【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 京都市では、区役所における税務組織の見直しを進めようとしています。区支部の組合員で組織する区連では現在、当局側となる区長会と交渉を行っております。過去からの組織の流れや交渉の経過を振り返り、市民に最も近い窓口で働く職員の視点から、公共サービスとしての税務業務のあり方について検討しました。



公共サービスとしての税務業務のあり方について


京都府本部/自治労京都市職員労働組合・常任執行委員 田中 治雄

1. はじめに

 自治労京都市職員労働組合では、11区役所・3支所に支部を設置しており(11支部(支所は区に属する。))、区支部に所属する組合員で構成する区支部連絡協議会(略称「区連」。1990年6月15日結成。)を結成し、区における共通の課題の解決と、区支部に所属する組合員の労働条件の改善をめざして、精力的に運動を進めています。
 区連では主に、各区・支所の区長で組織された区長会を当局側として交渉を行っており、例年3月~4月にかけては、要員闘争と称して、毎年度の人員体制等について交渉を行うとともに、その他にも、労働条件等に関わる重要な事項があれば、その都度協議し、課題解決に向け取り組んでいます。

2. 経 過

 2014年1月、区連は、区・支所の税務組織の見直しについて、区長会から提案を受けました。
 本市では、各区・支所に固定資産税課・市民税課・納税課の3課を設置しておりますが、本市の税務職員数は、他の政令指定都市と人口比で比較した場合、依然として他都市平均を上回る状況にあることから、市民サービスや業務遂行への影響を考慮しつつ、税務行政の水準の維持・向上を図るとともに、更なる効率的な執行体制の確立に向けた検討を進めてきたとして、税務組織の見直しを図りたいとの内容でした。
 本市では、これまでも、様々な手法を用いて、税務組織体制の見直しが進められてきました。
 自治省が定数管理に使用していた数理統計学上の手法を利用した回帰直線による配置基準の見直し、区・支所だけでなく本市全体で計画された定員適正化計画、いずれも区・支所全体の体制の見直しであり、当然に税務職場の体制にも影響がありました。法人市民税や個人市民税(特別徴収分)、軽自動車税、固定資産税(償却資産税)、還付事務等に係る業務等の集約化が実施され、それら集約により区・支所から本庁へ職員が引き上げられました。
 さらには、煩雑な事務の効率化を図るために、市民税課税支援システム、滞納整理支援システム、固定資産税課税支援システムが導入されました。それぞれ、導入当初は不具合等により業務に支障を与えるほどの状況でしたが、改修や職員の習熟度が増してくるうちに、システムは安定稼働するようになり、導入から数年を経過後には、その導入の費用対効果を名目として、各区・支所一律に人員削減が進められました。
 以上のような労働条件に関わる組織体制の見直しは、その都度、区長会からの提案を受け、交渉、協議を進めています。区連としては、効率化を図ることについて反対をする立場ではなく、効率化により生まれた余力を、これまで対応しきれていなかった市民サービスに生かしていくべきという観点から交渉にあたってきました。業務集約やシステムの導入等により、確かに一定の事務は軽減されましたが、集約しても受付等の窓口は区・支所に残されているなど、引き続き対応が必要となる業務も多くあり、そのうえ、当然ながら、窓口や電話応対などの市民との折衝は、システムがやってくれるものではないため、やはり職員が必要となります。税の制度は年々複雑になってきており、市民への説明には、長時間を要することも増えてきています。より早く、より丁寧に、より確実に市民に対して説明責任を果たすために、効率化を利用すべきと交渉では訴えてきましたが、結果的には、費用対効果を全面的に押し出してくる当局側の言い分から、昨今の公務員を取り巻く情勢もあり、人員削減が押し進められ、少なくなった職員数で対応していかざるを得ない状況となりました。
 職員数が少なくなった現場で働く職員は、市民応対と事務処理に追われる日々の中、現行の体制に限界を感じ、これ以上の人員削減が進められるのであれば、抜本的な組織体制の見直しが必要だと思うようになりました。組合員から、他都市の多くが進めてきている市税事務所にはいつなるのかと、何の提案もされていない時期から、たずねられることも少なくありませんでした。
 本市の市税収入は、一般会計の30%強を占め、歳入総額のうち最も大きな財源となっています。市民に納めていただく市税は、貴重な自主財源として、様々な事業を推進する原動力となっており、適正かつ公平な課税と徴収の業務を推進していくことは、公共サービスに直結する重要な業務となります。税職場に携わる職員としても、そのように意識をもって日々業務を進めておりますが、一方で、自主納付、納税の義務があるとはいえ、税金を納付することは負担であると感じられる市民も多く、税務に関わる業務については、公共サービスであるとはとらえられにくい側面もあります。特に、税負担の公平を保つために差押等の滞納処分を行う徴収業務については尚更で、そういった面では、公共サービスの最前線である区役所に、税職場を設置する必要性があるのかという考え方も生まれます。
 区連では、毎年開催される自治労大都市共闘区役所部会に参加しています。第1分科会では、「税務関係業務における課題について」をテーマに各都市の状況報告と意見交換を行いましたが、市税事務所を数年前に設置している各都市の報告では、設置当初は場所が遠くなった等の苦情が多く市民から寄せられていたが、数年(3~5年)を経過するうちに市民も職員も慣れてきたからか、最近では特段の苦情等は言われなくなったとの意見が多くありました。
 市長選のマニフェストをもとに作成された「はばたけ!未来へ京プラン」の実施計画(2012年3月作成)には、「税務事務の集約化等さらなる効率的な執行体制の確立」とし目標削減数をあげています。
 京プランの内容については、労使協議を前提に進めることとなっています。区連としては、人員削減を認めるわけではないが、組織の見直しが必要であるならば、職員の労働条件の改善に繋がり、ひいては市民サービスの維持・向上を図るものとするために、様々な観点から綿密な議論を進めていくべきとして、早期に協議を進めるよう区長会に求め続けていました。しかしながら区長会は、結果的には何ら協議を進めることもなく、2014年1月になってようやく提案交渉を実施、2014年度中には市税事務所を設置し、賦課業務を集約、徴収業務は区役所に残したいとの内容の提案を行いました。
 課税の説明責任を果たさなければならない課税業務こそが市民に身近な区・支所に必要であること、課税と徴収が離れて業務を行うことは、市民サービスの低下を招くこととなるため、集約が必要であるならば徴収も一緒に集約すべきであること、また、既に多くの政令市で市税事務所が導入されているにもかかわらず、他都市では、ほとんど採用されていない徴収業務のみを区役所に残すといった組織体制であること等、問題点を指摘するも、明確な回答が得られないなど、区長会は、今後、協議を進めさせてほしいと言いながらも、方向性は変えられないと、誠意のない態度に終始したため、区連としては提案を受けることはできず、交渉は決裂となりました。
 交渉決裂後、2014年2月に、区長会から、「方向性が変えられない旨の答弁については撤回し、今後、集約の方向性は幅を持って考え、区連と十分な協議を行い、賦課と徴収の連携、他課業務との関連、来庁者をはじめ、業務・職場の現状を十分に把握し、よりよい内容を構築していきたい。」との申し入れを受け、区連として提案を受けることとなりました。
 その後、2014年5月、2月提案の基本的な考え方を踏まえて、見直しの具体的な内容の提案を受けました。

