【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 公園経営の取り組みの1つである「なごやかベンチ事業」。他都市では10年以上前から類似事業が行われているが、事例を比較検討することで、より喜ばれる商品(制度)を設計することができた。本レポートでは、寄附を単に「お願いする」ものとして捉えず、市民が持つ「想いに応える」ことをテーマにした一連の過程を示すとともに、事業を企画・実践していく上でのキーワードをまとめている。



市民の想いを生かす公園経営
なごやかベンチ事業

愛知県本部/自治労名古屋市連合労働組合・土木支部・
名古屋市緑政土木局緑地部緑地利活用室 加藤  拓

1. はじめに

主人とは桜を、友人とはバラをよく見に来ました。
多くの人がやすらげますように。
鶴舞公園のファン

 これは、「なごやかベンチ」に寄せられたメッセージの1つである。メッセージには寄附者の名前を入れることが可能であるが、この方は匿名で「鶴舞公園のファン」としている。メッセージにあるように、鶴舞公園に対してとても愛着を持っていることが伝わってくる。このような心あたたまるメッセージが、新しいベンチ50基とともに名古屋を代表する公園に誕生した(図1参照)。
図1「なごやかベンチ」
 寄附ベンチ事業については、2012年6月に公表した「名古屋市公園経営基本方針」に基づく事業の1つであるとともに、「東京都に負けない事業をすること」かつ「単なるマネではなく名古屋市のオリジナリティを出すこと」が求められていた。
 先行事例である東京都の「思い出ベンチ事業」によって設置されたベンチを実際に見に行くと、日比谷公園、代々木公園、井の頭公園、上野公園と、気がついたら合わせて100以上の寄附者のメッセージを写真に収めていた。東京都の事業の目標の1つとして「公園を訪れた人たちは、メッセージに興味を持ち、公園を楽しみながら散策する」とあるように、1つ1つのメッセージを見て歩くだけで楽しかった。子どもへ、親へ、亡くなった大切な人へ、短いメッセージであるがその背景にある想いが伝わってくるメッセージが多いのに気がついた。
 なごやかベンチ事業は、市民や事業者の方からの寄附によって都市公園にベンチを設置するもので、寄附いただくベンチに、寄附者のメッセージを記したプレートを取り付ける事業である。本稿は、なごやかベンチ事業について一連の記録と考察を記すものであるが、新たな公園経営の取り組みを企画・実践していく上で少しでも参考になれば幸いである。


2. 課題の整理とテーマ設定

(1) 課題とマーケティング
 公園経営の視点に立った考え方では市民・事業者・行政がwin-winの関係になることが望ましい。名古屋市ではこれまでも物納によりベンチの寄附を受け入れる事例はあったが、市から広く呼び掛けて3者をつなぐ事業として企画することはなかった。なごやかベンチ事業はこの点で、公園経営の考え方に沿った取り組みで、事業効果の目標となる3者のメリットを整理すると表1のようになるが、このメリットをどのように実現させるかが課題であった。
 日本においてメッセージ付きのベンチを大々的に募集したのは、2003年度に東京都が始めた「思い出ベンチ」事業である。東京都の成功を受け、全国の自治体でも同様の例を見ることができる。各都市で少しずつ異なる特徴があるので、事例を比較検討することで課題解決に向けて何かヒントを得られるのではないかと考えた。
 比較のポイントはマーケティングの観点から、①商品開発に関すること(寄附の募集単位、ベンチやプレートのデザインなど)、②営業・広報に関すること(寄附商品の販売やPR方法)の2点とした。それぞれの内容を簡単にみると次のようになる。
表1 目標とするwin-winの関係

事業者

寄附者
(企業)

CSR活動の一環としてイメージアップ
できる。

ベンチの
製造業者

ビジネスチャンスの拡大。

市民

寄附者
(個人)

