【要請レポート】

「単体ディスポーザー」に対する考え方

大阪府本部/大阪市職員労働組合・自治労公営企業評議会下水道部会・部会長 山本 善久

1. はじめに

 「ディスポーザー」と聞いて説明が出来る方は、かなりの環境通?それとも下水道通?いや悪徳商法通?と思われます。「単体ディスポーザー」について、この数ヵ月間公営企業評議会の場などを通じて、改めて組合員の方々に議論をして頂ける様に取り組みを行ってきました。議論を行っていただく視点は、①環境保全の推進、②下水道事業の円滑な推進、③ごみ清掃事業の円滑な推進、④ディスポーザーの使用者のモラルハザード、⑤法令遵守などと考えています。また、取り組みは、文献調査・実機の検証・国土交通省下水道部や農林水産省農村振興局さらには、ディスポーザー製作メーカーなどとの意見交換(要請行動含む)を行ってきました。その内容に基づいてこの間の経過と今後の方向性について紹介をさせていただきます。

図-1 ディスポーザー   
出典「(株)日本ゼストHP」より

(1) ディスポーザーとは?
   ディスポーザーは、その処理方式により単体ディスポーザーと処理槽付きディスポーザー(ディスポーザーキッチン排水処理システム)に区分することが出来ます。単体ディスポーザー(図-1参照)とは、台所の流し台(シンク)の排水口に生ごみ粉砕機(ジューサーミキサーのような物)を設置し、野菜や卵・貝ガラなどを粉砕し、直接下水道へ流す機械設備のことです。単体ディスポーザーの設置については、条例または要綱等により禁止されている市町村(下水道管理者)は全体の約半数(国土交通省調べ)あり、管理者によっては、条例や要綱によらず自粛を呼びかけている場合もあります。

図-2 ディスポーザーの分類 
出典 「(株)日本ゼストHP」より

 

    一方、ディスポーザーキッチン排水処理システムは、図-2の様に、各家庭でのシンクに設置するディスポーザーは、単体ディスポーザーと同様ですが、公共下水管等に接続するまでに処理槽を私有地内に設けて、ディスポーザーで粉砕した厨芥を簡易処理し、排出する汚水の負荷を低減して公共下水管等へ放流する構造となっています。


2. 自治労とディスポーザーの取り組み経過

(1) 公営企業評議会の取り組み経過
   自治労公営企業評議会下水道部会は1970年に発足し、全国の下水道事業をめぐるあらゆる課題に対して提起し、住民のための下水道政策を追求してきた組織です。1976年に第1回全国下水道集会を仙台市で開催して以降、今年5月に浜松市で開催した下水道集会で26回を重ねています。1979年には「住民のための下水道政策」(初版)を発行、約5年ごとに改訂を重ね、2002年に第5版を作成して現在に至っています。ディスポーザーについては、下水道施設に多大な影響を与えるなど住民生活に影響が多いとして、初版の政策集から反対を表明し、常に最新の情報収集を基に問題提起をしてきました。また、国土交通省下水道部に対しても、下水道政策に関する要請行動においてディスポーザーの使用禁止を法的に確立するように求めてきました。

(2) 大都市共闘下水道部会の取り組み経過
   自治労大都市共闘下水道部会は、1990年に発足し、政令市の下水道職場の組織強化を第一に取り組む中で、政策的課題の1つとしてディスポーザー課題について議論検討を行ってきました。大都市共闘下水道部会では、第2回総会時から政令都市下水道部門所管局(下水道管理者側)と幹事会(組合側)との間で話し合いを持ってきました。第3回(仙台市)・第9回(千葉市)・第10回(仙台市)・第11回(川崎市)の各話し合いの中で、ディスポーザー課題を主要重点課題として各政令市の考え方を求める一方、大都市共闘下水道部会として単体ディスポーザーについて使用禁止を求め条例などの確立を求めてきました。

