【自主レポート】
ラオス図書館支援 サワンナケート図書館は住民に
どう受け止められたか |
―― 開館後の現状と課題を探る ――
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愛知県本部/自治労愛知アジア子どもの家プロジェクト
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1. 図書館建設の経緯 ―地方への建設を目指す―
自治労愛知アジア子どもの家は、1996年、カンボジアとラオスの子どもに絵本を届ける活動を開始し、1998年、ラオス国立図書館の要請を受け移動図書館車の寄贈と運営支援に取り組んだ。
2000年、移動図書館運営支援の活動視察とラオスの図書館調査を兼ねたスタディツアーを実施した。その結果、ラオスでは大人も子どもも一緒に利用できる図書館がほとんどない、という信じられない現実が浮かび上り、モデルとなる小規模図書館建設支援の検討を始めた。
建設地については、以下の点を重視した。
① 地方に建設する。
ラオスでは首都ヴィエンチャン以外の地方には書店もなく、本と出会う機会はほとんどない状況であり、首都と地方の情報格差は拡大するばかりである。
② 行政の理解がある
③ 将来的に自立した運営が可能である
現地と調整の結果、ヴィエンチャンから約500キロ南に位置する「サワンナケート県」を候補地とした。県庁所在地に建物の一室を利用した40㎡ほどの図書室があり、職員も2人いることも大きかった。
図書館建設支援に当たっては、自治労名古屋組合員の遺族の寄付、東海地連のバックアップが支えとなった。
2. 新しい図書館は住民にどう受け入れられたか ―利用実態と利用者インタビューから探る―
図書館は、2年の準備を経て、2003年9月5日開館した。開館後の利用は、旧図書館時代の7年分の利用者を1年で達成するという爆発的な数字を記録した。
開館後も毎年現地を訪れ、利用状況の把握、利用者へのインタビューを試み、図書館が住民にどう受け入れられたかを調査した。(インタビューは、子どもから成人と各年齢層全35人に行った)
その結果を図書館の3要素といわれる「施設」「資料」「職員」をキーワードに整理した。
事 項
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利用者の反応など
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旧 館
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新 館
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施 設
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○旧館と全然違う
○明るくなった
○広い
○大人も子どもも一緒に利用できる |
・2階建の建物の一階に約40㎡の部屋を利用・狭く、暗い
・子どものスペースはほとんどない |
・220㎡
・窓を多くし、明るく入りやすい施設とした
・大人も子どもも一緒に利用できることに主眼を置いた |
資 料
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○新しい資料が多いのが魅力
○幅広い資料がある
○子どもの本も多い |
・蔵書数:4,000冊
・資料が古く魅力がないものばかり・子どもの本がほとんどない |
・蔵書数:10,000冊・新しい情報を得るために資料を充実した・児童向けの資料を充実 |
活 動
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○子どもへの活動が充実し、図書館利用を楽しみにする子どもが増えた
○読み聞かせが楽しい
○本だけでなく、絵を書いたり、ゲームなどもあるので楽しい
○土曜開館により家族連れの利用が増えた |
・子どもへのサービスは実施していなかった
・開館は月曜日~金曜日のため、子どもや学生の利用が不便であった
・予算が皆無の状態で資料充実もままならず |
・開館にあたり、職員1名を名古屋に招き研修。
・ラオス国内の図書館研修に参加し、児童へのサービスを充実
・職員を1人増やした
・学校の休みの土曜日を開館した
・予算のほとんどない現状は変わらない。
・東海地連の運営支援が活動を支える |
職 員
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○絵本の読み聞かせや学校への訪問などを行うなど、住民の期待に応えている
○研修を通じて意識の変化
開館前、開館後も研修の機会を持ち、職員の意識も大きく変化してきた。「この仕事が好きだから大変だけど頑張れる」と語る |
・利用者が少なく、資料も古く、施設も狭いため、やりたいことができない状態であった。 |
・施設・資料面の充実、児童サービスの研修などを通じて、新たな活動への展望が出た。
・研修が職員の意識を変えた面が大きい |
注)図書館への要望で一番多かったのは、成人では資料要求、子ども達は、絵本の読み聞かせ、絵を描く、工作、図書館まつりなど多彩な活動であった。
3. 大人と子どもが一緒に本を楽しむ ―潜在的な図書館要求を証明―
図書館建設にあたり、明るく、開放的で誰もが入りやすい、大人と子どもが一緒に利用できる図書館をめざした。そうした考え方は、ラオスの一般的な考え方ではなく、受け入れられるか心配もあった。しかし、それも杞憂に終わり、親子での利用、家族で利用する姿も多くみられるようになってきた。(写真1)
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(写真1) |
開館3年を経て、子どもへの活動の拡充、土曜日開館など住民が利用しやすい環境整備により、図書館が大人と子どもが楽しめる場所として定着しつつある。特に地方には、リクレーション施設が全くないため、人の集う場、リクレーション的な活動への期待も大きい。2003年12月に東海地連、図書館職員、現地NGOと共同で実施した「図書館まつり」には、1,500人もの参加があった。
