【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 市民と行政との協働によるまちづくりと叫ばれて久しいですが、市民の方々が考えるまちづくりの取り組みを、財政的な面から支援を行うことで、その夢を実現しようという試みをスタートし、現在、事業開始から既に10年が経過しています。この事業により、様々な取り組みが実現され、地域の活性化ひいては、市の活性化に繋がっています。これまでの取り組みの成果及び今後の課題についてレポートします。



21世紀市民ゆめづくり計画支援事業について
―― 市民が主役のまちづくりをめざして ――

佐賀県本部/伊万里市職員労働組合 小川 徹也

1. はじめに

(1) 伊万里市の概要
 伊万里市は、佐賀県の北西部にあって、東松浦半島と北松浦半島の結合部に位置し、西は長崎県佐世保市と松浦市に接しています。また、三方を山々に囲まれ、西北部からは波静かな伊万里湾が深く入り込むなど、豊かで美しい自然に抱かれています。
 伊万里は天然の良港を擁しており、古くから大陸との交易で発展し、江戸時代には有田や伊万里周辺で生産された陶磁器の積出港として繁栄し、『IMARI』の名を世界に広めました。
 臨海部においては古くから干拓が行われ、近年では広大な工業用団地が整備され、東アジア地域にも至近距離にあり、伊万里港においては地理的な優位性を活かし、韓国・釜山、中国・大連、上海などとの国際コンテナ定期航路が開設されています。
 特産品としては、梨の生産が盛んで、西日本一の生産量と品質を誇っています。また、伊万里焼は遡ること江戸時代に、佐賀鍋島藩の御用窯としてその技法を守るため、大川内山に優秀な細工人等を集め、色鍋島などの製陶にあたらせたのが始まりであり、現在、その伝統と技法を受け継いだ30数件の窯元が大川内山に軒を連ねています。

(2) 伊万里市の現況

 人口は2001年を境に6万人を割り込み、その後徐々に減少は続き、現在約5万7千人となっています。そのうち65歳以上の高齢者が約1万5千人であり、高齢化率は26%を超えています。全国平均の約24%を上回る高齢化が進行しているところです。
 また、人口は減少しているにも関わらず、世帯数は逆に増加傾向にあり、核家族化が進行していることが分かります。

2. 21世紀市民ゆめづくり計画支援事業の概要

(1) 事業実施の背景
 時代が21世紀を迎えようとする中、行政に求められる役割も徐々に変化し、これまで以上に市民というキーワードに焦点が当てられ、1998年には特定非営利活動促進法、いわゆるNPO法が成立したのをきっかけに、市民の方々が自らの手で、より良いまちづくりを進めていく機運が芽生え始め、その活動も活発になっていきました。
 そのような中で、伊万里市においても、行政ではなかなか手の届かない分野において、積極的に活動を行う団体が出始めていましたが、その活動資金の調達に非常に苦慮する団体が多く、その支援策についての検討が行われていました。
 このような中で、2000年度に、21世紀を迎えるにあたり、新世紀事業として、市民活動への支援に係る新たな事業の企画が進められ、私たちの身近なところから市民と行政との協働による新しい伊万里、楽しい夢のあるまちづくりを実現するために、市民からゆめづくり計画やアイデアを募集し、その活動に対して支援を行う市民提案型補助事業として、2002年度から事業が開始されています。

(2) 事業の目的
 身近なところから、新しい伊万里・楽しいゆめのあるまちづくりを推進していくため、市民の皆さん自身が、実現し、継続できる新しいゆめづくり計画やアイデアを募集し、その活動に対して支援を行います。

(3) 事業の種類と内容
 計画内容に応じて2つの事業部門があり、支援対象の事業は、応募団体自らが行うもので市民の公共の福祉に寄与する事業とします。
① まちづくり計画実施事業
  豊かな地域資源を活かしたまちづくり活動やコミュニティの再生につながるボランティア活動、環境対策、青少年の健全育成など、身近な課題を解決するための事業などを対象
② アイデア立案事業
  ゆめづくり事業を実施するまでには至っていないが、目的を同じくする人々が集まり(ワークショップ等)、計画の策定やアイデアを調査・研究する事業を対象。

(4) 補助金額(現行)
 事業に要する対象経費に対し、次の補助金額を限度として交付
① まちづくり計画実施事業
  3年間の総額 1,000,000円以内
  ※ただし単年度 500,000円を限度
② アイデア立案事業
  100,000円以内

(5) 支援期間
① まちづくり計画実施事業:最長 3年間
② アイデア立案事業:1年間

(6) 選考方法と選考基準
 公募による市民などで構成される「市民まちづくり推進会議」において、事業採択の審査を行っています。

◎選考基準
区  分 選 考 内 容
必要性 まちづくり活動として優先すべき必要性があるか。
緊急性 すぐに実施しなければならない緊急性のある事業か。
継続性 継続して事業が行える体制ができているか。
発展性 事業を継続することで発展が見込まれるか。
アピール性 多くの人が興味や関心を抱くような内容であるか。