3. 単体ディスポーザーの取り組みと現状認識

表-1ディスポーザーの輸入台数の推移
出典「日本貿易月報」より

表-2 全国集合住宅ディスポーザー排水処理システム竣工物件・戸数
2004年3月現在(全国統計)
(財)茨城県薬剤師会公衆衛生検査センター調べ
(1) 単体ディスポーザーの現状
   単体ディスポーザーは、1988年以降から2003年までに約45万台(表-1)が輸入され、そのほとんどが米国からとなっています。多くの下水道管理者が、汚水処理への影響に対する不透明さなどから環境保全を視点に、ディスポーザーの設置を禁止または自粛を住民にお願いしてきました。1998年に建築基準法が改正され、ディスポーザーキッチン排水処理システムが認可されたことに伴い、マンションなどの集合住宅を中心に私有地内に処理槽を設けたディスポーザーキッチン排水処理システムが普及(表-2)してきています。
 2000年からは、北海道旧歌登町(枝幸町)で単体ディスポーザーの社会実験が開始され、公営住宅を中心に設置し、下水道設備に対する実験が約4年間実施されました。また、宿泊施設などについても2004年から追加実験として1年間実施されました。この実験結果は、2005年7月に「ディスポーザー普及時の影響判定の考え方」(以下:「考え方」)としてまとめられ、国土交通省下水道部などから公表されました。
   「考え方」は、過去に単体ディスポーザーを導入するにあたり、検討する考え方や比較方法に関する文献が少ないことなどから作成に至ったと発刊目的が記述されています。また、単体ディスポーザーの導入の可否を決めるのは下水道管理者(自治体)の判断としています。判断基準は①利用者の利便性②ごみ処理事業としての影響③下水道施設への影響を総合評価して決める事を推奨しています。

(2) 公営企業評議会

写真-1 国土交通省要請行動

   公営企業評議会下水道部会は、昨年の9月以降「ディスポーザーについて」文献調査や実機による検証、さらには、ディスポーザーメーカーのヒヤリングや国土交通省下水道部との意見交換会などを開催してきました。本年5月に開催した第26回下水道集会(静岡県浜松市)では、単体ディスポーザーについて「パネルディスカッション」を行い、行政・メーカー・労働組合の視点で、現状分析や課題の抽出など意見を交わしました。また、「単体ディスポーザーに対する公営企業評議会の考え方(素案)」を作成し、原点から見詰め直すことを基本に集会の中で各地の状況も踏まえた議論を行ってきました。その上で、国が行うべき内容について国土交通省に対して要請行動を行うことや農林水産省と(社)日本下水道協会などにも働きかけることを確認しました。また、大都市共闘下水道部会や現業評議会などとの連携を密にとりながら活動を推進することも確認しました。
  本年6月20日には、国土交通省に対し要請行動(写真-1)を行いました。「単体ディスポーザーに関する要望書」については、「論点がよく整理されている」との評価を頂きました。個別には、総合評価の指摘について、「首長の意向など、どうしても最終判断は地域が行うことになると思う。」「法令整備、補助金などの必要性については、我々としても同じ認識であり評価している。」と回答されました。
 引き続き、6月20日に(社)日本下水道協会・7月19日に農林水産省とも意見交換を行い、温度差はあるものの、対応について誠意ある前向きな回答を得ました。今後も継続的な取り組みが必要です。

