【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 埼玉県庁では、週3日以内の短時間勤務臨時職員については適用除外としてきた6か月間の雇い止め空白期間について、2011年4月から、適用の対象と決定した。臨時職員の9割以上がこの対象となり、臨時職員として働き続ける権利が大きく制約されることになった。神戸自治研でも報告した課題だが、その後の交渉経過において明らかになった当局の考え方を踏まえ、臨時職員雇い止めに対する運動の進め方を報告したい。



臨時職員の雇い止め強化に対するたたかい
―― 雇用者としての社会的責任を追及する ――

埼玉県本部/自治労埼玉県職員労働組合・書記次長 志々目千潮

1. 埼玉県庁での臨時職員雇い止め強化

(1) 問題発生の経過
 2011年4月1日、埼玉県人事課は、「採用期間が通算して2年を超える者は、採用しようとする日前6月以上の期間県に採用されたことのない者でなければ、採用することはできない。」という臨時職員取扱要綱を、「1月の勤務日が12日以内または1週の勤務日が3日以内の臨時職員の採用」にまで適用範囲を拡大する改定を行った。
 埼玉県庁の臨時職員の雇用形態は、1995年頃まで、5か月勤務+雇い止め空白期間1か月+5か月勤務がセットとなり、雇用期間中はフルタイムの勤務をする形が一般的だった。臨時職員としてさらに働こうとする場合は、6か月の雇い止め空白期間を置かなければならなかった。ところが埼玉県内のある自治体が同様の雇用形態をとっていたところ、社会保険料を負担していなかったために行政庁の指摘を受けるという事態が発生した。埼玉県庁内には社会保険負担を行っていた所属所もあったが、そうでない所属所には、違法状態の解消が求められた。ただし当局の認識は、違法状態を解消したいが負担増は避けたいという事なかれ主義に立っていた。このことをきっかけに、合法的に社会保険料を逃れるために月あたりの雇用日数を制限する雇用がひろがった。
 このような経過を経て、1月の勤務日が12日以内または1週の勤務日が3日以内という短期日数の臨時職員の雇用が主流となった。2010年の時点では、埼玉県知事部局(定数7,005人、当時)に対し、708人の臨時職員が雇用されており、そのうちの94.2%が週3日以内である。

2. 埼玉県職員労働組合としての対応

(1) 自治研への参加
 埼玉県庁での臨時職員雇い止めの強化は、2011年4月1日から臨時職員取扱要綱の改定として発効した。この時期から推察し、2009年4月26日付けの総務省通知を曲解したものと理解するのが自然だと考えられる。制度を改定しなければならない問題がどこかの職場で発生したという情報は得ていないし、交渉における追及でも回答がなく、理解できなかった。
 そうではあっても、県内の自治体に同様な臨時職員雇い止めの制度がひろがってはならないことは当然である。この事情を説明する資料を作成すること、今後の組織内での交渉を進めるための整理を行うことを目的として、2012年10月19日から21日にかけて神戸で開催された自治労自治研全国集会に自主レポートを送り、分科会において発言も行った。

(2) 運動方針化
① 組織内での検討
  2011年4月1日の臨時職員取扱要綱の改定は、非正規労働者の雇用安定を旨とするパート労働法の趣旨に反するものであると考えられる。このような考えを許すことは、現状で臨時職員の組織化ができていないとしても、労働組合として認められない。この点について定期大会の中で確認し、運動方針に反映させてきた。
② 運動方針の内容(関連部分抜粋)
  2013年10月12日の埼玉県職労定期大会では、ディーセントワークをめざす運動のなかに位置づけ、次のとおりの方針を決定している。

