【自主レポート】

男女共同参画の提唱者「福沢諭吉」の里"なかつ"における
男女共同参画社会の実現に資する評価システムの確立

 大分県本部/中津市職員労働組合・自治研部

1. はじめに

 1999(平成11)年6月、男女共同参画社会基本法が成立し、その中で「女性も男性も互いにその人権を尊重し、喜びも責任も分かち合いつつ、性別にとらわれることなく、その個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会の形成は21世紀の最重要課題である」と位置づけている。
 中津市においては、2004(平成16)年3月に男女共同参画社会の実現をめざした「中津市男女共同参画計画(ともに生き活きプランなかつ)」を策定し、計画の目標年次である2007(平成19)年度末を目途に、目的達成に向けた具体的な事業を推進していくこととしている。
 さらに、2005年度より「男女共同参画計画」の進行管理と「やるべきことを明確にする仕組みづくり」として、2004年度男女共同参画行動計画の事業実績、事業評価及び2005年度行動計画別紙1・詳しくはhttp://www.city-nakatsu.jp/modules/zinken/参照)を作成し、「市として何を具体的に行ったのか、行うのか」を公表している。
 しかし、事業評価については、事業達成度を「評価・問題点」という形で担当課の主観で記載する方法をとっており、具体的な評価基準が曖昧となっている。
 今回のレポートは2006年度より取り組みを進めている「男女共同参画社会の実現に資する評価システム」について取りまとめを行ったものであり、「男女共同参画計画」が「絵に描いた餅」に終わることなく、このことを通して男女共同参画社会の形成の促進に資することができればとの思いで作成したものである。

~慶応義塾発行「世紀をつらぬく福澤諭吉─没後100年記念─」より一部抜粋~

 福澤諭吉は生涯を通じ、多くの女性論を著した。福澤の女性論については、その先見性が注目される。(略)
 福澤は1870(明治3)年にはすでに、「中津留別之書」の中で「人倫の大本は夫婦なり」と述べ、まず社会に「軽重の別」なき対等な夫婦が存在することの重要性を説いた。(略)
 1885(明治18)年には「品行論」を、1888(明治21)年には「日本男子論」を著し、また1899(明治32)年の「女大学評論・新女大学」では、男性もまたこの書を読むべきであると強調している。それらの中で、福澤は男性が変わることを求め、例えば「新女大学」では、父親の育児参加について、子どもの父たる者は妻の妊娠出産の苦労を分かち、養育に協力するべきで、他人の目を気にして協力できない男性は「勇気なきばかもの」であると述べている。(略)
 福澤は1世紀前に、すでに、男性が「脳中にある陰の帳面」に書き込まれた情報や世間体に縛られる馬鹿馬鹿しさを述べ、旧規範からの解放を説いていた。(略)

2. 男女共同参画社会の実現に資する評価システムの視点

 新たな「評価システム」は、これまでの「やるべきことを明確にする仕組みづくり」から「やるべきことを実施したか正しく把握する仕組みづくり」「男女共同参画社会の形成に対する配慮度を正しく把握する仕組みづくり」へと展開し、「市民にお約束したことが達成できたのか」という事業達成度と事業の企画・立案・実施段階において男女共同参画の視点を組み込むことができたのかという配慮度で評価するものである。

3. やるべきことを実施したか正しく把握する仕組みづくり(事業達成度)

 当該年度に実施する事業をあらかじめ市民に公表し、「市民にお約束したことが達成できたのか」を評価する必要がある。そこで、具体的な事業の実績を明示した上で、「当初計画の事業量が達成できたのか又今後の見通しはどうなのか」を市民に明らかにするものである。
 この評価の評定者は各事業担当課長とし、担当課長の責任でそれぞれの事業達成度に応じて事務事業の見直しを行い、次年度の事業計画を策定することとしている。

4. 男女共同参画社会の形成に対する配慮度を正しく把握する仕組みづくり(配慮度)