国土交通省へ要請した単体ディスポーザーに関する要望書

2006年6月20日

 国土交通大臣
  北側 一雄  様

全日本自治団体労働組合
中央執行委員長 岡部 謙治
公営企業評議会
議   長   不動 政義

単体ディスポーザーに関する要望書

 下水道事業の発展や日本住民の生活安定に尽力されておられる貴職に敬意を表します。
 さて、単体ディスポーザーは、北海道旧歌登町で2000年度から社会実験が実施され、追加調査も含めて5年間行われてきました。その内容については、『ディスポーザー導入社会実験に関する調査報告書』(2005年7月)が、国土交通省都市・地域整備局下水道部などから公表されました。
 国内では、単体ディスポーザーの輸入量や国内生産量は増加傾向にあり、ネット販売や訪問販売などをとおして、一般家庭への設置が進んでいると推定されます。さらに、電化製品として販売している店舗などもあり、住民ニーズとも相俟って、無秩序に国内に設置される危険性を示しているとも言えます。
 自治労公営企業評議会は、単体ディスポーザーについて、全面反対を基本として取り組みを行って来ましたが、5月に全国下水道集会を開催し、単体ディスポーザーについて議論を重ね、情勢分析などを行った結果、原点からの議論を再度行っていくことを確認してきました。当評議会は、「安定したライフライン(下水道など)の提供」や「地域からの環境保全の推進」を行っていくためにも、行政が単体ディスポーザーに対して一定の管理下に置く必要があると考えています。このためには、国土交通省として、政府政策の積極的な対応が必要と考え、下記事項とあわせて要請いたします。 

Ⅰ.基本的な課題
 ① 発生源対策
   汚水処理は、発生源を基本に対策を行うことが効率的であるという視点でこの間申し入れを行ってきていますが、ディスポーザーは、発生源対策に対し相反する手法となります。発生源対策とディスポーザーについて考え方を提示されたい。
 ② 環境に対する単体ディスポーザー使用者の意識
   単体ディスポーザーを設置することで、生ごみなどの家庭内での処理労力が簡易になるため、使用者の意識として「何でも投入出来る?」と環境に対する意識が低下する可能性を秘めています。特に、下水道への投入を規制している油類(n-Hex)などの投入量が増加することが危惧されます。また、ごみの減量に有効とされる有料化が進んでいますが、単体ディスポーザーの設置が拡大することにより、ごみ減量・リサイクルの推進という循環型社会形成推進基本法の理念が薄まり、ごみ削減効果が逆行する可能性があります。環境保全とディスポーザーについて考え方を提示されたい。

