減により、本来は利用者の為に人員配置をしていた業務をやめて公共サービスとなるべきものができなくなってもいる。更にビルメン業者にとって本来ならばこの制度のメリットであると思われた複数年契約(随意契約)がデメリットにもなってくるのである。一方で制度導入により一つの物件で数千万円単位で経費の節減ができたと自治体が発表しているのも事実である。
次に本来の目的通り民間が「指定管理者」となった場合はどうか? 「公の施設」で働いていた人で正規社員(公務員)は本所へ異動となり問題は無いと思われるが非正規職員(臨時職員)は「指定管理者」となった民間に雇用されるケースがある。そこで問題が発生する。民間と「官」の賃金の格差の問題である。ILO条項に沿って「官」と同じ賃金単価を設定すれば間違いなく受注できない金額、つまり「民」だからできる管理経費をぎりぎりまで落とした契約金額であり賃金カーブがかなり緩やかな人件費を設定するのでおのずから賃金は下がる経過をたどるのである。このような事から「指定管理者制度」は契約の内容を一つ一つ吟味しなければならない問題が多く残されている。次に問題になるのは業務時間と委託契約金の関係がある。昨今の契約を見てみると「指定管理者」制度だけではなく「官」の人員設定にも次のような取り組みをしなければならないのが現状だ。たとえば拘束時間が8時間だとしても人件費は0.9人分しか計上されない。つまり最初から短時間雇用のパート契約しかできない状況を強いられており実情は労基法上の正社員と非正規社員の労働時間の制約の為に4時間の2人雇用になるために経費としては0.6人分×2=1.2人分の経費が発生し、請け負った企業の手出しになっているのが現状である。
現在どの業界も入札制度を取り入れて競争をさせ、結果として経費の節減ができたと満足しているがその先頭を走っているのが「官」の一般競争入札だろう。業種を吟味することもほとんどなく最低入札金額の根拠は前年度のマイナス何%で決めて「はいどーぞ!」の世界ではなかろうか。この問題は国、県、市、町の財政方針による指針により契約事務の担当者が委託料の中身も理解せずに簡単に20%~30%のカットをしていることにあるだろう。ビルメン業者が施設の管理をする場合に費用が発生するわけだがほぼ100%に近い比率で人件費となる。人件費=委託料を理解せずに20%~30%のカットをしているのである。自分の賃金が20%~30%もカットされるとどうするのか? 上からの指示とは言え大変な事をしているのである。人件費を入札にかけてまるで大昔の奴隷の売買をしていることに自治体は気付くべきである。我々ビルメン業界は労働集約型産業である限り、もっともいじる事のできない人件費が入札という皿に載せられている。実例として地方自治体の予算が大幅に削減され前年比30%の削減での契約を余儀なくされた現場では人員を削減するしかなく、今までと同じ仕事内容をこなす為に無理なシフトを組んだ為に残業時間が増大した。無論、残業時間の請求は通らず委託企業が吸収する為に経営状況はマイナスの方向に向かう。本当ならば施設を利用する国民の為に自治体に代わってサービスを提供しなければならいのにこれでは自治体に民間企業がサービスをしているともいえるのではなかろうか? この状況は「官」・「民」格差を広げるばかりでなく現在の公務員の賃金ダウンにも繋がってきているのではなかろうか。
一般的な入札にあたって、法を遵守している企業はさまざまな必要経費を勘案し数字を積み重ねていく。人件費はもちろん公課租税の数字まで積み重ねると最低入札金額を遥かに超え受注ができなかったりする。一方では最低賃金など完全に無視をしているか粗悪な労働条件を雇用者に強いり、保守管理・公共サービスを必要とする国民の財産をなんとも思っていない「安かろう・悪かろう」という企業が落札している。この「安かろう・悪かろう」の企業がどのような雇用形態をしているかというと、賃金は地方最低賃金での時給であるし、交通費は無論付かない。更に制服さえ貸与支給しないか、制服は買取をさせる企業さえある。労基法上でいえば違法ではないのだが中央都市のように交通網が整備されており近場で仕事に就ける環境に比べて、地方都市に行けば行くほど遠方までの通勤を強いられ地域の労働賃金が低くなるほど労働者は身銭を切ることになるのである。勿論サービス残業(不払い残業)はあたりまえでその理由が「予算が削られているので」と末端の労働者に責任を押し付けた状態だ。清掃業務に至っては保護手袋や清掃用の洗剤類まで雇用者が持ち込みをするケースもある。また落札さえしてしまえば委託企業が契約内容を守らなくても「官」の担当者が契約内容を理解していない場合が多かったり、たとえ認知したとしても業者認定の担当者として内部の成績(?)に関わることから解約もせず(できずに?)じっと一年見ぬふりをして業者のなすがままにされいっそうのサービス低下に繋がるのである。