(1) 男女共同参画社会の形成への配慮
   「男女共同参画社会基本法」は、国及び地方公共団体に対し、「男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすと認められる施策を策定し、実施するに当っては、男女共同参画社会の形成に配慮しなければならない」と定めている。(法15条)
   ここでいう施策には、直接的に男女共同参画社会の形成を目標とするもの(狭義の施策)だけでなく、男女平等や女性の地位向上とは無縁であるかのような施策であっても結果的に男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすことがあり得るもの(広義の施策)も含まれるとされている。
   市は、2004年3月に「中津市男女共同参画計画(ともに生き活きプランなかつ)」を策定し、男女共同参画社会を形成するための4つの基本目標と施策の方向性別紙2を明らかにし、関係する234事業(狭義、広義の一部を含む)を「2005年度男女共同参画行動計画」として位置づけたところである。
   これらの事業については、それぞれ「男女共同参画の視点」から企画・立案、実施し、事業評価を行い、このことを通し各事業が男女共同参画社会の形成の促進に資するものとなるよう取り組んでいくことが重要である。

(2) 「男女共同参画の視点とは」
   「中津市男女共同参画計画」に位置付けられている個々の事業について、その企画・立案、実施、影響評価の一連のプロセスのあらゆる時点において、「男女共同参画の視点」を組み込むことが求められる。
   具体的には、
  ・ 固定的な役割分担や性別による偏り(ジェンダー・バイアス)を助長してはいないか。
  ・ 男女双方に対して等しく便益が及んでいるか(積極的格差是正措置;ポジティブ・アクションを除く。)
  ・ ジェンダーに対して中立となるよう、できればジェンダーの解消につながるようになっているか。(ジェンダー;生物学的性差をセックスというのに対して、社会的・文化的慣習の中でつくられた固定的な男女の性差をジェンダーという。)
などについて、確認していくことである。

   現状では、社会や家庭における女性と男性の役割や置かれている状況を反映して、実際的なニーズには強弱があり、また異なることも多く、男女を区別なく対象として行う事業であっても、結果として女性と男性に便益が等しく行き渡るとは限らない場合があることが考えられる。
   なお、男女共同参画の推進を目標としている事業や女性の地位向上を目的とする事業についても、事業の成果を改めて「男女共同参画の視点」から吟味することが必要である。

【例1;「子育て支援講座」事業】
 母親の強い保育ニーズに応じ、母親を対象として開催される事業であるが、「もっぱら母親が育児を担うという男女の固定的な役割を解消する」ことには対応できていない事業もある。
 父親が育児を担うケースもあるため、事業の企画・立案に当っては、父母の両者が参加できるような目標と手段を設定することが求められる。
【例2;「職業訓練」事業】
 男女を区別なく対象として実施したとしても、受講者に著しい男女の隔たりが生じている場合(たとえば女性が極端に少ないなど)は、「事業の内容が女性のニーズや状況に即したもの」となっていないことが考えられる。
 プログラムの内容や開催の環境(会場、時間等;例えば、平日の夜に開催したため、家事のため女性の参加が少なかったなど)を見直してみる必要がある。
【例3;「公園づくり」事業】
 公園のトイレを設計する際、乳幼児を座らせておく場所が女性トイレにはあっても、男性トイレに設置されていなければ、父親が子どもを連れて公園に来ることが難しいことが考えられる。
 例えば、男性トイレにもベビーシートを設置するなどして、「父親も育児に参加できるようにする」必要がある。
【例4;男性向け料理講座の開催事業】
 男性向け家事参加を促進するための事業として、事業費がいくらか、何回開催したか、何人参加したかということを成果として把握してきたが、「男性の家事参加を促進することにどれだけ成果があったのか」を評価する。
 例えば、アンケート調査で実際に講座が家事参加に役立ったのかを把握することなどが考えられる。

5. 2005年度男女共同参画行動計画の事業実績、事業評価及び2006年度行動計画

 行動計画の構成について別紙3を参照されたい。表中「施策」「具体的な施策」欄は男女共同参画計画で決定された内容であり、担当課はその施策に資する具体的な「事業概要」を前年度に決定し、「実績」欄には具体的に実施した内容を記載する。「男女共同参画の視点に立った評価・問題点」欄は、上記4.の視点で定性的に記載し、その評価・問題点及び評価点数結果を踏まえ、「次年度事業概要」を作成する。
 前年度に計画した全ての事業(234事業)に対して、各課が計画を作成し、男女共同参画担当課(人権啓発推進課)が全庁的な取りまとめを行うこととしている。

