【自主レポート】

公共下水道汚泥の有効利用に関するレポート

秋田県本部/藤里町役場職員労働組合・委員長・事業課主査 村岡 徳一

1. はじめに

 秋田県藤里町は、世界自然遺産「白神山地」の麓に位置する、人口4,300人程の山村です。藤里町では、1995年度に全町民を対象に下水道に関するアンケート調査を実施した結果、80%以上の町民が生活排水の処理に困っていると回答しました。これを受け、1996年度に藤里町下水処理施設整備計画を策定し、1998年度から特定環境保全公共下水道事業に着手し、2003年3月に供用開始、2004年3月から汚泥処理を開始しています。

写真1 藤里浄化センター全体図

2. 藤里町の下水道事業

 藤里町の下水道等事業は、町の中心部を特定環境保全公共下水道(国土交通省)、白神山地の観光拠点地域を農業集落排水(農水省)、その他の散在集落を市町村設置型の合併処理浄化槽(環境省)で整備しています。特定環境保全公共下水道は、1998年度に事業着手し、2003年3月に供用開始し、順次供用エリアを拡大し、2005年度末現在、全体計画の71%が供用されています。農業集落排水は、1999年度に事業着手し、2002年12月に供用開始し、2004年度で事業完了しています。合併処理浄化槽は、2003年度に事業着手し、順次供用開始となっています。
 藤里町では、2010年度末を目標として、全世帯が下水道等を使用できるように、計画的に事業を推進しています。

写真2 受賞パネル

3. 「いきいき下水道賞」の受賞

 下水道に加入するためには、多額の費用を要することから、町民の負担軽減のため、伐期となった町有林の主伐収入を財源として、環境浄化促進助成金、加入奨励金、積立奨励金、資金対策助成金を交付することとし、1世帯平均で約45万円を助成しています。この成果は、加入率の高さが証明しています。また、発生した汚泥を肥料登録し、再造林時に施肥する計画としています。
 これらの計画及び実績は、2003年度「いきいき下水道賞(普及啓蒙部門)」(国土交通大臣賞)を受賞しています。

4. 下水道汚泥の処理・処分の現状

 特定環境保全公共下水道等の下水道法が適用される処理施設から発生した汚泥は、「産業廃棄物」として適正な処分が必要となります。一方、農業・林業・漁業集落排水、合併処理浄化槽等の浄化槽法が適用される処理施設等から発生した汚泥は、「一般廃棄物」として処理することとなります。ご存知の方も多いかと思いますが、産業廃棄物として処理するということは、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」を遵守することであり、事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならないこととなっており、多くの下水道管理者が下水道汚泥の処理・処分に頭を悩ませているのが現状だと思われます。
 また、藤里町と同様に公共下水道、農業等集落排水、合併処理浄化槽を組合わせて下水道等事業を施行している自治体もあると思います。その中でも、地方の山村で工場排水等の流入がない場合、つまり、公共下水道と農業等集落排水の処理施設への流入水質が同様の水質であっても、下水道法が適用される公共下水道汚泥は産業廃棄物であり、浄化槽法が適用される農業等集落排水汚泥は一般廃棄物として処理することに疑問を感じているのは、私だけではないと思います。工場排水等が流入しない場合は、一般廃棄物として処理・処分できるようになることを事あるごとに要望しているのですが、法律を変えるのは並大抵のことではないと実感しています。
 下水道汚泥は、下水を処理する過程で活躍する微生物及び不純物の塊です。処理槽内での含水率は99.0~99.8%で殆どが水分です。この水分を少なくするのが汚泥処理ということになります。
 図1は、藤里浄化センターでの汚泥処理フローですが、処理槽内の含水率99.8%の汚泥を乾燥汚泥状態にすると含水率は55%(実績は、52%前後)まで減少します。これを重量で比較すると処理槽内の重量を100とすると、脱水汚泥で10、乾燥汚泥では2.5程度まで減量化されたことになります。

