【自主レポート】
行政における環境啓発活動の「直営」および「委託」について
「官から民」への流れの中で「エコ・ポート長谷山」の挑戦
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京都府本部/城南衛生管理組合労働組合 八島さやか
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1. はじめに
(1) 城南衛生管理組合について
城南衛生管理組合は、京都府南部にある「宇治市」「城陽市」「八幡市」「久御山町」「井手町」「宇治田原町」の三市三町から分担金を受け、構成市町村のし尿・および生活ごみを処理する為に設立された一部事務組合であり、その意味では「環境行政に特化した」専門集団であると言える。そのなかには「クリーンピア沢」(し尿)、「折居清掃工場」「長谷山清掃工場」(燃やすごみ)、「奥山利ユースセンター」(燃やさないごみ)、「グリーンヒル三郷山」(埋め立て処分場)等、様々なごみ処理工場が存在するが(工場ではないので列挙しなかったが、本庁という組織運営事務を執り行う所属も城南衛生管理組合にはある)、ここでは唯一対住民の啓発施設を有している「エコ・ポート長谷山」(資源ごみ)を取り上げ、環境行政における対住民啓発活動への取り組みについて論じたいと思う。
(2) エコ・ポート長谷山の設立経緯(なぜ、ごみ処理工場に啓発施設が併設されているのか?)
「何故リサイクルをしないといけないのか?」と問われて、答えに窮する人は昨今あまり存在しないのではないだろうか。それくらい、日本において環境に対する情報や教育・意識は高い水準にある。1995年6月に公布され、1997年4月に施行された「容器包装リサイクル法」もその啓発活動の一助を担っている。地球環境への世界的な関心や、環境先進国におけるリサイクルへの取り組みを受け、日本で発令されたこの法律は、以下2点を目的としている。
① ごみの量のうち「かさで6割・重さで4割」と言われた容器包装を減らすことで、ごみの減量を図る。
② よく利用される容器は同じ素材であることに目をつけ、絶対数の多い容器を個別に回収することにより、資源として活用する(たとえば缶ジュースの容器はスチールかアルミで出来ており、それを個別に固めることで鉄資源・アルミ資源として再利用することが出来る)。それは同時に資源の枯渇を抑えることにもなる。
また、この法律では「リサイクルプラザ」と「リサイクルセンター」の明確な基準分けがなされている。その基準は2つあり、まず「5トン以上の処理をする工場であること」そして「資源化工場と同じ建物に住民啓発施設を有したものであること」、以上の点を満たしたものしかリサイクルプラザとは名乗れないのである。これは、ある一定以上の規模を有した工場には「環境啓発スペースを併設した施設のほうが望ましい」と言う、環境教育を重視した国の意向が強く反映されている。そして(もちろん当組合の従来の清掃工場にも資料室や見学通路等はあったのだが)、この趣旨を受け、城南衛生管理組合でも資源ごみ処理工場と本格的な環境啓発スペースを有した、リサイクル施設「エコ・ポート長谷山」(1999年1月竣工)を建設することになった。
2. 啓発事業への取り組み
(1) エコ・ポート長谷山の組織体系
既に述べたことであるが、この「エコ・ポート長谷山」には施設所長の下に①資源ごみを処理する部署、および②対住民啓発活動を行う部署、の二つの部署がある。①は資源化係と呼ばれ、資源ごみ(当組合ではビン・カン・ペットボトル・紙パック・発泡トレーが対象品目)の選別や業者引渡し業務を、委託業者とともに行っている。そして②の工房係では、職員および住民のボランティアスタッフがともに協力し、啓発活動に取り組んでいる。
(2) 工房係の仕事
工房係の仕事は啓発活動であるが、具体的には「対住民への啓発活動」と「工房運営に携わる業務」に分けることが出来る。まず「対住民への啓発活動」では各清掃工場への一般見学の受付ならびに対応がある。これは個人の申し込みもあるが、地域住民の集まりや小学生の社会見学等、環境に興味を有した団体への見学対応も含まれる。また申し込みに従い、講師を務めたり教室開催(牛乳パックの紙すきや、廃食油の石鹸教室など)を行ったりするため、職員派遣もしている。
つまり「職員が直接、住民と接する性質を有している」職務である点が特徴と言えるだろう。では「工房運営」の方はどうかというと、その名の通り、工房を住民向けに開催する事になるが、前述の教室開催が「職員」主体であるのに対し、後者の教室開催は「住民のボランティアスタッフ」が中心となって企画・運営されている点が大きく異なるのである。このボランティアスタッフには、構成市町村の有志住民が当組合の委任を受けて工房に指導者として属し、一般住民の啓発的教室体験のサポートをしている。先ほどから多用している、この工房というのは啓発事業を種類ごとに分類したもので、それぞれ「ガラス工房」「家具・自転車工房」「衣服工房」と名前をつけ、工房全てをあわせて現在20人のスタッフにご助力いただいている。
3. ボランティアスタッフかNPO法人か
(1) 工房の運営
