【自主レポート】
「福知山市男女共同参画計画」について
京都府本部/福知山市役所職員労働組合・執行委員長 山中 明彦
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福知山市は、今年1月1日に周辺の天田郡三和町、夜久野町及び加佐郡大江町を編入合併しました。1937年(昭和12年)4月に京都市に次ぐ府下2番目の市として誕生しましたが、合併前は北近畿で唯一といえる人口増加自治体でした。市制施行が早かったのは、山陰線、福知山線といった鉄道網と京都・大阪からの街道が通る交通の要衝であり、古くから北近畿の商都であったこと、さらには、戦前には陸軍歩兵20連隊(現在は陸上自衛隊)が存在する軍都であったことが礎にあったと考えます。そのためか、人口規模に比べてスナック等の飲食店が多くあります。
福知山市では、1992年に女性行動計画「はばたきプラン」を策定し、男女共同参画社会をめざして取り組むべき5つの基本課題を設け15の主要施策を設定しました。そして、1996年の本市第3次総合計画では、男女がお互いの人権を尊重し、共に自立し、責任を担い、心豊かな幸福感を実感できる社会の形成をめざし、さらに努める必要があると位置づけ施策の推進に取り組んできました。
2001年3月には、民間委員で組織する福知山市女性政策推進懇話会(現「福知山市男女共同参画推進懇話会」以下、懇話会という。)からの「男女共同参画基本法」の理念を生かして「共に築き、共に歩み、共に聞く」計画となるよう求められた提言を受け、男女共同参画計画「新はばたきプラン」を策定し、その推進を図ってきました。
「新はばたきプラン」策定から5年を経過するのを機に、2004年に「男女共同参画社会に関する市民意識調査(以下、「意識調査」という。)」を実施し、取り組みの成果と解決できていない課題を把握することにより進むべき方向を明らかにし、懇話会からの提言も踏まえ、取り組みがさらに計画的・系統的に進められるよう「新はばたきプラン-後期計画-(以下、「後期計画」という。)」を策定し、後半5年間の施策を進めていくこととしております。
意識調査の結果で特筆すべきことは、2000年に実施した調査と比べ「男女の平等感」について全体として平等になっていると答えた割合が、35.7%から21.4%に下がったことです。市が積極的に男女共同参画に関する施策を推進してきたにもかかわらず、実態は女性の地位はさして向上していないと考えるべきか、さまざまな啓発を進めてきた結果として女性の意識がさらに向上し、現状の不合理に対する女性の意識が反映された結果と考えるのか、いずれにしても大きな課題を突きつけられたと感じています。
このプランの基本理念は、女性も男性もお互いにその人権を尊重し、喜びも責任も分かち合いつつ、性別にとらわれずに個性や能力を発揮できる「男女共同参画社会の形成」をめざし、国連10年市行動計画に掲げる「人権という普遍的文化の創造をめざす」ことを踏まえた施策を推進するというものです。
基本目標として、
(1) 性別に関わらない一人一人の人権の尊重
(2) 性別に関わらない多様な生き方を認め合う環境づくり
(3) 男女共同参画に向けての社会システムの変革と市民との協働体制の確立
の3つを掲げています。
基本目標に基づき、参画社会を実現するための体系として8つの施策の方向を示しています。
(1) 性別に関わらない一人一人の人権の尊重
① 女性の人権の確立と阻害要因の禁止
② 意識改革のための教育・学習と啓発の推進
(2) 性別に関わらない多様な生き方を認め合う環境づくり
③ 男女がともに能力を発揮できる就労環境づくり
④ 自己実現を可能にする環境づくり
⑤ 性と生殖に関する生涯にわたる健康と権利の確保
(3) 男女共同参画に向けての社会システムの変革と市民との協働体制の確立
⑥ 政策・方針決定の場への女性の参画の促進
⑦ 地域・市民活動と行政の協働と女性活動団体への支援
⑧ 国際的協調と連携
福知山市における男女共同参画の実態の一面を示すと、2001年プラン策定時の行政委員会・各種審議会等への女性の参画率は全体で12.5%でしたが、2005年3月31日時点においても19.3%という状況でありました。
そこで、今回の後期計画においてはかなり控えめという観は否めませんが、下表のとおり2010年の目標数値を設定しました。
表1 「新はばたきプラン後期計画」の重点項目の数値目標
課 題
|
項 目
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現状値
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2010年
