【要請レポート】

「横浜は30%減量」の取り組みから学ぶ

神奈川県本部/自治労横浜市従業員労働組合・環境事業支部・
自治体政策部長 松本 真実 

1. はじめに

 明治以降、西洋文化に追いつこうとした日本は、大量生産・大量消費・大量廃棄の一方通行型の社会システムで潤い行く生活環境を良きものと考え、環境問題に目を向けず、また、そむけてきた。高度成長期時代を期に溢れだして来た環境問題はその付けであり、次世代に対して決して引き継ぐような事は行ってはならない。
 「横浜はG30」この言葉は、「ごみ(Gomi)のG」「可燃ごみ30%削減」などを語源に生まれてきた廃棄物全般に関する全ての合言葉であり、ものを大切にする心を作り出すスタートラインになっている。
 本レポートは、資源循環型社会の形成には、市民・行政の協働作業が不可欠であり、ごみの適正処理をしていくうえで収集・運搬・処理・処分とその監視は行政が責任を持って担っていく事が重要である視点から報告する。

2. 焼却・埋め立て処理と分別

 1990年に改正された「廃棄物処理法改正」の施行に伴い、横浜市ではモデル実施として「びん・缶」の分別収集を行ってきたが、当時から更なる分別品目の細分化は組合(職員)レベルから声が上がっており、行政としても早期の分別品目拡大を策定する必要があった。しかしながら、インフラ整備に莫大な予算を必要とするなか、バブル崩壊による収入の減少も影響し、財源確保ができない状態で最低限の分別政策に留まっていた。
 また、焼却処理を長く続けたごみ処理の手法が市民に対し、リサイクルの必要性を訴えるには大変厳しい事であった。結果、「びん・缶」の全市分別収集の理解を得るために何と5年の時間を費やした事は、後に述べる「横浜はG30」による10分別15品目の分別拡大に大きな障害となっていた。


3. 15,000回の住民説明会

 2005年春、これまでの「5分別7品目」から一気に倍の「10分別15品目」に拡大する「横浜はG30」プランを横浜市政最大の事業として立ち上げた。その事は、ごみを中心とした全市民と全行政職員が向き合う横浜市初めての事業である。
 特に、プラスチック製容器包装の分別処理については、市民のみならず職員にも戸惑いが生じていた。基本概念は分かっていても、対象品目の見分け方で簡単に頼れるのは"プラマーク"である。市内約3,500ある町内会・自治会に入りこみ、延べ3ヶ月で15,000回の住民説明会、動員数は30,000人をゆうに超えたのである。
 住民説明会では、リサイクルの必要性を訴えつつ、分け方に重点を置く説明に徹し、リサイクルの必要性は幼稚園から大学など教育の場におもむき啓発した。そう言った意味合いでは、未だに分別を強制的な事と捉え拒否権を行使するかのように無分別を続ける住民がいる事も否定できない。一方、製造事業者による表示義務の猶予期間であり分別収集事業の開始時期には、すべての対象品目に表示されていなかったのである。また、大量生産の時代はいまだ終わっておらず、日々その品目が増えていくのであった。ここに、行政の役割が大きく問われ重要視されているのではないか。


4. 焼却工場の役割

 分別細分化により、プラスチック製容器包装が減少したことで、低ジュール(熱量)のごみとなったために、横浜市の保有する高ジュール用焼却炉の運転に細心の注意が必要になった。このことは、搬入計画やピットワークを少しでも怠ると燃焼が難しくなり、安定した発電供給(売電)も難しくなったのである。
 また、可燃ごみ減量に伴って2工場(栄工場・港南工場)を休止する事となり、建替費用等1,100億円節減の財政効果となった。焼却型行政からの脱却は、中間処理施設の建設(栄工場・港南工場用地)に着手し、リサイクル関連施設等の整備・運営を新たな役割とし、行政が責任を持って関与して行くことで具体化されたのである。そして、新たなリサイクル処理技術の向上に行政が積極的に取り組む事が重要である。
 しかしながら、民間主導型の「PFI法」や「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」等、横浜市施策は民間に依存する傾向があり、安心で安全な循環型社会の形成と社会的セーフティーネットの構築に障害が現れないか注視する必要があると共に、循環型社会形成の確立には直営での処理・処分・監視が必要であることを提言して行くことが必要である。