次に落札できなかった場合どのような問題がでてくるのか。一つの現場が無くなるわけだから当然そこで働いていた人は仕事が無くなる。最悪は「事業所の閉鎖」だと称して解雇する企業も少なくない。または誠実な企業は自社内で職場異動して解雇者はでない。以前次のような事があった。ある公共施設の物件で低価格入札競争の末に他社が落札した。会社としては現場の在籍者7人は解雇はできないとして組合側にある提案をしてきたのである。まず社内の各現場に異動配置をする。しかし各現場が欠員状態ではないので余剰人員となり、会社の経営上好ましくはないとの説明があった。当然のことながら7人分の経費(数千万)を捻出したいのでみんなの協力が必要だという。無論、昨今の経済状態から7人もの経費がでるような大型物件の受注は無い。そこで7人が在籍している部署における近年の総残業時間数が7人分の経費に近いものがあるので差し替えができればというのである。その方法として残業時間のカットはできないとして残業時間の蓄積をしながら1日の勤務時間数になれば休みを取ってもらいたいというものであった。組合側としては非常に苦しい決断を強いられたが7人の仲間を助ける為にはやむ得ずと判断、向こう1年の期限の条件付きで了承、緊急の職場委員会を召集し事情を詳しく説明して組合員からの賛成をもらった。これは企業内におけるワークシェアリングの一つであるであろう。この条件は1年後に解除されて通常の勤務体制に戻った。
一般競争入札を繰り返して企業が変わることでもう一つの問題点が出てくる。それは技術者の育成と勤続年数に関わる問題である。入札で企業が変わると今までそこに働いていた人は、①解雇、②企業内異動、③新規落札企業への移籍、の選択をしなければならないわけだが労働者としてしても企業側としても③の新規落札企業への移籍は大変な損失を被る事になる。新規落札企業は現場の職員を引き抜きの形でそのまま引き継ごうと話を持ってくるのに対して当該労働者は勤務場所は変わらないので了承をしてしまう。勿論給与面も含めての話になるのだが勤続年数は0年目からのスタートとなる。給与の算定にも重要な項目でもあり、また退職金にも大きく影響してくる勤続年数という重要な要素がリセットされる事が労働者としての最大の不利益といえよう。また企業としては社内に吸収できない場合は別として一人ひとりの大切な技術者を持っていかれることは大変な損失となる。一人前の技術者を育てる為に金と年月を費やさなければならないということは大変な先行投資になるのである。毎年入札が行われ「官」から「民」、「民」から「民」の委託業者変更に伴う雇用条件の悪化を防止し、しっかりとした雇用ルールの確立をするためには新しい法整備が必要であろう。
次に入札が行われ委託企業が毎年のように変わることで公共サービスにどのような影響がでてくるのか。そこで公共サービスとはいったい何を基準にしているのかという事が重要になるだろう。公共サービスとは国民の生活の基盤となり、かつ、社会の安定的な発展の基礎とならなければならない。公共サービスとして最近は市役所等で市民に対するサービスとして「案内をしています。」「受付時間を変更、もしくは延長しました。」などとアピールしているのを見聞きするがそれは本当のサービスと言えるのかと疑問に思う。ある施設に行った時に目的部署がわからず職員に聞く。「サービスで案内をしています。」などと答えられるかということである。役所に関しては国民が利用するというより必要であるから出向く、あるいは自治体の業務を円滑に行う為に国民に来てもらい手続きをするわけであるので営利を目的とした施設の利用とは根本が違う。役所における公共サービスとは利用者が目的に合った手続きをする時の対応がイコール、サービスとなるのではないか。さまざまな手続きに伴い、関連する手続きがあるのだが職員の勉強不足の為に二度も三度も足を運ぶ事になったりする。一般企業における対応としてはマニュアルを手元に用意して窓口業務のキャリアに関係なく対応ができるようにしている。