【自主レポート】

環境も経済も社会も持続可能な地域を
「環境文化都市」から「文化経済自立都市」へ

 長野県本部/飯田市職員労働組合 小林 敏昭

1. 恵まれた大自然「南信州」の「山都」飯田
2. まちづりは「ムトス」と「言い出し」
3. 「環境文化都市」へのこれまでの挑戦
4. 「地域ぐるみ」とISO「自己適合宣言」
5. 主体的な行政があってこその協働
6. 二つの「おひさま進歩」という実験
7. 情報発信によるネットワークづくり
8. 難しく語らず、楽しい仕掛けで
9. PDCA・継続的改善という考え方
10. 地域の環境力、総合力で勝負

1. 恵まれた大自然「南信州」の「山都」飯田

(飯田市全景~天竜川そして南アルプス~)

 日本のほぼ中央、長野県の最南端にある飯田市。諏訪湖を源とし遠州灘に流れ込む天竜川の中間より少し上に位置する。人口10万8千人、南アルプス(東)と中央アルプス(西)に囲まれ天竜川の両岸に広がる伊那谷の中心都市である。平成の大合併を経てもなお人口600~700人の3村がある下伊那郡14町村6万6千人と文化経済圏「南信州」を形成している。昨年10月、地図上では隣接するが山の向こうの2村と合併し市の面積は約2倍の659km2となった。
 森林面積は71%から84%となり、今の森林が抱える経済的な不採算性は、同時に大きな負の財産ともなり得る。これからは、広域的な視点から森林を生かしていく方策を見出さねばならない。この森林を資産として観光、産業、環境という地域経済にどう生かしきれるかが大きな課題でもある。
 遠く見慣れた山々の稜線は、人々を決して圧倒せず、逆に台風などから暮らしを守っている。四季の変化に富んだ豊かな自然は、人々の穏やかな気質をも生み出している。果物の南限と北限の地域でもある城下町「山都(さんと)」、様々な果樹の花と実が四季をさらに彩っている。

2. まちづりは「ムトス」と「言い出し」

(飯田りんご並木~中学生が手入れし収穫~)

 飯田市のまちづくりの合い言葉に「ムトス」がある。広辞苑23万余語の最末尾「(まさに~せ)んとす」から来た言葉で、行動に対する主体的・自発的、能動的な姿勢を表している。自分たちが住む地域を自ら良くしていこうとする行動、将来に向けて主張ある活動に対し「ムトス飯田賞」として評価し助成し20年以上になる。行政からの下請け的なまちづくりではなく、市民自らの積極的な行動に対する助成である。
 飯田は「りんご並木と人形劇のまち」でもある。「飯田りんご並木」は市街地の生活の中にある春には淡い花が咲き秋には赤い実のなる400mのりんごの街路である。戦禍を逃れて間もない1947年、「飯田の大火」は市街地の4分の3(60万m2)を焼失させた。焼け野原の再開発が進む防火帯道路に1954年地元の中学生が40本の希望のりんごの若木を植えた。美しく赤く実ったりんごが盗まれないまちを作りたい、その願いは中学生に引き継がれ、年間を通じた手入れで半世紀を越える「飯田りんご並木」の歴史は、まさしく「ムトス」の心である。
 人形浄瑠璃などの伝統芸能を背景に「人形劇のまち飯田」の夏は「人形劇フェスタ」で始まる。28年目となる日本最大の人形劇の祭典に海外も含め300近い劇団が飯田に集い、公民館や保育園など市内100を超える会場で演じられる。「みる、演じる、支える」、観劇者数4万5千人のイベントは行政でなく市民と劇人が運営に当たり、「私のフェスタ」で交流を楽しむ。
  「飯田市」はまた「言い出し」でもある。手探りで前例のない「~初」にこだわり、新しいことに挑戦してきた。行政でも然り、2005年度までに26地域が承認されたエコタウンは初年の1997年度の4地域のひとつ、「環境と経済の好循環のまちモデル(平成のまほろば)事業」は初年度の9地域に採択されている。「名水百選」「かおり風景100選」など「~百選」に名を連ねることも多い。「言い出し」、そんな先駆的な気質が意識しない「市民自治」のベースとなっている。

3. 「環境文化都市」へのこれまでの挑戦

(環境文化都市~8月の人形劇フェスタ~)

