【自主レポート】
「男女が平等に働ける職場を」作業委員会の活動について
── 「均等法改正」の取り組みを中心に ──
東京都本部 遠藤智子
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1.
作業委員会発足
昨年までの2期にわたるDV法改正作業委員会の活動の成果を生かし、労働組合として都本部と地域女性労働者との連携した法改正運動の推進を目的に2005年2月作業委員会を発足しました。DV法改正の取り組みと同様に、翌年に改正が予定される男女雇用機会均等法について、女性労働者=当事者の意見を法改正に反映させることが大きな目標でした。また、都本部組織内の臨時・非常勤・公共民間に働く労働者の「均等待遇」確保を図る活動にも併せて取り組むこととしました。課題の性質上、都本部男女平等推進委員会との連携した取り組みとなっています。
作業委員会のメンバーは都本部女性部を中心に、男女平等参画担当の都本部執行委員、公共民間の組合員で構成し、民間女性労働団体から「均等アクション21」の酒井和子さんをオブザーバーとして迎えました。
2. 改正をめぐる状況
作業委員会発足時点では、法制定時、前回改正時とは比較にならない程、世論の高まりは殆どない状態でした。連合では改正案を作成し、厚生労働省労働政策審議会雇用均等分科会で展開しているものの、各産別や単組での運動の盛り上がりは大きく欠けていました。連合全国規模のアンケート調査等がありましたが都本部内の単組等にも浸透しているとはいえませんでした。また、各女性団体の運動状況もマスコミが取り上げる様な全国的な広がりは未だ見せてはいませんでした。
まず、改正の課題についての理解と、現場での差別や不利益の問題の状況について把握することが必要であると考え、厚生労働省労働政策審議会均等分科会の傍聴、女性団体の「均等待遇アクション21」(女性ユニオン等均等待遇に取り組んでいる皆さんの全国ネットワーク)による均等ウエーブ等の行動に参加を始めました。
2005年3月~5月にかけて事前学習として、均等アクション21、オブザーバーでもある酒井和子さんを講師として迎え、作業委員会のメンバーと一般組合員向けに「妊娠出産に関わる不利益取り扱い」、「均等待遇について」の連続学習会を開催し、課題への認識を深めました。
3. 均等待遇はがきアンケートの実施(詳細は別添資料)
「均等法」改正で大きな議論となったのは「間接差別」の禁止でした。事前学習会の中で、イギリス等では「非定型労働者が女性に偏っていること」も間接差別であるということを学び、公務職場の臨時・非常勤職員もほとんどが女性であることから、間接差別と均等待遇への取り組みを強めようと、都本部内の組合員の有無を問わず臨時・非常勤職員にアンケート調査を実施しました。この取り組みは2005年次男女平等産別統一闘争において均等待遇の要求根拠とすることとしました。
都本部男女平等推進委員会として3,000枚を配布しました。調査期間は6月1日~15日の間、料金受取人払のハガキとし、8月1日までに468人の回答が得られました。
468人の内、女性428人・男性40人で臨時・非常勤職員の女性の比率は91.45%に上りました。年齢分布は男性が僅かにM字型を描いているのに対し、女性は40~50代の子育てを終えた世代の女性が130人以上の圧倒的な割合を占めました。60歳以上になると男女共に数人に落ち込み、教育費や家計の負担を支えると同時に生涯の雇用が保障されず雇い止めにあっている状況が伺えました。仕事の内訳は臨時・非常勤・嘱託の保育士が21~25%、学童指導員の臨時・非常勤・嘱託の職員が10~13%、事務の嘱託が30%と、専門職について雇用されている実態が明確になりました。雇用期間は1年が63%、次いで6ヶ月が12%、以下6ヶ月未満等で、雇用期間に上限があると回答した人は54%に上り、2人に1人は常に雇用不安に陥っています。
また、各種手当については、年次有給休暇は93%が制度化されているものの、夏休59%、忌引休暇65%、傷病休25%、育休14%、看護休暇5%となっており、取得出来る休暇の制度化割合は高いが、取得できず結果的な雇い止めにあっている休暇の制度化が著しく低い数値となりました。また、手当については通勤手当が75%以上程度で、家族・住宅手当は数パーセントとなり、家計を維持する働き手を想定していない労働条件となっていることが明らかになりました。