工房運営に際し、当組合では職員が教室開催予定やその内容の検討、またスタッフ会議の調整、事務処理等を行っており、一方のスタッフは実務担当と、互換関係になっている。だが他府県や他団体に目を向けると、ごみ処理行政はごみ処理だけを行い、工房運営は環境保護を目的とするNPO法人に委託してしまうケースも見受けられる。このNPO法人には普通、相当と思われる委託金額が支払われ、その委託金および様々な副収入(教室参加費等)でNPO法人は成り立っている。この様に完全分業形態をとる理由として、「住民主体」であることを意図し、また今の政府の意向である「官から民へ。民間で出来ることは民間で」と言う流れを汲んでいることがある。行政のスリム化、と言う側面をクローズアップするなら、当組合の形態よりもスマートに見受けられるかもしれない。
(2) 当組合の利点
では当組合も組織図を変更し、なんらかの団体に啓発業務を委託すべきかと言うと、現時点では一概にそうとは言えないのではないかと考える。まず、①「委託することの出来る団体があるか」と言う問題がある。当組合の性質上、三市三町と言う広範囲かつ様々な情勢の市町村をまたぎ、環境啓発することの出来る組織を持った団体、と言うのはなかなか見付からない。環境啓発に対し優れた団体は多数存在するが、それは広範囲をまかなえる程の人員を確保しているか、環境に対し幅広い知識を有しているかとなると、なかなか条件が合わなくなってしまう(特定の環境問題、たとえば「水」であるとか「森」と言うテーマに優れた団体は多数あるが、特定の問題だけでは環境行政の啓発活動はまかなえないからである)。また、そのような団体があったとしても、行政と言う立場からうける縛りを嫌う場合もある。ゆえに委託団体探しは困難を極める。
また、②「行政の意向が反映できるか」との視点もある。特定の団体に委託すると言うことは、やはりその特性が一方向に向いてしまう可能性もある。例えば衣服のリメイクに興味のある人が多い団体に委託すると、教室内容が衣服関係に向いてしまうのは否めない。だが、行政として違うテーマも扱って欲しい時、その意向を反映する土壌・人材が相手に用意されているかというと、それを常に期待するのは難しい。
他にも、③「ごみ処理行政の特性を生かせるか」と言うこともある。例えば、当組合の事業として「チップ化物の実費配布」と言うものを現在、行っている。剪定枝が搬入されてきた場合、以前までは焼却処分していたものを、近年は機械を使って細かく砕き、堆肥化して肥料にしているのだが(その堆肥化前の状態を「チップ」と呼ぶ)、住民の意向もふまえ、そのチップの少量を実費で一般配布したところ、大変な好評を頂いた。この様に肌で感じることの出来るリサイクル活動を通して、ごみ処理行政と住民の接点を作りだすことは、ごみの減量等、啓発活動に対して住民の協力を得やすくする「きっかけ」になるものであるし、私たちのように普段は直接、住民と会うこともない一部事務組合にとってもその意見を聞く大変貴重な経験となる。「目に見える活動」(この場合は、チップ化物の配布と言う分かりやすいリサイクル活動)というものは、より良い行政を行うヒントになりうるのだ。
そのように考えた場合、当組合のようにごみ処理行政へ従事している職員が陣頭指揮を執ることによって、組織の特性を生かしながら、組織の意向を行政に反映したり、また逆に住民の意向をスタッフや一般来館者から汲み取って、行政活動にすみやかに生かすことができるのは、私たちの現行の組織の大きな強みである。
4. これからの「エコ・ポート長谷山」の展望 ─ 個性を生かした行政
行政活動はこれから更に「利便性」「効率性」を問われることになるが、その本質は「住民サービス」であると思われる。どんなに便利でも費用対効果が薄ければ問題があるし、その逆もまた真なり、である。つまりどれだけ住民に満足感を持ってもらえるかが鍵である。そう考えるならば、私達「城南衛生管理組合」に期待されていることとは、どれだけ「環境行政の専門家として地域に貢献できるか」ではないだろうか。住民の意向と組織の意向をスムーズに合致させる為には、「現場」と「窓口」が繋がった現行の組織形態が、当組合にはふさわしいと思われる。
もちろんNPO法人の良さがあることもよく理解しているし、どちらがいい、悪いでは片付けられるものでもない。だが当組合のようにごみ処理をしている団体の啓発活動においては、やはり環境啓発に対する思い入れが強く、だから尚のこと、啓発事業に対しても直接的な関係を有したいと願うのである。ただ単に周囲の流れに従って委託に流れるのではなく、委託すべきところは委託し、しないところはしない、と言う「組織の特性を捉えた行政の取り組み」それが現在の城南衛生管理組合の挑戦ではないだろうか。
だが最後に、あくまでもこれは現在の私の意見として、記させていただいている事をお断りしたい。なぜなら将来的には、委託をするほうが良い行政活動を行える可能性もあるからである。その場合にも備え、スムーズなシフトも出来るよう、現行の方法だけにこだわらず、委託も視野に入れた人材育成にも力を注いでゆくべきだと考える。なぜなら行政活動とは方法論ではなく、いかに「住民サービスを提供できるか」と言う目的のもとに行われるべき目的論だからである。 |