【要請レポート】

海洋深層水の資源利用について

沖縄県本部/沖縄県職員労働組合 兼島 盛吉

1. はじめに

 20世紀は、石油・石炭などの化石燃料のエネルギーを使い、地上・地下の資源を盛大に利用し、私たちの物質的な豊かさを飛躍的に増大させてきた。しかし,同時に、エネルギーを含む資源の枯渇と地球環境問題という二つの大きな問題を背負うことになった。このまま石油などの化石燃料を現在ペースで消費していくと、石油はあと40年、天然ガスは66年、石炭は164年で使い果たしてしまうという予測もある。また、地球環境問題は、これまでのように地下資源を利用していく限り、解決は見込めそうにない。というのは、それらの資源を使うと廃棄物の撒き散らしが避けられないからである。仮に、撒き散らしを止めて廃棄物を回収し安全に処分しようとすると、現在の技術では膨大なエネルギーが必要となり、得られる利益よりもはるかに大きい負担になる可能性が高いからである。
 また、エネルギー資源の乏しい日本では、エネルギーの8割以上を海外に依存おり、中国やインド、ブラジルなどの工業化に伴う急激な需要増や政治情勢が不安定な中東地域の情勢を考えると、ごく近い将来でさえ楽観できない状況にある。
 そこで、国は、特定のエネルギー源に過度に依存することのない各種エネルギー源の適切な組み合わせによってエネルギーの安定供給・確保を目指し、色々な政策を実行している。
 特に重点が置かれているのは、石油などのように枯渇性のエネルギーではなく、自然現象から得られる非枯渇性のいわゆる再生可能な自然エネルギーである。自然エネルギーの種類としては、太陽光・熱、風力、バイオマス、小型水力、地熱、海洋エネルギーなどがある。その中でも、「技術的には実用化段階に達しつつあるが、経済性の面での制約から普及が十分でないもの、そして石油代替えエネルギーの導入を図るために特に必要なもの」を新エネルギーと定義し、さまざまな政策が実行されている。
 しかし、新エネルギーの発電分野に限って言うと、「現在提案されている石油代替エネルギー供給技術の多くは、従来の石油によるエネルギー供給システムに比較して、単位エネルギー当たりのコストがほとんど例外なく高価な技術であり、工業生産過程における主要なエネルギー供給が石油を使って行われていることから、高価な技術とはそれだけ大量の石油投入が行われていることを暗示している。」との自然エネルギー利用に対して懐疑的な意見もある。また、現在の石油代替え発電システムは、発電が目的であり、最終到達点である。従って、今後もいかに発電コストを軽減するかが大きな課題であろう。
 これに対し、海洋エネルギー、特に海洋深層水のエネルギーとしての利用分野は、技術レベルは低く実用化はまだまだ先のことと言われているが、発電分野に限ってみても、他の自然エネルギー異なり、発電した後でも尚、資源性という点からは膨大なものを含んでいる。従って、現在の技術レベルでは、確かにコスト面で発電システムとしての実用性は低いと判断されるかもしれないが、発電コストだけを考えるのではなく発電後の資源性がもたらす経済的な効果を考慮すれば、日本が目指す循環型社会構築に向けて有望な自然エネルギーといえるのではないだろうか。以下に、海洋深層水とその資源利用について所感を述べる。

