【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 障害者の地域での自立や福祉サービスの一元化を目的とした障害者自立支援法が2006年4月から施行され、その中でも障害者の就労支援の強化が1つの柱となっています。その一方で、障害者の方からは「働きたくても働けない」という声が聞かれるなど、就労の場の確保が課題となっています。
 本レポートでは、自治体における障害者の自立支援の事例として、特定信書便事業の業務委託による行政と福祉事務所の取り組みを紹介します。



特定信書便事業による障害者の自立支援
―― 業務委託を通じた行政と福祉事業所の連携 ――

佐賀県本部/伊万里市職員労働組合

1. はじめに

 2006年4月、障害があっても地域で安心して自立した生活を送ることができる社会を構築していくために障害者自立支援法が施行されました。この法律により、一元的に福祉サービスを提供できる仕組みづくりや、障害者の就労を支援する体制強化などが進められるようになりました。
 また、この法律では障害者の就労支援が1つの柱となっておりますが、障害者の方からは「働きたくても働けない」という声が聞かれるなど、各自治体における障害者の就労支援の在り方が課題となっています。
 伊万里市においてもどのような支援を行っていくか検討を行ってきましたが、当市では福祉事務所と連携して行った「特定信書便事業」の業務委託に取り組みました。この特定信書便事業は、「民間事業者による信書の送達に関する法律」の施行により民間事業者も参入できるようになり、本市の事例は当時としては全国初となる福祉事業所の参入事例となりました。本レポートでは、自治体における障害者の自立支援の事例として、本市が取り組んだ特定信書便事業をご紹介させていただきます。

2. 特定信書便事業について

(1) 信書とはなにか
 信書とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」と郵便法及び信書便法に規定されており、具体的な例としては、図1のように区分されます。
 こうした信書の送達を行う事業が信書便事業であり、「一般信書便事業」と「特定信書便事業」の2つに分けられます。

図1 具体例
信書に該当する文書 信書に該当しない文書
■書状
■請求書の類
【類例】納品書、領収書、見積書、願書、申込書、申請書、申告書、依頼書、契約書、照会書、回答書 等
■会議招集通知の類
【類例】結婚式等の招待状、業務を報告する文書
■許可書の類
【類例】免許証、認定書、表彰状
■証明書の類
【類例】印鑑証明書、納税証明書、戸籍謄本、住民票の写し
■ダイレクトメール
・文書自体に受取人が記載されている文書
・商品の購入等利用関係、契約関係等特定の受取人に差し出す趣旨が明らかな文言が記載されている文書
■書籍の類
【類例】新聞、雑誌、会報、会誌、手帳、カレンダー、ポスター
■カタログ
■小切手の類
【類例】手形、株券
■プリペイドカードの類
【類例】商品券、図書券
■乗車券の類
【類例】航空券、定期券、入場券
■クレジットカードの類
【類例】キャッシュカード、ローンカード
■会員カードの類
【類例】入会証、ポイントカード、マイレージカード
■ダイレクトメール
・専ら街頭における配布や新聞折り込みを前提として作成されるチラシのようなもの
・専ら店頭における配布を前提として作成されるパンフレットやリーフレットのようなもの

(2) 特定信書便事業とはなにか
 信書便事業は、「一般信書便事業」と「特定信書便事業」に分かれますが、今回のレポートでは後者の「特定信書便事業」を取り上げており、その役務については次のとおりとなっています。
 また、特定信書便事業を行うためには、それぞれの役務について事業許可を得る必要があります。
① 長さ・幅・厚さの合計が90cmを超え、又は重量が4㎏を超える信書便物を送達するもの(1号役務)

② 信書便物が差し出された時から、3時間以内に当該信書便物を送達するもの(2号役務)

③ 料金の額が1,000円を下回らない範囲内において総務省令で定める額(国内における役務は1,000円)を超えるもの(3号役務)

 

3. 取り組みに至る背景・経緯

(1) 伊万里市が抱えていた課題
 本市では、郵便料の削減及び事務の効率化を図るため、従来から各出張所及び各町の公民館や伊万里町周辺の区長(駐在員)への文書の送達を民間業者に委託していました(図2)が、郵便法の関係から幅広い業務ができない状況でした。このようななか、2003年に「民間事業者による信書の送達に関する法律」が施行され、信書の送達業務など幅広い送達業務に民間事業者が参入できるようになりました。
 このため、当時の文書逓送業務を受託する民間業者やこれまでの入札参加業者に信書便事業の事業許可を取得されるよう周知を行いましたがいずれの業者も消極的であり、また、当時は佐賀県内においても事業許可を取得した事業所がない状況でした。
 そこで、当市では従来通り業務委託を行うのではなく、高齢者や障害者の雇用の拡大も視野に入れながら、業務の委託について市内の団体に打診することになりました。