表-1 廃棄物の区分

Ⅱ.行政政策に対する課題
 ① 法令を遵守するために
    『ディスポーザー導入時の影響判定の考え方』では、家庭系一般廃棄物と産業廃棄物や事業系一般廃棄物は、区分できそうな表現がありますが、都市部を中心に雑居ビルなども多く、家庭系一般廃棄物と産業廃棄物や事業系一般廃棄物の区分を公共下水道との接続点(会所)で見分けることは難しく、不法投棄・処理を助長する可能性があります。
   導入時におけるディスポーザー設置可能範囲は、家庭系一般廃棄物と産業廃棄物や事業系一般廃棄物で設置基準を定めているのは困難と考えられます。したがって、廃棄物処理法との整合性を担保し、法改正も視野に入れた上で、下水処理場の処理能力や稼動実態を精査した上で、基本は処理区を単位に単体ディスポーザーの設置可能範囲を決定する必要があると考えますので、法令の遵守を視点に考え方を提示されたい。
 ② 処理費と国庫補助について
   単体ディスポーザーを導入するとごみ処理経費が軽減できると予想されますが、下水道処理経費は増加すると考えられています。ごみ処理経費(国庫補助含む)のうち、収集~焼却~処分までの事業系一般廃棄物・家庭系の生ごみ処理経費分(国庫補助含む)については、下水道整備費用(ディスポーザー設置関係)として、費目の変更を行う必要があると考えます。また、国庫補助金の採択基準等整理が必要と考えます。
   さらに、単体ディスポーザー設置に伴い経費増加する部分については、例えば、原因者負担(事業系)受益者負担(ディスポーザー設置家屋)税金(その他経費)と区分整理が必要と考えます。下水道や事業系一般廃棄物・家庭系生ごみ処理費と国庫補助について考え方を提示されたい。
 ③ 下水道使用料について
   下水道使用料の多くは、逓増制や水質料金の加算などを行いながら、料金徴収を行っています。単体ディスポーザーを導入した場合の汚濁負荷に対する料金の考え方などについて『ディスポーザー導入社会実験に関する調査報告書』には記載されていません。また、電力消費量では、反応(曝気)槽などで使用量の増加が予想され、多くの下水道管理者が赤字経営となっており、さらなる財政悪化をさせない料金体系を経営面から検討する必要があり、下水道使用料について考え方を提示されたい。
 ④ 単体ディスポーザーに対する設置基準
   単体ディスポーザーは、一般電化製品として販売している業者がある一方で、排水設備の一部して指定工事店での販売を義務付けている市町村もあります。下水道管理者としては、下水道使用者を保護する立場から一定の水準以上の性能を保有する単体ディスポーザーを販売させることが必要です。また、単体ディスポーザーを電化製品ではなく、排水設備の一部とする法令や条例など整理が必要であり設置基準について考え方を提示されたい。
   また、ディスポーザーは性能面から連続式と蓋式の2種類に分類できます。水使用水量の削減や初動時のトラブル率を低減するには、連続式が優れており、電気使用量やごみの分別の視点からは、蓋式が優れています。仕様の標準化に向けて引き続きの検討が必要であり、考え方を提示されたい。
 ⑤ 下水道管理者の把握(単体ディスポーザーの管理体制)
   設置に対しては、単体ディスポーザーをディスポーザー排水処理システム同様に排水設備として届出る事を義務つける必要があります。無秩序に導入されるのではなく、単体ディスポーザー設置家屋を下水道管理者としてどのように把握するのか、過去に販売された単体ディスポーザーも含めて検討が必要と思われます。設置基準や届出制度など許認可に対する考え方を使用者の転居などにも配慮して全国的に統一する必要があり下水道管理者の管理手法について、考え方を提示されたい。
 ⑥ コンポストの課題
   資源の有効利用を視点に下水道事業では、流入汚泥をガス・電気など様々な有効活用が行われています。しかし、その反面として、下水道事業に対し財政的な負担となっている場合も見受けられます。行政が環境に対する配慮を率先して実施することの意義は十二分に理解できますが、ライフサイクルコストの検討もあわせて必要です。単体ディスポーザーの設置により、汚泥量の増加が見込まれ、コンポストによる資源利用が検討されていますが、現状では、十分に活用されていないコンポストの実情も考慮することが必要です。また、農地(コンポスト消費地)に近い処理場では、輸送費が安価となり消費は期待できますが、東京や大阪などの大都市では、輸送費が高く大量に出来るコンポストに対する消費は、期待できないと考えます。汚泥の有効な再利用についての検討し、考え方を提示されたい。

Ⅲ.単体ディスポーザー導入判定の課題
 ① ごみ処理システムの判定
   下水道管理者がごみ収集やごみ処理システムまでを総合的に判断するのではなく、下水道管理者と廃棄物行政担当者が連携して各都市のごみ清掃行政の将来像も視野に入れて判断する必要があると考えます。ごみ処理システムの判定について考え方を提示されたい。
 ② 環境保全(CO対策について)
   旧歌登町では、単体ディスポーザーが100%導入された場合、COやエネルギー投入量が増加することが予想されていますが、京都議定書からすると矛盾すると考えられます。導入判定に対しての評価基準について考え方を明確化し提示されたい。
 ③ 総合評価
   総合評価は、1番目に目的と検討範囲の設定を行うことになっていますが、導入を前提とする場合としない場合では、同じレベルで検討を行ってもデーターに対する評価は相違する可能性があります。個別判定とトータル判定の評価基準があいまいであるといえます。トータル判定の評価基準について考え方を提示されたい。

