【論文】

基 地 と 振 興 策

沖縄県本部/名護市職員労働組合

1. 名護市における基地関係等の収入状況

 本年2月7日、任期満了で退任する岸本建男市長は集まった職員や市民に「人口を増やし、定住条件をつくりあげる。この二つが重要だ。人口の拡大がなければどんな計画も始まらない。この点を目標にすえて頑張ってほしい」と語った。
 岸本市長が条件付きで米軍普天間飛行場の代替え施設の受け入れを表明したのは、1999年12月。その前後から地域振興策の名目で名護市にマルチメディヤ館や国立沖縄工業高等専門学校(国立高専)など、さまざまな施設が建てられた。「毒を飲んでまでも地域の発展を目指したのか」岸本市長はその翌月に死去した。
 名護市には、北部振興策や国立高専の設立などを含め約400億円の巨費が投入された。人口は約2,500人、新規雇用も情報関連分野を中心に100人以上増えた。
 一方で市の財政指標は悪化の一途をたどる。経常収支比率が95%という硬直した財政構造である。
 国への依存度は一層深まり、自立への展望は見えにくくなった。
 「箱物ばかりが増えた」政府に頼りきった地域振興はいずれ行き詰まる。

2. 基地関係等の状況

(1) 沖縄米軍基地所在市町村活性化特別事業(嶋田懇談会事業)[1997年~85億4,350万円]
  ① 人材育成センター
   ア 名桜大学の多目的ホール、留学生センター、総合研究所
   イ ネオパーク国際種保存研究センター
   ウ 国際交流会館
  ② マルチメディヤ館
  ③  北部学生宿舎
  ④ 花の里づくり事業
  ⑤ スポーツ整備事業

(2) SACO関連事業[1998年77億4,344万円]
  ① 天仁屋地区会館
  ② 底仁屋地区会館
  ③ 汀間地区会館
  ④ 安部地区会館
  ⑤ 嘉陽地区会館
  ⑥ 三原地区会館
  ⑦ 中山地区会館
  ⑧ 山入端地区会館
  ⑨ 宇茂佐地区会館
  ⑩ 豊原地区会館
  ⑪ 辺野古地区会館
  ⑫ 東江地区会館
  ⑬ 伊差川地区会館
  ⑭ 数久田地区会館
  ⑮ 久志診療所
  ⑯ 消防署久志出張所

(3) 名護市における北部振興策事業[2000年159億7,930万円]
  ① IT産業等集積基盤整備事業(国際海洋センター)
  ② 名護市食肉処理施設整備事業(食肉センター)
  ③ みらい1号館
  ④ みらい2号館
  ⑤ 北部会館
  ⑥ 羽地地区センター(羽地支所)
  ⑦ 辺野古交流プラザ整備事業
  ⑧ 名護市産業支援センター施設整備事業(商工会館、JA金融機関施設)
   「数久田地区会館」は総事業費4億6百万円。そのうち3億円はSACO交付金で賄れた。1996年のSACO合意に基づき名護市55区のうちSACO関連の地区会館が14区もできた。
   国庫補助の総額は16億1千万円に上る。
   辺野古区ではコミニティ施設に加え、北部振興策事業を使って辺野古交流プラザも建設中である。
   6月中旬の東江地区会館の落成式で、防衛施設局の職員が祝辞を述べる姿を見て、元名護市長の渡具知裕徳さんは、復帰前の米国民政府の政策を思い起こした。
   「米国は高等弁務官資金により公民館建設を進め、支配下にある住民の不満をそらそうとした。今度は、日本政府がそれと同じ事をやっている。かつての"迷惑料"から基地受け入れと引き換えに破格の優遇措置を与える側面が強くなった」と指摘した。

