【論文】
すこやかサポート事業について
~清掃部会 活性化の取り組み~
広島県本部/呉市職員労働組合・現業評議会 伊藤 隆昭
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1. 呉市職労現業評議会を取り巻く情勢
私たち現業労働者を取り巻く情勢は、1997年11月【地方自治・新時代に対応した地方公共団体の行財政改革推進のための指針】が出されて以来、非常に厳しい状況が続いています。
また、地方財政の危機が、「公から民へ」の動きを加速化させ、指定管理者制度導入や市場化テストなど、現業・非現業を問わず民営化が進められています。
呉市においても、現業職場である、広風園(福祉施設)、ごみ焼却場、学校給食(5校)が民間委託され、2006年4月には、PFI方式で建設された呉市斎場が民間企業の運営に委ねられるなど、民営化の流れが急速に進んできています。
この流れは現業職場だけに止まらず、2005年1月から郷原保育所に指定管理者制度が導入されるなど、財政危機を背景に、行革大綱に基づいた民間委託が急速に進められ、公務のあり方について本質的な論議が先送りされています。
2003年4月1日から2005年3月20日にかけ、1市8町(呉市、下蒲刈町、川尻町、音戸町、倉橋町、蒲刈町、安浦町、豊浜町、豊町)が合併し、"新生呉市"が誕生しました。人口25万7,482人となり、市域も拡大しました。
新生呉市のごみ収集の状況は、旧呉市域で、一般家庭ごみの約98%(市全体では約70%)を直営で収集しています。これに加え、2005年5月からは、白色発泡トレイを直営で回収(その他リサイクル7品目は、民間委託)しています。
また、合併旧町では、音戸町と安浦町のごみ収集だけが直営となっており、その中でも、音戸町には正規職員が配置されていますが、安浦町は嘱託職員のみの配置という実態となっています。
ごみ減量化に関しては、2004年10月1日に有料指定袋を導入したことにより、可燃ごみで20%、不燃ごみで60%、粗大ごみで80%といった、大幅な減量を実現しています。
また、リサイクルについても、減量化との相乗効果もあり、回収率が30%増となりました。
指定袋については、当局との協議で、半透明袋を採用したことで、公務災害の発生を大幅に減少させる(18件⇒6件)といった効果もありました。
2. すこやかサポート(個別収集)の取り組みについて
(1) 取り組みの目的
以前の私たちの取り組みは、労働条件改善のみの運動であったといっても過言ではありません。
しかし、今後は、合理的な理由のもとで、直営を堅持していくため、公務としての業務内容の提案=制度・政策提案が不可欠であると考えます。
そのための試みとして、他単組の事例も参考にし、ごみ出し困難な住民への個別収集への取り組みを決断しました。
公務としての強みをいかし、民間にはできない通常業務以外の付加価値をつけ、社会福祉向上に貢献し、住民から必要とされる職場を確立することをめざしています。また、全組合員の自治体労働者としての責務の再認識と意識改革、職場の再構築を図るため、この取り組みを進めています。
(2) 組合員全体での意思統一
すこやかサポート実施に向け、組合員の意識改革と意思統一を図るため、少人数グループでの討議を、2003年2月20日(木)~3月13日(木)にかけて行いました。
その中で、厳しい情勢を共通認識し、組合員の意識改革を含め、今後の部会の取り組みの方向性について真剣に話し合いました。
その結果、個別収集を部会の生き残りをかけた取り組みとして位置づけ、全員でこの取り組みを進めていくことを確認しました。
(3) さらなる取り組みへの展開へ向けて
少子化、高齢化の急激な進行など、社会情勢の変化による行政需要に柔軟に対応し、住民に「安全で安心な公共サービス」を、将来にわたって継続的に提供するために、直営を堅持していくことは、大変重要であると考えています。
私たちのフィールドである環境行政について、住民と直接対話している現場の視点から、私たちにできる事・やりたい事のアイディアを出し合い、職場を確保する対策等を協議していくことが大切です。そのため、役員のみの協議では限界があると感じ、組合員10人と役員7人で『業務課あり方研究会』を発足しました。研究会は、第1回を2003年3月14日(金)に開催し、その後、2003年度に12回、2004年度に21回と、協議を重ねています。
また、あり方研究会には、すこやかサポート推進委員会・収集体制検討委員会・環境問題対策委員会といった各部門での小委員会を事務所および環境政策課を巻き込み設置し、それぞれの課題に対し協議しています。
昨年の台風18号・22号での被災ごみの収集や、2004年10月から実施された有料指定袋制度導入前の大量の駆け込みごみの収集など、各小委員会の活発的な活動により、対応することができました。
さまざまな課題を迅速に、また柔軟に対応してきたことで、部会役員以外の組合員の意識改革が進められてきている手応えを感じています。
(4) 試行までの経過
すこやかサポート実施に向けては、関係各課との連携・調整を図ることが重要です。
呉市においても、ごみ出しが困難な住民に対する個別収集は、現業評議会として、1999年現業統一闘争の要求に挙げたにもかかわらず、いわゆる縦割り行政の弊害から、他部局の積極的な協力が得られないこともあって、実施が見送られた経緯がありました。
そのため、試行にあたり、2002年9月に福祉保健部と協議を行いました。
しかし、福祉保健部は、やりたくない理由(介護認定者は多数いるため全市での対応は無理。介護認定者のプライバシーの問題があるため個人情報は明かせない等)ばかりを並べ、協力的な態度を示すことはありませんでした。
そのため、やむを得ず業務課長に対し直接提案を行い、関係各課との連携を図るよう要請を行いました。業務課長は関係各課への協力要請を行っていたが、関係各課の態度は変わらず、業務課と組合のみで実施へ向けての取り組みを進めることとなりました。
こうした中、業務課長より各地区の民生委員へ協力をお願いしてみてはどうかとの提案を受け、協力を得やすい地区として、広南部地区・警固屋地区・大入地区の3地区を選定し、2003年7月に開催された民生委員協議会に出向き主旨説明を行い、実態調査票を各民生委員に配布し、2003年8月の民生委員協議会で実態調査票の受け取りを行いました。
【参考】 呉市人口 20万4,235人、同世帯数 8万8,645世帯(2003年3月31日現在)
ごみ出し状況調べ(1人暮らし高齢者)集計表
地区名
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民生委員数
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対象者
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本人以外がごみ出し
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ごみ出しが困難
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警固屋
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20
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211
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40
|
13