自己表現の方法の1つ。社会や子どもたちに貢献できるという充足感。人生の記念、家族への思いを表現できる。

公園利用者

きれいなベンチを利用することができる。

行政

公園への愛着や関心を持ってもらうきっかけづくり。
財政状況が厳しい中、ベンチの購入費を節約することが可能になる。

 まず1点目の商品開発のうち、寄附の募集単位の違いについてである。例えば、東京都ではベンチ1基を1口の単位として募集をしているが、広島市ではベンチ1基を40口分(1口1万円)に細分化して募集をしている。
 次に、ベンチやプレートのデザインに関してである。東京都のベンチは寄附ベンチ事業用のオリジナルデザインであるが、他の都市の場合は大体がメーカーの既製品のベンチの中で少し高級感あるシンプルなものを使用している。全体を見ると飽きのこないシンプルなデザインの方が好まれる傾向にある。
 ベンチ本体同様、プレートも様々なものが使用されている。東京都のように真鍮製で文字がしっかりエッチングされたものから、ステンレス製でやや簡易に見えるプレートまでデザインも多様である。
 2点目の営業・広報に関しては、寄附商品の考え方やPR方法の違いである。寄附ベンチ事業を行うほとんどの都市ではベンチのみの寄附募集を行っているが、東京都江戸川区では他の公園遊具などと共にカタログ化している。また、東京都のようにしっかりとデザインしたパンフレットを用いてPRすることは少ないようである。
 以上のような違いが見られるが、名古屋市で効果的に事業を進めていくため、先行事例を参考にしながら望ましいテーマを検討し、設定したことについて次項で説明する。

(2) テーマの設定(寄附商品として求められるもの)
 この事業の特徴として、プレートに名前を記すことで寄附が「見える化」できることがあるが、合わせて寄附者に「喜ばれる」ことも必要である。この「喜ばれること」が、「プレートにメッセージを記せること」になる。
 さらに、公園のベンチからは、一緒に座ることができる、誰かを待つ場所になるというように、「自分」と「相手」が一緒にその「場」にいることが連想できる。これを上手く押し出せるような広報ができるかが鍵である。
 成功例と言える東京都の事例に戻って考えてみる。東京都は事業のネーミング自体が「思い出ベンチ」というように、「思い出」を表現できる寄附であることを示し、事業の入り口から寄附をしようとする人の心をつかんでいる。このことからも、寄附者が持っている思いを引き出すような工夫をすることが圧倒的に重要であると考えた。
 こうしたことを関係者と議論し合い、事業を通じ全体として大事にしたいテーマを次のように整理している。寄附を「お願いする」のではなく(もちろんそれも大切なのだけれども)、「市民や事業者の持つ想いを綴るサービスを創意工夫する」。


3. 具体的な取り組み

(1) 仕組み
 他都市の事例を比較検討した結果、東京都の仕組みが最も効果的であると判断し、なごやかベンチ事業の仕組みは東京都の事例をベースにした。

図2 なごやかベンチ事業における寄附申込からベンチ設置までの流れ

 寄附者からの申込みからベンチ設置までの一連の流れは図2に示すとおりである。特徴は、通常の寄附の受付と異なり、中間に一般社団法人日本公園施設業協会(中部支部)が存在するという事である。
 なごやかベンチ事業は、名古屋市と日本公園施設業協会との協働に基づく寄附受け入れの仕組みになっているが、全体を通しても表2で示したように両者の役割分担と連携で事業を効果的に展開できるように整理して進めた。その中でもなごやかベンチ事業のスタートにあたり、商品開発に力を注いでいる。

表2 役割分担

 

名古屋市

日本公園施設業協会(中部支部)

