【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 呉市における現業職の新たな働き方と、監督職への登用に向けた取り組み



清掃職場における「職の確立」の取り組み


広島県本部/呉市職員労働組合 延岡 直則

1. 取り組みの主旨

 現場の職員が現場だけの業務に従事するのではなく、現場で得た経験や知識を行政施策の中に活かしていくことで、より住民に密接した現場環境、さらには現場で全ての業務が完結できる体制の確立を目的とする。
 また、職員一人ひとりが新たな働き方をすることで、業務に対する責任感やモチベーションの向上による職員育成、働き甲斐のある職場づくりにより結果として住民から必要とされる職場の確立も目的としている。

2. 取り組みの経過

 環境業務課では、長年にわたり市内全域を25~30程度のコースに分け、3t車、2t車、軽車両でコース収集を行ってきました。
 コース収集では、個々のコースの収集業務が主体となっており、現場で疑問に思ったことや収集中の住民からの問い合わせ等について事務所へ報告するのみで、自らが考え、解決に向けて取り組むことは無く、単純に収集業務のみを行う体制でした。
 このような体制では住民から必要とされる職場とは言えず、また、退職不補充により職員数が減少する中で、自らの職場を守り、生活を守っていくためにも抜本的な職場体制の見直しを行う必要がありました。
 抜本的な見直しを行うにあたり、職場討議や当局交渉を重ねてきました。職場討議の中では、「なぜ今のままではいけないのか?」「これまで通りではいけないのか?」といった本音の部分での意見が出されましたが、2012年3月に呉市交通局が民間移譲された事もあり、当局提案がされる前に自らが職場改革に取り組む事の必要性を組合員に強く訴え、コース収集からグループ収集へ切り替えることを確認しました。
 取り組みへの条件整備としては、これまで運転手・兼務・作業員といった職名をそれぞれの職階に合わせ、統括主任・主任・主任技術員と変更し、個々の事務分担を明確にしました。また、グループ収集を行う具体的な体制について労使協議を行い①各グループに担当地域を振り分け地域に責任を持った収集を行う。②グループリーダーとして連絡員、サブリーダーとして連絡補助員を配置し、新たな組織を構築する。③現場作業主体の業務から脱却し、現場で得た知識や経験を企画・立案の部門へ反映させる体制を構築するために、現場から3人程度管理部門への配置。以上3点について確認し、「新たな技能職」への取り組みとして進めてきました。

3. 現行の体制

 現場から管理部門への進出について体制的にも整備することができました。2013年4月より2人が管理部門へ専門員(係長級)として配置されています。現場を知る職員が管理部門へ配置される事で、今まで以上に管理・企画側と現場の連携強化を図る事ができました。この取り組みを継続的に進めるためにも2014年4月からも新たに1人が専門員として配置されています。さらに、グループにおいても連絡員・連絡補助員の入れ替え等を行いながら、組織としてもそれぞれの持ち場で職責に応じた責任を持った業務を行う体制確立に向け取り組みを進めています。

【現行の組織図】
※ 統括・A・B・Cグループ内にそれぞれ担当者及び班長を設置し、次の役割を持って業務を行っています。

(1) 連絡員・連絡補助員
 主にグループをまとめ、事務所及び各グループとの調整を行う。また、担当地区におけるステーション管理や地域自治会との事務折衝等、グループのリーダーとしての役割を担っています。また、毎月定例の連絡員会議や各種研修や地域との会合等、現場から外れた形での業務を主体的に行っています。
 連絡員・連絡補助員には3級(国公4級)到達者でないと任命できず、職階に応じた職責についても明確にするための基準も設けています。
 特に、A・B・Cグループの連絡員・連絡補助員経験者は、次期統括グループ及び管理部門への配置等も含め、今後の職場運営の中心的役割を担っていくべき人材として位置付けています。

(2) 地域班
 グループの担当地区における収集の運行計画や減量化に向けた住民啓発、ステーション管理等を主体的に行っており、グループによって独自性を持った取り組みを行っています。具体的には効率的な収集体制の確立を行い、新たな啓発業務の計画、ステーションにおける飛散防止ネットの修繕等で、啓発としては、近年多発する収集車の火災の原因となっている有害危険ごみ(ガスボンベやスプレー缶、ライター等)について、不燃ごみへ混入されている物を、収集作業時に抜き取り、啓発ステッカーを貼った袋に入れてステーションに置いて啓発活動をしています。
 飛散防止ネットの修繕については、現場で得た知識を活用し、より簡単に、より綺麗に片付けを行えるように工夫し、修繕及び改善を行っています。現在では、修繕されたネットを見た住民から、別のステーションの飛散防止ネットの設置や修繕依頼を受ける等、地域住民を巻き込んだステーション管理を行っています。