ISO9000シリーズなどの「誰がしても同じ品質の物を提供できる」ことである。ましては異動が頻繁にあり法制度が次々に変わればなおの事である。このような事から役所等における公共サービスとは物を提供するサービスではなく制度を提供するわけだから人的な要素、つまりソフト面の充実が求められる。このような施設において利用者と直接対応する場面において委託企業が入る場合は案内(受付)業務程度であり直接に実務を担当することは少ない。自治体職員の資質に頼るわけである。それに比べて健康増進施設や図書館・美術館などは利用者の目的が違うわけなのでサービスの内容も変わるであろう。この場合、役所等と違い委託企業の業務範囲が広い為にサービスの質は民間の企業姿勢が色濃く出てくる。元々が営利を基本として企業は成り立っており、そのソフト面を生かせるのでそのままで施設利用者へのサービスがやり易い。無論、各施設の方針を遵守してのサービスは言うまでもないだろう。
ここまでは雇用に関する問題として述べてきたが箱物、いわゆる建築物の管理と契約について関連が大きくあると思うのでふれてみたいと思う。建物がある限り維持管理をしていかなければならない訳だがその管理を誰がするのか。自宅を購入するとその家の主が自分の休みを使ったりして庭の手入れをしたり日曜大工の範囲で手を入れ、または専門業者に依頼して住み易い環境を作り、家(財産)を長持ちさせようと汗を流す。マメに手入れをしている家はいつまでも美観や機能を保つことができるのは皆さんもわかるだろう。なぜそこまでして管理をするのか? 簡単なことだ。自分の金で買ったものだから。それも一生かけて支払いをしなければならないほどの大金をはたいた財産だからではなかろうか。今回問題にしている公共施設の維持管理は誰がしなければならないのか。個人が買った家は買った個人(主)が管理をする。ならば公共施設(家)は国民の税金で買うことになる。とすれば主である地域の一人ひとりが管理をしなければならないわけだ。現実的に一人ひとりができることではないので専門の業者に依頼をする。依頼をされた業者は主に代わって大金を費やした施設(家)に対して少しでも長く使えるように誠意を持ち管理をしていく。我が家のようにマメに手入れをすればおのずから施設(家)の寿命も延びることになり結果として多額の税金を使って短い期間に建て替えをしなくても良いことにならないか? しかし、管理をする側がいい加減だと建物はどんどん傷んで多額の補修・修理費用(税金)を必要としたうえにその寿命さえも短くすることになるのだ。欧米では公共の施設が文化財に指定されていることが多い。日本も幾らかはあるがその比ではではない。近年、箱物行政は少なくなっているようだが一人ひとりが自分の財産であることを意識して取り組まなければならない問題だ。限られた財産(税金)を無駄な工事に使わず「官」・「民」問わずに豊かな生活を送れるよう雇用と財産保全に関して税金を投入できればと思う。
これまで公共施設の契約問題とそこに働く労働者の問題について報告をしてきたがこれからもアウトソーシングが増えてくるにしたがって益々深刻な状況になると思う。今年大きなニュースになったエレベーター事故やプール事故は自治体と実務実行企業との認識の違いが浮き彫りになった最悪の事故だったと思う。契約をする双方が充分に問題を意識して取り組まなければならない。
この問題に対して少数の議員が以前から問題提起を行い少しずつ変わりつつあるのも事実である。もう一つの「官」から「民」への改革である「PFI」の手法である総合評価・提案型や「公共工事品質確保促進法」の趣旨である「技術的能力を有する競争参加者による競争が実現され、経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮して価格及び品質が総合的に優れた内容の契約」がなされ、「安かろう・悪かろう」の排除を行い適正な価格とサービスを提供できるような委託企業の選定と契約制度の確立に努力されている。
現在の入札制度も問題があると思われるがそれよりも委託金額の設定においてその中身を充分に吟味したうえで各自治体が統一していく事が必要であり、更に公共サービスの充実には委託する企業の選定が最優先される時代がきているのではないだろうか?
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