(4) 名護市食肉センター
   総事業費30億円をかけて2003年に操業を開始した。
   名護市が北部振興策の事業を使って公設・民営型施設として整備した。
   ブタ15万頭、ヤギ2千頭の処理能力を備える県内有数の施設。
   だが、農家の高齢化や排泄物処理の基準の厳しさから、県内のブタの出荷頭数は右肩下がりとなった。
   施設の初年度実績も目標を大きく割り込む7万9千頭に低迷し、実質的に4千万円前後の赤字となった。
   末松文信助役は、「北部の産業振興に欠かせない施設」と理解を求めているが、施設稼働率は6割前後、国の"超高率補助"に誘われた「身の丈に合わない」施設との批判がくすぶっている。

(5) 辺野古区
   移設先の辺野古区(大城康昌区長)は沿岸案の受け入れの条件闘争として、区(約460世帯)に対して、1世帯当たり1億5千万円の生活補償や地域振興策を国に求める方針を決定した。
   また、基地が存在する間の永代補償として、1世帯200万円を毎年の補償を求める項目に新たに付け加えた。

(6) 二見10区
   名護市二見以北の区長らで構成する、二見以北地域振興会(会長 田畑一茂瀬嵩区長)は、移設に伴う補償金60億円を要求。基地と振興策との「リンク」に踏み込んだ。
   1997年4月、海上ヘリ基地の事前調査説明に訪れた名護市長に、10区は移設反対を突きつけた。名護市はこの事から反基地感情の強かった10区に「新基地建設とは無関係」と説明し、地方交付税の基地関連経費の傾斜配分として、毎年6千万円を交付。さらに、1998年以降日米行動特別委員会(SACO)に関連する「 関係施設周辺整備助成補助事業」として9割の建設補助が受けられる公民館建設を6区が実施し、2006年度までに約4億5千万円が投入される。本年度からは北部振興策の非公共事業として、4年間で約5億2千万円をかけて「道の駅」をイメージした交流施設が計画されている。
   田畑区長は「人口が減り続ける中、雇用創出につながり、観光客が足を止める拠点にもなる」と大きな期待を込める。
   次々と投入される多額の補助金に、基地反対への10区の思いは、次第におさえつけられていった。

(7) 名護市の財政
   建設費についても北部振興策の「非公共」分野「 島田懇談会事業」(通称シマコン)で国の補助率は9割。残り1割の"裏負担"分も地方交付税の算定要素として加味される最小限の出費で最大の経済効果を得る"釣りざお"というのが市の立場である。
   ただ高率補助であっても市の負担は必ず発生する。市債残高(借金)は2003年度で237億円となり10年間で80億円以上増えた。
   市財政課は「借金が膨らんだのは振興策が始まる以前に建設された名桜大学や市立図書館が主な要因と言って「振興策による財政悪化」の見方を否定する。
   2006年の名護市長選挙で当選した島袋市長は、「沿岸案反対」の公約を一方的に破棄し、飛行ルートが「陸地を回避し上空を飛ばなければ受け入れる」と政府案の一部を修正したV字型滑走路案で防衛庁と合意した。
   新沿岸案は、政府案に比べ、面積が2倍近くに拡張され、滑走路も2本に増えただけでなく、距離も1,500メートルから1,800メートルへと長くなっています。さらには、大浦湾には軍艦が着岸できるバースを設置することが予想されるなど、規模や機能がはるかに強化・拡大されています。従って、今回の合意は単に普天間を移設させるだけではなく、オスプレーの配備、軍港が併設される最新の機能をもたせたハイテク基地へと強化され、北部の軍事要塞化の要の役割を果たすと考えられます。
   また、このような基地が建設されると辺野古海域と大浦湾一体が死の海と化し、基地から派生する事故、事件で地域住民は恐怖に常にさらされ続ける事になるのは明白です。
   今後沿岸案撤回に向け普天間の即時撤去、辺野古移設を最終的に断念に追い込むたたかいを取り組みます。


基地関係等収入決算額の状況【平成7年度から平成16年度まで】(名護市企画総務部企画財政課)
名護市における北部振興策事業決算状況(企画総務部企画財政課)