(3) 車両班
 グループにおける塵芥収集車の管理を行っています。以前は車両整備士を嘱託職員として配置していましたが、今年度より配置を行わず、車両班の車両主任者が中心となって管理を行う体制となりました。また、毎月1回の車両整備においては、各車両の担当者とともに整備を行い、各種消耗品や交換部品等の書類作成や、日常における故障・事故等においても書類作成等、毎月1回の車両主任者会議への参加等を行い、併せて故障車両によりグループ内の業務に支障をきたす場合は、円滑な収集業務を行うために各グループとの調整を実施しています。

(4) 労働安全衛生班
 環境事業所の労働安全衛生委員会の委員として位置付け、毎月1回の労働安全衛生委員会へ現場の意見を持って参加しています。また、職場における労働安全衛生に関連し、作業手袋、作業服、作業帽、安全靴等の配布、安全衛生月間及び週間におけるパトロールにも参加しています。公務災害ゼロに向けて出庫前のラジオ体操の徹底、作業服の確実な着用等への呼びかけや、現場における労働安全衛生への意識高揚等、多くの課題を解決していくためにも、さらなる充実が必要となっています。

4. 監督職の登用

 現場から監督職を出していくことは、現場と管理・企画側の連携を図るため、さらには職場内の組織を明確にするためにも非常に重要ですが、これまで現業職員のままで監督職として昇格した実績は無く、未知の取り組みでした。しかし、この間の「新たな技能職」への取り組みと、今後の職場のあり方について労使で協議し、現場から監督職を出していくことについて合意することができました。
 監督職として登用された職員は初めての経験であることから不安な部分も多々あったと思いますが、自らの位置付けを理解し、責任を持って業務を行っています。今年度も新たに1人が監督職となり、現在は3人の監督職を配置しています。将来的には監督職だけではなく管理職までも現場職員が担っていく職場を確立していきたいと思っています。

5. 研修制度の充実

 「新たな技能職」への取り組みを進めるためには、職員個々のスキルアップが必要であり、行政職員として必要な知識や能力を身に付けるためにも様々な研修へ積極的に参加する体制を整備してきました。
 これまで、現業職員には全く研修を受ける体制ができていなかったため、職員も研修に馴れておらず「なぜ研修を受ける必要があるのか」「研修内容が業務内容と無関係ではないか」といった意見が多く出されましたが、行政職員として必要な研修であることを丁寧に説明し、組合員の理解を得てきました。現在では、各級に合わせて呉市独自の中級研修や県の研修等、様々な研修に参加しており、研修の必要性についても認識されてきています。
 収集業務は日中に街中を収集車で走行するため、これらの研修で得た知識を活用すれば、街中を移動する簡易窓口としての機能も持つことができると思っています。

6. 民間委託

 2005年に1市8町の市町村合併が完了しましたが、旧呉市内においては市内中心部の商店街のみ一部民間委託を行っており、ほとんど直営での収集を行っていました。
 これまでも民間委託提案はされてきましたが、現場の収集体制を見直しながら抵抗してきましたが、退職不補充により職員数が減少する中で、「今後の収集体制について」が大きな課題でした。しかし、「新たな技能職」への取り組みを進める中で、収集以外の新たな業務を行うためにも、一部民間委託に踏み切る事としました。但し、民間委託を行う地域や量については現場が主体となり決定していくこととし、民間委託検討委員会といった専門の委員会を設置し、協議を重ね、地域を丸ごと民間委託するのではなく、各地域の一部を民間委託することで、直営が必ず近くを収集し監視を行える体制としました。また、収集時における注意事項や収集後の飛散防止ネットの片付け方法等、事前に試走を行い直接指導し、2012年4月からの一部民間委託は支障なく移行することができました。
 今回の民間委託は3年契約となっており、今後は検証を行う中で将来的な委託率や人員について協議を行っていきます。

7. 地域に責任を持った収集体制

 グループ収集の体制となり、各グループに担当地域が振り分けられたことで、地域に対し丁寧な収集を心掛けるようになり、地域住民に対しても丁寧な対応を行うようになりました。
 このことで、個々に担当地域への親近感が芽生え、各グループが競い合うようにステーション管理や住民啓発等を行うようになり、結果として責任を持った収集体制となりました。これまで決められたコースの収集を行うだけでは個々がこのような意識を持つことができませんでした。
 しかし、責任を与えることで個々の意識を高めることができたことは大きな成果であり、まだまだ様々な可能性を感じることができました。

8. 各グループ独自の取り組み

(1) 飛散防止ネットの修繕及び新設
 これまで飛散防止ネットをはずし収集を行い、収集後は片付けを行わず次のステーションへ移動していました。しかし、グループ収集へ切り替え担当地域に責任を持つようになり、最初に気になったのが飛散防止ネットの片付けでした。
 収集後にネットを片付けることによってステーションの清潔感が高まり、収集後に後からごみを排出する住民への啓発にもなります。なにより清潔なステーションを確保することは、清潔な街づくりへとつながります。
 しかし、単純にネットの片付けと言っても、車両を停車させるため地域や場所によっては短時間で片付ける必要があります。そこで、私たちが収集後に簡単に綺麗に片付けるためにフックを付ける等、現場での経験を活かした修繕を行ってきました。また、収集日でない時に地域の片付け方法についても調査し、地域の思いも大切にしながら取り組みを進めました。
 現在では、ステーションを管理している自治会に飛散防止ネットについて修繕の要請を行い、修繕依頼があれば修繕案を提出し、自治会と相談しながら行っています。さらに、修繕を行った地域の中から新たに依頼を受ける等、地域とともに清潔な街づくりを行っています。

