【自主レポート】
沖縄市東部海浜開発事業 (泡瀬干潟埋め立て) STOP!
生物多様性の世界の宝、泡瀬干潟を守れ!
泡瀬干潟もラムサール条約湿地登録をめざして
沖縄県本部/那覇市職員労働組合・自治研部・泡瀬干潟を守る連絡会事務局・次長 屋良 朝敏
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1. 泡瀬干潟もラムサール条約に登録用件を満たしている!
国際的に重要な湿地保全を目的とするラムサール条約弟9回締約国会議が2005年11月8日アフリカ・ウガンダで開幕し、新たに沖縄県の慶良間諸島海域(渡嘉敷村、座間味村)と名蔵アンパル(石垣市)を含む20カ所の国内湿地が「国際的に重要な湿地に係わる登録簿」に掲載された。沖縄県内の登録湿地は1999年漫湖に次いで3カ所となり、国内では計33カ所となりました。
沖縄県で新たに加わった、慶良間諸島海域は353haでサンゴと魚類の豊かさが評価され、名蔵アンパルは157ヘクタールでマングローブ、干潟、猛禽類、森林性鳥類、多様な生物が評価され今度新規登録された。
泡瀬干潟はこの2カ所に勝るとも劣らぬラムサール条約湿地登録用件を具備した干潟および浅海域としてありますが今回登録から漏れてしまいました。
漏れた大きな理由は地元自治体の推薦がないことです。泡瀬干潟埋め立て事業は正式名称"東部海浜開発事業"といい、バブル期の埋め立て計画がそのまま時を経て2000年12月国の環境アセスメントが承認されたことにより、沖縄県から国に対し埋め立て免許が交付され動き出したのです。
2. 埋め立て工事の現状と疑問点
当初計画では2001年8月から着工となっていましたが2001 年1月「泡瀬干潟を守る連絡会」が結成され埋め立て反対の運動や、海草ホソウミヒルモ、二枚貝ソメワケグリに寄生する巻貝ニライカナイゴウナなどの新種、またジャングサマテガイやメナガオサガニに寄生するオサガニヤドリガイ、など貴重種の発見、それに市民やマスコミの監視の目があり、また絶滅危惧種クビレミドロやトカゲハゼの移植技術の未確立、何よりもアセス標記上の埋め立て用件に海草移植技術の確立が求められているにもかかわらず、海草移植も未確立という背景があったため埋め立ては延びた。
しかし、国は2002年9月仮設橋梁の建設に着手し、2003年6月、沖合いに第1期工事の基盤となるトチリ護岸、余水吐け護岸を埋め立て設置した。さらに2004年8月仮設橋梁延長工事で800メートルに延長した。
この泡瀬干潟がいまムダな公共工事の典型、自然環境の破壊であり持続性のない「開発」の犠牲になろうとしています。
泡瀬干潟埋め立てについては多くの疑問があります。とりあえず箇条書きにしてみます。
① アセスに記載され埋め立ての前提である埋め立て予定地内の海草移植が失敗している。
② アセスでは海草被度50%以下が埋め立て条件となっている、また50%以上の被度がある海草藻場は埋め立て地外へ移植することが条件となっている。国は埋め立て開始地点(現在矢板で囲った部分)の海草被度を勝手に43.4%と宣告し埋め立て開始。(守る会と海草専門化の判定では56.6%の被度)。国はおかしなことにダブルスタンダード的に「どちらも正しい」と表明し、埋め立てを開始していった。
③ 「埋め立ては出島方式なので環境に配慮しており干潟域の82%は残るので大丈夫」という疑問。
④ 「埋め立ては沖縄市民総意である」という疑問。
⑤ 埋め立て海域に生息するクビレミドロ、トカゲハゼや新種、貴重種の保全は可能という疑問。
⑥ 1986 年完成した今回埋め立て予定地に隣接する新港地区と自由貿易地域は約1千億円かけ今埋め立て予定地面積の約2倍(339ヘクタール)あるが、その活用が図られないまま、また埋める疑問。