さらに、週単位・一日の労働時間は、正規職員の代替以外は、雇用保険の適用する時間を割込む契約45%以上に突出し、雇用側の都合の良い、手当・休暇の制度化と保障の義務の抜け道を作っている実態が浮き彫りになりました。しかし、一日の拘束時間は雇用契約とは異なり、一日9時間労働が36%以上に突出し、雇用形態に起因する不払残業が日常化していることが伺えました。自由記載欄では、「正規と同じ責任を負っているので同一の待遇を」「正職員との格差がありすぎる」「雇用期間が定められ生活が不安定」「誇りを持って働き続けたい」「育休・看護休暇の制度があっても取得出来ない」「子育てしながら働ける環境ではない」「正規職員並の研修を望む」など切実な意見が寄せられました。集計結果は、後述のシンポジウム報告とともに冊子として作成配布しました。
4. シンポジウム 「均等法改正に当事者の声を」
都本部自治研課題別集会として、雇用均等月間、男女平等産別統一闘争の闘争月間にあわせ、6月4日に自動車会館で開催しました。100人に近い参加者でしたが、均等法改正に取り組んでいる全国の女性の参加をえて、広がりのある集会とすることができました。シンポジウムの内容は以下のとおりです。
① シンポジスト サービス連合中央執行委員 片岡千鶴子
労働政策研究・研究機構統括研究員 今田 幸子
女性ユニオン東京 伊藤 みどり
衆議院議員 藤田 一枝
② 働く女性からの発言
公務職場で非常勤であるために雇止め(解雇)された当事者から
セクシュアル・ハラスメントに取り組むウィメンズユニオンから 他
開催にあたり、主催者を代表し都本部伊藤書記次長(当時)より「自治体の計画、条例などの策定に、市民の参画は、地方分権改革以降、推進されてきているが、法律の立法・改正過程には直接請求制度はなく、現在はパブリック・コメント制度しかない。DV法改正の際には当事者が直接国の関係省庁、国会議員へ訴え、改正要望の活動を展開した。今回の均等法改正の主役である労働組合は組織率が低下し、組織化されていない労働者の当事者の声が届かない実態がある。都本部としても臨時・非常勤・公共民間の労働者の均等待遇改善の運動と併せて実態を検証し法改正に向けて取り組みたい。」との挨拶を受けました。
シンポジウムの前段として、公務職場で非常勤である為に雇い止めされた当事者、セクシュアル・ハラスメントに取り組むウィメンズユニオンから発言を頂きました。
現在、日野市で学校事務として臨時職員として働いている宮崎さんから、「学校図書館嘱託員として13年間勤務した後、解雇を言い渡された。市民を巻き込んだ署名運動等展開したが解雇は撤回されず、市職員組合に加入し、図書館嘱託員の職は失われたが、雇用は確保された。たとえ半年・一年の契約であっても、恒常的な業務や専門職として雇用継続される場合には、賃金と身分保障する法律が必要である。」という訴えがありました。
北海道ウィメンズユニオンの小山さんからは、「職場での日常的なセクシュアル・ハラスメントによりPTSDを発症し出社困難になり退職を余儀なくされた被害者女性が、ウィメンズユニオンに加入し団体交渉を申し入れたが、加害者は事実を否定し会社側も交渉を拒否した。労災認定の申請もしたが、セクハラの心理的負荷は深刻だが、業務上に起因しないとして認定されなかった。前回の法改正で事業主の配慮義務とされたが機能していない。迅速な対応と救済措置の法的義務が必要である。」と訴えました。
2人の当事者からの提起に対して、シンポジウムでは女性ユニオン東京の伊藤みどりさんから、「1985年の均等法成立から19年の決算として、労働現場での男女平等は進まず格差が拡大する結果となった。組合員も労基法は知っていても均等法は知らず使えない法律となっている。99年の改正以降、女性の長時間労働が加速され、仕事と生活とのバランスが崩れ相談件数が増加し、正社員とパート雇用の格差も拡大し続けている。妊娠・出産の解雇禁止規定はパート雇用者の解雇の抜け道を作っている現状がある。禁止規定の強化のみならず均等法違反の罰則規定の強化が必要である。」との提起を受けました。
衆議院議員、藤田一枝さんからは、「成立当時、女性労働者の運動は活発だったが、残念ながら殆どが努力規定の法制化となった。コース別雇用管理が非正規雇用の女性労働者を増加させ、結果的に男女格差を拡大させている。性差別禁止法の理念による、ジェンダーの視点での均等待遇の実現と法改正が必要。今後は民主党の男女共同参画調査会と総合雇用対策プロジェクトで均等法改正を議論する予定である。」ことが議員活動として述べられました。
労働政策研究・研修機構総括研究員 今田幸子さんからは、「成立当時は好景気で女性の正規雇用が増加したが、バブル後は非正規雇用の女性労働者が急増し続けている。元々均等法は正社員間の男女差別解消だったが、現在の対象者となる雇用状況が変化して法が対応できていない。労基法やパートタイム法など他の関連の中で整合性を図っていくのか、男女平等実現の中心的法律となるべきなのか、均等法を再構築する時期ではないか。」との問題提起がされました。