  図-1
  フラッシュ効果が期待できない場所

Ⅳ.下水道機能としての課題
 ① 合流式・分流式共通課題 Ⅰ (つまり対策)
   下水道管の最上流部や流量が少ない箇所等でフラッシュ効果が期待できないことから、閉塞などが危惧されます。
(排水設備でも同様)
   また、都市部の飲食店街では、油等を主原因とするつまりなどが発生し、現状でも維持管理に苦慮している上に厨芥などの堆積物の影響から、つまりの回数が増えることが予想されます。さらに、光ファイバーケーブル敷設管路などについても、つまりの原因になると予想されますが、これらの事について考え方を提示されたい。
 ② 合流式・分流式共通課題 Ⅱ(処理場設備)
   流入水の量が増加することが予想されることから、水処理や泥処理に余力の無い処理場区域では、採用が困難と考えられます。また、小さな処理場では、流入水量(処理能力)に余力がある場合でも、流入水の汚濁負荷が一時的に上がる事により、処理水(放流水)に影響することが考えられ、調節槽などの設置など対策が必要と考えます。
下水処理場では、微生物処理が一般的となっていますが、ディスポーザーからの厨芥流入により、微生物に対する影響も考えられます。下水処理と単体ディスポーザーについて考え方を提示されたい。
 ③ 合流式下水道の課題 Ⅰ(合流式改善)
   合流式下水道改善対策を必要としている市町村では、単体ディスポーザーの議論は、先送りされると推定されますが、合流式下水道が改善されるまでの間、単体ディスポーザーの設置について、厳しく規制する必要があると考えます。また、合流式改善が一定の成果をあげた上で導入されたとしても、雨水貯留施設等に殻などが堆積することによる悪臭や貯留施設(ポンプなど)への悪影響が想定され、結果として維持管理コスト(耐久力の低下など)が増加する可能性が考えられますが、合流式改善と単体ディスポーザーについて考え方を提示されたい。
 ④ 合流式下水道の課題 Ⅱ(浸水対策)
   浸水対策の目安となる雨水整備率は、平均で都道府県50.6%・政令都市75.8% ・市町村44.8%(2001年度末)となっています。合流式下水道では、単体ディスポーザーの設置により、下水道管渠への流入水量が増加するため、大雨時の浸水被害を拡大する可能性があると考えますが、浸水対策と単体ディスポーザーについて考え方を提示されたい。
 ⑤ 分流式下水道の課題 Ⅰ(誤接続対策)
   早期に導入が考えられる分流式下水道区域でも、誤接続対策を実施しないと単体ディスポーザーの厨芥が処理されずに公共水域へ流失する可能性があると考えますが、誤接続対策と単体ディスポーザーについて考え方を提示されたい。
 ⑥ 分流式下水道の課題 Ⅱ(流下能力)
   分流式下水道では、汚水管への流入汚水量が増加することにより、流下能力(流量)が不足する事が懸念されますが、流下能力と単体ディスポーザーについて考え方を提示されたい。

Ⅴ.その他
 ① 既存施設の処理能力と現在の処理水量
   最近整備された下水処理場では、人口が増加することを想定して建設された下水処理場が多く、現時点での稼働能力が50%を下回っている処理設備も見受けられます。その有効利用として単体ディスポーザー導入時に効率的に運用することも含めて検討・議論する価値はあるのではないかと考えます。そのような施設が全国的にどの程度あるのか資料提示されたい。
 ② ごみ焼却炉について
   ディスポーザーの導入によって、ごみの内容が大きく変化することが考えられる。特に生ごみの減少により、ごみ全体の含水比が下がることが見込まれ、ごみのカロリー上昇に伴って焼却炉温度が上昇し、結果としてごみの焼却効率の低下が現れることから、炉の耐久性・構造基準などについて検討が必要と考えられる。技術的見地からの検討や実験を実施し考え方を提示されたい。

