【要請レポート】

チャレンジ支援(自治体行政の現場から)

滋賀県本部/彦根市職員労働組合連合会 岸田 道幸

彦根市の概要
 人口  110,612人  世帯数41,197世帯 (2006.8.1)
 面積  98.15k㎡   

1. 彦根市の男女共同参画の取り組みについて

(1) 男女共同参画計画
   「彦根市男女共生プラン」1995年
   「男女共同参画ひこねかがやきプラン」2001年

(2) 男女共同参画を推進する彦根市条例
   2002年4月に施行
   市議会に上程する前に、パブリックコメントや公聴会を通じ、市民意見を反映した条例案を市議会に上程しました。この条例は、前文と22条で構成し、市・市民・事業者の責務、性別による権利侵害の禁止、男女共同参画の推進に積極的に取り組む事業者の表彰、男女共同参画審議会の設置などを規定しています。

(3) 男女共同参画関連施策
  ① 男女共同参画地域推進員の設置
  ② 男女共同参画ミニフォーラム(出前講座)の開催
  ③ 男女共同参画実践モデル地域チャレンジ事業の実施
  ④ 男女共同参画推進事業者の表彰
  ⑤ 男女共同参画センター「ウィズ」の運営

2. 地域での男女共同参画の推進について

(1) 男女共同参画地域推進員の設置と活動内容
   地域や団体での男女共同参画の自主的な推進を図ると共に、男女共同参画に関する地域活動を支援することを目的に、市民公募を経て7人を委嘱。(任期は、2年間)
   具体的活動……出前講座の広報および講師
          男女共同参画実践モデル地域への支援など

(2) 男女共同参画実践モデル地域チャレンジ事業
  ① 彦根市の自治会の状況……・2005年度末で299の自治会が組織
                ・1000世帯以上という大きな地域から、10世帯未満という小規模な自治会があります。
                ・自治会の主な活動……総会、町内清掃、防犯、住民交流のためのスポーツ大会や文化祭の開催他

    市内の自治会における役員の男女の参画状況は、女性が自治会長となっている団体は、5団体、副代表となっている団体が12団体しかなく、データから見ても女性の参画は極めて低い状況にあると認識しています。
 自治会の役員には男性が就任するものの、実際の活動に携わるのは、役員の妻が担っているという自治会があったり、行事企画など活動の意思決定の場には、男性が関わるが実際の活動は、女性が担っているというところもあります。また、2002年に滋賀県が実施したアンケートによると、社会通念、慣習、しきたりなどにおいては、多くの人々が「男性が優遇されている」と感じており、また、男女の不平等を感じるのは「地域社会」という答えが最も多くなっています。まだまだ、社会通念や慣習の中に男女の平等が実現されていないという結果が出ています。
    男女共同参画を推進する彦根市条例の施行や各種の取り組みにより、市民の意識は徐々に高まってはきているものの、市民の生活レベルとなると、男女共同参画の推進ができていない、根付いていないという課題があります。
    こうした課題への対応として、地域における自主的な取り組みを推進するため、2002年度から、「男女共同参画実践モデル地域チャレンジ事業」を実施しています。この事業は、モデル地域として指定した自治会が男女共同参画の視点に立った自治会の運営や慣習の見直し等の実践活動に取り組んでもらうというものです。
    モデル地域の指定数に限りがあることから、市内の全自治会長に事業実施募集のチラシを配布し、取り組んでいただける自治会を募っています。

事業メニュー

・地域の課題把握と取り組み方針の明確化(住民アンケートなど)
・地域の慣習、制度等の見直し
・推進員、役員等の研修
・住民学習会の実施
・啓発広報など
  ② 事業支援
    男女共同参画の視点での自治会運営の見直しについては、先行する事例が少ないこと、何をすればよいのかについて明確なイメージが描けないことから、単に経済的支援を行うだけではなく、2002・2003年度の2年間は滋賀県から「地域づくりアドバイザー」をモデル地域に派遣してもらいました。
    2004年度からは市の単独事業となりましたが、市が委嘱する男女共同参画地域推進員をアドバイザーとしてモデル地域に派遣しました。モデル地域の担当推進員の相談にのったり、時には住民学習会の講師を担うなど、自治会が年間を通じて継続的な活動が展開されるよう支援を行いました。

(3) 男女共同参画実践モデル地域チャレンジ事業の具体的な取り組みについて
   事業実施自治会数等 ○2002・2003……2自治会
               事業補助金 10万円(単年度1自治会当たり)
             ○平成16年度……2自治会
               事業補助金 2万円(1自治会当たり)
             ○平成17年度……3自治会
               事業補助金 1万円(1自治会当たり)
    以下、各年度の代表的な取り組みを紹介します。
  ① 2002・2003年度  