目標値
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備 考
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⑥ 政策・方針決定 の場への女性の参 画の促進 |
審議会等における女性
委員の割合を増やしま
す。 |
19.0%
|
30%
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2005年3月31日
現在 |
女性委員のいない審議
会等を減らします。 |
8
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4
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2005年3月31日
現在 |
市役所の係長級以上の
女性職員比率を増やし
ます。 |
22.4%
|
25.0%
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2006年1月1日
現在 |
④ 自己実現を可能 にする環境づくり |
男性市職員の育児休業
取得を促進します。 |
過去5年間
0人
|
5年間
で10人
|
2006年3月31日
現在
※特定事業主行動
計画5% |
家庭や地域生活など仕
事以外の生活を充実さ
せるため、市職員の残
業時間を削減します。
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一人当たり
15時間/月
|
10%削減
|
2003年度 |
また、既に多くの自治体で、男女共同参画に関する条例の制定が進められており(制定済み団体も多いと思います)、本市も本年9月議会への上程を目標に、2回の意見募集を行い、現在、最終調整を行っているところです。制定される条例に、しっかり魂を入れる施策の推進が求められます。
福知山市も男女共同参画に関わってさまざまな事業を推進していますが、その中から女性相談の状況を説明いたします。
表2 福知山市における女性相談の状況
年 度
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D V
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夫 婦
|
離 婚
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セクハラ
|
家 族
|
その他
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計
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2005年度
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26
|
10
|
7
|
0
|
9
|
2
|
54
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2004年度
|
24
|
6
|
5
|
1
|
19
|
7
|
62
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2003年度
|
19
|
4
|
5
|
1
|
13
|
1
|
43
|
2002年度
|
29
|
1
|
1
|
1
|
1
|
0
|
33
|
2001年度
|
12
|
1
|
3
|
1
|
0
|
2
|
19
|
本市の後期計画の基本目標は、「性別に関わらない一人一人の人権の尊重」を先頭においておりますが、意識調査で「3年以内に身体的な暴力を受けた経験」をたずねたところ、女性の6人に1人(16.8%)が経験があるという回答でした。これは2002年の内閣府調査と同様です。表2は、専門のカウンセラーに依頼している相談事業の実績です。事業開始当初からDVに関する相談が約半数を占めています。ちなみに、表2は、同じ人が継続的に相談を受けているケースもありますので実人数ではありません。深刻なケースには婦人相談所等の機関と連携して支援に当たっていますが、DVは都会だからとか地方だからということは関係なくどこにでも存在することだと思います。しかし、小さな自治体が単独で十分な施策を行うことは困難であり、全国どこに住んでいても身近な場所で安心して相談ができ、必要な場合には安全なところに避難できるようなネットワークづくりを進めることがますます重要です。冒頭で本市には飲食店がたくさんあると述べましたが、中には女性週刊誌などに掲載されている従業員の募集広告に誘われて福知山に来て、寮に住み込んで働いている女性の存在があります。それらの店が、場合によってはDVからのシェルターの役割を果たしているのではないかと懸念されます。