以  上 

(3) 大都市共闘下水道部会
   大都市共闘下水道部会は、4月20日に千葉市で開催した幹事会・総会において、単体ディスポーザーについて議論を行いました。大都市は、下水道施設が古く、合流式による処理方式となっている処理区域が多いことから、単体ディスポーザーの設置議論の前に「合流式下水道の改善対策」や「老朽化した下水道施設の改築更新」を行う必要があると結論付けたところです。しかし、単体ディスポーザーの設置状況は、各都市共に把握できていないことから適正な管理型普及の必要性についても議論を行いました。また、引き続き行われた、4月20日と21日各政令市の下水道部門所管局(下水道管理者側)と話し合いを行う中で、単体ディスポーザーについて各政令市で検討を行う様に要請を行い、来年仙台市開催の話し合いの中で、重点課題と位置づけ各都市から報告を受けることにしています。

4. 単体ディスポーザー導入による影響と課題

(1) 単体ディスポーザーと環境保全
   単体ディスポーザーの環境への影響は、利点と欠点を兼ね備えています。今後の議論で最初に議論を行うべき事は、「ディスポーザー」は発生源対策にほど遠い製品です。この間自治労で議論してきた発生源対策についての議論を原点から議論する必要があります。
   処理すべき生ごみを一度粉砕し、下水処理場などで集中処理(下水道の場合)することで、下水道の処理経費は、反応槽の曝気(エアーレーション)費用や汚泥増加分の処理経費などの増加が見込まれます。また、旧歌登町の報告(「考え方」など)からディスポーザーを設置するとトータルでCO排出量は、増加すると推定されています。
   一方、利点と思われる点は、生ごみ内に多い食塩を焼却する量が削減できるため、ダイオキシン対策になると考えられます。また、日常生活での家庭内の生ごみ対策の改善、①家庭内での臭気対策(生ごみの腐敗による臭気)の効果が期待できる。②生活環境の衛生化に寄与できる。(ゴキブリ等の対策)、③ごみ出し手間の改善が期待できる。特に老人や身体障害者などの生活改善対策となることや積雪地でのごみ置き場などの除雪手間など効果が期待できる。④ごみ集積場における、野生動物(カラスや猫など)からの被害解消に効果が期待できる。⑤下水処理場などでエネルギー回収の効率化が現時点以上に進むことが予想されることから、有機性廃棄物のエネルギー回収に期待できるところです。

(2) 下水道使用料の考え方とごみ処理費軽減分の使途について
   旧歌登町の実験結果などから推定すると、電力消費量では、反応(曝気)槽などで使用量の増加や汚泥増加分の処理量の増加などが予想され、多くの下水道管理者が赤字経営となっていることから、さらなる財政悪化をさせない料金体系を経営面から検討する必要があります。また、ディスポーザー導入が下水道使用料の値上げに連動しない取り組みと共に「料金値上げ=要員削減」とならない取り組みが必要です。
   一方、ごみ処理費では、ごみ収集量の削減によりごみ回収車などの削減効果(車・車庫・燃料・人・交通量など)により、経費削減できると考えられています。このごみ処理経費軽減分の使途をディスポーザー導入に伴う経費負担となるように明確にしておく必要があります。また、ごみ回収等の削減効果は、要員削減に直接的に関わる課題であり慎重な議論が必要です。

表-3 下水道の種類

(3) ディスポーザーの適正な管理型普及に向けて
   ディスポーザーは、下水道法等により管理するには、現在の法律解釈からは、困難と考えられます。また、下水道と一言で言っても、公共下水道事業・農業集落排水事業(表-3)などさまざまな種類があります。公共下水道の場合は、宅地内の下水道施設を排水設備として定義していますが、農業集落排水事業などでは、排水設備という言葉もなく建築基準法で定義するしかないと考えられます。その様な中で、ディスポーザーの適正な管理型普及を行う利点は、下水道管理者がディスポーザー設置家屋を把握できることや受益者負担としてディスポーザー使用料を徴収するとすればその基礎となります。そのためにも、一定の管理されたルールの下で普及が進むことが必要であり、法令や条例による明確な取り扱いを求めていくことが重要です。