⑦ 沖縄市は米軍基地に土地を35%も取られているので海へ展開せざるをえないというのが埋め立て理由のひとつだった。いま米軍基地再編の動き嘉手納基地以南の基地を返還する(約5,000ヘクタールとも言われている)という動きの中で全県的に見ればその理由は成り立たなくなっている。
⑧ アセス漏れの新種、貴重種、が続々発見されているのに埋める疑問。
⑨ 埋め立て計画はバブル期の構想(ホテル6軒の誘致、1,000人が5、6泊するなど、)のままという疑問。
これらはすべていまだに疑問のままです。特に③については中立的なマスコミなどの市民対象の世論調査などはすべて約6対4の割合で埋め立て反対が多数をしめています。また守る会を中心とした住民投票条例制定の取り組みも2度なされましたが、2度とも沖縄市議会で否決され市民の総意は封印され確認されずじまいです。
3. どこにもない泡瀬干潟の自然を埋め立てから守れ
泡瀬干潟は4月から7月までトカゲハゼの産卵期ということで工事が中断していましたが8 月から工事が再開される。いよいよ抜き差しならなぬ本格的な埋め立て段階へときました。予定では今12月から沖合いの埋め立て基地に隣接して鉄の矢板で囲った中へ浚渫土砂を投入するのです。
沖合いに展開するこの埋め立て工事は県民の目の届かない場所です。浚渫土砂採取地は埋め立て予定地隣接の浅海域でこれが土砂ではなく真白な細砂やサンゴ砂で、そこにはウミエラ(八方珊瑚の一種)が生息しています。そして、沖縄でも貴重となったサンゴの群落や絶滅危惧種の貝や海草がたくさん生息しているのです。泡瀬のウミエラは全国にいる深場のウミエラと違い干潮のとき1メートル以下の浅海の白砂に垂直に立っています。それはまさに神秘的です。鉛筆くらいの長さで芯は鉛筆より細く濃い紫色、縦に羽のような半透明のヒレ状のものがあります。芯は硬く、触れても引っ込みません。ちょっと引っ掛けても倒れる繊細な生き物なのです。ウミエラが生息していることが人間の手が入ってなく自然が手付かずのまま残っている証明です。このウミエラや貴重な生物群がだれにも見られないまま浚渫によって葬り去られていかんとしています。
泡瀬では貴重な植物や生物が次々発見されています。ホソウミヒルモ、ニライカナイゴウナ、オサガニヤドリガイ、ユンタクシジミ、などにつづき、最近ジャングサマテガイ、アワセカニダマシマメアゲマキ、ほか2種の海藻が発見され、日本自然保護協会編纂による「泡瀬干潟ウマンチュの宝ガイドブック」に掲載されています。このガイドブックには泡瀬干潟のことが地理的条件や構造など総合的に掲載されています。泡瀬干潟を守る連絡会が作成した「泡瀬干潟エコツーリズムマップ」では泡瀬の生物多様性をビジュアル、マップ化し、紹介しています。
私はこの運動をして、埋め立て工事を進めている国は卑怯だなーと思うことがあります。私たちNPOが手弁当の調査で新種、貴重種をつぎつぎ発見しますが国は常に後追いで追跡調査をやります。その調査が問題です。国家予算にものを言わせて、津堅島に及ぶ中城湾や金武湾までも調査し、なんと言うかといえば、「他の場所にもその生物は確認できたので今回発見された泡瀬の生物は埋めても差しつかえない」という結論を出すのです。国の調査は埋め立ての口実づくりの調査で新種、貴重種の発見でも工事がとまらない理由はそういうことです。
干潟という特殊な自然環境、ラムサール条約の湿地登録条件に規定する6メートルを超えない水深規定からいうと埋め立て予定地は100%当てはまる湿地です。しかもその範囲に干潟としての海の条件がマングローブ、泥、レキ、砂、サンゴ、海草、海藻、というようにすべて含まれています。その場所にカニ、魚、低性成物、鳥、などの生物多様性の宝庫であり、貝類をとっても300種以上を改め500種以上に及ぶことが最近わかりました。