 1996年に策定した第4次基本構想基本計画で20~30年後の、めざす都市像として「人も自然も美しく、輝くまち飯田-環境文化都市-」を掲げた。「21世紀は環境の世紀」という認識の前に「環境文化都市」という先見性は評価に値する。策定に際し、その前提とすべき時代認識を次の6つに集約した。①都市の個性を磨く、②自然との関わりを見直す、③高齢化の進行と人口減少、④経済が大きく変化する、⑤高度情報化、⑥地球規模での交流。これらは今なお色褪せることなく重要性が真に問われる状況にあるが、更に厳しく急速な社会変化は「サステナビリティ(持続性)」「自立」という新たなキーワードを必要としている。
 めざす都市像「環境文化都市」の環境面に着目して環境基本計画「'21いいだ環境プラン」が策定された。そして「環境がひとつの文化となるまで」と10年間、様々な環境施策を体系的に重点的に展開してきた。それは「飯田らしい」新しい環境施策への挑戦でもあり、モデル事業として国などの補助も導入してきた。
 全国でも長い日照時間という地域特性を生かして普及している太陽熱利用と同じ世帯普及率30%を太陽光発電でも2010年までにめざし1997年から助成している。普及率はようやく2%を超えたが理想は高い。省エネルギービジョンも新エネ・省エネ地域計画も策定し地域全体での温室効果ガス削減の目標を国より4%上乗せした10%に設定し取り組んでいる。
 ごみ処理費用負担制度を1999年に導入し、ごみの13%減量化と52%再資源化を進めている。
 環境関連の様々な賞に応募し、高い評価を得てきた。日本計画行政学会計画賞(2002年)、地球温暖化防止環境大臣表彰(2003年)、自治体環境グランプリ環境大臣賞、地球環境大賞環境市民グループ賞、日本環境経営大賞、市民が創る環境のまち元気大賞特別賞(2004年)である。その派手な評価に内心驚き、そのエールを裏切らないよう地道に真の実力をつけようとしてきた。
 全国10の環境NGOが主催する「持続可能な地域社会をつくる日本の環境首都コンテスト」には2001年の初回から参加しているが、評価は厳しい。100自治体前後の中での飯田市の順位11位→4位→5位→9位→9位は何を物語っているか。環境首都を本気でめざす進化・深化する上位常連の自治体との差は何なのかを冷静に分析し、自分の位置を再確認したい。

4. 「地域ぐるみ」とISO「自己適合宣言」

(地域ぐるみ環境ISO研究会、地域文化)

 この地方には民間企業でつくる「地域ぐるみ環境ISO研究会」(以下、研究会)というボランタリーな活動グループがある。活動理念は、「地域の自然を残し持続可能な地域づくりのため、新しい環境改善の地域文化を創造する。」飯田市役所も1事業所として参加し1997年11月に6社で発足し、現在31社(事業所)となっている。先ずは環境ISO(ISO14001)の運用による環境改善の徹底的な取り組みで地域をリードする。そして、そのノウハウを地域に還元する。環境改善活動は事業所内だけの点では意味がない、地域という面に広がったとき、地域全体のレベルが上がり効果となって現れる。
 中小・個人事業所向けの地域独自の環境ISO審査登録の仕組み「南信州いいむす21」を構築し、2001年10月から運用を始めている。現地での支援・助言や審査に事業所の担当者が係わる。当初はハードルを低くし普及浸透を図り、現在、60余の事業所が南信州広域連合から登録証が交付されている。当初の旧版を初級(要求事項21)とし、その上に中級(同34)・上級(同78)・ISO14001南信州宣言の4つのレベルを設け、今年、グレードアップした。研究会参加事業所や取り組み事業所の担当者の人材育成を図り、「地域力」でシステム向上を進める。
 飯田市役所は研究会の支援を受け、2000年1月にISO14001の認証取得をした。そして3年間の審査登録を経て、更新審査を受けずに2003年1月に自己決定による「自己適合宣言」へ移行した。今やその潮流があるものの全国の自治体で初めて、民間も含めての先行事例である。国際規格ISO14001との適合の説明責任の担保として数々の仕掛け、実験を経ての移行である。①審査員資格取得者の複数配置、②内部監査をオープンにした「相互内部監査」、③出先施設での独自EMS運用と市長認定、④「南信州いいむす21」の審査登録、⑤研究会との連携、である。
 なぜ自己適合宣言なのか。それは研究会の理念である「新しい環境改善の地域文化」そのもの、「ISO14001南信州宣言」を地域ぐるみで支え、他からも認められるブランド化させることにある。メンバーとしての研究会活動が飯田市に与えている影響は大きいのは言うまでもない。

