【自主レポート】

政策提言から職域の拡大に向けて~出前ごみスクール~

神奈川県本部/川崎市職員労働組合・清掃支部

1. はじめに

 2001年に川崎市は、財政難を大きな理由として「民間で出来るものは民間で」を基本にした行財政の改革に向けた指針「川崎市行財政改革プラン」を発表しました。
 この改革プランでは、3年間で1,000人の職員の削減を打ち出し、とりわけ、清掃や給食といった現業部門の民間委託化を方針化しました。
 その方針に対して私たちは、「清掃事業は競争経済には馴染まない分野であり、住民の生命・健康を守る公共性の高い自治体業務である。責任ある行政として直営で行うべきである」という主張を行ってきました。
 そして、「行財政改革プラン」に対峙するため、支部は、住民とのコミュニケーションをはかりながら地域住民の信頼と安心のネットワークの確立を目指して運動を展開しました。
 まずは、ごみ減量・環境保護を訴える市民団体「川崎・ごみを考える市民連絡会」と協働した取り組みを行ってきました。さらに、「ごみのこと何でも聞いてください」というステッカーを作成し、収集車に貼付し、市民との対話を図ってきました。
 こうした中で私たちは、「第一線で行政サービスを担う労働者として、単なるコスト論だけではない、住民のための快適な生活環境の保全を目的とした『政策提言』を行う必要がある」という意識から、2002年7月に開催した「支部自治研集会」においてアンケート調査を行い、組合員の意見や問題意識を集約する中で、地域に根ざした廃棄物政策のヒントとなる4つの課題が浮き彫りになりました。

(1) 「美化運動」のような市民とのふれあいが必要である
   この背景には、市民の理解がないと合理化の流れに歯止めがきかないとの危機感があり、市民の参加と賛同が得られる取り組みが必要である。

(2) 「資源物の日」の分別形態の改善が必要である
   ごみの排出抑制や減量に向けて分別品目を拡大する必要があり、他都市の事例を参考にしながら、環境保全・資源循環型社会の構築に向けて検討する必要がある。

(3) 市民に対して「お知らせ」や広報が伝わっていない
   単身世帯や町会(自治会)未加入者への対応のみならず、市民へのわかりやすい対策を講じる必要がある。また、職員一人ひとりが指導的な立場で、第一線で住民対話を行う必要がある。

(4) 「ふれあい収集」の充実と拡大が必要である
   高齢化社会に対応した取り組みとして、住民が安心して生活できるサービスの提供が必要である。

  地域に根ざした取り組みの一環として以上の4点を視野に入れた「新たなる住民懇談会」の検討に入ることにしました。

2. 住民懇談会から清掃推進員(生活環境推進員)制度へ

 70年代前半、清掃労働者に対する偏見や差別意識が依然解消されないことから、「その悔しさや思い」を住民になんとか伝えたかったことと、清掃作業自体も住民の協力が不可欠であったため、住民懇談会を実施してきました。
 当初は、行政としての取り組みであったために、住民の意見を聞くだけのものになってしまいました。そのことを反省する中で、80年代には、清掃支部主催で開催し、私たちの主張もする中で、住民との対話を行ってきました。
 当時は、ごみの出し方はもちろん、清掃労働に対する偏見等についても話をすることが出来ました。
 その後、参加していた町会役員から、「何で労働組合がそんなことをやるのか」といった批判もありましたが、一方、女性の参加者からは、「ごみやし尿の問題は毎日の大事な問題だ」と賛同してくださった方が多く、協力をしてもらいました。
 このような、清掃支部主催の住民懇談会が浸透していく中で、町会や自治会を窓口に直接住民に対して、ごみの出し方の広報や指導、また、住民側の意見・要望を聞くパイプ役が必要との判断から、1985年に「清掃推進員(現在は、生活環境推進員)」の制度が確立し、事業所ごとに推進員が配属され、業務として住民とのコミュニケーションを図ってきています。このことは、住民懇談会を実施してきたことによる大きな成果でした。また、環境学習の一環として、小学校4年生の処理センター(ごみ焼却工場)への施設見学も実施されるようになりました。