290haの干潟と広大な浅海域に生命が小宇宙のように織り成しているということが大事なのではないかと思います。自然には無駄なものは何もないといわれます。すべてが関係しあっているのです。しかし、国や埋め立て推進の側は、「新種、貴重種がなんの役に立つ、寄生虫が多いのではないか、そんなもの埋めてしまえ!」「海草やサンゴ、新種、貴重種は埋立地内からすべて採取し埋立地外へ移動する」ということで対処してしまう、このように物事をご都合的にとらえて埋め立てありきの姿勢で猪突猛進しています。 疑問に思うのは、国に比べて弱小の私たちNPOの側でさえこれだけの新種、貴重種を発見できるのに国は私たちの発見の指摘要請を受けた後追い調査のみで納得できませんし。国がNPO以上の発見ができないのはおかしい、ということです。実はすごい新種の情報や、あるいはジュゴン生息の痕跡の情報などを握っていてもおかしくありません。
耐震強度偽装事件のように情報操作をやっていると思われます。現在でさえこれだけの工事をやっていてその影響はなにもないと言い切っていること自体不自然です。イイダコ採りや貝採りの人々は異口同音に「埋め立て工事が始まってから収穫量は減った」と言っています。
泡瀬干潟はすばらしい海です。みんなの宝であり財産です。このかけがえのない自然環境をムダな埋め立てから守るため、元ラムサール条約事務局長ブラスコ氏、ロバート・ヒル元オーストラリア環境遺産大臣、世界106カ国の鳥類保護NGOが加盟しているバードライフ・インターナショナル、オーストラリア・アジア・シギ・チドリ研究グループから埋立中止の要請があります。また貝類の専門家コーセル博士(フランス国立自然史博物館)などの諸外国や、また国内でも、日弁連、日本ベントス学会、日本蜘蛛類学会、沖縄生物学会、沖縄弁護士会、日本自然保護協会、日本野鳥の会、WWFJ 等からも泡瀬干潟の類まれなサンゴ礁干潟の保全を求め、埋め立て中止・見直し等の要請や意見を決議しています。昨年日本環境法律家連盟の心ある弁護士の先生方と沖縄市民、県民約600人が「自然の権利」訴訟を起こしました。日本国中のいろんな立場の人たちが泡瀬干潟の存続に向け行動しています。
4. 東門美津子市長誕生で泡瀬干潟埋め立て問題に明るい希望が!
埋め立てに疑問を呈し、運動する側にとって有利な条件がいくつかあります。2005年3月に出された沖縄県外部包括監査人が泡瀬干潟埋め立て(東部海浜開発事業)に対して事業計画がズサンで「事業内容の抜本的な変更、見直しも必要」と提言しました。
2005年9月「改訂・沖縄県の絶滅の恐れのある野生生物編」いわゆるレッドデータおきなわ改訂版が出版された。泡瀬に産出する種を確認しリストアップしたところ、魚類6種、甲殻類7種、貝類121種が確認された。これに海藻・草類、を加えると膨大な種が泡瀬には生息していることが明らかとなっています。しかもレッドデータブックにはサンゴと海草の専門家が探せなかったということで、サンゴと海草については一切掲載されてないのです。当然、泡瀬以外からは発見報告例がないと思われる浅海域のウミエラなどは掲載されていないのです。
さる4月23日投開票が行われた沖縄市長選挙で「泡瀬埋め立て問題について埋め立てを改めて精査し市民の意見を集約し結論を出す」。と選挙公約を打ち出した東門さんが当選し、前市長仲宗根氏の埋め立て推進方針を引き継ぎ「強力に埋め立てを推進する」公約を打ち出した桑江氏が落選したことで今後の泡瀬干潟埋め立て問題は明るい展望が出てきました。4月から7月までのトカゲハゼ産卵期は工事中断が中断しています。8月から再開されようとしている現在は何らかのメッセージが国県に発せられなければならないと言えましょう。8月~3月までの工事は干潟に取り返しのつかない重大なダメージを与えるものとなっています。それは8百メートルに延長された仮設橋梁と沖に埋め立てられたC護岸との連結が進み一方が堰き止められる状態に近くなるため潮の流れがおかしくなります。また東側のトチリ護岸近傍の航路浚渫のための浅海域浚渫工事が本格化しその土砂をトチリ護岸に近接した矢板で囲った範囲の埋め立てが完了してしまいます。