プランの見直しに当たっての懇話会からの提言の中に、『前半5年間を「PLAN-DO-SEE」というプロセスで捉えると「DO」と「SEE」の部分で十分な成果を得られたとは言えず、かつ3つのプロセスの連続性が感じられ』ないという指摘がありました。行政計画にありがちな、ホトケを作っても魂が入っていないということを指摘されています。2006年度からは毎年のローリングによる事業の点検と評価を行い、その結果を庁外組織に報告して意見を求め、その意見なども踏まえて事業を見直すことにしていますが、何をおいても全職員が男女共同参画を推進していくという気持ちと人権の視点を持ち、目的を明確にして事業を進めていかなければ市民に伝わらないと考えます。
数値目標を達成するための労働組合としての関わり
先ほど述べたとおり、福知山市は2006年1月1日に合併をしました。合併に関わっての勤務の状況は、合併の約半年前から超過勤務が増加し、合併と同時に年度末に向かっての業務と、税務事務など次年度に向けての業務などの本来業務が始まり、月200時間を超える超過勤務が数ヶ月続くという職員がいるという状況が生じました。異常な状況の中で、寒い時期でもあり過労で倒れる職員が出ないか大変心配されましたが、市民には迷惑をかけられないという気持ちの中で、幸い大事に至ることなく繁忙期は過ぎました。しかし、今年の異常な状況が今年限りのものなのか、来年の同じ時期にも繰り返されることになるのか今の時期にしっかり対応策を考えておかなければなりません。6月の当局との交渉で、超過勤務の削減のための事務事業の見直しを提起をしましたが、当局は原課に任せているという状況であります。確かに、一番良くわかっている現場から声を上げてこいということももっともであり、直ちに事務改善を検討するよう指示を出すことを要求しました。組合でも、自分たちの職場をしっかり見直し、来年同じことを繰り返すのはなんとしても避けようと話しているところです。
また、合併後の職員数は類似団体と比べて約100人多く、先ほど述べた超多忙な中で100人減ることになれば、おそらく過労死や倒れる者が続出し仕事も中途半端にしかできないという状況になると思います。それに追い討ちをかけるように、各方面から不当な公務員・人件費の削減が叫ばれている中では、地方分権の推進により仕事は増えて人は減るということにしかなりません。
先ほどの、表1の下3つをご覧ください。
まず、「女性係長の比率を増やす」ということですが、現在の数値は看護師、保育士、幼稚園教諭等のほとんどが女性という職場の数値も反映していますが、残念ながら未だ「男性は仕事」、「女性は仕事も家事も」ということになってしまっている中では、役職に付くことにより業務量が増加する本市の現状では特に子育て中の女性が事務職の中で「係長」になることは、職場と家庭の意識が変わらなければその女性を非常にしんどい状況に追い込むことになります。
また、男性の育児休業についても100人分はゆとりがあるはずが、逆に多くの職場で人員の不足感が漂っている状況では、女性が育児休業することには理解が得られても男性の取得にはよほど短期間であるか、時間的余裕のある時期でなければ取得する本人も含めて周囲の理解が得られないのではないかと思われます。
最後の残業時間の削減も、今述べた女性の係長の比率の向上、男性の育児休業の取得も、根本は同じところにあるわけで、事務改善及び業務量と職員の適正配置に尽きます。本市は、合併によって旧3町役場に支所を配置しており、住民サービスの窓口と防災・農林・旧町地域の自治振興担当など各支所30人程度を配置しています。合併後、支所機能の充実が叫ばれておりますが、支所を強化することの極論は合併前の役場機能をそのまま存続させることになるわけですが、どこの合併でもそのようなことはやっていません。むしろ、支所機能は最小限まで縮小し、本庁機能を充実させなければ職員の負担の軽減にはつながりません。本庁は超多忙だが支所では定時退庁できることにより、全体として目標達成できたとなっても意味はないでしょう。どこの職場でも、平時には限りなく定時に近い時間に退庁できるということにならなければ、職員の男女共同参画も実現できません。
労働組合としても、一日も早く真に男女共同参画が達成された職場となるよう、今後とも交渉を重ねていかなければと考えています。
死にたくなければ仕事を手放せ(民間委託の推進)と、裏でささやく声が聞こえるような気がします。 |