5. 主体的な行政があってこその協働

(市役所ISO14001自己適合宣言の外部検証)

 市民・NPO・企業・行政のパートナーシップ(協働)が行政側から盛んに叫ばれる。「もっと本気で市民も企業も行政を担ってください。自治体は今後ますます財政運営が厳しくなるから皆さんとの協働は不可欠です。」と。財政難は行政にとって責任放棄の免罪符でもなるかのように。地方交付税制度に守られてきた地方財政が破綻まで追い込まれる心配はいよいよ現実味を帯びてきた。有力な産業を持たない自治体がどこまでも経費削減はできたとしても、収入増額は社会の構造からも無理に等しく、根本的な解決策があるとは考えられない。
 研究会の事務局として地域の民間企業の仲間から多くを学んだ。ボランタリーな民間主導の研究会といえども行政がより前に出て行かなければ民間も一緒に前に出てはくれない。「民間主導」とは民間に任せて行政が楽をするということではない。民間を動かすということは、民間に動いてもらう以上に、行政自らがもっと汗をかくということに他ならない。
 協働とはそれぞれの構成組織(構成員)がそれぞれの得意分野で別々に活動するよりも一緒に活動した方が相乗成果を上げること。1+1+1=3ではなく、3を超える成果を生み出すものである。今日の困難な状況を言い訳に行政が萎縮することは許されない。限られた条件の中で行政が1を2にも3にもする努力、それが市民・NPO・企業を巻き込み、相乗成果へと繋がる。それこそが今まさに求められている。

6. 二つの「おひさま進歩」という実験

(市民太陽光発電点灯式~山本保育園~)

 NPO法人「南信州おひさま進歩」が2004年6月に設立された。市民共同おひさま発電所とBDF(バイオディーゼル燃料)実験プラントが主な活動である。そして、NPOが母体となってできたのが「おひさま進歩エネルギー有限会社」。この飯田市にあるNPOと会社が今、旬である。
 「おひさま進歩エネルギー有限会社」は、太陽光発電事業と商店街・小規模省エネルギー事業(ESCO:エスコ)を手がけている。太陽光発電事業は、飯田市内の保育園や公民館など38の施設に太陽光発電設備を設置し、施設側が発電電力量を全量買い取るというもの。昨年、全国の約460人から2億150万円(1,603口)の出資を集め稼働している。約千畳のパネル全設備の最大出力は約208kwである。点灯式などは子どもだけでなく保護者、利用者への環境学習の機会となっている。グリーン電力も身近な話題だ。
 環境NPOの設立や運営には市の職員も深く関わっていて、その中で誕生したマスコットキャラクター「さんぽちゃん」、そして着ぐるみは環境学習やイベントには欠かせない人気者になっている。持続可能な社会の形成は、子どもの参画なしには考えられず、保護者にもその機会を提供する仕掛けは大きな意義がある。

7. 情報発信によるネットワークづくり

(メール情報「ぐるみ通信」と「いいだより」) 

 研究会のメール情報「ぐるみ通信」は、2001年2月に配信を始め、180号を数えた。研究会の活動や地域の話題を全国に伝え、飯田とのネットワークを築いている。
 環境マネジメントシステムを主に携わった環境行政の5年間は、私に、地域に、県内に、全国に幅広い縁を与えてくれた。環境マネジメントシステム審査員、環境カウンセラー、県地球温暖化防止推進員、NPO理事など仕事を離れても環境は私のライフワークになっている。行政のプロである以上、今日の行政は環境の視点なしには運営できない。環境マインドなしに自治体経営はできないと考えている。環境から離れて2月後の2005年6月から個人的な情報発信「いいだより」を続けている。これまでいただいてきた縁を風化させたくない自然消滅させたくないとの思いからである。無理やり環境にこだわるものの悲痛な義務感や危機感ではなく、遊び心を大切に、自分の目で地域の身近な話題から環境を考え問題提起している。週に1回の発信が今は何より楽しい。
 環境を専任していた間に様々な賞に応募し受賞の栄を得てきた。それらは多分にエール的な意味での賞であったが手続きの中で事務局との縁ができたのが何よりの収穫であった。そして他の受賞団体との交流、事例は大きな刺激となっている。受賞は外からの評価で自分たちの良さに気づき、自信に繋げることにあった。さらに環境面での評価をこの地域全体へのブランドへと高めることにあった。最終的には、この地域に様々な資源を呼び戻すこと、呼び込むことに繋げることである。