2. 海洋深層水とその利用

 海洋深層水は、概ね300m以深の海水で、低温安定性・富栄養性・清浄性を特徴とする海水で、エネルギー(冷熱・発電)・肥料・水・塩・金属類などの資源性が知られている。これらはすべて私たちが必要としている基本的な資源で、しかも海水というひとつの物質に含まれている。これは、限られた資源性しか持たなかった従来の資源とは全く異なる。さらに、その資源量は、地球上で最も量の多い海水の95%という膨大な量で、その上に、深層水の資源性は数年から数千年で再生循環するといわれている。ただし、問題は他の自然エネルギーと同様に資源が薄いということである。
 深層水の資源性が世界的に関心を集めたのは1973年の石油ショックで、石油に代わる新エネルギーのひとつとして海洋温度差発電が取り上げられた時である。アメリカでは温度差発電の検討を始めて間もなく、いったん汲み上げられた深層水を温度差発電に使った後で、他の資源性を次々と多段的に利用していく総合的な資源利用が考えられた。温度差発電を中心とした深層水の資源利用研究のためにハワイ州政府は1974年にハワイ自然エネルギー研究所の設立を決定し、1990年にはハワイ州立自然エネルギー研究機構として研究と事業利用の両方を同時に進める体制を作った。そこでは、温度差発電の技術的研究をはじめ深層水資源のさまざまな利用研究が進められていて、一部は事業利用されている。
 日本でも、石油ショック直後の新エネルギー開発で、通産省が温度差発電に取り組んだ。温度差発電以外の深層水の資源利用は科学技術省が担当し、1986年から国家プロジェクトを起こして、1989年に高知県室戸市に深層水の陸上利用施設を、富山県に海上取水施設を造った。富山県では、温度差発電の基礎研究も行われたが、主として深層水の含む肥料成分による海域の肥沃化が目的であった。一方、高知県では、深層水の持つ低温・富栄養・清浄性はもとより、それ以外の利用可能性が検討され、今や深層水関連商品の売上げは100億円を超している。また、後発の沖縄県においても、化粧品、飲料水、深層水塩、などを中心に、10億円超の売上げがある。
 日本での深層水の資源利用は、取水管1本で1日に6,500トンの取水量が最大で、規模が小さい。これは、取水管の設置コストが高いためで、深層水の事業化では付加価値の高い利用に限られている。しかし、取水管は、頑丈な構造をしており既に設置されている取水管で古いものは17年ほど経過しているが、損傷などのトラブルの発生はなく極めて信頼性が高いものである。
 現在、深層水の利用分野は、工業分野が中心となっており、化粧品、飲料水、スポーツドリンク、塩、にがり、酒、味噌、醤油、豆腐、パン、蒲鉾、麺類など、食品を中心として数10種類の深層水を利用した商品が開発され販売されている。水産分野では、魚介類の鮮度保持などにも利用されているが、深層水の取水量が日本最大規模(日量13,000トン)の沖縄県久米島では、クルマエビの種苗生産、ウミブドウ養殖の事業化がなされている。また、農業分野では、深層水の冷熱を利用して冬場の野菜を真夏に生産する研究開発が進められ、実証段階に達している。

3. 海洋深層水のエネルギー利用

 深層水のエネルギー利用として、ひとつに温度差発電がある。これは、海洋の暖かい表層の海水と冷たい深層の海水との温度差から発電しようとするもので、15℃以上の温度差があれば経済的に成り立つとされている。海洋温度差発電は、1881年フランスのダルソンバーグが提唱し、1926年フランスのクロードが実験装置での発電に成功したのが始まりである。その後さまざまな研究が実施されたが、石油が安価に入手できるようになったこともあり、1955年には、研究が途絶えた。しかし、先にも述べた1973年の石油ショック以後再び注目されるようになった。日本における研究は、世界でも先端であるといわれ、2003年には佐賀大学に海洋温度差発電実験装置が設置された。この施設は、現在、世界一の規模の研究施設であり、30kwの発電の発電能力を有し、日本の上原によって開発された、ウエハラサイクルの検証が行われている。
 それ以外でも深層水のエネルギー利用は、熱交換方式による冷房や冷蔵、火力発電所の冷却水としての利用も調査されている(「海洋深層水の多目的・多段利用の推進」に関する政策評価)。それによると、既存の空調システムに比べると電力節減率が50%程度であることからランニングコストが削減されるとしている。また、火力発電所の復水器冷却水として利用することで、復水器が小型化できることや発電効率が向上することによって、60万kwの火力発電所を対象とした場合、発電効率は1.5~3.7%増加するとしている。
 このように、深層水のエネルギー利用用途は広い。また、冷熱エネルギーのオフラインシステムが開発されれば、取水地から離れたところでの利用の可能性もでてくる。
 深層水の将来の本格的な利用の中心は、エネルギー・金属類の資源分野になると考えられるが、これらは日量で10万トン以上の湧水があってはじめて経済的な事業利用ができるといわれている。また、深層水は、再生循環性なので利用量が多くなればなるほど、社会はより循環性を強めていくことができる。

4. 終わりに

 人類が利用する資源を、再生循環型の巨大資源である海洋深層水の利用に切り替えていくことで、循環型社会に近づけていくことができる可能性があることを示した。考えてみると食料の輸出入には、膨大な石油エネルギーの消費を伴うものであり、自然の枯渇を少しでも遅らすという省エネという観点から見ると、国レベルと言うよりももっと狭い地域レベルで自給率を上げていくことが重要ではないか。昨今、食料の自給自足が注目されているが、自給率を高めることは、最大の省エネルギーにもなるのではないか。
 また、離島などで風力発電や太陽光発電を行うことの意義のひとつに、本土から海底送電ケーブルを設置したり燃料を輸送するのにかかるコストに比べて、経済的に有利だからという理由もあるのではないだろうか。これは同時に資源節約的であるということを意味している。
 海洋深層水資源は、離島のエネルギー資源の確保と農水産物の自給率向上にも寄与できる可能性があると信じている。