商品開発

・事業の制度設計
・ベンチデザインの最終決定

・ベンチ(デザイン)の設計
・製品仕様の品質管理

営業・広報

・広報および営業

・パンフレット等の広報媒体の作成
 (費用負担)
・広報および営業

受付

・寄附申込みの受付、対応
・申込み内容の審査および寄附受領の決定

・寄附代金(ベンチ代金)の収受

設置・管理

・ベンチの維持管理/寄附者名簿の管理

・ベンチの製造および設置工事

※ 日本公園施設業協会には遊具や公園施設を製造するメーカーが加入している。公園経営基本方針を公表し、広く民間から公園経営の事業提案を受け付けているところ、協会から東京都の「思い出ベンチ事業」など関東を中心に取り組んできた「ハーティー・スポンサーシップ(寄附行為)事業」について提案があったため、協働が実現した。

(2) 商品開発
① ベンチの選定
  ベンチのデザイン募集が日本公園施設業協会で行われ、会員各社からの提案を市が審査することとした。ベンチの評価は、「①デザイン」「②価格」「③メンテナンス」「④基礎構造」「⑤(①~④の)総合評価」の5項目に基づき審査を行った。
  最終決定の前には、提案製品の設置事例の現地確認を行った。座り心地や色合い、素材の質感、劣化の状況を実際に確かめることによって、より慎重な選定を行うとともに、提案資料ではわからない部分を確認することができた。採用したベンチは、他の提案ベンチに比べてよりデメリットが少ない、特にメンテナンスや基礎構造の面でより不安がないものである。
② メッセージプレート
  メッセージプレートは寄附者の想いを表現するものだから非常に重要である。東京都のメッセージプレートが「150mm×55mmの真鍮製」にとなったのにも理由がある。真鍮製なのは他の素材に比べて「目立ちすぎず落ち着いているから」であり、サイズは「大きすぎると格好が良くない」からである。名古屋版を検討するときにいくつかのプレート見本を見比べたが、自分が寄附する立場で考えると、結局のところ東京都と同じものが一番立派で相応しいと判断した。
  プレートの素材やサイズは同じであっても、名古屋独自のものとして絵が描けないか? ということとなり、シンプルで愛嬌のあるなごやかベンチ用のシャチホコ(図3)を自ら描いた。ベンチは既製品ではあるが、少しでもオリジナリティのある名古屋らしいものを作りたい、寄附をする方に喜んでもらいたいという想いがここにある。
図3 なごやかベンチのメッセージプレート
③ 税務署への確認
  事業の仕組みづくりで最も注意したのが「寄附金控除」に関する税務署(国税局)への確認である。通常、地方公共団体への寄附については、確定申告を行うことによって寄附金控除の適用を受けることができる。しかしながらこの事業において疑問となるのは、寄附金を市が直接寄附者から受けず、日本公園施設業協会を間に通す点である。同じ仕組みである東京都においても税務当局の確認を受けており、名古屋市でも同様に認められるか名古屋国税局へ確認する必要があった。
  確認に向けた相談や調整に3か月以上を要したが、結論としてベンチが公園利用者に供されることや、記念プレートが広告に当たらないこと、名古屋市が寄附を受けた事実として物件受領書を寄附者へ発行することなどから、寄附金控除の適用を受けられる旨の回答を得ることができた。
  また、合わせて工事費も寄附金額に含めることができるかも確認している。東京都の場合はベンチの製品代のみであったが、名古屋市の場合は設置工事費も寄附金額に含めることを検討していたためである。


4. 寄附の募集開始と反響

 第1期の設置対象は、名古屋市が設置した第1号の都市公園であり、また、市政アンケートにおいて「一番好きな公園」として最も多くの市民が答えた鶴舞公園で募集を行った。募集期間は2013年2月1日から2013年6月28日までの5か月間、価格を背付きベンチ195,000円、背無しベンチ145,000円に設定した。申請書は、寄附者の利便性を考え、窓口への持参や郵送のほか、ファックスや電子メールでの申し込みも可能とした。
 広報は、市長定例記者会見による発表をはじめ、市政番組での宣伝、ベンチやプレートの実物展示など可能な限りのことを行った。また、パンフレットは市の監修のもと日本公園施設業協会により制作され、配布PRを市と協会で連携して行った。マスコミ等の反響も良く、新聞記事への掲載もラジオ番組への出演依頼なども得ることができた。