5. 人的資源・物的資源

 「G30」事業を行ううえで、拒否権を行使したくなる者が他にもいた。我々、現場職員である(もちろん完全否定しているわけではない)。リサイクルに関わる様々な法整備がされるなか、その知識はすべて網羅されておらず、これまで廃棄物行政に関わりながら職員自身もその解釈と理解に頭を悩ませた。そういった意味合いでは、住民から出された質問疑問はむしろ我々自身内部が最初に問い自問自答したと言っても過言ではない。
 しかし、360万人に及ぶ横浜市において、わずか1年で、可燃ごみの30%減量達成に至った経緯には、もちろん住民一人一人の理解の表れであり、努力の結果であるが、その分別品目の周知に数多く行われた組合員(職員)間での意見交換によりブレが生じない直営事業の意義が十二分に発揮されたことと自負している。また、組合自治研活動として取り組んでいる、年2回の住民懇談会や地域清掃活動により自治会との交流を深めていたことも住民理解を得た大きな要因であったともいえる。

 

6. 国内製品と外国製品

 「容器包装に関わる分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」が施行され、すでに10年以上が経過している。その間に、経済市場では外国資本の店舗が急速に入りだし、扱っている輸入製品に対して「資源の有効な利用の促進に関する法律第7章第24条」が十分に適応されていない。
① 輸入製品の品目表示マークが国内製品と違う。
② 販売店舗にてシールを添付している。
など、輸入した事業者から仕入れた場合と輸入を委託した事業者など、簡単には言えないが、一部(強調するが)の事業者による再生品化の義務を怠っている実態は現実にある。このことは、経産省・環境省もキャッチし追跡調査は行っているが、網羅は仕切れていない状況といえるであろう。自治体による事業者の監視の必要性は現場レベルから感じ、G30から学んだ事のひとつである。

7. リサイクルルートの監視体制(行政責任)

 横浜市では、事業系一般廃棄物の搬入物検査を行っている。この事業は、分別推進を目的とした不適正搬入物の検査であり、その責任の所在は廃掃法にもあるとおり排出事業者である事は認識している。しかしながら、産業廃棄物の混載事例が後を絶たない状況も否めない事から、組合から当局に対し求めた事業である。
① 行政による監視業務は、民間排除的事業ではなく、安心で安全な適正処理を目的に行政側と民間事業者との信頼関係を結ぶ取り組みとし、その範囲を民間委託2行政区(西区・中区)の収集業者に対しても搬入物検査を行うことで拡大してきた。
② また、分別拡大により、プラスチック製容器包装・燃えないごみ・小物金属・古紙・古布は処理・処分を民間業者に委託していることから、リサイクルルートの監視業務の必要性を当局に求めたが、当局意見として"監視の必要性はなし"と、職場の声よりも業者を信用したのである。
③ しかし、「古紙・古布」回収後のリサイクル処理を委託した一部の業者の不正申告により横浜市が回収した内、5,600tの古紙が所在不明になっていることが表面化した。ストックヤードから業者が回収した量を業者の自己申告任せにしたこと、100パーセント業者を信用した当局の原因であり責任である。
④ 現在は、ストックヤードに内部協力によって正規職員による監視員を配置することで、不正防止に努めているが、もともとの組合要求である正規職員による監視システムを早期に確立する必要がある。
⑤ どちらにせよ、市民の努力をあだで返す形になった事に変わりは無い。

8. まとめ

 2006年4月20日、衆議院で可決された「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」に限って言うならば、第5条の「適切な監督」や第6条の「国民の信頼を確保」するなど、ゼロから生まれる利益を適切な有価物に変えるために民間のノウハウがあだとならないためのセイフティーネットを確立する必要がある。行政に関わるコストは、目で見て無色透明だが、安心で安全な社会の構築に必要なものと認識していただきたい。このことは、例えば「容リ法」の特定事業者に課せられているリサイクル費用のただ乗り問題や不正製造等、網の目潜らせない監視体制を行政自ら牽引する必要があり、自治体の固有義務を果たす上で真剣に取り組む必要がある。
 一方、環境省の「リサイクル部会」での「中間取りまとめ」で公表されたリサイクル費用にかかわり、市町村が3,000億円・事業者が390億円と費用負担のアンバランスが大きく取り上げられた。市町村・市民団体等からは、拡大者生産者責任の観点から「事業者が市町村の費用負担の支援を具体化するよう」役割分担の見直しを強く求めている等、PFI法が機能する状況整備も必要である。
 自己処理が困難になった都市型社会で、環境問題に様々な業種が絡み合う事で、フラットな立場での自治体の取り組みが、これからの福祉型の資源循環型社会を創る責務ではないだろうか。