サービス連合中央執行委員 片岡千鶴子さんからは、「均等分科会の審議員として連合の具体案と審議会の対応を述べると、連合としては、現行の法改正し実効性を高める運動を展開する。前回改正で労働時間の男女共通規制が女子保護規定の解消となり、労働時間の二極化進み、新たな課題と受け止めている。女性差別禁止の片面性の解消としての男女双方の差別禁止、妊娠出産の解雇禁止から不利益取扱い禁止へ、間接差別禁止の課題、ポジテイブアクションの効果的推進の4点が厚生労働省の研究会から示された。これを受け連合は実態調査し検討会を設置した。男女双方の差別禁止は性差別禁止へのステップアップ。男女平等を実現する為に仕事と生活の調和の理念の明記。間接差別の禁止の事例列挙した明文化。妊娠出産等を理由とした不利益取扱の禁止。に加え募集・採用の機会の均等のみではなく、結果的に性差別となる採用条件の禁止。現6条の配置・昇進・教育訓練規定に加え仕事の割当てや与えられ方、コース別管理による人事・雇用形態の性差別的取扱いの禁止。を連合として要求している。ポジティブアクションの効果的な推進は、次世代行動計画に倣い一定規模以上の義務付け。セクハラ対策は防止義務・適正対応義務を強化し、性別役割分担意識からの言動についても定義に加えることを要求している。実効性を確保する為の差別救済制度として、国から独立した性差別救済委員会設置を都道府県に設置し雇用ステージの問題を扱うことを要求している。また、救済を申し出たことによる不利益取扱を禁止、委員会で認定された場合、使用者に是正勧告すると共に従わない場合は刑罰を科し、セクハラ事例等では、差別是正命令と刑罰を科すことを要求している。女性の坑内労働については両面の議論があるが結論は出ていない。女性労働者の組織率が低い中、使用者側の経済合理性と労使の自治の主張に抗し、要求実現に向けた労働組合の提言として、世論形成や機運を盛り上げる運動課題がある。労働運動の中心課題に据えるためにも意思決定機関への女性の参画を進めることが職場の現実への対峙する具体化であると思う。」との、連合要求の方針と労働組合の運動課題が示されました。
シンポジストによる、現在の議論と課題について、会場の参加者から、発言を頂きフリー議論を行いました。間接差別裁判の活動されているワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN・大阪)の越堂さんからは、「20年間の間接差別禁止と指針廃止の活動の中で、現在の議論で間接差別が法案化されることは高く評価している。しかし、雇用管理区分を生み出す指針と企業抗弁は、裁判の際に労働権と生活権が破壊される。間接差別と企業抗弁が入れば有期雇用者がたたかえるようになる。均等法改正に向けてWWNとして要望していくので意見を聞く機会を作って欲しい。」との力強い要望がありました。
均等アクション21の酒井和子さんからは、「均等法、パート労働法、育児介護休業法など法制化や改正されるたびに正規職員との格差が広がっている。均等待遇の実現なくしては法改正しても、均等法は実効性あるものにならないと危惧している。均等待遇21は均等ウエーブなど宣伝行動や議員へのロビー活動を行う予定だが、本当に均等待遇が必要な、均等法を知らない女性労働者へ、目に見える具体的な運動の提案を聞きたい。」とパネラーへの質問がありました。
日教組の女性部長星恵子さんからは、「性教育やジェンダーフリーバッシングにより、差別に敏感な子どもを社会へ送り出したくない意図が感じられる。子どもの教育により社会の意識・慣習が見直され改革される。未来の社会人・労働者を送り出す立場からも、親の過密労働や社会環境は子どもの生き方に直結する問題なので、日教組としても連帯しながら取り組んで行きたい。」との発言がありました。
日本フェミニストカウンセリング学会の河野和代さん(徳島県)からは、「均等法改正キャンペーンとして6月の1ヶ月間セクシュアル・ハラスメントホットラインを実施しているが、初日の3時間の間に相談電話が話中で掛からなかった電話が790本あった。実際の相談も重篤なケースがあり既に退職し通院治療中である事例がありました。雇用均等室に申し立てたが会社を解雇になったケースもあり、公的機関で救済されなかった女性達のためにも、ぜひ改正均等法に当事者の声を届けてほしい。ホットラインの結果をまとめるので共に頑張りたい。」との取り組みについての発言がありました。
最後にパネラーから、具体的な運動の進め方とまとめについて、改正ポイントについて解りやすいキャッチフレーズをつくり、労働組合内部ではなく外部に向かった運動と国会でのヒアリングを実施することが提案され、都本部としても情報を発信、企画していくことを述べてシンポジウムを終了しました。