3. 新たなる住民懇談会

 清掃推進員制度が定着して以降は、住民懇談会も行われなくなってきましたが、分別収集拡大の遅れや公務員バッシングと民間委託化論議が前面に出てくる中で、「さらなる住民との協働が重要である」との判断から、支部として「新たなる住民懇談会」の模索を始めました。そしてそのコンセプトは「地域住民の信頼を得ること。安心のネットワークの確立。政策提言からより質の高いサービス提供へ」としました。
 また、「ごみのこと何でも聞いてください」という取り組みとの整合性を保ちながら推進することと実施しやすく継続性のある取り組みとしていくことが確認されました。
 さらに、地域の小学校から環境教育のサポートの要請も多くあったこともあり、広報啓発の強化や組合員の意識改革も視野に入れ、子供や保護者を対象とした環境教育とすることと、その取り組みを足がかりとして、清掃職場の職域の拡大・充実をはかることを目標としました

4. 環境学習「出前ごみスクール」

 
スタッフの自己紹介

 小学校における環境学習については、副読本を使用しての授業と、処理センターへの施設見学が行われています。また、一部の学校からは、収集体験や収集車両を用いての出張学習も要請され、実際に行っている生活環境事業所もありました。
 また、各生活環境事業所においても、夏休みの研究課題として事業所や処理センターの見学要請も多くあり、そのことにも応えられる取り組みを模索しました。
 他都市の状況を調査すると、「ふれあい環境学習」や「ふれあいごみスクール」との名称で、職員が小学校に訪れて授業の一環として行っていることが分かりました。
 特に東京都の練馬区練馬清掃事務所では、「ふれあい指導班」が小学校に出張して「ごみと資源の出し方のルール」としてパネルを使用しながら体験学習を行い、収集車両を持ち込んで実際の分別の体験を行っていました。この取り組みは、子どもたちへの教育はもとより、間接的に保護者への指導も視野に入っています。また、「青空集会」として町内会や集積所単位で排出指導や集積所の改善等に住民と直接向かい合いながら取り組んでいます。


説明を聞き入る小学生
 
スライドで概要説明

 私たちもこの間、当局に対して「環境学習の取り組み強化・充実」を要求してきていました。その要求に対して当局は、「環境学習は、小さい頃から始め継続することにより、ごみの減量や資源化に対する関心が習慣化するなど重要と考えております。環境教育の実施については、手法等清掃支部とも検討していきます」と回答していました。
 これらのことを総合的に判断して、支部自治研調査部において「小学生や保護者を対象とした取り組みを行う」内容は、「環境学習(出前ごみスクール)とし、ごみと資源の出し方のルール等の話をしながら、家庭におけるごみの適正排出の向上をはかるものとする」ということに決定して、取り組みを始めました。
 まずは、東京清掃労働組合の練馬支部の取り組みに学ぶため「環境学習」を見学させていただき、そのノウハウを教えてもらいました。続いて、スライドの作成や展示品集め、スタッフの研修等を行い、初年度(2004年度)には、2校で「出前ごみスクール」を実施することができました。
班に分かれて、分別体験

5. 成果と課題
資源としてリサイクルされるものを展示して説明

 昨年度(2005年度)の支部自治研調査部の活動では、今まで様々な課題について調査・研究に取り組んできた結果を具体化し、実践することを目標に「環境教育(出前ごみスクール)」の本格実施に向けた取り組みを進めることができました。
 この成果から、環境局では、この「出前ごみスクール」を2005年度からは、業務の一環として位置づけ、川崎市総合計画の中でも明記するとともに、議会でも推進していく旨を答弁しています。このことから昨年度(2005年度)は、支部の運動ではなく、環境局の業務として、生活環境事業所ごとに生活環境推進員を中心に15校で実施されています。

スケルトン車を使っての積み込み作業見学

 「民間で出来るものは民間で」の合言葉で進められている、昨今の厳しい行財政改革の中で、直営の清掃事業を確立していくのは容易なことではありません。清掃労働者が「ただごみを収集するだけ」ではなく、住民に信頼される、質の高いサービスを提供していくことが求められています。
 練馬清掃や私たち川崎清掃が実践している、このような活動が、住民との信頼関係を作り上げる一つの方策だと判断しています。
 現在、生活環境推進員が行っている業務は町会・自治会単位での広報・指導が中心となっていますが、今後は「出前ごみスクール」の拡大と充実はもとより、その手法の一つである体験学習や分別ゲームなどを取り入れ、集積所単位等のより細やかな広報・指導を目指すことにより、「地域住民との信頼と安心のネットワークの確立・政策提言からより質の高いサービス提供」を目指した取り組みを進めていきたいと考えています。
 「出前ごみスクール」の実施にあたっては、練馬清掃事務所「ふれあい指導班」「東京清掃練馬支部」の皆様に絶大なる協力をいただきました、深く感謝申し上げます。