K自治会

    自治会活動に実際に関わる人が、自分の名前で役員登録することを推進
    アイロンがけ講座の開催
    (実施自治会の推進員のコメント)
     2年間で活動の成果を出すのは難しいですが、会議の時の座り方が、男性が前、女性が後ろというのではなく、男女混ざって座るようになっていきました。少しずつですが男女共同参画を理解してもらっていると思います。
  ② 2004年度

KO町内会

    リーダー研修会の開催
    住民学習会の開催
    住民広報誌の発行
    町文化祭での展示
    町役員への女性の積極的登用
    (実施自治会からの感想)
     この事業を通して、町内行事を企画する段階から女性の意見を反映することができました。また、行事の進行役を女性に任せることで、町行事への女性の参加が少しずつ増えてきました。このことは、住民の男女共同参画に対する意識が高まってきたものと思われます。今後も女性がいきいきと地域活動に参加し、従前の慣例・しきたりにとらわれず、男女が共に参画しやすい環境づくりに取り組んでいきたいです。
  ③ 2005年度

H町自治会

    リーダー研修会の開催
    住民学習会の開催
    住民広報誌の発行
    住民申し合わせ事項の決定
    自治会総会には、役員の配偶者(女性)が接待係りを行っていたが、この慣例の見直しを行った。
    (実施自治会からの感想)
     この地域は高齢者も多く、封建的な一面もあり、当たり前と思っていた慣習を見直そうということで、チャレンジ事業の地域指定を受けました。住民学習会では、子育てやDVなど男女共同参画に関し住民相互が本音で話し合うことができました。今後も、男女問わず町内活動に積極的に参加していただき、より活力のある自治会運営を行っていきたいです。

(4) 男女共同参画実践モデル地域チャレンジ事業の成果と課題
   (成果) 地域レベルで男女共同参画を考える機会が少ない中で、2002・2003年度の場合は2年間事業として、2004年度以降は1年間事業として、各地域での実態を踏まえた特色ある活動が展開されました。このことにより、「男女共同参画」が遠い存在と思っていた人にも生活面や地域づくりに直接関わりがあるということや、男女が共に地域づくりをしていくことの大切さが理解されました。  
        特に、自治会役員については、このモデル事業を推進する立場ということもあり、活動を通して男女共同参画に関する意識が高まったとの感想を聞いています。各地域とも意識の高まりだけに終わらず、役員への女性の積極的登用や慣習、しきたりの見直しに実践として取り組まれたことは一定の成果があったものと考えます。男女共同参画を意識した自主的な取り組みが推進されたことは大きな成果があったものと思われます。
    (課題) この事業を実施したのは、約300自治会の内、わずか7自治会です。2003・2004年度の実施事業については、取り組み概要をまとめた冊子を市内の自治会に配布しました。この冊子を使い、小学校区毎に開催された自治会長会議などに市の担当職員と男女共同参画地域推進員がいっしょに出向き、実践事例の紹介と各自治会で男女共同参画についての取り組みを推進されるよう依頼しました。しかし、モデル地域の事例を参考にした自主的な取り組みが行われていません。
        また、チャレンジ事業を行った自治会についても、1年毎の役員交代で意欲のある役員が退任されてしまうと取り組みが弱まることもあります。
        今後、行政としては地域への啓発とともに男女共同参画に関わる自主的な活動をどう支援していくのかが大きな課題です。

3. 今後の男女共同参画の推進について

(1) 地域啓発をどのように進めていくのか。
   啓発とは、気づいていない人に気づいてもらうための取り組みであり、出前講座、広報誌などあらゆる手法であらゆる機会を通じて市民に呼びかけていく必要があります。
   自治会においては、少子高齢化による地域活動の担い手の減少や、地域課題の多様化、複雑化への対応など、老若男女さまざまな人々が協力しあい、課題を解決していくことの重要性が増しています。こうした課題とも関連させながら男女共同参画を理解してもらうことが大切であると考えています。
   市の補助事業は終期設定することが原則となり、2006年度末をもってこの事業は終了することとなっており、来年度からは、新たな事業を企画しなければならないと考えています。

(2) 地域での実践をどのように促進するのか。
   彦根市の男女共同参画の推進のコンセプトは、市民・事業者との協働です。行政のみで施策を実施したとしても、財源も人も限られており、実施できる事業にもおのずと限界があります。
   市がやるべきこと、市民がやるべきことを明確にしながら地域での男女共同参画を促進していきたいと思います。例えば、男女共同参画を推進するリーダーの育成や情報提供は行政が担う、実際の地域での推進役は市民が担うというように取り組んでいければと考えています。チャレンジ事業での成果と課題を整理し、来年度の事業に結び付けていきたいです。

資料1 彦根市について

資料2 男女共同参画実践モデル地域の募集