 臨時職員取扱要綱の改正についての交渉経過では、当局側の非正規雇用労働者の労働条件改善を求める回答を引き出せませんでした。同様に行政改革プログラムに関する交渉などから、最低賃金法や労働基準法に抵触しなければよいという姿勢からは、委託業務労働者への責任感覚の欠如も明らかになっています。
 県職労では、県庁という公的機関においては、公正な雇用と労働を構築しなければならない使命があると考えています。公的機関の雇用者責任の中心には労働ダンピングへの歯止めがあることを当局に認識させるために、団体交渉や情宣、自治労組織内の共闘活動を進めます。具体的なディーセントワークの構築をめざす活動の目標は次のとおりです。 
1 ILO「パートタイム労働者の労働条約」及び「短時間労働者の雇用管理改善等に関する法律」(パート労働法)の趣旨を尊重するための具体的対策を県庁の雇用管理として制定することを求めます。
2 臨時職員の継続雇用期間を最大2年に制限する臨時職員取扱要綱の改正(平成23年3月30日付)について、改正条項の撤回を引き続き求めます。
3 臨時職員の9割以上が週30時間以内の雇用で、社会保険の適用を受けていません。このような職員をこれほど多く雇用していることは、組織的な社会保険適用のがれであり、コンプライアンスの姿勢に欠けています。この状態の改善を求めます。

3. 団体交渉の実施

(1) 2012年賃金確定交渉までの状況
 2011年5月27日、この問題での交渉を行ったが、なぜ不利益変更を一方的に行ったのか、理由がわかる説明は行われなかった。
 当局側は、交渉なしに実施したことについて改善を約束したが、さかのぼって臨時職員取扱要綱の改定を見直すわけではなかった。このため私たちは、2011年、2012年の賃金確定交渉において臨時・非常勤職員の処遇改善について要求を掲げ、回答を求めてきた。
 しかし、後述するように、当局回答は要求書で求めたものとはほど遠いものだった。雇用という社会的行為を担う主体としての責任を持つ意識が見られないものであった。膠着した状態ではあったが、当局の認識を改めなければならない状況が続いた。

(2) 2013年賃金確定交渉での要求内容
 この問題での交渉埼玉県職労では、私たちの要求書そのものは正当なものであり要求項目は変更しない。しかし、当局から前進的な回答を得るために交渉経過のなかで納得できる説明を要求する方針非正規雇用の不安定さを助長するような行動に制限をかけたいとして回答を要求した項目のうち、『ILO「パートタイム労働者の労働条約」及び「短時間労働者の雇用管理改善等に関する法律」(パート労働法)の趣旨を尊重すること。』について、回答がないままだった。要求項目の骨子は次のような内容だった。
 ① 臨時・非常勤職員の雇い止めを行わないこと。
 ② 臨時・非常勤職員の任用期間を1年未満とする取扱を廃止すること。
 ③ パートタイム労働法の趣旨を尊重し、均等待遇へ向けた条件整備を行うこと。

(3) 当局の回答
 2013年の賃金確定交渉での当局回答は、従来の回答から踏み出すことのない内容だった。文書回答の全文は次のとおりである。

 臨時職員は、業務の補助等にあたるものとして、1日を単位として採用されるものです。その職は、職務の性質上日々交替しても業務に支障をきたすおそれのない職です。
 また、臨時職員は任用期間を5月未満として、業務の性質に応じて採用し、任期の満了となって退職となるものです。任期の終了後、再度、同一の職に任用されることがあったとしても、それはその職の必要性が吟味された上で「新たに設置された職」と考えています。したがって、臨時職員として繰り返し任用されていても、再度任用の保障のような既得権が発生するものではありません。
 なお、臨時職員の職については、より多くの県民の方に応募していただけるよう、任用の機会における公平性を高めるなど、広く県民に対し開かれたものにしております。
 ただし、勤務課所によっては地域性や業務内容などから人材が集まらず業務に支障が生じる可能性があることから、公募をしても人材が集まらない場合は、退任者を引き続き1年を限度として採用できる取り扱いにしたところです。