図書館建設を準備しているとき、ラオスの人は本をあまり読まない、という声を聞いた。確かにラオスでは本の出版も少なく、経済的に厳しい現状では本を読むどころではない、との側面も否定できない。しかし、新しい図書館の姿は、入りやすい施設、新鮮で魅力ある資料の充実、利用しやすい環境整備がなされれば多くの利用があることを証明した。図書館で熱心に本を読む高校生や子ども達の姿をみると、「本に飢えている」との感すら伝わってくる。
ラオスには、潜在的に図書館への要求が存在している。しかし、それに応えうる体制がラオス政府にないのも現実である。
4. 地域に支えられる図書館へ ―新たな可能性に注目―
開館3年を経て、図書館が地域に受け入れられ、支えられる動きが出てきている点に注目したい。
具体的な動きとしては、①お坊さんたちが寄付を集めて、児童コーナー用に机と椅子を寄付(お坊さんの図書館利用者は多い)、②村の人たちがお祭の際に募金を募り、図書館に寄付、③自分が読んだ本を寄付する人も出てきた、という。
図書館の予算は、ほとんどない。そうした現状の中、住民や利用者が自分達のできることを通して図書館を支え始めていることに新たな可能性を感じる。
今後の支援のあり方として、住民と共同で実施する形を追求してもよいかもしれない。
5. 学校との関係強化も広がる
子ども達のことを考えると学校との関係を抜きには語れない。最近学校との関係にも新しい動きが出てきた。
① 図書館の近くには、教員養成学校があり、その先生達の教育実習に図書館が利用されている。図書館の絵本を利用し、読み聞かせなどの実習をしている。
② 図書館職員が小学校を訪問し、絵本の読み聞かせ、紙芝居などを行うなど、学校との協力関係も深まりつつある。
今後も図書館が地域ネットワークの中核としての役割を果たしていくため、関係機関との協力や幅広い活動を強化していく必要がある。
6. 職員に負担が ―利用の急増と労働強化―
新館になり、利用の急増や開館日の増加などにより、職員の負担が急速に増えている。子どもへのサービス開始のため職員を一人増員し対応したが、まだ充分とはいえない状況である。現場の職員は、もう一人男性の職員を増員して欲しいと話す。
県当局との調整も含め、安心して働き、新しい活動を支えうる職員体制の確立が急務であり、その実現に向けた支援も検討すべきであろう。
7. 県内地域に情報格差 ―サワンナケート県読書環境調査にみる―
子どもの家メンバー2人が、2006年3月、サワンナケート県の図書館から遠い地域の小学校、村の集会所など15ケ所の読書環境を調査した。ここでは、簡単な現状報告に留めたい。
サワンナケート県は、人口87万人の大きな県である。農業が主体であるが、金鉱、製塩、地下資源も豊富。恐竜の化石も出土。現在メコン河に日本の支援で橋の建設が進む。橋が完成するとタイ、ラオス、ベトナムが一本の線で結ばれる。
8. 本がない
図書館から離れた地方へ行くと、本を入手できる場所がほとんどない。日本のNGOが配付した図書箱(写真2。大人の本と子どもの本を150冊程度収納し、開くと書架にもなる)が配付されている小学校で本が読める程度である。その図書箱も全ての小学校に配付されているわけではない。
首都と地方、地方の中でも中心地と他の地域との情報格差の重層的な状況がある。
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(写真2) |
9. 本との出会い、子ども達が変わる
訪問した学校では、本がない環境と本がある環境になった時の子ども達の変化を尋ねた。
図書箱の配付を受け、熱心に運営している小学校では、次の様な声が多かった。
① 子ども達が学校へ来ることを楽しみにするようになった。
② 絵本を読むことにより身近にないものを理解できるようになった。
③ 本を読むことで新しいアイディアも出てくるようになった。
④ 本を楽しむ子どもが増えた。
先生達からは、本があるときとない時では全然違う、との声が多かった。
10. 新しい本の補充を
図書箱の管理も学校の職員の意識により大きく変わり、熱心なところもあれば、ほとんど利用されていないところもあった。
熱心な小学校では先生達から
① 新しい本の補充
② 日本の絵本をもっと送って欲しい
③ 村人のために大人の本も充実させたい
④ 図書館の研修を受けたい
などの要望が出された。
11. 自分達で図書室をつくる ―地域の人の自主的な動き―
ある郡(日本の市にあたる)では、住民に寄付を募り、集会所を建設していた。説明をしてくれた人は、集会所の一角に図書室を配置する予定だと熱く語っていた。しかし、まだ予算が集まらないのか、柱が立った状態のままであった。(写真3)
こうした地方の住民の自主的な動きをみていると、新しい支援のあり方へのヒントを得たように思う。今後の支援に生かしていきたい。
12. 第2期の活動を目指して
10年の活動を経て、第二期の活動へと歩みだしたい。今までの成果を踏まえ、新しい支援のあり方も含めて、ひとつひとつ実現していきたいと考えている。今後の主な課題は、以下である。
① サワンナケート図書館職員体制の強化と職場環境の整備(事務室・書庫の増設)
② 幅広い資料の収集と提供の継続
③ 移動図書館による全域サービス計画の具体化(県当局との調整が重要)
④ 地方拠点の支援を検討(地方の郡では、自主的に集会施設を建設したり,集会所を利用し図書館活動をしているところがある。当面そうした郡との関係を強化し、支援のあり方を検討したい)
⑤ 自治労本部・東京都本部・北海道本部と共同で進めているヴイエンチャン市立図書館・多目的ホール(石田記念)の運営支援
13. 最後に
① 支援のあり方について、丸ごと支援から現地と私達がお互いに出し合えることを協議し、事業を実現するスタイルを模索したい。
② 支援の中味がラオスの政策と直結するものになってきた。そのため、組織的にも整理と強化が不可欠である。県本部、自治労本部との協力関係を深めていく必要がある。
③ 今後の課題として予定している移動図書館支援などは、自動車関連の労働組合との共同事業を追求するなど、新しい支援体制を模索したい。 |