6. 評価点数の評価表

 評価点数の評価表の構成、評価の方法について別紙4を参照されたい。担当課は、行動計画の具体的な施策ごとに、評価表を作成する。

(1) 事業達成度については、配点5から1の評価基準に沿って、事業担当課が評定する。評定結果は、行動計画の「事業達成度」欄に転記する。

(2) 配慮度については、①~⑦の項目毎にプラスの影響、マイナスの影響等に基づき〇×等を記載し、配慮度の評価点は〇の数で評価することとする。評価対象事業に対して、何項目について配慮できたかということを数値で評価し、次年度の事業を計画に反映させます。2006年度は配慮度評価の初年度であったため、評価するにあたっての基準を例として表示したが、次年度以降は、表中の「例えば、」の欄に、「評価」欄で評価した理由・根拠を記入することにより、評定経過の透明性を図っていきたい。

(3) 事業評価(事業の適時性・効率性を把握する仕組みづくり)については、各課がその事業の適時性・効率性について評価し、評価の低い事業の見直しを図る目的で設定した。しかし、事業評価を2項目だけで事業の存廃を決定するのには無理があるため、行動計画には転記しないこととして取り扱った。事業評価の評価基準の方法については、更に検討を進めていく予定である。

7. 事業担当課への周知

 新たな評価システムを全庁的に周知するため、全課の庶務担当係長及び事業担当係長会議を開催し、評価の方法等について研修会を開催した。しかし、4支所の係長については、本庁が全ての事業を掌握し、取りまとめを行っているため召集しなかった。今後は、支所の係長も含めて研修会を開催し、全庁的な取り組みにする必要がある。

8. 取りまとめ結果の報告、公表

 各課で提出された行動計画を男女共同参画計画の施策・具体的な施策ごとに並び替えを行い、庁内での類似事業の整理や不足している施策の再検討を実施する。検討結果は、助役がトップである男女共同参画行政推進会議で最終協議を行い、行動計画(案)として市の附属機関である男女共同参画懇話会に報告し、意見を求め、公表する。
 市民へは、市報、男女共同参画情報誌「ならんで一緒に」、地区・企業等の学習会の機会を通じてお知らせを行っているが、情報量が多いため概要版による方法が限界である。より多くの情報を提供するため市のホームページへ全文を掲載することも同時に実施している。

9. おわりに

 男女共同参画社会基本法が制定されて7年になろうとしている。制度なり体制は整ってきているのに、具体的な動きがなかなか進まないのはどこに問題があるのだろうか。男女共同参画条例や計画は作ったけれど、男女共同参画社会の実現のため行政は何をしているんだろう。講演会は年に1回は開催しているけれども。というのが現状ではないだろうか。男女が担う自治労委員会の取り組みも停滞状態にあるといわざるを得ない。
 これらは、計画を作ってしまえば行政の仕事は終わりという旧態依然としたお役所体質と男女共同参画を第一線で実践しなければならない自治体職員における「男女共同参画の視点」「男女共同参画社会の形成に対する配慮」の欠如によるものと言っても過言ではない。
 この「男女共同参画行動計画」の作成により、職員の意識改革を図るとともに男女共同参画計画の効果的・効率的な事業が執行されることを期待している。
 また、行政に求められているのは積極的な情報公開と行政運営の透明化であると考える。行政が今何をしているのか。その事業をどのように事業評価し、改善していこうとしているのか。洗いざらい市民に公表し、積極的な市民の意見を受け入れ、市民と協働による男女共同参画社会の実現を目指していきたい。

別紙1 平成16年度男女共同参画行動計画の事業実績、事業評価及び17年度行動計画

別紙2 男女共同参画計画「ともに活き生きプランなかつ」の計画の体系

別紙3 平成17年度男女共同参画行動計画の事業実績・事業評価及び平成18年度行動計画の見方

別紙4 評価点数の評価表