5. パブリック・コメント等の取り組み
シンポジウム開催以降、2005年8月には、均等分科会による「均等法改正に向けた中間とりまとめ」に対するパブリック・コメントに「コメントの例示」を添えてを発文するなど、都本部として全単組に取り組みを呼びかけました。通常のコメント数を大きく上回るコメントが寄せられ、特に地方公務員からの意見が飛躍的に増加した結果となりました。
9月に開催した都本部労安集会において女性部と連携して企画し、均等待遇アンケート集計結果報告、民間カウンセリング団体よりセクシュアル・ハラスメントの労災認定の限界性、未組織労働者のセクハラ被害の深刻な事例の報告を受け、事業主の適正対応の責任強化と均等法改正要求への取り組みの必要性を共有化してきました。
また、10月に発足した「なくそう! 男女差別、つくろう! 男女雇用平等法」フォーラム(連合の呼びかけ)の集会、フォーラムにも取り組んできました。
6. 「共同行動『均等法』改正に当事者の声を」による院内集会への取り組み(資料)
6月のシンポジウムで、一堂に会した女性たちが、赤松良子さんを始めとした120人を超える呼びかけ人を集め、「共同行動『均等法』改正に当事者の声を」による院内集会を取り組むこととなりました(発言者等のみなさん。伊藤みどりさん、越堂静子さん、北海道ウィメンズユニオン小山洋子さん、フェミニストカウンセリング学会周藤由美子さん等)。
厚生労働省の担当者、労働政策審議会雇用均等分科会委員、超党派国会議員に出席を依頼し、女性労働者の職場実態等を訴える院内集会でした。都本部自治研作業委員会として均等待遇アンケートを資料として提出するほか、事務局の一翼を担い、集会に積極的に参加してきました。共同行動として、改正に向けた意見募集を行い、その結果を資料として審議会委員に配布しました。
第一回10月21日、第二回11月30日、第三回2006年2月14日の3回開催され、各回とも100人に近い参加者、20人を超える超党派国会議員の出席があり、厚生労働省、連合の代表も参加していただきました。参加者からは「久しぶりに勇気の出る集会だった」等の声をいただきました。特に、各回の発言者である、妊娠のために解雇された女性労働者、セクシュアルハラスメント被害当事者、賃金差別裁判の原告等の発言は力強く、議員の皆さんにも感銘を与えました。
7. 国会審議への傍聴等の取り組み
2006年2月均等法改正法律案要綱についての労働政策審議会からの答申があり、6月15日に改正法案は成立しました。その間、3・8国際女性デーでの「なくそう! 男女差別、つくろう! 男女雇用平等法」フォーラム、4・25国会前集会などの取り組みに参加してきました。また、6月の男女平等統一闘争の取り組みのなかで、7月15日 都本部男女平等参画集会として、「均等法」改正後 公正労働の取り組みとは? と題して、連合男女平等局龍井葉二氏を迎えて講演会を開催しました。
8. 成果と課題
現在、均等分科会で改正「均等法」の省令・指針についてパブリックコメント募集中であり、改正に向けた取り組みは継続中です。全体の検証をすることはできませんが、これまでを振り返り成果と課題について述べたいと思います。
最大の成果は、小さな一歩ではありますが、日本各地で女性労働者の課題に取り組む女性たちのネットワーク作りに貢献できたことです。
都本部が開催したシンポジウムには東京という地の利を活かして、均等分科会の審議委員のみなさん、法案審議を行う議員のみなさんの出席を得ることができました。企画がタイムリーであったことが全国からの参加を招き、そこで出会った皆さんが院内集会を企画されました。
呼びかけ人の数は、女性労働に関してのものでは近来なかった規模でしょう。当事者の声を中心に据えることは、運動に深みと広がりを与えることがDV法改正の取り組みに次いで確信できました。更に、私たちがネットワークの一員となることで、内向きになりがちな組合の取り組みを社会に広げる効果もありました。特に均等待遇に関わる具体的な実態に直面できたことは今後の取り組みに非常に効果的であったといえます。
課題としてあげられる点はたくさんありますが、都本部のみならず労働組合全体の取り組みの弱さを痛感させられました。この事実は、労働組合の女性参画がすすんでいないことと見事に符合しています。
男女平等の取り組み、均等待遇に向けた取り組みには広範なネットワークを展望しながら進めていくことが求められています。都本部としても、今回の財産を発展させながら男女平等統一闘争と結合し、取り組みを進めていきたいと思います。
均等待遇はがきアンケートの実施
男女雇用機会均等法改正に当事者の声を
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