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広南部
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12
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106
|
23
|
19
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大 入
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2 |
22
|
4 |
0 |
合 計
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34
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339
|
67
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32
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各地区の面接対象者と試行について
地区名
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面接対象者
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試行件数
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試行開始日
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警固屋
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2
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2
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2003年11月
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広南部
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2
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2
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2003年10月
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大 入
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0
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0
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合 計
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8
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4
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収集方法
収集時間は設定しておらず、可燃・不燃ごみともに週1回の収集を近隣コースにより対応していました。収集時にはコースの作業員(運転手含めて3人)が名札を着用し、収集車には「すこやかサポート実施中」のプレートをフロントガラス前面に設置し表示しています。また、収集時には可能な限り「声かけ」を行っています。
(5) 試行を終えての課題と成果
① 成 果
ア 件数は、まだ不十分ではありますが、業務として定着させることができた。
イ 実際に収集にあたった職員は、特別な責任感のなか業務を行うことで、自治体職員としての責務を再認識することができた。
ウ 対象者及び民生委員等から、非常に良い取り組みであるとの報告を受けることができた。
② 課 題
ア 実施件数があまりにも少ない実態があり、件数を増やすためにも対象条件などを含め、見直しを行っていく必要がある。
イ 今後、全市対応として取り組みを展開していくことにおいて、現行の収集体制を大幅に見直していく必要がある。
ウ 全職員が収集にあたることを踏まえ、職員の取り組みへの理解と責任、さらには自己改革を図るための取り組みを継続して行っていく必要がある。
(6) 現在の状況
2003年10月の試行実施後、2004年4月には全市対応となり、現在では登録件数82件(粗大ごみのみの登録11件を含む)、実施件数46件となっています。(参考資料-1)
全市対応となったことで、市の福祉施策の一つと位置付けられ、専用車両(軽ダンプ)の購入予算がつき、業務として収集を行うに至っています。(参考資料-2)
専用車両の購入にあたり収集体制の見直しを図り、専属コースを設けることで、可燃ごみ・不燃ごみ・資源ごみの収集を行っていますが、件数の増加に伴い専属コースのみの収集では対応しきれない状況や、当初の目的である全体の取り組みとすることなど、職場集会・清掃部会において議論し、専属コース以外のコースへも組み込んで対応しています。
また、粗大ごみについては全対象者に対し、排出が必要であれば随時連絡を受ける体制を取っています。
(7) 今後の将来展望
呉市においては、2005年3月20日に1市8町での広域合併が完了しました。合併町においては合併協定書のなかで当面現行の収集品目での収集がされることが明記されていますが、2008年4月には、旧呉市の収集品目で統一されることが議会で決定されています。
このことを踏まえ、合併旧町域内に対しても「すこやかサポート」を呉市の事業として展開していくことを視野に入れ、取り組みを進めています。
また、対象条件の緩和による件数の増加についても積極的に取り組み、事業の充実を図っていきます。さらに、高齢者が多く生活している地域で、ステーションまでの距離が遠い箇所については、少数の世帯を対象としたミニステーションを設置し、サービス向上を図っていきたいと考えています。
3. 今後の課題について
現在、呉市職労現業評議会清掃部会では活性化の取り組みとして「すこやかサポート」「白色発泡トレイの回収」などを取り組んでいますが、まだまだ住民から必要とされる職場になっているとはいえません。
今後も住民の生活を向上させていくための取り組みの模索と、環境問題を重要課題と捉え、リサイクルの推進やリサイクル品目の増加による有料指定袋への住民負担の軽減へも取り組んでいかなくてはいけません。
さらに、環境行政に携わる私たちは、国際的課題ともなっている環境問題にも注目していかなければなりません。
現在、呉市には「くれ環境市民の会」というボランティア団体があります。
この団体は4つの部会で構成されており、当局主導とはなってはいますが、各部会のスタッフは住民であり、それぞれの視点から環境についての意見を交わし、行政への要望や不満等についても話し合っています。
この会には、呉市職労現業評議会清掃部会から2人がスタッフとして参加しており、環境について私たちがどのように考えているか、今後、行政がどうあるべきかともに協議しています。
参考資料1 すこやかサポート事業実績
参考資料2 新聞記事 |