【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 私の故郷である福井県大野市は、"とんちゃん"というソウルフードがあり、このとんちゃんをこよなく愛する市民有志で結成されたのが「越前おおの"とんちゃん"を愛でる会」です。本論文では、愛でる会のメインイベントである「越前おおのとんちゃん祭」に関することや、その他の活動について報告をします。



ソウルフード"とんちゃん"でまちづくり
―― とんちゃんでまちを盛り上げる ――

福井県本部/大野市職員労働組合 垣崎 潤也

1. 越前おおの"とんちゃん"を愛でる会について

 まず、初めに"とんちゃん"とは、牛または豚のホルモンを味噌・醤油・にんにくなどで味付けした味噌味ベースのものを言い、大野市では、昔からよく食べられてきました。食べ方は二つに分かれ、網で焼く「焼き」とフライパンで煮込む「煮込み」に分かれます。焼肉店で食べる際は焼きですが、家庭で食べるときは煮込みが多いです。煮込みには野菜を入れたり、うどんを入れたりするのが特徴で、大野のとんちゃんが味付きで売っていることも、「煮込み」が生まれた理由と言われています。なぜとんちゃんが大野という土地に根付いたのかははっきり分かっていませんが、親戚や友人などと集まるととんちゃんを食べるなど、人が集まるところにとんちゃんありというのは、大野市のどこでも見られる光景です。まさに、大野のソウルフードなのです。
越前おおのとんちゃんを愛でる会メンバー
 越前おおの"とんちゃん"を愛でる会(以下愛でる会)は、2010年度に大野市が主体となって開催された越前大野城築城430年祭の際に結成されました。そして、この築城430年祭の市民自主事業として行ったのが、「越前おおのとんちゃん祭(以下とんちゃん祭)」です。当初は、大野青年会議所に市民自主事業として何かやらないかと相談があり、そこから市内の他青年団体と共に話し合いを行った結果、とんちゃんをメインとしたイベントを行うこととなりました。
 愛でる会は20代から40代までの40人のメンバーで構成されています。メンバーの職業は、電気、印刷、酒屋、銀行、公務員など様々で、とんちゃん祭の際はメンバーそれぞれが自分の得意分野で活躍します。これだけの数のメンバーが集まったのも、大野市を盛り上げたいという思いを持つ若者が大野には多くいるからだと思います。

2. 越前おおのとんちゃん祭について

 越前おおのとんちゃん祭は、全国からご当地ホルモン料理店を招き、来場者に箸で投票してもらいホルモン日本一を決めるという内容で開催しています。出展には、ホルモンを使用しているということのみが条件で、調理方法や味付けなどにルールは設けていません。全国的にもこのように一つの食材に特化したイベント形態は珍しいようで、多くのメディアにも取り上げていただきました。
 とんちゃん祭の準備は、例年3月頃から始まります。メンバーは出展者に関することを担当する出展部、会場設営等を担当する運営部、PRや企画を担当する企画広報部の3つの部に分かれそれぞれの担当業務を行います。準備内容は多岐に渡り、また、とんちゃん祭の規模も回数を重ねる内に大きくなったため、準備も大変になりました。
 とんちゃん祭の準備で、一番苦労するのがこの出展者集めです。特に第1回目の際にはかなり苦労しました。インターネットで、全国のブロックごとにお店の抽出を行いダイレクトメールで出展依頼を行って、反応があったお店に電話をして説明を行いました。しかし、第1回目ということで実績がないため、来場者の見込みも分からない、「何食用意すればいいか」というお店からの質問にも答えられない状況でした。お店からすれば、売上の見込みが無いと出展が難しいということは当然ですので、そういった状況の中で出展してくださったお店の方々には本当に感謝しています。第2回目以降は、回数を重ねるにつれ認知度も上がってきたので、出展依頼もスムーズに行えるようになってきましたが、それでも目標出展者数に届いたことは無く、イベント実施の難しさを痛感します。これまで、北は秋田県、南は福岡県、その他東京都や大阪府など遠方から出展をしていただきました。中には、お店を休みにして、社員旅行も兼ねて出展してくれた出展者もいました。出展者の方も、時間と労力を掛けて出展してくれているので、とんちゃん祭当日行列が出来ているのを見ると、本当に嬉しい気持ちになります。
 また、とんちゃん祭当日は愛でる会メンバーだけでなく、運営ボランティアの協力をいただきながら運営を行っています。運営を重ねて、ノウハウは蓄積されてきたので、運営自体はスムーズになってきてはいますが、最終的には人手が必要です。1日延べ60人程の人手が必要なので、運営ボランティアの方々無しではとんちゃん祭の運営は出来ません。運営ボランティアでは、大野市職員労働組合青年部や、市内各団体の方々、その他個人的に参加してくださる方もいます。このとんちゃん祭は多くの方々の協力があって初めて開催できるのだとつくづく実感しています。
 2010年に第1回を開催したこのとんちゃん祭も、今年第5回の開催を迎えます。毎回来場者数は2万人を超え、昨年の第4回では過去最高の28,000人の来場者数を記録し、現在では、大野市の一大イベントと呼ばれるまでに成長しました。これまでのイベントになったのは、決して愛でる会だけの力ではなく、多くの方々の協力があったからこそだと思います。多く方に支えられ、その中心としてとんちゃん祭を行えることを誇りに思います。