① 修繕前の写真 飛散防止ネットが
乱雑に束ねられている
② 修繕後の写真 飛散防止ネットがきれいに束ねられ、
清潔感を感じる事ができる
 
③ 飛散防止ネットを束ねるロープを簡単に
引掛けられるよう大きく作られたフック
④ 危険防止のために飛散防止ネットの外側に
色つきのロープを巻き付けている
 
⑤ ステーションの新設を依頼された場所 ⑥ これまでの修繕で得た経験を活かした新設ステーション

(2) リサイクル推進の取り組み
 呉市の分別品目は新聞・雑誌・ダンボールといった紙類と、ビン・缶・ペットボトル類、ガスボンベ・ライター・蛍光灯等の有害危険ごみといった3分類となっています。
 呉市では2004年10月より導入された有料指定袋によって有料化となっており、それに伴い指定袋に入れられて排出されたものについては収集を行うことになっています。
 このことが大きな原因となりリサイクルは進んでいない実態があります。現場でも多くのリサイクル品目を家庭ごみとして収集していることに矛盾を感じていましたが、特に多くのリサイクル品目が排出されるステーションにおいて自治会に啓発を行いました。
 自治会長に啓発ステッカーを指定袋に貼り、収集を行わないといった啓発方法を説明し、リサイクルへの協力を要請しました。結果として、自治会の方々が主体的に不燃ごみの回収日にステーションの点検を行い、リサイクル品目を抜き取り保管するようになりました。保管した資源物はこれまで自治会で実施していなかった集団資源回収を行い、自治会運営の資金としていくことになりました。
 この取り組みでは、地域に出向き、直接思いを伝えることの必要性と、地域住民を巻き込むことで取り組みが前進することについて確認することができました。今後もこの取り組みを参考に、地域に出向き、住民を巻き込んだ取り組みを展開していきます。

9. 取り組みの反省と課題

 グループ収集に切り替えた事で各グループが主体性を持って取り組みを行っているが、グループ間や職員間において温度差があり、取り組みの目的や意義について全体で共有できていない実態があります。
 事務系の業務や自治会との折衝等を、今後の職場において主体的に進めていくべき年齢層の職員が「自分には向いていない」「自分より年上が先にやるべき」といったできない理由を並べ、変化に対して前向きになっていないといった実態もあります。
 職場全体で見れば大きく体制が変わり、現場が労務管理も含め業務そのものを動かしているように映り、当局から一定の評価を受けていることで、「これぐらいでいい」「もう十分」といった甘えが出てきている事が大きな原因であると考えています。
 私たちは当局から評価を得たくてこの取り組みを進めてきた訳ではなく、この取り組みによる真の目的について再度全体で共有する必要があります。
 これまでのように組合主導の取り組みではなく、全体が意思統一を行う中で個々が主体となって取り組みを進める事で、より質の高い公共サービスの提供や環境意識の向上、さらにはきれいな街づくりへと繋がっていくと考えています。

10. 今後の方向性

 現在は、これまで全く組織が無かった職場に組織を組み込み3年経過しただけの未完成な組織体制であり、まだまだ職場改革、組織改善を進めていく必要があると思っています。同時に、個々のスキルアップや意識の高揚により、まだまだ多くの可能性も秘めていると考えています。
 私たちは行政職員として、特に環境行政について専門性を持って地域と連携しながらごみ減量化、リサイクルの推進といった大きな課題があります。
 また、これらの課題を解決していくためには、次世代への環境教育、地球温暖化対策等、さまざまな取り組みを展開していく必要があり、私たちはこれらの取り組みに現場での知識と経験を持って、どういった形で携わり、何を担っていくのかが重要であると思っています。そして、これらの課題が少しずつ課題解決していくことで、住民から必要な職場・職員となっていくと思っています。
 現在の取り組みは非常に小さな取り組みですか、現業職員が地域に出向き課題を解決することはこれまでは全く考えられなかったことでしたし、そういった事から十数年も避けてきていた職員がほとんどでした。
 この間の急激な改革のなかで、地域に出向くことや住民と会話をする機会が増えてきましたが、責任感を持って対応することができており、慣れない事務仕事にも積極的に取り組む職員も増え、それぞれの持ち場でモチベーションを持ち業務を行っています。
 一部の職員の取り組みではなく、全体がやりがいを持ち業務に対して高い意識を持てる体制づくりへの取り組みを強化していきます。