(4) 影響評価の評定基準の明確化
   国土交通省下水道部などから公表された「考え方」の導入に対する総合評価では、1番目に目的と検討範囲の設定を行うことになっていますが、導入を前提とする場合としない場合では、同じレベルで検討を行ってもデーターに対する最終評価は相違する可能性があります。それは、個別判定とトータル判定の評価基準が設定されていないためで、国土交通省などは、評価方法について一定の基準を明確にする必要があります。

表-4 廃棄物の区分

(5) 法令遵守に向けて
 「考え方」では、家庭系一般廃棄物と産業廃棄物や事業系一般廃棄物表-4は、区分できそうな表現がありますが、都市部を中心に雑居ビルなども多く、家庭系一般廃棄物と産業廃棄物や事業系一般廃棄物の区分を公共下水道との接続点(会所)で見分けることは難しく、不法投棄・不法処理を助長する可能性があります。
   導入時におけるディスポーザー設置可能範囲は、「考え方」の中に記載されているとおり、家庭系一般廃棄物と産業廃棄物や事業系一般廃棄物で単体ディスポーザー設置基準を定めるには、困難と考えられます。したがって、廃棄物処理法との整合性を担保し、法改正も視野に入れた中で、下水処理場の処理能力や稼動実態を精査した上で、基本は下水処理区を単位に単体ディスポーザーの設置可能範囲を決定する必要があると考えます。

(6) 使用者意識の向上と消費者保護(ディスポーザーの不当な販売抑制)
   ディスポーザーは、使用者からすると手軽さや便利さから、普及が加速度的に進む可能性を秘めています。その上で、環境に対する意識が薄れ、下水処理に負荷のかかる油など何でも捨てられる感覚に錯覚する可能性があります。ごみの削減をめざした取り組みに逆行する恐れもあると言えます。ディスポーザー設置に対しては、下水道(汚水処理)を使用者が理解した上で設置するなどの環境作りが必要です。
   一方で、ディスポーザーは、訪問販売などを通して粗悪品を不当な価格で販売している例が多く見受けられ、消費者に対して見分けられやすく表示するなど製品販売の基準作りも急務となっています。粗悪品から消費者を守ることも必須の課題です。

5. 今後の取り組み

 自治労公営企業評議会や大都市共闘下水道部会は、この間ディスポーザーに対して全面反対の立場で取り組みを行ってきましたが、現状では、約50万台のディスポーザーが輸入され国内でも生産されている現状を認識し、下水道が安心・安定したライフラインとして公共サービスを引き続き提供できるように取り組みを進めたいと考えています。そのためには、この間の取り組み経過を踏まえた上で、現状分析を的確に行うために、ディスポーザー課題を原点から議論・検討することとしました。
 現時点での分析では、行政対応が市場動向に対し遅れていると言えます。ディスポーザー課題は、国土交通省・農林水産省・環境省・経済産業省などの国の省庁に関わる課題であると共に、下水道を管理する市町村の課題でもあります。省庁交渉や意見交換などを通じて、国としての判断を求めていく必要がある一方で、各県本部や単組の取り組みを通して、市町村(下水道管理者)への働きかけも重要となっています。自治労の良さは、地方行政の課題を職場の知恵と経験を活かせて解決できるところにあります。自治労公営企業評議会や大都市共闘下水道部会は、引き続き取り組みを強化し、自治労内の各局や関係する評議会との連携を行う一方で、全水道や関係する労働組合、さらには、市民団体やNPOとも情報交換を行い、2007年自治労大会での方針確立をめざし、課題の克服をしたいと考えます。
 最後に、人が生活する上で、利便性を追求することは、必要なことなのかも知れませんが、往々にして環境破壊に繋がることを忘れてはなりません。また、環境保全とディスポーザー課題は非常に困難な課題と思いますが、自治労組合員の皆様のご協力により解決できると確信しています。