(4) 再度の回答を要求
 回答の内容は、従来の主張を繰り返す、「再び任用されたとしても新たに設置された職との認識に立つ」雇用を担う主体としての責任についての意識を欠いたものであった。私たち埼玉県職員労働組合は組織率が極めて低く、賃金確定交渉は基本的に3回の交渉で決着を迎えざるを得ない。再任用者の給与格付け問題など重要な課題を抱えていたが、どのような回答が必要なのか、交渉前の執行部当局のやりとりの中で事前説明し、2013年12月2日の最終交渉における回答を要求した。
 回答を求めた内容は次の項目で、
 ① 雇用機会の公平性の論拠は「労働者の入れ替え」に過ぎず、失業のたらいまわしであるという認識はないのか。
 ② 臨時職員の雇用は、「県民サービス」として設定されているという認識なのか。
 ③ ②の回答がイエスの場合、そのよう臨時職員の採用が必要なのか。
 ④ ②の回答がノーの場合、回答そのものの認識が間違っていないか。
 当局回答における雇用者責任を問うものであった。

(5) 最終的な当局回答
 当局の回答は私たちの要求した項目に即応したものではなかったが、パート労働法の考え方についての県としての姿勢が示されたものにはなっている。最終日の回答は以下のとおりである。

 臨時職員は、任用期間を原則5月未満として、業務の補助等にあたるものとして、1日を単位に採用されるものです。
 そもそもパート労働法は、地方公務員を適用除外にしていますが、仮に法の趣旨を踏まえたとしても、臨時職員の職務の内容は正規職員と著しく異なることから、賃金などの均等待遇の対象からは除かれるものと考えております。
 臨時職員は任用期間を原則5月未満として、業務の性質に応じて採用し、任期の満了によって退職となるものです。
 任期の終了後、再度、同一の職務内容の職に任用されることがあったとしても、それはその職の必要性が吟味された上で「新たに設置された職」と考えています。
 臨時職員として繰り返し任用されていても、再度任用の保障のような既得権が派生するものではありません。したがって、不当な雇止めには当たらないと考えています。
 また、臨時職員は、任用期間の満了により退職となるものですが、退職にかかるトラブル防止のため、任用する際には、制度に関する説明を十分に行っているところです。今後とも部局を通じてこれらの周知、指導に努めてまいります。
 なお、皆さまから御意見やお考えをお聞きすることもあり、ご意見として受け止めさせていただいております。

 内容の酷さはともかく、パート労働法の適用に関して当局回答を引き出すことができたこと、雇い止めの解釈についての見解も明確になってきたことは、次のステップへの足がかりとなるものと考えられる。
 また、臨時職員の雇用を「県民サービス」としてとらえていいのかという問題については積み残しとなった。過去の回答では「広く県民に雇用機会を提供するため」としていた。基本的な考えに変更がないためかもしれないが、交渉のなかでは「国の制度検討の動向を注視するとともに、社会情勢の推移に的確に対応していきたい」との回答もあった。当局としても、雇用を県民サービスととらえる考え方には無理があることに気がついているのかもしれない。

4. これからの運動をどう進めるか

 賃金確定交渉では、パート労働法の臨時・非常勤職員への適用を否定するような回答があった。それでも、単に否定しているだけでは社会的責任に配慮がないことを指摘されると感じたのか、「国の制度検討の動向を注視するとともに、社会情勢の推移に的確に対応していきたい」との回答も得ることができた。
 地方公務員がパート労働法の適用から除外されていることが法の趣旨の尊重をないがしろにしていいという理由にはならない。また、職務の内容が正規職員と異なるとしても、それが安定した雇用の構築から排除される理由にはならないだろう。
 神戸自治研では、「次回の自治研集会では勝利の報告ができるように、単組に帰って活動を続けることを誓い、本報告の結びとしたい」と報告を締めくくったが、十分な報告ができないのは残念である。しかし、当局側の理論構成が社会的に認められるものではないことは明らかだ。様々な手段、機会を捉えて論戦を続けていきたい。