第4陣越前おおのとんちゃん祭の様子 ホルモン日本一に輝いた大阪府「まつい亭」

3. その他の活動について

 愛でる会ではとんちゃん祭実施のほかにも、雑誌やテレビなどの取材対応や、市外のイベントに愛でる会として出展し、とんちゃんにうどんを絡ませた「とんちゃんうどん」の販売などを通して、市外の方々に大野のとんちゃんを知ってもらえるよう年間を通して活動を行っています。
 また、市外から来られた方にどこでとんちゃんを食べられるのかということが分かりにくいという問題点から、市内の焼肉屋や居酒屋などとんちゃんを提供している店舗をまとめた「とんちゃんMAP」を作成しました。作成の際は、これまで行ったことのなかったお店や、知らなかったお店も多くあり、メンバーも勉強になった点が多々あったと思います。最初は、紙媒体で作成をしましたが、現在は、ホームページ上で見られるようにし、さらに内容を充実させたものとなっています。
 その他に、大野市に来られる観光客は圧倒的に日中の時間帯が多いのですが、昼食でとんちゃんを食べられる店舗はほとんどありませんでした。そのため、昼食でも食べられるとんちゃんの新メニューをお店にお願いしようということになりました。お店に新メニューを開発してもらい、広報は愛でる会が行うというフローで依頼を行い、2店舗で新メニューを開発してもらいました。評判も上々のようで、もっと新メニューが増えてくると良いと思います。
 このような活動を通して、とんちゃんを気軽に味わうことの出来る環境が整ってくれば、リピーターも増えると思います。これまでは、とんちゃんと言いながら昼に食べられる場所が無かったことや、どこに行けば良いのか分からないなど、せっかくのチャンスを無駄にしてしまっていた部分があると思います。そういった部分を愛でる会で何かできれば、もっと多くの方々に大野を訪れてもらえるようになると思います。また、これからの課題としては、市内の各店舗を巻き込んだ取り組みが出来ていないという点です。正直、現在は愛でる会が単独でとんちゃんのPRをしているという状況で、店舗と協力してということはありません。もっと、店舗と協力しながら大野のとんちゃんをPRしていけばより効果的になると思いますし、気運も愛でる会止まりではなく大野市全体に広がっていくのではないかと思います。

越前おおのとんちゃんMAP
 
新メニュー開発第1弾「とんでるセット」   新メニュー開発第2弾「トリッパのローマ風」

4. 愛でる会の活動を通して

 私自身、この愛でる会のメンバーとなり、行政や企業が主体ではなく、市民団体が主体となってイベントを行うことの大変さや、逆にみんなで力を合わせれば何とかなるということなど、色々なことを経験・勉強させてもらいました。また、愛でる会を通して、多くの人と知り合うことができました。愛でる会のメンバーでなければ、出会えなかった方もたくさんいると思います。とんちゃんを通して、すばらしい仲間と出会えたことを幸せに思いますし、これからもこの繋がりを大切にしていきたいと思います。
 「とんちゃん祭」を企画し、出展者と交流していると、焼肉屋の売上向上のために活動しているのかと聞かれることがあります。ただ、愛でる会のメンバーには焼肉店の関係者は一人もいなく、自分たちには直接利益はありません。しかし、このような活動を続けられているのは、メンバー一人一人が大野市を盛り上げたい、良くしたいという熱い想いを持っているからです。それを市民の方々が理解してくれて協力してくれる、それがとんちゃん祭をここまでのイベントにすることが出来た理由だと思います。
 これからも愛でる会としての活動は続きますが、更に大野市を盛り上げられるよう努力していきたいです。