表3 寄附者の属性

年齢

件数

80代

9人

70代

3人

60代

1人

50代

2人

40代

4人

30代

2人

企業等

9件

 こうした努力も実り、30基の目標に対して、背付きベンチ44基、背無しベンチ6基の計50基の申し込みをいただくことができた。寄附者の内訳は表3のとおりで、60歳代以上の高齢者からの申込みが多く、特に80歳代の女性から多くの申し出があった。お話を伺うと、鶴舞公園での思い出や、お世話になった我がまち名古屋市にお返しをしたいという言葉を頂戴した。比較的若い世代の寄附者のメッセージには、子どもや家族へのメッセージ、結婚を祝うメッセージなどが寄せられた。
 また、メッセージが上手く作文できないという方からの相談には、寄附の動機や公園への想いを聞き取りし、文案をこちらで作成することもあった。このような特別な例でなくとも、プレートへの記載完了イメージを送付し確認いただくなど、寄附者とのやり取りを丁寧に進めるよう心掛けた。
 ベンチの現地設置完了の報告と寄附への感謝を伝えるため、鶴舞公園の納涼まつりの日に合わせ寄附者を公園に招待し、ベンチで記念撮影会を行った。事務的には物件受領書を送付すれば完了であるが「市民や事業者の持つ想いを綴るサービスを創意工夫する」というテーマからしても感謝を形にしたいと考えた。後日、物件受領書と一緒に撮影した記念写真(欠席された方へはベンチの写真)とそれぞれのメッセージプレートの写真をお送りした。ちょっとした工夫ではあるが、わざわざお礼の電話をいただくなど喜ばれるサービスとなった。
 後日、鶴舞公園のなごやかベンチの様子を見に行くと、たくさんの人がそれぞれ思い思いに居心地の良いベンチを見つけて座っていた。公園を愛する市民・事業者・行政の3者がつながる「なごやかベンチ」となった。

5. おわりに

 なごやかベンチ事業は、東京都の思い出ベンチ事業をベンチマークとして開発した事業である。そこには単に真似をするというだけではなく、なぜ成功したのか、換言するとなぜ寄附者に受け入れられたのかを考えたからこそ多くの寄附者に賛同いただけたのではないだろうか。快適なベンチを提供したいという行政職員の気持ちだけでなく、公園に対する市民や事業者の気持ちを表せる「思い出になる商品」にできるかがポイントであった。
 寄附を「頂いている」にも関わらず、「ありがとう」と感謝される事業。この「ありがとう」は寄附の事業に対してではなく、鶴舞公園での思い出、あるいはこれまでの名古屋市に対する感謝としてのあらわれであると受け止めている。
 単なる公園のベンチ1つを捉えても、人をつなぎ、愛着を持つ仕組みをつくることができた。公園経営基本方針の基本理念にある「利用者満足度の向上と名古屋の魅力アップ」は、とても大きなことを言っているように感じるかもしれない。しかし、日常業務のちょっとしたアイディアや工夫の積み重ねを続ければ、そして、正しいマーケティング感覚を持ち、ニーズを探る努力を忘れなければ実現できるのではないか。なごやかベンチ事業はそれを強く感じさせてくれた。
 最後に、この経験を今後活用していくためにポイントを3つ記しておく。新たな公園経営の取り組みを企画・実践していく上で少しでも参考になれば幸いである。

①「見る・学ぶ」 現場を見て、先行事例を研究することで改善点が見えるかもしれない。
②「挑戦」    やってみて初めて分かることがある。動かないと始まらない。
③「想いの共有」 応援しようとしてくれる人、想いを持つ人(ファン)を見つけ前向きに。