8. 難しく語らず、楽しい仕掛けで

(「南信州いいむす21」「ぐりいいんだ」「さんぽちゃん」)

 地球環境の危機的状況を認識しつつ、嘘つきという非難を受けずに破滅を回避させる警告を発し続けるにはどうすればよいか。トロイ最後の王の末娘カサンドラは「未来を予言する」力と「誰も絶対に彼女の予言を信じない」呪いに絶望の一生を送る、「カサンドラのジレンマ」である。ローマクラブの「成長の限界」やレイチェル・カーソン「沈黙の春」、ワールドウォッチ社の「地球白書」もその難しさを示している。
 環境を難しく語ってはいけない。親しみやすい、言いやすいネーミングは大事である。仕掛けの成否のカギとも考えている。ネーミングはひらがな4~5文字を原則としている。「いいむす」「ぐるみ通信」「いいだより」「ぐりいいんだ」「さんぽちゃん」「おひさま進歩」。他との違いを明確にするために敢えて言葉を加えることもある。「自己適合宣言」「相互内部監査」など。
 「いいむす」は環境マネジメントシステムEMSの「EいいMむSす」そして「いいだ」「ムトス」でもある。ひらがなは、いろいろな意味をも持たせることができ、拡がりが生まれる。
 ISO「相互内部監査」はお互いのまちへ行き来し相互に刺激を与え合うことできる仕組みでもある。もう4年連続で飯田の監査に参加してくれている遠くの仲間がいるのは嬉しい。

9. PDCA・継続的改善という考え方

(飯田市役所ISO14001相互内部監査)

 ISO14001に代表される環境マネジメントシステムはPlan(計画)-Do(実施)-Check(点検)-Act(見直し)というPDCAのサイクルを回し続けて、少しでも改善していこうとする仕組みである。継続的改善という考え方である。行政には不安な小さな不完全な計画でも回し始める。しかし、実施して、点検して、悪かったら、見直す。否定の「やらない」のではなく肯定の「止める」という見直しも当然ある。
 先の読めない時代では完全な計画などあるだろうか。大きな公共事業は今なお右肩上がりの成長を前提とした計画によることが多い。一度事業がスタートすれば最後まで行き、どんな状況変化があったとしても事業が見直され、ましてや事業が中止されることは稀である。
 PDCAのサイクルによる継続的改善をそれぞれの担当者の「個人としての配慮」に頼ることなく「組織としてのルール」により当たり前に進められるシステムづくりを確立したい。
 企業活動においても行政運営においても時代の変化を敏感に感じて小回りの効く継続的改善を繰り返していくことが経営として求められている。「ムトス」「地域ぐるみ」、そして根付いた「環境文化都市」という土壌はその地域づくりを容易にしているはずである。

10. 地域の環境力、総合力で勝負

(りんご並木周辺では市街地再開発が)

 ISOの自己適合宣言、そして地域のブランドとしての「ISO14001南信州宣言」が外部から認められるには何が必要か。それは地域の環境力、さらには地域の総合力が認められなければならない。環境施策、そのごく一部である環境ISOだけが突出するという自治体などあり得ない。ひとつの指標としての「環境首都コンテスト」も住民参画から行政内部の意思決定の仕組みまで総合的に評価される。最終的な評価は市民が行うものであり、そこに暮らす主役の市民が納得できるものでなければならない。
 次期の基本構想基本計画策定に当たって、飯田市の将来像が「環境文化都市」から「文化経済自立都市」へと検討されている。環境文化都市は継承すべきとの声も強い。持続可能な地域とは環境という狭い分野ではなく経済も社会の広い分野でも持続可能な地域ということである。経済的にも、社会にも成り立ってこその環境であり、このバランスの上に持続可能な地域は成り立つのである。
 人口減少・超高齢化、財政難、取り巻く状況は厳しさを増している。これからも他の地域と環境でも競い合えるような地域づくりを進め「環境首都」をめざしたい。あくまでも志は高く。