図2 出先機関及び市民等への文書の配布方法

(2) NPO法人小麦の家の概要と抱えていた課題
① NPO法人小麦の家の概要
  小麦の家は、知的障害児をもつ保護者が、子どもの将来を考え、楽しく働ける作業所を作りたいとの願いで、1993年7月に発足されました。以来、クッキーやケーキ等の焼菓子の製造・販売を活動の中心に据え、2000年より通所利用希望者の受け入れ、小規模作業所として運営を始められています。
  現在では、社会福祉法人 小麦の家 福祉会として、利用者17人、専従者9人、ボランティア2人の総勢28人で運営を行っているところです。また、小麦の家の運営については、利用者から通所負担金及び送迎費を徴収しない方針を取られており、利用者が通いやすい福祉事務所をめざして運営されています。また、その一方で月5万円の賃金支給を目標に掲げられており、利用者と職員が一体となってステップアップできるよう日々取り組んでおられます。
② NPO法人小麦の家の抱えていた課題
  市が特定信書便事業の打診を行った当時、小麦の家も課題を抱えていました。
 ア 月5万円の賃金支給を目標にしていたものの、実際には月1万円の支給となっており、賃金の向上に苦慮していた。
 イ 2008年度に市内養護学校からの卒業生を多数受け入れることが決まっており、事業の新規開拓を行う必要があった。

③ NPO法人で全国初となる特定信書便事業許可の取得
  これらの課題を抱えていた小麦の家にとって、「特定信書便事業をやってみないか。」という打診は思いがけないチャンスでした。
  というのも、当時ヤマト福祉財団から軽商用自動車の助成が決まっており、また、利用者の中には運転免許を持った方がいるなど、事業をスタートするための環境が整っていたのです。
  残りは、特定信書便事業の事業許可の取得ですが、これについては、九州総合通信局と市の担当者による指導・助言により2007年2月22日にNPO法人では全国初となる事業許可を取得()され、当時全国に214社しかいない特定信書便事業者の1つとなられました。

 

4. 事業の内容とその効果

(1) 事業の内容
 委託料……2,482,200円
① 郵便局及び図書館への公文書の送付……郵便局は閉庁日を除く毎日、図書館は業務発生時のみ
② 区長及び公民館等への公文書の送付……毎週木曜日
③ 出張所への公文書の送付……毎週水曜日
 小麦の家の事業許可の取得により、上記の事業を委託することになりました。特に②及び③の事業については、市域が広い当市において、2号役務の条件である3時間以内に送達するという条件を達成するため、配達ルートを2つにするなど事業の内容にも工夫を凝らしました。
 また、この特定信書便事業はケーキやクッキーの製造を中心に行ってきた小麦の家にとって、両立できる事業であり、安定した収入を見込める仕事となりました。

(2) 事業効果
 特定信書便業務を小麦の家に委託することで、当市においても小麦の家においても様々な事業効果がありました。
 まず、1点目は障害者自立支援法のテーマでもある、障害者の自立と社会参画を達成できた点です。特定信書便業務はその業務の性格上、地域社会に常に出ていく必要があります。これは、通所者の方にとって地域の方と触れ合える機会となり、挨拶や会話が生まれるなど自然な形で通所者の社会参画を実現することができました。また、文書を配達することで、配送業務などの一般就労への道が広がるとともに、新たな事業開拓の可能性も生まれました。
 2点目は障害者の賃金の向上が達成できた点です。これまで月額約1万円ほどだった賃金が事業の開始により一人当たり約8千円の賃金向上が達成できたそうです。この賃金向上は、小麦の家の運営スタッフにとっても、今後の運営の方向性を再確認できるものであったとのことであり、当初の目標である月額5万円の賃金支給を達成するため更なるスキルアップを行いたいと決意されています。
 3点目は、通所者の意識の変化です。当初は特定信書便業務に当たる通所者を専任とし、業務を行っていましたが、他の通所者も業務をやってみたいという様子で全員が参加できるような体制に変更されました。新たな業務に取り組むということでどの通所者も楽しそうに仕事をされており、中には知り合いの方への配送が近付くと「次は○○さんのところだ」と元気に配達をしてくれる場面もあるなど、やりがいを持って業務に取り組んでおられます。

5. まとめ

 今回ご紹介した小麦の家の特定信書便業務については、前述したようにNPO初の事業許可の取得ということもあり、先駆的なモデル事業として新聞等のメディアからも幅広く取り上げられました。こうしたメディアの力もあり、県内でも福祉施設への委託を開始された自治体が増えており、全国的な取り組みに広がっていく可能性を秘めていると感じています。当市の事例では、賃金を基準にすると4人分が賄えるくらいの業務量になりますが、こうした同様の事例が全国に広がっていけば、多くの障害者の就労の場の確保ができます。
 また、近年では合併等により市域が拡大し、本所と支所間等の文書配送も増えていることから、各自治体のニーズは多様化していますが、今回の事例のような福祉事務所への委託であれば、多様化するニーズにも柔軟に対応できると期待しています。




※ 1号役務と2号役務についての事業許可を取得。