図1 汚泥処理フロー図

 このように汚泥を減量化することにより、処分費を削減できることとなります。

写真3 藤里浄化センター全景

5. 藤里町の下水道汚泥処理・処分の取り組み

1) 藤里浄化センターの処理方式等
   藤里町藤里浄化センターの処理方式は、オキシデーションディッチ法であり、中小の処理施設で多数採用されている処理方式です。
   また、当初計画の汚泥処理方法は、5m3/時の遠心脱水機を計画していました。しかし、発生汚泥量が増加していった時の維持管理費に占める汚泥処分料を検討したこと、及び、町有林の主伐収入を各種助成金の財源としているため、再造林時に下水道汚泥肥料を使用したいことから、脱水より汚泥を減量化でき、汚泥を取扱い易い(コンポスト化し易い)遠心脱水+ボイラー薄膜乾燥式の脱水乾燥機を導入することに変更し、2003年度に導入し、現在、3年目となっています。

写真4 汚泥脱水乾燥機

(2) 汚泥発生量の推移
   藤里浄化センターは2003年3月1日に供用開始となりましたが、汚泥処理は、通常、供用開始1年後を目途に設備を設置することから、汚泥脱水乾燥機は、2003年度の工事で設置し、2004年3月から運転しています。
   藤里町は、各種助成制度のおかげで加入率が高いこともあり、2004年度は30t、2005年度が34tの実績で、2006年度は45t程度の発生量が見込まれます。全体計画では、110t/年となっています。


 

写真5 乾燥汚泥

(3) 汚泥の性状
   通常の脱水汚泥(含水率85%)は、静の状態であれば安定していますが、ダンプトラック等で運搬した場合など動の状態となると固液分離し、取扱いづらい性質を持っています。一方、乾燥汚泥(含水率55%)は、読んで字のごとく"乾燥"しているため、畑の土と同じような状態になっています。しかし、発酵し易い性質のため、発酵時には、日常生活で嗅いだ事の無いような匂いを発します。
   毎年夏休み前に、町内の小学4年生を対象に下水道についての出前講座「下水道って何?」を開き、下水道について勉強してもらっています。そして、夏休みに藤里浄化センターを見学してもらっていますが、見学時、脱水乾燥機室と発酵汚泥の保管場所の匂いに気分が悪くなる子供もいるくらい、強烈で、独特の臭気を発すると言えばお分かりでしょうか。

写真6 下水道汚泥肥料

(4) 乾燥汚泥の最終処分
   乾燥汚泥は、浄化センター内に一時仮置きし、大仙市(旧西仙北町)にある上野台堆肥生産協同組合でコンポスト(肥料)化しています。処分料は30,000円/t、運賃も30,000円/tと他の最終処分場等より高額となっています。しかし、製品化された物を無償で提供して頂いているので、実際は、運賃程度で処分している状況です。ちなみに、製品価格は630円/袋(15kg)です。
   この製品を今年度から試験的に農家の方々へ利用してもらうため、無償で提供しています。使用用途は、水田、畑(アスパラ、キャベツ等)、プランターとなっており、アスパラについては生育が良かったと聞いています。水田は施肥した水田と通常の水田が並んでいますので、これから差が出てくるのか楽しみにしている所です。

6. おわりに

 下水道汚泥の処理・処分について書いてきましたが、現在、都市部の大きな処理施設では、炭化、溶融、一般ごみとの混焼、セメント材料等様々な処分を行っています。田舎の小さな処理施設では、大掛かりな施設を建設しても維持していくことが大変です。また、下水道汚泥に対する住民のイメージが悪いことも問題として存在します。以前、コンポスト施設を多くの自治体で建設したことがあるようですが、現在稼動している施設はほんの一握りだとも言われています。これもイメージの問題があると思われます。
 このような状況の中、県南の由利本荘市、大仙市の農家の方々がこの汚泥肥料を使用し、10a当り600kg程度だった収穫量が1.2倍の720kg以上にアップしたとの実績を伺っています。米価の安い時代、担い手の少ない時代だからこそ、多収量が期待でき、安全な汚泥肥料を使用していく環境を整備することも必要だと思います。藤里町では、今年度から試験的に汚泥肥料を使用しているところですが、実績を積み、多くの農家の方々に利用してもらいたいと思います。現在、無償で提供している汚泥肥料は、通常、630円/袋ですが、将来的には、1/3~1/2程度の値段で農家へ提供し、収入を維持管理費の一部に充てていきたいと考えています。
 最後になりますが、世界自然遺産"白神山地"の麓の小さな町で、下水道汚泥肥料を使った資源循環型の下水道経営をできるよう、日々努力、研鑚していきたいと思います。