3. 提案概要

① 「市税事務所」の設置について
  2014年11月に「市税事務所」を設置し、現在の区役所・支所の税務組織を行財政局の組織とする。
  そのうえで、個人市民税(普通徴収)及び固定資産税(土地・家屋)の賦課業務を1か所に集約することとする。
  また、「市税事務所」に属する組織として、区役所・支所の庁舎内に「税務センター」を置く。
② 「市税事務所」設置に伴う集約について
  市民税課(課税課市民税担当)及び固定資産税課(課税課固定資産税担当)の職員については、「市税事務所」の設置と同時期に集約することを基本としたい。
  納税課の職員については、区役所・支所の庁舎内に設置する「税務センター」において、業務に従事していただくこととする。
③ 市民サービスの維持・向上について
  個人市民税及び固定資産税の納税通知書発送直後など、課税内容の問い合わせ等で窓口への来庁者が集中する時期には、「市税事務所」から職員を派遣して、各区役所・支所内に臨時相談窓口を設け、市民サービスを維持できるよう対応していく。
  また、それ以外の時期についても、集約後、しばらくの期間は、市民税業務及び固定資産税業務の相談要員を配置、派遣することを検討しており、可能な限り、「市税事務所」まで出向いてもらうことがないよう対応していく。
④ 他課業務との連携について
  福祉事務所、保険年金課をはじめとした区役所・支所の他課業務との連携については、関係局とも協議を行っているところであるが、提案後には、速やかに現場調査等を行って実態を確認し、市民サービスを低下させない方策(市税事務所、税務センターの相互の連携を十分に図って、相談に応じるほか、市民税の閲覧用端末を引き続き設置するなど)について検討を進める。
⑤ 選挙・防災体制について
  選挙や防災体制の確保については、現状の業務に支障のないよう、関係局と連携し、「税務センター」職員の区役所・支所への兼職等による対応を検討していく。
  区連では、提案を受け、固定資産税については、2015年度が3年に1回の評価替えの年であり、課税業務の繁忙期等の時期も含めて、2015年4月の縦覧期間が終わるまでは、集約は困難であること、臨時相談窓口に市税事務所から派遣される職員のあり方や派遣することによる課税事務に対する影響など、問題点を追求しました。また、この提案をもとに、各支部の組合員からの意見を集約し、今後の交渉につなげていくこととしました。

4. さいごに

 現在、各支部では、説明会や学習会等を開催し、意見の集約を行っているところです。今回の提案は、税務業務の公共サービスとしての位置付けを大きく変えることとなります。市民(区民)に最も近い窓口で対応している現場の職員の立場で、検討、議論していくことが必要であると考えます。
 税務組織の見直しについては、これから重要な局面に入ることとなりますが、さらに精力的に取り組みをすすめていかなければならないと考えております。