国県は沖縄市の意向を無視はできないはずなのですが、今のところ工事は専権事項なので変わりなく進めていくと表明しています。沖縄市が精査も市民の意識調査もしていない中で国県が工事を勝手に再開するなら大きな問題となるでしょう。
5. 泡瀬干潟 「自然の権利」訴訟の提訴
泡瀬干潟の自然を守るため、「環境法律家連盟」に所属する9人弁護士と泡瀬干潟を守る連絡会は昨年5月20日沖縄県と沖縄市を相手どり集団訴訟に踏み切りました。
これは一向にとまらない埋め立て事業にこれまでの住民運動場面からのアプローチに加え法的な側面からのアプローチの必要性に迫られた結果からです。
沖縄市に対しては市民300人余、沖縄県に対してはプラス200人余の合計500人余の訴訟となっています。国に対しては裁判を起こす根拠が厳しいので当面、県と市に対して公金支出指し止めをめざす性格となっています。今年8月2日で第8回目の公判を数えています。その間裁判長が変わり、沖縄市長が埋め立て推進派から埋め立て"慎重検討"の東門市長に変わるという大きな変化が出ています。沖縄県も今年11月県知事選挙があり、さらに情勢の変化があるかもしれません。
この「自然の権利」訴訟は愛知県名古屋と岐阜県の弁護士が支えてくれています。埋め立て中止の目的を達成するためには、裁判だけに頼ることはできません。裁判所は基本的に国家の意志を守る役目を果たしており、幻想は禁物です。私たちはこの裁判で運動の幅をもたせ、世論喚起の役目もあるという観点と、法律的な面からの厳しい指摘と、不合理な行政のありかたを公の場で明らかにしていく目的も重要となっています。
泡瀬干潟とは?
泡瀬干潟は、奇跡的に残った南西諸島(奄美・沖縄)最大の干潟(290ヘクタール)である。その泡瀬干潟および浅海域が186ヘクタール埋め立てられようとしています。沖縄の渚(干潟・浅海・湿地帯)は、埋め立てと赤土汚染で壊滅的状態に陥っている。しかし、泡瀬干潟は、地理的面の特殊性ゆえ、独自な進化をとげてきた。それは大きな川がなく、流入する土が赤土ではなく黒土(島尻マージ)なので汚染を免れてきたこと。人工的側面としては米軍泡瀬通信基地に隣接していること、もう一つには生物層の多様性や海草藻場の特殊性から沖縄県が厳正に保護しなければならない海域として評価ランク1に指定していることもあってこれまで埋め立てられずにきた。
泡瀬干潟およびその浅海域にはドロ、砂、砂泥、レキ、海草、藻場、サンゴ、と多様な自然環境がパッチワーク状に連なり、生物多様性をもった小宇宙としての生態系を体現している。限られた地域にラムサール条約で示された条件をすべて兼ね備えている地域は日本国内では他に例を見ない。泡瀬干潟とその浅海域は環境の多様さ故にそこに棲む生物種も多様で、その生物種の数は日本国内でもトップである。世界的に見てもシベリアからオーストラリアにかける、シギ・チドリ類の渡り鳥ルートの中継地として重要な干潟でもある。また、この干潟の豊かさ、さらには沖縄の干潟の現状から「沖縄の渚の生物種のマザーポピュレーション(供給地)」であるといえる。 |
資 料
泡瀬干潟は足元の宝物―通信基地跡地を自然公園に― 屋良 朝敏(2006.8.26沖縄タイムス)
金本自由生氏、新聞論壇投書(06年7月30日、「琉球新報」)
宝の海 楽園の危機(読売新聞泡瀬シリーズ2006年7月28日)
中城湾港(新港地区・泡瀬地区)
航空写真
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