3. これまでの取り組み

(1) 支援の実績
① まちづくり計画実施事業
  採択件数 27件
② アイデア立案事業
  採択件数 7件

(2) 具体的な取り組み事例

「西九州凧あげ大会イン伊万里」
(事業主体:凧あげ大会実行委員会)
事業内容:凧揚げを通して親と子の絆を深め、伊万里の素晴らしい自然を愛し、
地域の和と活性化を図る。
「カブトガニとホタルの里づくり事業」
(事業主体:牧島のカブトガニとホタルを
育てる会)
事業内容:カブトガニの保護、啓発、
ホタル鑑賞会を通じた環境保全、
灯篭まつりコンテストの開催

「伊万里エイサー普及事業」
(事業主体:伊万里エイサー隊)
事業内容:沖縄の伝統芸能であるエイサーを通し、青少年育成を図る。エイサーの習得、
普及、オリジナルエイサーの製作
「ふれあい広場ゆめづくり事業」
(事業主体:波多津町開発促進協議会)
事業内容:塩焚き、炭焼きを通じた世代間交流の促進、観光客の誘致

「エコ屋 『つどい事業』」
(事業主体:クリーンの環)
事業内容:環境意識の向上を図るため、
家庭で使わない不活用品を商店街の
空店舗を活用して展示・販売する。
「温故知新 ふるさと探検隊事業」
(事業主体:観光ボランティアガイドの会)
事業内容:恵比寿マップを作成し、観光客の
増加による市中心部の活性化を図る。

「青少年と市民を対象にした郷土愛育成事業」
(事業主体:特定非営利活動法人まちづくり伊萬里)
事業内容:まんが伊万里の偉人伝の作成、伊万里コンシェルジェ検定の
開催による郷土愛の育成

4. 成果と課題

(1) 成 果
 これまで紹介した事例のとおり、様々なまちづくりへの取り組みが行われていますが、その活動を見てみると、地域に根差した活動と、特定の目的を持った活動の2種類の取り組みがあることが分かります。
 それは、志縁的組織(有志が参加し、特定のテーマに特化した活動を行う組織で、ボランティアグループ、市民活動団体、NPО法人等)による活動と地縁的組織(住民が参加し、居住地域の課題に対する活動を行う組織で、自治会、婦人会、老人クラブ、子どもクラブ、等が主な組織)による活動であり、どちらもまちづくりの活動には欠かせないものです。
 この事業を活用する団体がどちらかに偏るのではなく、ほぼ均等に活動が実践されており、様々な団体により広くこの事業が活用されていることは、一つの成果と言えると考えられます。
 また、この事業の目的は、市民と行政との協働の観点から、行政ではなかなか手の届かない分野において、市民活動団体が主体となる事業に対し支援を行うものであり、事業が軌道に乗るまでの3年間を支援していくというスタンスで事業を推進しており、その期間で活動に対する十分な検証及び足固めをしていただくことで、支援期間が終わった後においても事業の継続が図られるよう配慮を行っているところです。
 その目的においては、これまで取り組まれた事業においても継続が図られていることから、事業の効果があったものと考えています。

(2) 課 題
 この事業については、単なる一過性の事業ではなく、継続性が強く求められており、事業採択の判断においても特に重要視されています。その課題を解決するための方法としては、事業策定の段階において、継続可能性があるかを各団体が十分に協議をし、ある程度の計画を立てておくことが非常に重要だと考えられます。
 そのような中で、支援期間終了後の事業継続の方法については、各団体の事情に応じた方法において、資金的な面等をクリアすることで事業の継続が図られています。
 しかしながら、事業が継続されていても、十分な資金の確保ができない場合については、事業規模が小さくなるなどの問題や、資金的な面から事業の継続が困難となり、事業が休止している活動も現実にはあります。
 また、資金的な面だけでなく、活動に関わる人(体制)の問題もあり、そのような面から事業の継続ができない活動もあり、その理由は団体それぞれで異なり、少なくとも一つの原因に収束させることはできません。

5. まとめ

 この事業を開始してから既に10年が経過しており、これまで34事業に対しての支援を行い、現状においても、新たな事業への取り組みが出ており、制度に対する市民の期待は非常に大きいと感じています。
 そのため、今後も引き続き事業を継続し、支援を行っていく必要性を感じており、この事業がよりよい制度となるためには、行政としても、これまでの事業の積み重ねから見えてきた、実際に事業を行うにあたっての参考とすべき事例などの提示や支援期間終了後のフォローなどが非常に重要であると考えています。
 今後、新たな需要を掘り起こすためには、まちづくりを行うリーダーの育成なども必要であり、市民と行政との協働という観点から、他の施策等を活用しながら事業を展開していく必要があります。